2話 間違いと転生の詩
私は驚いた。
「え、今の、本当?もし本当なら私が死んだ理由ってメルさんに連れて行かれたからってことになるんだけど。」
「あーもううっさいわねー!本当よ!そんなに気になるならお兄様に聞いてみなさいよ!」
何故かメルさんにキレられたので、アルに
話を振る。
「アル、今メルさんが言ってたことって本当なの?」
「うん、残念ながら本当だよ。まぁ、こんな状況なら疑うのも無理はないけど。僕から詳しく説明した方がいい?」
どうやらメルさんの言っていたことは本当のようだ。
アルが説明を申し出てくれたので、
「じゃあ、お願いしようかな・・・」
と言おうとすると、横からメルに割り込まれた。
「そんなのいりませんわ!わざわざこんな女1人のためにお兄様の無駄な時間を使ってしまうなど・・・」
「メル、ちょっと黙ってて。僕は今ユーカと話してるんだ。こっちが間違えた以上、僕たちにはどうしてこうなったのか説明する義務がある。わかるよね?」
「ぐっ・・・」
一瞬でアルに怒られてた。
「でね、今回なんで君がここにいるかを詳しく説明するとね・・・」
アルの話を大まかにまとめると、
1. ここは α世界という、地球とは違う星にある 平行世界のようなものである。(アル曰く平行世界とはまた違うものらしい)
2. アルとメルさんはエスティア王国というところで守護天使をやっている。(これもアル曰く自分たちは天使とはまた違う存在らしい)
3. 今、エスティア王国は魔王侵攻の危機に見舞われている。
4. そこで最近は1度死んだ人の中から何人か選んでエスティア王国に転生させている。
5. 転生させるにはエスティア王国への適応値(どのくらい国に馴染めるか)が500以上ないといけない。
6. アルとメルさんは地球にいる神々に頼んで誰がいつ死ぬかとその人の適応値が載ったリストをもらった。
7. それによると私は明日ここに来るはずだったのだが、メルさんのミスによって今日連れてきてしまった。
8. 私の死因はトラックの信号無視が原因で起きた交通事故で、即死。
9. もし予定通り明日死んでいたら、死因は通り魔だった。
10. 私の適応値は2600で、これは過去最高レベルの高さである。
ということだった。
・・・なんか、色々衝撃的だな。
というか、もしメルさんが間違えてなくても明日になれば自動的に死んでたんだ。
「ごめんね、大雑把な説明しかできなくて。何となく話の内容は掴めた?」
「うーん、とりあえず何が起こったかはわかった。」
「そっか、ならよかった。本当にごめんね、普段ならこんなミス、ほとんど起きないんだけど・・・」
「ううん、気にしないで!もう起きちゃったことは仕方ないし、それにこれは早いか遅いかの違いでしかないし。」
「早いか遅いかの違い?」
「うん。どうせメルさんが間違えてなくても明日には死んでたんでしょ?」
「う、うん・・・」
「なら、死ぬ日が本来より1日早くなっただけでしょ?それに、もし明日死んでたら即死じゃなかったかもしれないんでしょ?なら苦しまずに死ねたからそれでいいかな、って。」
「そっか、ユーカがそう言うならそれでいっか。・・・あ」
「え?」
「あのね、こっちで間違えておきながらすごく勝手なお願いになっちゃうんだけど、さっきも言ったように今エスティア王国は魔王による侵攻の危機に襲われてるのね。だから1人でも多く人を送らなきゃいけないんだ。」
「つまり、私に転生しろと?」
「うーんとね、無理は言わないしできる限りのことはするから、できれば転生して欲しいなーっていう感じかな。」
「あー、じゃあ転生するからその国についてと転生のシステムについて詳しい説明をお願い。」
「うん、わかったー・・・え?本当?転生してくれるの!?」
なんかすごい喜ばれた。
「う、うん。だってなんか楽しそうだし?生きられるなら生きたいし。」
「そっか、まぁ転生してくれるなら話は早いや。じゃあ詳しく説明するね。といってもそんなに難しくないから安心して。」
「そうなの?」
「うん、だって難しいことなんて説明しても誰も転生してくれないデショ?」
確かに、高校でも説明が長かったり難しかったりすると理解しようとすらしなかったな。
「じゃあ説明するね、まず、今からユーカが転生する世界には、元々いた世界と違って剣とか魔法とかがあります。」
まぁ魔王とか言ってたから想像はしてたけど。
「ユーカは日本でライトノベルっていう本とか読んだことある?」
「ライトノベル?あぁ、まぁ多少はあるよ。」
「それにさ、『異世界で冒険だ』みたいな話の本無かった?」
「・・・あー、何回かなら読んだことある。」
確か、昔図書館で借りて読んだことがあったはずだ。
「ライト・アドベンチャー~天空の異世界~」というタイトルの本が同年代にすごく人気だった記憶がある。
私には何が面白いのか分からなかったが。
「じゃあ、今から行くところもだいたいそんな感じだと思ってくれればいいかな。」
「じゃあ、つまりダンジョンとかギルドとかがあるってこと?」
どこの異世界にもそんな設備があると本で見たことがある。
「うん、あるよ。」
「あぁ、大体どんな感じかはわかった。」
「おっ、理解が早くて助かるよ。じゃあ次に転生する時の話なんだけど、まず記憶ね。」
「記憶?」
「うん。転生する時は今の記憶を残しておくか消すか選択できるのね。どっちにする?」
それはあった方がいいに決まってる。
せっかくここまで身につけた知識を手放すのは勿体ないし。
「残しておく。」
「OK。じゃあ名前は変えないでおく。」
「変えないでおく?」
「うん。だって転生だから。」
「赤ちゃんからもう1回ってことでしょ?」
「うん、そうだよ?」
「そうしたら名前ってアルが決められるの?」
「・・・向こうで君のお母さんとなる人の夢に出る。」
「でもそれで本当ににそうするかは・・・」
「多分信じるでしょ。最悪違う名前になりそうな時は運命をいじるから大丈夫。」
「そこまでしなくても・・・」
「本音を言うと、人の運命いじるのって楽しいんだよね。」
「・・・そっか。じゃあ気にしない方がいい?」
「うん、そうして。で、次は言語なんだけど、記憶を残してるって言うことは脳みそ2こ持ってるってこととほぼ同じなのね。」
「前世の記憶と今世の記憶?前世の記憶の容量って今世の分に影響とかないの?」
「うん、ないよ。だけど前に使ってた言語とかも記憶として残ってるから言語だけは覚えづらくなるんだよね。だから『多言語理解』っていうスキルがあるんだけどいる?」
「いる。『多言語理解』ってことは他の国の言語とかも理解できるんでしょ?」
「・・・はは。確かにそうだよ。すごいね、そんなことに気づくなんて。」
いや、だってラノベでよくあるやつだし。
「うん、まぁね。」
「じゃあ最後。ちょっとそのまま動かないでね。」
そう言うとアルは私に手のひらをかざした。
「え?」
アルの手のひらから光が放たれる。
あまりの眩しさに、私は思わず目を閉じた。
「え?え?」
私が目を開けた時には、その光は既に収まっていた。
「アル?今何を・・・?」
「うーんとねぇ、それはステータス見てからのお楽しみだよ☆」
アルはそう言い、ウィンクをした。
「・・・うん。」
ステータス見てからのお楽しみ、か。
アルは一体何をしたのだろう?
「お兄様、いくらなんでもそれはやり過ぎです・・・!」
「んー、でもたまにはこんなことしてないとやってられないし。一応だけど創造神からも許可は得てるし」
「・・・はぁ。お兄様がそう仰るなら止めは致しませんが」
やり過ぎ?なんのことだろう。
「アル、本当に私に何をしたの?」
「ユーカは心配しなくていいよ。少なくともユーカにとってはマイナスになるような事はないはずだから。」
・・・まぁいいか。
どうせアルたちにこちらに連れて来られなかったらもう1回生きることさえできなかっただろう。
―どうとでもなれ、私の人生。
「・・・そこまで言うなら、楽しみにしてるよ。」
「うん!・・・あ、ステータス見た時に驚かないでね?あと、むやみに魔法の練習とかしない方がいいよ!」
「・・・?わかった。」
「じゃあいよいよ転生だね。転生先の家はお父さんもお母さんも仲がいいし2人ともいい人だから安心して。」
そっか。仲がいいのはいい事だし、それなら安心して生活できる。
「ありがとう、アル。」
「ん、何が?」
「私に新たな人生を与えてくれたこと。」
「別にこっちは世界を救ってもらいたくてやってることだし。むしろこっちこそありがとう、こっちのミスのせいでこうなったのにあっさり転生してくれて」
「・・・まぁ、2度目の人生も悪くないかなって思ったから。」
「そっか。じゃあ、2度目の人生、楽しめることを願ってるよ。このドアは転生先に繋がってる。ここをくぐったら新しい人生の始まりだよ。」
そう言ってアルは1つのドアを指し示した。
「わかった。じゃあ、行ってきます。」
「いってらっしゃい!」
と、唐突にメルさんが言った。
「・・・楽しんできなさいよ。」
「・・・!メルさん、ありがとう。」
「・・・メル。」
「え?」
「私のことは、メルって呼び捨てで呼んで。」
「・・・うん!ありがとう、メル!じゃあ、今度こそいってきます!」
そう言って私はドアを開けた。
その途端、眩しい光が私を襲った。
いよいよ転生しましたね。
これからどうなっていくんでしょうか?楽しみですね。




