序
「あのなぁ。なにもこの忙しい時にそんなもん見つけてくることないだろ」
青年は困ったように顔をしかめた。黒髪痩躯の青年。全身黒づくめで、頭には中途半端にターバン? を巻いている。そのため見様によっては包帯を巻いているようにも見える。そして右目には黒い革製の眼帯。
どこからどう見ても悪党然としたチンピラである。
「問題でしたか?」
葡萄色の外套に身を包んだ小柄な少女が、目の前でだらしなく椅子に座っている青年に答えた。
白い顔、白い髪、金色の瞳をした少女は、瞬きもせずに青年を見つめていた。
「問題っつーか、人手が無いんだよ。俺もいまはここを離れられないしな。お前に調べて来いって云っても無理だろ?」
「はい。私ではさっぱりです」
悪びれもせず、少女は無表情のまま答えた。
「調査なんざ、お前さんの専門外だしなぁ。……しょうがね、連中の誰かに調べに行かせるか。場所も場所だし、実戦のひとつふたつあるだろ」
そんな無茶なことを云いだした青年に、少女が珍しく苦笑いを浮かべた。彼女、ギャロットが感情を表に出すことは滅多にないのだ。そもそも実戦などピクニック気分でやるものではない。下手をすると命を落とす。
「ガオ!」
「はい、ここに」
ギャロットのすぐ隣に、突如として少年が現れた。褐色の肌に黒髪。そして少女と同じように金色の目。だがなによりも目立つのは、耳のやや後ろあたりから生えている一対の角。後方に向け、天を目指すように伸びている。
「連中はいまどうしてる?」
「はい。シビル様は例の本の修復中。
リュリュ様はマスターの出された課題に掛かり切り。
エリザベスさんとエルマイヤさんは、サラサさんに同行。エルゴ湿原に現れた暴魔退治に強制的に連れていかれました。
アシュリーさんとジゼルさんは塔にて格位試験中。明後日終了予定です。
キャロルさんはミディン様の下で、傀儡操作の訓練中です」
「なんだよ。調査にいけそうなのはミディンだけかよ。つか、サラサはいったい何やってんだ。誰かついて行ってるか?」
いうなり青年は呆れたようにため息をついた。
「レーダが影から護衛しています」
「レーダって、過保護すぎだろ。一度全員の配置を見直さないとダメだな。まぁいいや。それじゃガオ、ミディンとキャロルを呼んできてくれ。仕事だ」
「かしこまりました」
いうやガオは姿を消した。次いでギャロットも一礼すると姿を消した。
「さてと、あいつらに持たせるものの準備でもすっかね」
青年は立ち上がると、乱雑に各種薬品が並べられた棚へと向かった。