9 「なんで、そんな危険な依頼を受けるんですか」「理由は言えない」「なんで説明してくれないんですか!」
獣耳娘「おはようございます…ってご主人様、一人でどこに行こうとしてるんですか?」
俺「……」
獣耳娘「『魔女討伐の勅令
王国聖騎士団との交戦で深手を負った魔女が霧の半島に逃れた。これを討伐せよ。
報酬は願いのまま』…何ですかこの依頼書!?」
俺「俺一人で行く。戻らない」
獣耳娘「なぜですか?嫌です!ついていきます!」
俺「無理だ。『霧の半島』で魔女の居場所を突き止めるにはどれくらいかかるかわからない。まだお前には無理だ」
獣耳娘「でも私だって役に立てます!」
俺「魔獣もここらよりずっと凶暴だ。今のお前で到底勝てないし、俺もお前を守る余裕もない」
俺「教えたと思うが『魔女』は魔獣でも人間でもない、長命で強大な魔力を持った高次の存在だ。とんでもなく強い。手負いだとしても勝てる可能性は…低い」
獣耳娘「そんな……でもなんで、そんな危険な依頼を受けるんですか」
俺「理由は言えない。頼む、お前は残ってくれ」
獣耳娘「説明してくれないんですか?私はご主人様の仲間じゃなかったんですか?やっぱり奴隷で、物みたいに捨てていくんですか!」
俺「ルゥ」
獣耳娘「なら…命令してくださいよ!そうしたら!従い…ます、から…っ!」
俺「ルゥ!……泣いてるのか?」
獣耳娘「うっ、ぼ、ボクだって…わ、分かってますよぉ…ご主人様が私を奴隷と思ってないなんてぇ…ううっ、で、でも、なんで、どうしてなんですか?」
俺「俺は…昔ある街で…自警団員をやっていた。盗賊や魔獣の襲撃から街を守っていた」
獣耳娘「自警団……もしかしてこの前の傭兵の人も?」
俺「そうだ。奴と俺は一緒に訓練して腕を磨いた。どちらも早くに親を亡くしたが、街の人たちはみんな家族みたいに接してくれた。ところがある日、『魔女』がやってきた」
俺「その日は用事で俺と奴は街を離れていた。そして帰ってみると『街が消えていた』」
獣耳娘「消えた?街がですか?」
俺「そう。街が全て、土地ごとえぐり取られ跡形も無くなっていた。その中心にいたのは黒いローブをまとった女」
俺「こんなことができる相手は人間ではない。そう直感した。それでも俺と奴はそいつに闘いを挑んだ。しかし手も足も出なかった」
俺「奴は俺達を殺さず、去って行く前に俺たちに言った。『お前たちは証人だ。この街を消した魔女のことを語り継ぐがいい』」
俺「俺達は復讐を誓った。奴は腕を磨くために傭兵団に入った。俺は冒険者の道を選んだ」
俺「俺はそれから魔女を殺すためだけに生きてきた。そのために技を磨き、情報を集めてきた。それが人生の全てだった…それなのに、お前が現れた」
獣耳娘「じゃあ、私はご主人様の邪魔をしてしまったんですか?」
俺「違う。その頃の俺は…復讐だけで心が壊れそうだった。そんな時にお前に出会ったんだ」
俺「お前は俺を慕ってくれたが…俺も…お前に支えられていたんだ」
獣耳娘「ご主人様…」
俺「お前の訓練のために一緒にこなした些細な依頼や、お前と一緒に旅した日々で、復讐心で見えてなかったものが見えるようになった。普通に生きる人びとの喜び、悲しみ」
俺「でもやはり、俺の街を消した魔女を許すわけにはいかない。魔女を倒せる機会を逃すわけには行かないんだ。だから、俺は行かなくてはならない」
俺「お前に『前を見て生きろ』などと説教してる俺が、こんな過去に囚われてるなんて知られたくなかった。だからお前に理由は言いたくなかったんだ。隠していてすまない。」
俺「必ず…生きて帰る。お前は命を大切にしろよ。無駄死にはするなよ」
獣耳娘「……わかりました。ご主人様」