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6.5.3「首輪があるとか、奴隷だとか、獣人だとか、そんなことに関係なく一生懸命生きているって、ボクが示したいんです」

依頼者「ここからは自分で行けるわ。ありがとう」


俺「じゃあ、これで依頼も終わりだな」


獣耳少年「あの、今回のことは貴女のおかげですよルゥさん」


獣耳娘「え、ボク?」


獣耳少年「僕は、お嬢様の力になりたいと準備していたんです。でも、自分から動くのが怖かったんです。でも」


獣耳少年「元奴隷だった貴女が『自分で考えて自分の信念に従うべき』って言ってくれたから決心ができたんです」


獣耳娘「そんな、ボクは思ったことを言っただけで…それに一人で大勢に立ち向かった勇気はすごかったですよ」


依頼者「あの、いいかしら」


獣耳娘「あの時は、ごめんなさい、叩いたりして」


依頼者「いえ、いいの。それより、私こそごめんなさい」


獣耳娘「えっ?」


依頼者「貴女には本当に失礼なことを言ってごめんなさい。獣人は奴隷だなんて。人が信頼に足るかどうかは人間でも獣人でも変わらないのに…自分が恥ずかしいわ」


獣耳娘「いえ…みんなが人間だとか、獣人だとかそんなこと気にしない世の中になればいいですね!」


依頼者「いい仕事ぶりでした。これが報酬よ」


獣耳娘「ありがとうございます!…えへへ」


獣耳少年「また、いつか会いましょう」


獣耳娘「はい!」


・・・

・・


俺「ようやく依頼も終わったし、街に戻ってギルドに報告だな」


獣耳娘「そうですね…」(首輪触り


俺「どうしたんだ?自分の『首輪』が気になるのか?奴隷と誤解されるのが嫌なら、金は掛かるが外す手配を…」


獣耳娘「いえ、逆です」


俺「?」


獣耳娘「冒険者ギルドではこの『首輪』なんて誰も気にしないけど、『首輪』をつけているとボクを奴隷だって見る人もいる。でも」


獣耳娘「あの子や、あの子に説得された奴隷達。奴隷だって信念がある立派な人たちはいます」


獣耳娘「だから、自分が彼らと違うって見られる必要もない。

    昔奴隷だったことも、辛い目にあったことも、全部ボクの一部ですから。」


獣耳娘「首輪があるとか、奴隷だとか、獣人だとか、そんなことに関係なく一生懸命生きているって、ボクが示したいんです」


俺「そうか」


獣耳娘「それに最近じゃ『首輪の獣耳』が通り名ですし、ボクのトレードマークですよ♪」


俺「あまり調子にのるな」


獣耳娘「というか、そもそもですね…」


俺「なんだ?」


獣耳娘「…何でもないです」


俺「?」


獣耳娘(そもそも、奴隷だとか関係なく生きる道をボクに教えてくれたのはご主人様ですけどね)


・・・

・・


俺(その後のことだ)


俺(件の商会の主人、つまりあの依頼者の父が『病死』し、その弟の番頭が後継者になったという話が入ってきた。もちろん表向きの話。実際は殺された訳だが)


俺(しかし、主人が変わったその商会はすぐに勢力を失った。『新しい主人に人徳がなかった』とか『手腕が良くなかった』といううわさもあったが)


俺(ただ、どうやら、ライバルの商会にとんでもない金額の金を支払う羽目になったというのが本当の所らしい)


俺(おそらく『彼女』が持ち出した約束手形や経理書類を、ライバルの商会に売り込みに行ったのだろう。かつてのライバルと協力する。商人らしい狡猾さだ)


俺(彼女はその後もうまくやっているだろうか)


受付嬢「ルゥさん、あなた宛に手紙が来てますよ」


獣耳娘「え、ボクに…? これ、あのときの依頼者の商人さんからですよ!」


俺「!」


獣耳娘「見てくださいよご主人様!『店を開きました、ぜひ来てください』だって!あの子も一緒みたいです」


俺「ふーん。気が向いたら行ってみるか」

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