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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コンビニン

コンビニン【諸星 夏樹の場合】

作者: 菁 犬兎

挿絵(By みてみん)

僕は今年、就職活動に失敗した。

今はフリーターでバイトを変えながら仕事先を探している。


「諸星さん、前も同じ系列のコンビニで働いてただけあって覚えが早いね? ここ、任せちゃって大丈夫かな?」


今日は新しいバイト先の初出勤日で、不本意ながらコンビニでのアルバイト経験だけは無駄に豊富な僕はいきなりレジを任された。


でも、機械は同じだし、操作もそう難しくないから大丈夫だろう。


それに、僕は夜間担当だから、レジは殆ど混まない。


()()()()()()()()問題ない。


同じくここで働くアルバイトの女性の先輩は、鼻歌を歌いながらモップを手に店の奥へと下がってしまう。


いくら僕が経験者だからと言っても、初日で放置するのはどうなんだろうと思うんだけれど。


そんな不満をかき消すようにコンビニの自動ドアが開く音がした。僕はそちらに目を向けるとテンプレの言葉を思わず飲み込んだ。


(・・・え? 仮装大会?)


僕はコンビニに訪れた異様な人物に思わず目を奪われる。


入って来たのは女性二人と男性一人。


一瞬知り合いかと思われたその三人は中に入って来た途端お互い目も合わせぬまま、それぞれ目的の場所へ移動した。


僕はその三人が知り合いでなかった事に、まず驚いた。


(え? あの三人知り合いとかではなかったのか? でも、じゃあ、あの格好は何なんだろう?)


もしその三人が着ていたものが、スーツや普段着であるなら僕はきっと彼等が知り合いでなくとも驚かなかったと思う。


でもその三人は、ここに来た瞬間から異様な雰囲気を醸し出していた。


その中でも一番目立っていたのは三人の中で一番背が低い女の子だ。


あれは所謂ゴスロリファッションと呼ばれるものだろう。

白とピンクを基調としたデザインでフリルとリボンが可愛らしくあしらわれている。夜なのにさしていた小ぶりの日傘も同じ仕様で出来ていた。


彼女はデザートコーナーで冷蔵ケースを眺めている。

きっと甘い物でも買うのだろう。


でも、僕が仮装大会が何処かであったのでは? と疑ったのには他にも理由がある。


他の二人の格好も普段あまり見かけない格好だからだ。


もう一人の男性は和装で、着物を着ている。

甚兵衛ではない。


男性が着物を着てコンビニを訪れる所など僕は初めて見た。

もしかしたら呉服店か何かを経営しているのだろうか?

けれど、この辺りにそんなお店あっただろうか?


彼は雑誌コーナーで何やら立読みをしている。

小説か何がだろうかとよくよく眺めていると女性向けの雑誌だ。ギャップが凄い。


「ちょっと? これ買いたいんだけど?」


余計な思考を働かせていた僕の前には、いつの間にか三人目の背の高い女性が腕を組んで立っていた。

レジには栄養ドリンクが五つ置かれている。


「あ、はい。ストロー入れます?」


そう言った僕にその女性はキツい目元を綻ばせた。


彼女は黒い革パンに黒のライダース、少し濃い目の化粧と唇の紅がとても目立つ出立で、普通こんなキャラの人間に前に立たれれば物怖じしそうなものだけれど、何故か僕はまったく怖いと思わなかった。


「相変わらずねぇ? 要らないわよ」


「? はい。すみません」


なんだろう。


さっきから、何かがおかしい。


でも、それがなんなのか分からない。


「358円のお返しです。ありがとうございました」


「ええ、()()()


それは、どういう意味だろうか?


首を傾げた僕に、女性は少し口の端を上げると、そのまま店を出て行った。もしかして、他のアルバイトと僕を間違えたのだろうか?


きっとそうなのだろう。


「おい、新しいの出てなかったぞ〜? 仕事サボってんのかぁ?」


いきなり背後から話しかけられて慌てて顔を上げる。


目線の先に着物を着た男性客が立っている。


僕は雑誌コーナーと商品のストックの場所そしてカレンダーを確認して男性に向き直った。


「それ、新しいのは明日入荷予定です」


「あれ? そうだったけ? すまんすまん。変な難癖つけちまった」


本当である。

しかし、僕は彼に腹立たしさは全く感じなかった。


寧ろ・・・。


「定期購読したらどうです?」


「俺は気まぐれだからいいんだよ。次は買わないかも知れないだろ?」


何言ってるんだろう。

きっとそんな事を言いながら、この人は絶対次も同じように同じ本を買いに来る。


「いつも、その雑誌しか買わないですよね?」


「そんな事ねぇぞ? お前俺を誰だと思ってんだ?」


「売れない作家さんでしたっけ?」


「売れっ子作家だよ、言い方間違えんな」


本当にこんなチャランポランな人が今大人気のミステリー作家だなんて信じられない。世の中って不公平だ。


「ちょっとぉ〜買わないなら、どいてくれない? 諸星これ、どれがオススメ?」


「あ〜そうですね。新商品ならこのプリンが人気だったみたいですよ? 店長が試食に行ったみたいなんで」


この人も相変わらず甘い物に目がない。

その格好も、もういい歳なんだからやめればいいのに。


本当は、そんな格好嫌いな癖に・・・・。


(・・・・・・え?)


ちょっと待ってくれ。

何で僕はさっきから当たり前の様に初対面の人達と親しげに会話しているんだろう?


どうして、この人達も僕にこんな親しげなんだ?


まるで()()()()()()()()()()()()()()()


そんな筈はない。


僕がこのコンビニで働いたのは今日が初めてだ。

それ以前この人達と会った記憶も話した記憶も僕にはない。


そう、この人達は知り合いじゃない。



「・・・・さて、そろそろ帰るか」


「え? でもぉ・・・・・・じゃ、このプリン頂戴」


「はい。スプーン要らないですよね?」


「・・・・・・うん」



だって、僕は彼等のことを全く知らない。











「お前、気を付けろよ」


「はぁ? 先に馴れ馴れしくしたのは華ちゃんが先でしょ?」


「何よ? 道の往来で言い争わないでよ。ただでさえ目立ってるんだから」


「「君もね!?」」









もうすぐ夜が明ける。

僕の初出勤は、なんとか無事終わりそうだ。


「諸星君お疲れ様〜!じゃあ次の子と交代して上がってね? 」


「はい。お疲れ様でした」


僕は慣れた手つきで服をバックにしまおうとして、それをアルバイトの女の子に奪われた。


いきなりなんなんだろう?

持って帰って洗いたいんだけれど。


「ここでは制服、まとめて洗う事になってるから持って帰らなくていいよ? ロッカーに入れておく」


「あ、そうなんですね? ありがとうございます」


そんな便利なシステムコンビニにあったかな? と不思議に思ったけれど、まぁ荷物は減って助かるのでお任せする事にした。


僕は挨拶をして店を出ると愛用の自転車にまたがった。

家はここからそう遠くない場所だ。


家は古いボロアパートで、扉を開けて玄関に立つと朝ご飯のいい匂いがした。


「お帰りナツ。ご飯出来てるわよ?」


「うん。ただいま()()()()







ピピピピピッ!


「・・・・・起きなきゃ」


外は暗い。

重たい身体を無理矢理起こしてベッドから出る。


今日は確かアルバイトの()()()()だ。


「・・・こんばんは。()()さん」


「おはよう。()()くん。今日は出勤日よね? ご飯ちゃんと食べていきなさい」


彼女はマリさん。

僕の母の妹で、僕の保護者だ。


「・・・はい。いただきます」


早く就職してお荷物の僕は出て行かないといけない。

早く、早く。


「すみません・・・いつも、ご迷惑をおかけして」


「え?」


「早く就職先を探して、これ以上ご迷惑をおかけしないようにしますので・・・」


思わず出た言葉にマリさんは、何故かとても悲しそうな顔で僕を見て、でも直ぐに笑顔で僕の背中を何度も叩いた。


「何言ってるのよ? 私達は家族でしょう? 私、老後は夏樹君に面倒見てもらうからね?」


「はい。頑張ります」


そうは言ってもいつまでも彼女に甘える訳にはいかないと思う。早く自立しないといけないのに。


どんよりと重たいものが僕の胸の辺りに渦巻いている。


気分が落ち込んだ所為だろうか。

家を出る直前、悲しげな声で名前を呼ばれた気がしたけれど、きっと僕の気のせいだろう。


「今日からこちらでお世話になります。諸星 夏樹です」


「はい! よろしくね夏樹君。桃花ちゃん色々教えてあげて」


「はーい。じゃ、これ制服ね?」


手渡された制服を見てふと違和感を感じた。

なんだろう? 違和感の理由が分からない。


「あー? 制服返す時はわざわざクリーニングに出さなくていいからね? コンビニはさ、入れ替わりが激しいから」


そうか。

手渡された制服から洗剤の香りがしたからだ。


でも、この香り何処かで・・・。


「じゃ! 取り敢えずレジから教えるよ? ついて来て?」


考え過ぎかな?

もしかしたらうちでも使った事ある洗剤を使ったのかも知れない。何でこんな事気にしてるんだろう?


やっぱり就活に失敗して少しナーバスになってるのかもしれない。



「ねぇ。今日はどんな反応すると思う?」


「いつも通りだろ。同じ毎日をあいつは生きてる」


「いつ、気付くかしら?」



僕は今年、就職活動に失敗した。

今はフリーターでバイトを変えながら仕事先を探している。


「諸星さん、前も同じ系列のコンビニで働いてただけあって覚えが早いね? ここ、任せちゃって大丈夫かな?」


今日は新しいバイト先の初出勤日で、不本意ながらコンビニでのアルバイト経験だけは無駄に豊富な僕はいきなりレジを任された。


でも、機械は同じだし、操作もそう難しくないから大丈夫だろう。



「本当、私達って何なんだろうね? 友達でも知り合いでもなんでもないんだけど? ただ、いつも同じ時間、同じコンビニに通い詰めてた他人の筈だったよね?」




()()()()()()()()問題ない。






「言い出しっぺがよくそんな事言うものね? 完全に巻き込まれたのは私なんだけど?」


「まぁまぁ〜いいじゃない? どうせ俺達いつもここに来て時間を食い潰す駄目な大人だろ? さ、行こうぜ」





同じくここで働くアルバイトの女性の先輩は、鼻歌を歌いながらモップを手に店の奥へと下がってしまう。


いくら僕が経験者だからと言っても、初日で放置するのはどうなんだろうと思うんだけれど。


そんな不満をかき消すようにコンビニの自動ドアが開く音がした。僕はそちらに目を向けるとテンプレの言葉を思わず飲み込んだ。


(・・・え? 仮装大会?)


僕はコンビニに訪れた異様な人物に思わず目を奪われる。


入って来たのは女性二人と男性一人。


一瞬知り合いかと思われたその三人は中に入って来た途端お互い目も合わせぬまま、それぞれ目的の場所へ移動した。




僕はその三人が知り合いでなかった事に、まず驚いた。

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