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学院騒動 15


 昼食。私たちは食堂ではなく、会議室に移動しての食事となった。


 あのまま生徒たちに交じって食事となると、お師匠さまが揉みくちゃにされてそうな気がする……。


 まぁ、皇帝陛下も一緒にとなると、いろいろと問題が巻き起こり兼ねないというのもあるけど。


 さすがに本気で惚れた女の前で、別の女に手をつけるようなことはしないと思うけど。いや、それ以前にお師匠さまとの食事の方を選ぶか。


 ……そして、真っ青な顔で部屋の隅に立っているおじさん。この学院の調理担当者代表、いわば料理長だ。名前は知らない。


 皇帝陛下の突然の視察で、さらに料理を任されたことでこの有様。


 正直な感想を云おう。


 学院の食事は美味しいとは云えない。不味いわけではないけれど。とりあえず、文句をいう程ではない程度に不味くない料理。とでもいえばいいのか。


 単調で飽きる味ではあるけど。うん、無味乾燥っていうのがぴったりな表現かな。


 この原因が料理人の腕なのか、それとも材料なのかは分からないけれど。

 正直なところ、昨日食べた屋台のおじさんがくれた串焼きの方がはるかに美味しい。


 だから寮監の目を盗んで街に食べ物を買いにいったりとか、貴族の令嬢様なんかは、家からなにかしらの食料を送らせたりとかしてたんだよね。


 私も、リュリュとエルマイヤとでローテーション組んで、毎日二人一組で学院を抜け出して、屋台の肉饅頭とか買いに行ってたんだ。


 ……そういや、ソーマ先生がそれを成績に反映してたんだっけ。


 買い出しに成功したら成績に加点。失敗したら、学則違反に罰を受ける感じで。


 ふふふ、私たち三人は捕まったことは一度もなかったんだぜ。


 さて、料理長はそんな残念な代物を皇帝陛下に出したのである。青くなるのも当然だろう。


 ……ラナ様が考え込んでるのが怖いな。


「なんとも評価に困る味ねぇ。不味くないというべきか、美味しくないというべきか。よくこれで文句出ないわね。噛めば噛むほど腹が立つってどういうことなの?

 身元のしっかりとしたお嬢様方が通う皇立学院の食事としてはどうなのかな?」

 お師匠さまの容赦ない評価。


 魔法解禁に伴い、クレインズ魔法学院は設立された。その為、すくなくとも一期生は確実に国の重職に就くことがほぼ確定しているのだ。


 なにしろ、魔法に関する役職が新たにできても、人材が誰一人いないのだから。かといって、そこらからどこの馬の骨とも知れぬ魔術師を引っ張ってくるわけにもいかない。


 故に、魔術師の才能のある身元のしっかりとした者。即ち貴族の令嬢や、身元のしっかりした有力な商人の息女などから、才能のある者が集められている。


 当然、そういった身分の少女たちの日々の食事だ。粗末なものが出されることはありえないのだ。それこそ、皇室の威信に関わる。なにしろ学院は陛下の勅命により、ラナ様が設立したのだから。


 ちなみに。学生が子女ばかりなのは、『男子は騎士、女子は魔術師』みたいな風潮が、魔法解禁後できあがったから。


 多分これ、帝国唯一の魔術師が、ラナ様、即ち女性だったことに起因してるんじゃないかなぁ。そのあおりを受けて、アシュリーとジゼルが騎士になる道が閉ざされちゃったんだけど。騎士の女性枠がなくなっちゃったから。


「ラナ、さすがにこれはどうなんだ? いつからここは場末の安宿になった?」


 うわぁ、皇帝陛下の声が平坦になってる。


「予算は十二分に出しているハズです。どういうことなのかしら?」


 ラナ様が料理長を睨んだ。


 あ、料理長が土下座した。


「申し訳ありません。予算が、予算がどうしても足りず、質の悪い食材しか仕入れることができず、それでも食材が十分に揃えられないのです」


 は?


 あ、ラナ様の口元が引き攣れてる。


「……予算関連の書類や仕入れの伝票があるわよね? もってらっしゃい」




 届けられた書類を確かめた後、ラナ様が疲れ果てたようにため息をついた。


「陛下。今朝がた更迭した不埒物をどう処分しましょうか。かなりの額を横領していたと思われます」

「……ほう、我が国の宝となる生徒たちの食費を盗んだのか」


 皇帝陛下の抑揚のない声に、私はたじろいだ。あ、料理長が失神した。


「蛙にします? 蛙にしましょう! なんならやり方をお教えしますよ」

「いや、お師匠さま、止めましょうよ。それにどうして蛙にそこまでこだわってるんですか?」


 ついに私はお師匠さまにその妙なこだわりについて訊ねた。


「……南の【竜の楽園】には蛙人っていう種族がいてね。階級制度があって、上から貴族、軍属、食料となってるのよ」


 ……は? 急になんの話ですか? って、食料!?


「な、なんですか食料って!?」

「なんかね、彼らは自らが認めた者に『食べられることこそが最高の幸せにして誉れ』っていう連中でね。貴族や軍属は彼らを護るためだけに存在している階級で、彼らにとっては、まぁ、外れの階級ね。食料の連中は、大抵は竜のご飯になってるみたいだけど」

「は、はぁ」

「だからね、彼らに気に入られたりすると大変なのよ。『おぉ、あなたこそ私の求めていたお方。さぁ、どうぞ私をお食べください』みたいなことになってね」

「あ、あの、お師匠さま? どんどん目が死んでいってるんですけど」

「ふふふ、あたしはもう二度と面白半分に【竜の楽園】なんかに行ったりしないわ」


 た、食べたんですか? お師匠さま、食べたんですか?


「朝ね、食事を出されたのよ。それでね、その後、前日そんなことを云ってた蛙さんの姿がどこにも見えないのよ。島を離れるまで一度も、さっぱり、欠片もなく」


 ……うわぁ。


「困ったことに、あそこの肉料理って、すっごい美味しいのよね。……ははは。おみやげにお肉までもらっちゃったのよ。あははは。捨てる訳にはいかないし、蛙さんのことを考えると、供養のためにの食べなくちゃいけないし。えぇ、食べたわよ。美味しかったわよ。後にも先にもボロボロ泣きながら食べたのはあの時ぐらいよ。なんていうか……こう……もの凄くやるせなくて……」


 あああ、ダメだ。このままじゃまた今朝みたいなことになる。


「お、お師匠さま、それと、蛙に変身させるのとはどういう関連が」


 危険を感じ、キャロルは慌てて話題を肝心なところへと戻した。


「だからね、蛙人に変身させれば、他人に尽くす気持ちが生まれるんじゃないかなって。外見に精神は引っ張られるものだからさ。さすがに『私を殺して食べて』っていうのはアレだけど」

「さすがにそれはこちらでも対処に困ります」


 ラナが顔を顰めた。


「あー、それもそうですね。頭も蛙になりますし。私たちじゃ誰が誰だか識別できませんね」


 違います、お師匠さま。そうじゃありません。そこじゃないです。


「でも面白そうなので、教えてもらえます?」

「いいですよ。幻惑術と位相術のどっちにします? 幻惑術の方は、昨日のアレです」


 あ、ふたりで相談が始まった。


 だ、大丈夫なのかなぁ。


 いや、陛下、助けを求めるような目で見ないでくださいよ。


 確かにお仕置にもってこいの呪いですけど。明日は我が身なのかもしれませんけど。


 私にはどうにもできませんよ。


 私、たかだが十三歳の小娘ですからね。


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