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RF  作者: 都樹乃 滴來
3/3

華英

一華の先輩から連絡が来て、裕一さんと一緒に病院へ向かったことは覚えている。けれど、お医者さまが扉を開けてからの記憶が曖昧だ。


寝室から起き出し、台所へ向かう。ホットコーヒーにたっぷりミルクと蜂蜜を加えたものをすする。じんわりとした暖かさが身体の中に広がっていくのが感じられる。


少し落ち着いて、頭もはっきりとしてきた。そうだわ。一華はもう・・・・・・。


もう一口コーヒーを飲み込む。先ほどは身体の中に染み渡っていた暖かさが、今は心にポッカリと空いた穴を強調させているように思える。



あれからのあの人はもう、見ていられないくらいに衰弱していた。一華を見送ってからは一層。


部屋を見回す。けれど、あんなに家を埋めつくしていたはずのバイク関連の本やらフィギュアやらは、もうこの家にはない。


一華の葬儀の後、あの人が自らの手で全て処分してしまったのだ。まるで、あの子の存在を消すかのように。



裕一さんが起きてきた。あんなに楽しかった家族揃っての食事も今や葬式の時のように静まり返り、誰も口を開こうとはしない。


私が時々話しかけても、あの人は「ああ」とか「うん」とかそんな淡白な回答ばかり。今日こそはあの話をしてみようかしら。いいえ、しなければならない。いつまでも目を背けていては何も進展しないわ。


「おはようございます」

「・・・・・・早いな」

「すぐに用意しますので、ちょっと待っていて下さいね」

「ん」


それだけ言うと彼は座って新聞を読み始めた。

朝食の用意ができ、茶の間へ向かうとまたいつもの“静かな”朝食が始まった。


しかし、私は今日だけは引くわけにはいかない。そう決意し、私は言葉を発した。2人の間で暗黙のルールとなっていたあの言葉を。


「今のあなたは、正直見ていられないわ。『一華』もそう思っていると思うの」

「その名前を出すんじゃない!」


裕一さんはそう怒鳴って自分の部屋に篭ってしまった。お昼になっても、彼は食事も食べずに部屋に篭もり続けた・・・・・・。


時計が14時を指した頃、私はもう一度彼の部屋の前へ向かった。


「朝は悪かったわ。私も反省しているの。それで、行きたいところがあるのだけれど少し付き合ってはもらえないかしら?」

「・・・・・・」

「私に行ける距離ではないのよ」

「・・・・・・仕方が無いな。準備しろ。」

そう言って彼は自分の準備を始めた。



しばらく車で走り、着いたのはショッピングモール。そう、ここに私の“行きたいお店”があるのだ。


「・・・・・・私はここで待っているから、買ってきなさい」

「いえ、私一人では決められませんから、一緒に来てくださらない?」


これからすることを裕一さんに悟られてはいけない。絶対に・・・・・・


エレベーターに乗り、しばらくまっすぐ進んでから左に曲がる。するとその角にあるのが私のお目当てのお店、『バイクショップ・スティープロード』


「な・・・・・・なんの用でここに・・・・・・」

「分かっているんでしょう?あなたは一華の死から逃げてばかり。いい加減決着をつけましょう」


ここは、彼の行きつけのバイクショップである。デートの度にここに行くことを提案されたが、お金が無いでしょうと言うと不満そうな顔をして映画館にでも行くかと言われる。これが日常だった。


一華のバイクを買ったのも、あの人のバイクを買ったのも、このお店だ。


「ねえ、一華が死んでからのあなたはまるで死骸みたいよ。生きがいのバイクも最愛の娘も失って、あなたに何が残ると言うの?」

「うるさい・・・・・・」

「もう一度、バイクを始めましょう? バイクを語るときのあなたの顔はとても楽しそうだった!」

「お前に何がわかると言うんだ!」

「何もわからないわ! でも、好きな人の笑顔が見たいと願うくらい良いじゃない・・・・・・。手塩にかけた娘も最愛の夫も失ったら・・・・・・私・・・・・・」

「・・・・・・一人で抱え込ませてすまなかった。」


そう言って、彼は店へ入っていった。そして、手にはバイクの模型が乗っていた。RF-02型の。


他の人から見たらこれは言葉足らずに見えるかもしれない。だけど、私にはこれで充分だった。



彼は言葉が少ない。だけど、彼のこのバイクを語るときの笑顔が私は大好きだ。今までも、これからもずっと。

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