表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/46

学院騒動 23


 ■Side:Carol


 模擬戦は続く。二人目、三人目、四人目と。とはいえ、お師匠さまを攻略できず、無作為に魔法を放つだけになってしまっている。一応、それなりに工夫をしているみたいだけど、すべてが無駄に終わっている。


 うーん。なんで魔法にこだわるかな。


 いや、まぁ、魔法戦を想定した模擬戦だから、仕方ないのかもしれないけど。

 まっすぐ行って殴れば合格なんだけどなぁ。


 お師匠さま、手をださないし。


 フィリナさんは合格になったんだろう。呼ばれて、褒められてたみたいだし。

 すっごいいい笑顔してたし。


 【火球】を炸裂させようとしたことが合格につながったのかな? 多分、お師匠さまが【火球】を止めたのは、想定外のことだったからだと思う。


 きっと、テーブルが焦げそうだったから、使う予定のない技術を使ったんだろうなぁ。


 ……そんなことになるくらいなら、あんなところで寛がなければいいのに。


 つまり、フィリナさんがやった、というか、やろうとしたアレは、正解だったということだ。


 炸裂してしまった【火球】は、もう術式が終了してしまっているから、お師匠さまでも干渉しようがないものね。


 そして五人目はアマーリエ様。


 うん。なんというか、午前中の様子で怪しくは思ってたけれど、もう完全にお師匠さまの……信者っていえばいいのかな。そんな感じだよね。


 お師匠さま、結構、容赦なく叩いてたと思ったんだけど、なんでああなっちゃったかなぁ。


 ……学院辞めて、ウィランに押しかけてこなけりゃいいけど。


 私は本気で心配になってきた。



 ★ ☆ ★


 ■Side:Midyn


 アマーリエ嬢が【魔法弾】を発動。その魔法の発現場所はあたしのすぐ背後。でも残念。【魔法弾】はこれまでの魔法同様に返すわよ。


 ふむ。集点と焦点をきちんと制御できるんだね。なかなか優秀。あの残念なおっさんより実力は上じゃないかな。傀儡に関しては……独学だったのが災いしたのか。


 やー、良かったわぁ。傀儡の扱いから才能はあると思ってたけど、ここまで実用レベルなら問題ないわ。多分このまま、陛下が首輪をつけてくれるでしょ。


 それはさておいてだ。なんであたし、ここまで気に入られたんだろ。微妙に視線が怖いよ? 目、潤んでない? 普通、あれだけのことをしたら嫌われるよね? え? どういうこと?


 アマーリエ嬢の視線に底知れぬ不安なものを感じる。てっきり嫌われると思っていたのに。なんで一日経ったら、なついてるんだろう? 昨日は親の仇みたいに睨んでたのに。午前中なんか、なんだか目をキラキラさせていたし。


 そういや、エンレラさんの所で働いてる時にも、何人か来たなぁ、あんな目をした人。


 ウィランで暮らし始めた頃から、売り子として働いているエンレラさんの店でのことを思い出し、あたしは苦笑いを浮かべた。精霊さんたちの趣味で外見が変わってからというもの、お世話になっていた人たちや、懇意にしていたお店のおじさんやおばちゃんたちを除いて、周囲の対応が激変したんだ。


 みてくれが変わるだけで、ここまで対応が変わるのかと、そこはかとない恐怖も感じたっけ。


 もっとも最近は師匠業をはじめたから、しばらく暇を貰ってご無沙汰してるけど。もういっそのこと、キャロルを連れてこうかな。


 攻撃の手を止め、アマーリエ嬢が思案するようにあたしを観察する。


 さて、どうでるかな?


 この模擬戦の勝敗条件も1戦目後に伝えたし、戦術は練りやすいハズだよ。少しくらいはあたしを驚かすようなことをして欲しいなぁ。


 勝利条件はあたしに一撃でも攻撃を当てるだけ。ただそれだけ。いきなりフィリナ嬢が模範解答のひとつを出しちゃったんだよねぇ。


 実際、この条件を満たすだけなら簡単なんだ。


 今回のルールなら、キャロルだったらあっという間にクリアしたわね。「まっすぐ行ってぶん殴る」で終了だもの。


 方法は問わないって云ったのに、フィリナ嬢、「これは魔法戦の模擬戦ですから」なんて云って、魔法で打撃を与えるんだって息まいて、他の生徒に伝えたみたいだからねぇ。


 フィリナ嬢の真似をすれば簡単に終わるんだけど、さすがにそこまでの制御はみんなできないか。アマーリエ嬢も無理みたいだし。


 まぁ、【火球】を任意で炸裂させるって、ほぼまるっきり使い道のないことだからね。どういう状況でつかうの? って感じだし。

 どこかに設置して罠とするとか、時間で炸裂させるっていうならともかくねぇ。

 ……フィリナ嬢はなにを考えてそんな修行してたんだろ? なにを想定してたんだ?


 そんなことを考えつつ、あたしはアマーリエを眺めていた。


 すでに肉饅頭は食べ終わり、のんびりしている振りをしながらお茶を啜っている。


「【炸裂弾】」


 お?


 【炸裂弾】、着弾した場所で爆裂する魔法弾。いまひとつ使い道のない地味な魔法だ。簡単に説明すると、【火球】から火を抜いたものだ。魔法としての難度は【火球】と同じ。それで殺傷力は【火球】に遥かに及ばない。


 唯一の利点は、周囲に不用意に被害を及ぼさないというだけだが、それは殺傷能力が低いことに他ならない。


 アマーリエ嬢が撃った【炸裂弾】は、私の左側、ほんの少し離れた場所に着弾した。それも私の張った対魔法結界すれすれの場所。


 ばんっ!


 なにがが派手に叩きつけられるような音がし、地面が弾けた。

 そして砕けた土塊があたしの足にコツンと当たる。もちろん、ダメージは殆どない。


 だが、打撃を与えた事には違いない。


 へぇ。結界すれすれに撃ち込むとは。【魔法弾】は結界の範囲を測ってたのかな? ということは、この【炸裂弾】はその確認か。つまり、次の一手が本番なんだろうけど――


 あたしはおもむろに右手を挙げた。


「はい、降参。あなたの勝ちよ」


 あっさりとあたしが敗北宣言をしたせいか、次の魔法の詠唱をしていたアマーリエ嬢が目をぱちくりとさせていた。






「あの、妹様、いまの模擬戦はどのような意図があったのでしょう? 一切、攻撃をされませんでしたが?」


 一対一の模擬戦の総括。


 フィリナが代表してあたしに質問をしてきた。というかさ。


「妹様って、みんなもその呼び方で落ち着いちゃったのか……まぁいいや。

 で、いまの模擬戦の意味ね。あたしは一切手を出さなかったわけだけど、これはみんなに攻撃だけに、まずは集中してほしかったから。


 そして目的は、【対魔法障壁】への対処方法。


 【対魔法障壁】って、魔法に対してはとつてもなく優秀だけど、ただそれだけなのよね。魔法によって引き起こされる二次被害はそのまま素通しだし、【火球】が直撃した場合はきちんと防ぐのに、手前で炸裂て弾けた炎はなぜか通したりする面倒な特性があるのよ。


 まぁ、いまの模擬戦でどうすれば対処できるかわかったでしょ?


 もっとも、【絶対障壁】とかには通用しないから、そこは気を付けてね」


 そこまで答えて、あたしはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべてみせる。


「さて、防御系魔術師見習いの諸君。チーム戦をこれからやるわけだけど、今度はこっちも攻撃魔法を使うからね」


 ここに来てようやく生徒たちは気が付いようだ。あたしが、実戦において出来なくてはならない、対処方法を思い知らせようとしているのだと。


 そして防御系魔術師見習いの生徒たちは目に見えて震え上がっていた。自分たちが、いったいどんな魔法にさらされるのかと、狼狽えているのかもしれない。


 あぁ、さっき【ぷち竜殺槍】を見せたからね。まさかアレを撃たれるとか思ってるんじゃないわよね。そこまであたしは酷くないわよ。


「安心しなさい。使う魔法は【魔法弾】だけよ。威力も標準仕様のまま使うから、直撃しても大丈夫よ」


 が安心させるように云うと、生徒のひとりが手をあげた。


「あ、あの、威力以外はどうなんでしょう?」

「それは見てのお楽しみね。まぁ、基本的に【魔法弾】のままだから。別に氷の塊が飛んできたりしないから安心しなさい」


 そう云って、安心させるように微笑んでみる。


 ……あ、あれ? なんか思ってたのと反応が違う。怖がられてはいないけど、なんだこれ? まぁ、大丈夫……よね?


「あ、そうそう、アマーリエ嬢。そのペンダントはあげるからそのまま持ってなさい。あたしに打撃を与えた報酬よ。フィリナ嬢にもあげたけれど、そっちは模範解答をだした報酬ね。微妙な品だけど、貰ってちょうだい。あ、売っ払ったりはしないでね。あたしの作ったものを無闇に市場に出すと、なんか混乱を引き起こすみたいだから。

 あ、ほかの三人は残念ながら、答えを聞いていたのに実践できなかったから、ご褒美はなしね。

 それじゃチーム戦の諸君。頑張ってね」


 あたしはそれだけ云って開始位置へと戻る。


 生徒たちが相談をしはじめるのが聞こえる。


「え、えっと、防御は任せる、ね?」

「ちょ、待って、止められるの!?」

「【魔法弾】しか使わないって云ってたから、なんとか……」

「一度に一万発とか撃たれたら止められないわよ!!」

「それじゃ訓練にならないから、さすがにないと思いますわ」

「誰か魔法反射障壁とか張れないの?」

「ちょ、なにそれ、その魔法知らない」

「まって、反射って、それ妹様に使われたら、私たちなにもできないわよ」

「……え、もしかして私たち、雑魚過ぎ?」



 ★ ☆ ★



 ■side:Carol


「あらあら、大変なことになってるわねぇ」


 ラナ様が楽しそうに笑ってる。


「まぁ、真っ向から向かっても無意味だって思い知らされましたからね。

 キャロルは――って、聞くまでもないわね」

「ちょ、どういうことよ、モナ」


 ちょっとムッとしてモナを睨んだ。


「だってあんた『まっすぐ行って、ぶん殴る』でしょ?」


 なにをいまさら分かり切ったことを、とでも云わんばかりの顔でモナが見つめてくる。


 いや、確かにそうだけど、そうなんだけどさぁ。


「キャロルさんはこの形式、ミディンさんが攻撃をする形式の模擬戦を行ったことは?」


 ラナ様が訊いてきた。


「一度あります。攻撃を加えるより、とにかく魔法を察知することを心掛けないと、あっという間にボコボコにされて終わります」


 私は答えた。


 うん、訳が分からないうちに、【魔法弾】をポコスカ喰らって負けたんだよね。基本的にお師匠さまは徹底した護身と、簡単な搦め手の攻撃方法しか指南してくれない。というか、私が雑魚過ぎて、まだそれしか教えてもらえない、というのが正しいんだろうけど。


 多分お師匠さまの目指す魔術師の戦闘方法の手本が、恐らくはソーマ先生だからなぁ。アシュリーとジゼルの訓練で、ソーマ先生の戦い方はみてるけど、あれ、どう見ても軽戦士、それも暗殺者寄りの戦い方で、魔術師には思えなかったんだけど。


 いわゆる、戦う魔術師の形が私はいまだに掴めていない。


 この模擬戦で、その片鱗でも見せてもらえるといいんだけど……。


 ちらっと、かつての同級生たちに視線を向ける。

 いまだに戦闘方針が決まらないようだ。


「これは、望み薄かな……」


 つい、言葉にだしてしまった。


 それを聞いていたのか、なぜかラナ様が顔を引き攣らせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ