第8話 到着と開始の詩
5日間、特に面白い・・・ゲホゲホッ、ハプニングなども起こらず、無事に王都に辿り着くことが出来た。
「うわぁ、ここがステラスタウンかぁー!」
エスティア王国の王都、ステラスタウン。
ここは世界的に見ても文明の発展が著しい所だ。
前世程ではないが、村にはなかった2階建て以上の建物や、活発な市場と露店、たくさんの食事処と宿。
このどれもが、私にとっては新鮮で新しかった。
「おや、お嬢ちゃんは王都は初めてかい?治安はまぁそこそこだが、活気に溢れてるいい街だよぉ、きっとお嬢ちゃんも気にいると思うなぁ。」
この5日のあいだで、タリオンさんは私のことを「ユーカ様」から「お嬢ちゃん」と呼ぶようになった。
「うーん、そうですね!すごく明るい感じがして、私は好きです!」
「でしょ?でもまぁ、治安はそんなに良くないけどねぇ」
いや、王都ってことは王様を始め、重鎮がいる街なのに、治安が悪いのはどうなのか。
「そうなんですか!私も気をつけないと・・・」
「そうだな、気をつけてよぉ!そういえば、喋ってると忘れちゃうけど、お嬢ちゃん、まだ5歳なんだよねぇ。まぁお嬢ちゃんなら大丈夫な気もするけど、夜とかは出歩かない方がいいよぉ。あと、王都の南側はスラム街だから、用事がない時は近づかない方がいいと思うよぉ。」
「そうなんですね!ありがとうございます!」
「ははっ、このくらい全然構わないよ。敬語も使えるなんて、本当に5歳なのかって言いたくなっちゃうなぁ。」
「え・・・」
「いや、冗談だよ。明らかに見た目から5歳だしね!」
「あ、あはは、そうですよねー!」
あっぶなー。
本当に疑ってるのかと思った。
「・・・おっと、ここが王立勇者育成学院だよぉ。それじゃあ、お嬢ちゃんとはここでお別れだねぇ、5日間ありがとう、楽しかったよぉ。僕はしばらくこの街にいるから、何か困ったことがあったら王都の西側にある大きな屋敷に来るといいよぉ。僕の名前を言えば通してもらえるから。」
「ありがとうございます、タリオンさん!それじゃ、私、そろそろ行きますね!」
「うん、頑張ってねぇ!」
その言葉を背に、馬車を降りると、そこはもう、学校の大きな門だった。
「うわぁ、大きい・・・!」
前世でもこんなに大きい門は見たこと無かった。
「大きいでしょう、この学校の門は。この国で城の次に大きい門ですから。」
ふと後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには1人の女性が立っていた。
どことなく、落ち着いた雰囲気の女性。
流れるような黒髪とスラッとしたスタイルがそれを強調している。
「あ、えと、あなたは・・・?」
「あら、これは失礼しました。私はこの学院長のマリアです。5歳の職業勇者さんを見にここまで来た次第ですわ。」
ということは、私のためだけにここまで来たのか、マリア学院長。
「わざわざお出迎えありがとうございます、マリア学院長。この学院の下で学ぶことが出来ることを誇りに思います。」
私がそう言うとマリア学院長は目を見開いた。
「まぁ、ユーカさんは随分と聡明でいらっしゃるのね。」
「いえいえ、そんなことありません。」
「あらまぁ、謙虚なのもいい事ですわ。・・・あ、大事なことを言い忘れていましたわ。ユーカさんは既に職業勇者であるため、もう入学は決定しているのだけれど、学院の規則上、試験は受けていただくことになっているのですわ。」
「それはもちろん構いません。」
「そう言って頂けると助かりますわ。試験の内容は、簡単な魔力の測定と器の力、あとは簡単な学力検査になりますわ。ただ・・・」
「どうされましたか?」
「ユーカさんが職業勇者だと知っているのは、ユーカさんとご家族以外には私と国王しかおりませんわ。ユーカさんの職業のことは、国家重要機密になっておりますの。」
「つまり、私は試験会場内、あとは友達などにも私の職業について話さないようにすればいいということですか?」
「ええ、その通りですわ。こちらでもユーカさんのステータスを無闇に見せないよう徹底はしますが、生徒にはそう強制出来るものではありませんから。」
「わかりました。」
「結構ですわ。それでは、試験会場に行きますしょう。私の腕に捕まってください。」
「・・・?はい。」
「では行きますよ。目をつぶっていてください。」
言われるがまま目をつぶると、不思議な感覚に襲われた。
「もう目を開けても大丈夫ですよ。」
そう言われてをと開けると、私はどこかの部屋―ここが試験会場だと思う、にいた。
「驚きましたか?」
「・・・マリア学院長は転移が使える、のですか?」
「ええ。この学院でも転移が使えるのは私だけですわ。」
やっぱり転移は使える人が限られてるんだ。
「ここは試験会場ですか?」
「えぇ、そうです。この学院では、入学試験は個別に行っています。」
へぇ、珍しいな。でも周りを気にせず挑めるからいいかも。
「それでは、この石版の上に右手を置いてください。」
なんか教会で見たことあるような石版だな。
「置きました。」
すると、会場内が眩い光に包まれた。
私は驚いて、直ぐに手を話してしまった。
すると、光は急激に収まった。
助けを求めるようにマリア学院長の方を見るが、学院長は目をぱちぱちさせるだけで何も反応がない。
「あの、マリア学院長?」
「・・・はっ、失礼しました、これほどの光を見たのはこの学院が始まってから初めてです。より細かく数値として値が出るものも持ってくるので少々お待ちください。」
・・・開始早々、面倒くさいことになりそうな予感がして、私はため息をついた。
今回は異常に速いですね。
でも今回だけです。




