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靴屋の娘と三人のお兄様  作者: こじまき
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修行開始

翌日から、伯爵令嬢らしく振る舞うための特訓が始まった。王宮勤めの経験があるというメイド頭のジェニンがつきっきりで指導してくれる。食べる、飲む、立つ、座る、歩く、話す、笑う…朝起きてから寝るまで、生活の全てが訓練だ。さらに、まとまった時間をとって、ダンスと社交の訓練が設定されている。ジヴァと執事のレオニは、ダンスや模擬社交の相手役だ。


「だめっ!歩幅が大きすぎっ!」


「飲むときに音を立てないっ」


「ドレスをつまんでっ、いやそれは上げすぎです!」


「そこは"嬉しいです"じゃなくて"お褒めいただき光栄です"っ」


容赦なくダメ出しが飛び続ける中で、唯一褒められたのはダンスだ。レオニ、ジェニン、ジヴァによると、私は運動神経もリズム感もいいらしい。私自身も、意外なことにダンスが楽しかった。辛い訓練の中で、ひとつでも好きな科目があるのはいいことだ。


「初日からこれなら、3ヶ月もすればかなり上達されると思いますよ。レパートリーをたくさん作っておきましょうね」とレオニ。よく整えられたグレーの髪が上品な、50代くらいの男性だ。長くホークボロー伯爵家に仕えていると教えてくれた。


飲み方、座り方、話し方の訓練を兼ねたお茶の時間に、レオニに気になったことを聞いてみる。


「レオニ、イーライお兄様だけ髪と目の色が違うけれど、お母さま…前の奥様譲りなのかしら?」


「いいえ」とレオニは首を振る。なんでも、イーライお兄様も本当は金髪碧眼なのだが、魔法使いであることがわかって魔術学校に入った途端、髪と目の色が変わったそうだ。「理由は私どもにもわかりませんが」とジェニン。「あ、いいものをお見せしましょう」とレオニが部屋から出て行き、しばらくして大きな絵を持って帰ってきた。


「わーん、天使ーっ!…じゃない、まあ、天使のように可愛らしいですわね」


それはホークボロー一家勢ぞろいの肖像画だった。カラバスお兄様が1歳になったときのもので、もうずっと物置にしまっていたそうだ。子どもらしい金髪のおかっぱ頭をした三兄弟と、まだ若いお父様と、奥様と思しき金髪の美しい女性が描かれている。奥様は顔立ちがアレンお兄様やイーライお兄様とどこか似ている。


「本当にイーライお兄様も金髪ですわね…奥様も金髪でいらっしゃるし、紫の髪になる要素がないわ」

「ええ、そうなんです」

「奥様は本当にお綺麗な方ね」

「はい。この絵のすぐあとで、お亡くなりに…」


はっとする。お兄様たちはこんな小さいときに、大切な方を亡くしたのか。


「中でもカラバス様は奥様の記憶がほとんどないのですが…小さいころはよくこの絵をご覧になっては"これが僕のママ?"とお尋ねでしたね」とジェニン。


そうか…伯爵家のお坊ちゃんが画家なんて珍しい(たいていはアレンお兄様みたいな軍人か、侍従や政府職員か、魔法の才能があれば強制的に魔法使いになる)と思ってたけど、カラバスお兄様が画家を目指したのはこんな事情もあったのかもしれない。

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