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黒園  作者: 悠希明
2/3

-転-


 2月の6日 木の日

 ああ、アア、嗚呼…。

 どうせ明日死ぬかもしれないのに私は今死にたいという気持ちでいっぱいだ。

 くそ…クソくそ!!!信じられるか?

 愛なんて所詮は紛い物だ…男は秘め事を、女は銭を欲しているだけの畜生だ。家畜を飼いならしちゃあいるが我等もまた家畜の様に酷く脆くそして腐り堕ちるのだ。

 …そう…そうさ堕ちるんだよ人は…有無を言わせはしない…あの妖術師の所に今からでも行って呪を!死など前座だと思い知らせてやる。


 …


「がや…がや…」

「な…なんて文章だ…」

「ひどいね。」


 そう…そうさ。

 俺がこの銭老け共にこの本を読んで欲しくないのはここからなのさ…

 本来ならまだまだページに余裕があるであろうこの書物は大量の焦げ跡で消費されている。理由は不明だし断言は出来ないが、しかし文字の雰囲気の変貌ぶりを見るに明らかにここを起点にして"筆者"が変わっていやがる。

 そして最も嫌なのはその内容だ、俺でさえ胸糞悪いと感じたが自ら欲したのにも関わらず何の学にもならない感想未満の批判の口々を俺に言うだろう…たまらねえぜ。


「えーここから焦げ跡のせいで大量のページが解読不可なのでございますが…しかしまあ、読める所は一字一句間違えずにハキハキと!音読させていただきますね! ハハハハハ! 」


――


 2月のぎりぎり8の日土の日

 さあてどうしたものかねえ

 腸がちらばり黒染めした骨がたくさんあるよ(みんなちゃんと燃えたねえ! )

 さあてどうしようかねえ

 この黒骨の後しょ理は…ん〜人骨の出汁は何が美味いのかあたしゃ理解出来ないしだからといって証拠はのこせないしねえ…

 骨まで燃やせる呪じゅつはまだけんきゅうしていないし…

 まあ、一仕事おえた後だし今は眠るとしようかねえ。


 さあてどこで寝ようかねえ


――


 2月のえーと17? たぶん月の日

 さてさて、骨はあたしの実っけんに使う事にしたけれどもひとつだけ、あたしにころされるというのにあたしに頼んだあの平民の骨だけは何故か石と同化して取り除けなかったねえ。あたしの呪じゅつのえいきょうなのか、あの平民の何かの想いでそうなったのか、それともあの石のあたしのとは異なる呪いの力か…。

 なんにせよアレだけは多分だれにも取り除く事は無理だからすなおにあきらめてまた別の所に向かうかねえ

 どうしようもないものさ。呪いも愛もね


 …(大量の身解読未解明の焦げたページはドンドン飛ばしていく)


 3月の19日の金の日

 久々に書いてるよ。

 久々に書くほどの理由があるよ。

 あたしのした事がどうやらひそかに広がってるみたいでねえ。それだけなら問題はないのだけど姫さまもろとも燃やしてしまったせいで怒りを買ったみたいなのさ、あたしは見つかったらただ、ただ痛ぶられるみたいだから(あのぎしきみたいにね)問題が広がっていない所へと場を移して事たいがおさまるのをまつ事にしたよ。


――


 う〜ん

 がやがや


 う〜ん!

 ざわざわ!


 案の定だ。

 やはり騒ぎおった。自ら求めたモノの責任を自らに問う気配すら見せない

(聞く価値無しの罵詈雑言だな…)

 今まで何回この心情に陥ったか、恐らく今後もこの心情とは向き合わねばならない。

 院長なんて名前負けした位に上り詰めるんじゃなかったな…

 そんな思考がフツフツと湧いた時にヤツは口を開いた


「みなっさまっ!!! お静かに願い申し上げます…」

 ?

「皆様の熱く燃え上がりそのおくちから零れ落ちる学の数々は大変貴重でございます故…」

 …

「その重荷はワタクシめには相応しくありません! ですからここは院長様!! この学院の一番の功労者である院長様にこの先をお読みになって貰い、その先の価値のある対話をより吸収してもらいましょう! 」

 …?!?


「な…ッ!!? そもそもこの本をここに勝手に持ち出しているのを許し、貴族の皆様に読ませている時点で俺にとっちゃ最大限の譲歩なんだぞ!!これ以上の勝手は流石に見過ごせねえ! てめえ後で」

「76%です」


 俺の怒りを横切った、横切れる程それまでの会話とは関係の無い単語が飛び出た。その一瞬の硬直を知っていたかのように(恐らく本当に知っていたんだろう)ヤツは続ける

「現時点での、この書物の解明が進んでいる範囲内での、書物の進行具合ですよ。これを読みきるまでには残り24%ですよ? 」

「…目則なら確かにそんな気はしない事もない残ページ量だな。で?それがなんだというんだ」

「あの会議の時を思い出してください、もしくはあの発表会の時、またはあの表彰式の時。」

「トリを務めるはあなや院長様!それは紛れもない事実ですから、形式を大切にしたいと思った次第での提案なんです」

 この阿呆はそう言う一歩こちらへ近づき、小声で俺だけに聞こえるように囁きながら話を続ける。

「少し生々しい話をするとワタクシと院長様の位の違いは2つも違います。代理を務められる資格すらないのが現状ですので…どうでしょう…?」


 正味屁理屈だと言えるレベルだが先代院長様の命により形式を大切にする方針だったのもあり、一応の一理がある。


 なんてことはない、目の前のヘマをした新入りの尻拭いをする役目は、つまり俺だった。院長なんてモンに何でなってしまったのか…俺は軽い目眩がしていた。

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