2.王女様、気付く。
野菜のスープと固いパン。それと牛乳。
ご馳走してもらえるのだから感謝するのは当然だけれど、"私"は昨日まで現代人のお嬢様だ。
ずっとこの食生活は少し辛いものがある。
あれから5日。暫くここにいればいいというカーナの言葉に甘えて居候の身だ。
「カーナ、あのね…」
けれど、そろそろお暇しなければ、そう思いカーナに声をかけた瞬間。
おおっ、とざわめく村人の声が聞こえた。
「おーい!カーナ!イーサンが大物を狩ってきたぞ!!」
「おっ…すぐ行く!!悪いイチイ、あとで聞かせてくれ」
「ええ」
イーサンはカーナの夫。つまりシーナの父親だ。
少し金の混ざった薄い茶髪で、私がこの世界にきて会った3人目の人間。
今いる所、ココの村で猟師をしている。
銃を扱えるの?と聞いたら銃はこの世界にないと確信できる反応が返ってきたわ。
剣や槍、弓で獲物を狩るんですって。
お父さんは村で一番強いとシーナは自慢気に教えてくれた。
「大物…何かしら?」
カーナを追いかけ外に出ると、村の入り口に人だかり。
「おい見ろカーナ!猪だ!こりゃあでかいぞ!!」
「今夜は宴会だな!!酒だ酒!!」
騒ぎ立てる村人たちの中で誇らし気に笑っているのがイーサンだ。
宴会…今夜はお手伝いできそうだわ。いつもカーナが全てやってしまうんだもの。
「おとーさんすごぉい!!今日はごちそう!?」
「シーナ!ああ、ごちそうだよ」
キラキラした瞳でイーサンに駆け寄るシーナを軽々と抱き上げ、楽しそうにくるくると回る。父子の平凡な光景。
そんな中、目につくのは猪。日本に住んでいるものと比べると異常な程大きいのだ。軽自動車より少し小さいくらい。
「お、大きいのね」
「おお!嬢ちゃんか!こんな大物は五年に一度くらいしか獲れんのだ、凄いぞ!!」
興奮している村のお爺さんに声をかけられた。
それは凄いわ。その一言を出すのに時間がかかる。
"綺麗"
溢れそうになる言葉を全力で飲み込んだ。
流れ出る血。赤黒い。綺麗。
「嬢ちゃん?」
言葉の代わりに、はっ、と息が出た。
死んでも変わらなかったわね…神様は私をつくる時に材料を間違えたのよ。
血が綺麗なんて、普通の人間は思わないもの。
「大丈夫よ。余りにも立派な猪で、びっくりしたの」
「そうかそうか!そりゃあ猟師にとっちゃ最高の褒め言葉だ!」
このお爺さんも昔は猟師だったらしい。
傷跡だらけの身体は誇りだと言っていた。
「いいわね。猟師、格好いい」
「おっ分かるか嬢ちゃん。だろう?」
多分お爺さんは勘違いしている。
村の英雄になれる猟師はそれはそれは格好いいものだろうけど、そうではない。
私は、"生き物を殺生してもいい権利"が好ましいのだ。
「…あら?この世界ならできるんじゃなくて?」