4話 職業と神父の詩
サブタイトルに詩ってつけるのはただ単にこの字が好きだからって言うだけです。
そうして、私が転生して5年が経った。
両親の話を聞くと、どうやらここはエスティア王国の西の方にある、ロレイン領ロレイン村というところのようだ。
私のお父さん、ハドソン=ロレインはこの村とラスプー村、ソールト村、マークス村の領主をしているらしい。
領内はそれなりに儲かっているらしく、私が生まれた場所は、領内にある別荘だそうだ。
5歳になったらマークス村にある本宅に戻るらしい。
ところで、話は変わるが、私が成長していくにつれて気づいたことがある。
暮らし始めて最初の方は、私はお父さんの方が親バカだと思っていた。
しかし、その認識は間違っていたことに気づいた。
確かに、お父さんも親バカだ。
しかし、お母さんはもっと親バカだったのだ。
それを知ったのは、私が歩けるようになって間もない頃だ。
ある日、私が歩く練習をしていた時、こんな会話を耳にした。
「エマ!ユーカが歩いてるぞ!なんて可愛いんだ!本当に天使のようだ!」
「何を言ってるのよハドソン。そんなの当たり前じゃない!それにこの子はとても賢いのよ!この年齢で歩くなんて!こんな賢くて可愛い子なんて天使以外ありえないわ!・・・あら!ユーカがまた少し歩いたわ!なんて可愛いのかしら!」
確かに小さい子が歩いているのは可愛いし、見ていて心が和む。
しかしこれは3年前のこと、つまり私が2歳の時の話である。
いくら我が子とは言え、歩けて当たり前の年齢の子が少し歩いたぐらいでそこまで褒めちぎるだろうか。
またある日、私が本を読んでもらっていた時のことだった。
当然のことながら「多言語理解」のスキルがある私はその本がどんな意味なのか知っている。
しかし、私が喋る言葉はちゃんと通じるのか心配になり、たまたま目に入った「剣」という単語をポロッと言ってみたところ、
「まぁ、ユーカが今『剣』って言ったわ!私この子の前で本を読んでいただけなのに!」
「何、ユーカが喋っただと!?すごいじゃないか!」
「そうよ!村の人を呼んでお祝いのパーティーしなきゃ!」
ちなみにこの時は2歳半、少しなら喋れてもおかしくはない年頃だった。
この時は流石にお父さんも苦笑していた。
・・・とまぁ、こんな感じに親バカな両親だが、2人とも優しく、家族3人で仲良く暮らしてきた。
ある日の朝。
いつものように家族で朝食を食べていた時のことだ。
お父さんが口を開いた。
「エマ、今日はユーカを教会に連れて行く日だ。教会から帰ってきたら本宅に戻る準備をしよう。」
本宅かー。前から2人の話を聞く限り、ずいぶん豪華なところらしい。
別荘は山奥にあるため、そんなに外には出なかったし、出たとしても家の周辺だけだったため、村の様子み1回見てみたかった。
今日はそのチャンスだ。
でも、その前に言っていた「教会に行く」というのは気になる。
「お父さん、教会で何をするの?」
「ユーカももう5歳だろう?5歳になると、教会に行って自分のジョブを見ることができるんだ。」
お父さんの話をまとめると、
・ジョブには 騎士、戦士、魔導士、賢者、僧侶、勇者、農民、漁民、商人の9つがあり、その中でもまた細かく分類が別れる。
・そのうち魔法を使えるのは騎士、戦士、魔導師、賢者、勇者しかいない。
・その中でも賢者はある特殊な魔法しか使えない。
・それ以外は身体能力の高さに差はあれど、そんなに変わらない。
・ジョブがわかると、それに見合った教育を受け、それに見合った職業に就かなければならない。
・ジョブによって差別を受けることはないが、誰でもなれる職業はジョブによっては優遇されるものもある
ということだった。
ちなみにお父さんは騎士、お母さんは僧侶だった。
「領主はどのジョブでもなれるが、今の制度だと男しかなれないから、ユーカはなれないんだ。ごめんな、ユーカ。」
いや、大人になったら旅とかしたかったからむしろそっちの方がいい。
「いえ、大丈夫です。お父さんが気にすることではありません。」
「そうか、ありがとうな。ところで、ユーカは将来どんな職業になりたいんだ?」
「うーんと、職業はわからないけれど、色々なところに行って見たいです!」
「そうかぁ、それだと農民以外ならどのジョブでも大丈夫そうだな。でも、勇者とかだと自由に好きなところには行けないから大変かもな。」
勇者か。そういえば、アルが魔王を倒して欲しいとか言ってたような。
・・・これ、ジョブが勇者になるフラグだったりしないよね?
***
「ねぇメル。僕が転生させた子がもうすぐ教会に来るって。」
「転生させた子?」
「うん。七瀬 優香っていう子。」
「優香・・・あぁ、ユーカ=ロレインのことですか。」
「うん、そう。そういえば、メル、あの子と仲良くしたそうだったよね。」
「・・・否定はしませんわ。久しぶりに同い年くらいの子が来たのですもの。」
「じゃあ、どうしてメルは贈り物を授けなかったり、キツめに喋ったりしたの?普段はそこまでキツくないのに。」
「それは・・・同い年くらいの子と喋るのが久しぶり過ぎて、どう接していいかわからなくて。」
「なんだ、そんなこと?それなら、メルも贈り物を授けて素直に喋ればいいんじゃない?あの子、きっといい子だから仲良くしてくれるよ。」
「そう、ですね。・・・あの。」
「何?」
「今、メル『も』とおっしゃいましたか?」
「うん。だって、僕もあげたもん。」
「そうだったのですね。」
「うん。まぁ、それをユーカが知るのはのはユーカが教会に来てからなんだけどね。」
「そうですね。」
「あ、ユーカが来たみたい。」
「行きましょう、お兄様。」
「うん。メル、今度は素直に喋れるといいね。」
「はい。」
***
「着いたよ、ここが教会だ。」
それは、とても大きな建物だった。
「ここが・・・」
すると、教会の中から1人の男性が出てきた。
「これはこれは、ハドソン様、エマ様、ようこそおいでくださいました。おや、そこにいらっしゃるのはユーカ様ではありませんか!随分と大きくなられましたなぁ・・・」
「やぁ、ローレンス神父。相変わらず元気そうで何よりだよ。」
この人はこの教会の神父なのか。
じゃあこの人のジョブは、僧侶?
でも、僧侶っぽくはないなぁ・・・
着ている服を見ても、前世で見たことのある神父さんとかの格好とも違う気がするなぁ。
ジョブを知るには魔法とか使いそうだけど、僧侶って魔法使えないってお父さんが言ってたよね。
・・・でも色白だしヒョロッとしてるし、戦ってそうな人では無いと思うなぁ。
うーん、賢者かな?
年齢も含めてなんとなく雰囲気が賢者っぽいし。
「ユーカ、この方はローレンス神父だ。」
「はじめまして、ユーカ=ロレインです。」
「ほぉ、ユーカ様は聡明でいらっしゃるのぉ。じゃあそんなユーカ様に儂から問題ですぞ。」
「問題?」
「儂はこの教会で神父をやっているのじゃが、そんな儂のジョブは何でしょうか?どうです?なかなか難しいでしょう。」
さっき、心の中で「賢者」っていう結論が出たんだけど。
これ、もう少し考えなきゃいけないやつなのかなぁ?
いいや、言っちゃえ!
「・・・賢者、ですか?」
「そうです、よくお分かりになりましたねぇ、・・・え?あれ?どうしてお分かりに?」
「最初は僧侶だと思いました。でも、ジョブを知るには魔法を使うと仮定すると、それはおかしいんです。でも、神父様の外見を見るとどう見ても戦闘経験があるようには見えないので。」
「では、どうして魔導士ではないとお思いに?」
「それは、賢者の使える『特殊な魔法』というのがジョブを知る魔法だと考えるのが自然だと思ったからです。」
「と言うのは?」
「お父さんは、賢者は『ある特殊な魔法』しか使えないと言っていました。神父様は見たところかなりご高齢のようですし、お父さんが5歳の時から神父をしていても不思議ではないように思えます。多分、お父さんは神父様からこの問題を出されたことがあるのではないでしょうか。」
「確かに儂はこの問題を以前ハドソン様にお出ししたことがありますぞ。しかし、その特殊な魔法をハドソン様が知らない可能性もあると思いますぞ。」
「それはあり得ません。」
「どうしてそう言い切れるのです?」
「お父さんがジョブを知った時、同じ問題を出したのであれば、神父様から答えを聞いているはずです。」
「これは驚きましたね。全て正解です。ユーカ様は実に良い観察眼と聡明さを持っていらっしゃる。」
当たっていたようだ。
正直、理由は途中から適当に考えたのだが。
「まぁ、ユーカ!本当にすごいじゃない!これ、私も出されたけどわからなかったのよ!」
あ、お母さんも出されたことあるんだ。
「そうでしょうとも。わからないのが普通なのです。・・・これは是非とも、私の後継者に欲しいところですな。そのためにはジョブを知るところから、です。さぁ、お入りください。」
中に入ると、3つの扉があった。
「ここから先はユーカ様お1人でお進みください。真ん中の部屋に石版がございます故、そこに手を置くとジョブがわかります。」
「は、はい。」
私は言われた通りに真ん中の部屋に入り、石版に手を置いた。
その途端、石版が白い光を放ち、私は思わず目を閉じた。
「ユーカ、久しぶり!元気そうでなによりだよ!」
「ひ、久しぶりね。」
聞き覚えのある声に目を開けると、そこは転生する前に来た真っ白い部屋で、そこにはアルとメルがいた。