暗黒闇鍋昔話 桃太郎セカンド
どんぶらこ。どんぶらこ。川を流れる大きな桃を拾い上げ、おばあさんは家路に就きました。それ故おばあさんは気づかなかったのです。その桃の遙か上流から、もっと大きくて立派な桃が流れてきていたことに…………
「っかしいな。まだ着かないのか……?」
びちゃっとした不快な感触に耐えながら、桃太郎は現着時刻になっても一向に桃が拾い上げられないことに首を傾げつつ、一人ブツブツと文句を言っておりました。
そう、彼もまた桃太郎。鬼の勢力が思ったよりも強めだったため、神様によって様々な能力を付与された、いわば桃太郎2ndエディションでありました。その圧倒的な性能で鬼を蹴散らすことを期待されていた桃太郎でしたが、初期バージョンを回収し忘れるという神様のうっかりミスにより、拾い上げる者のいなくなった巨大な桃は、そのまま川を下っていきます。
「ポイントAを出たのが三日前だから、もうとっくにポイントBに着いてるはずなのに、何のリアクションも無いってどういうことだよ? これポイントCまで行っちゃうんじゃないか? あそこの鬼は退治したら駄目なんだろ? どうなってんだよ……」
どれだけ悪態をつこうとも、その声が外に漏れることはありません。何せ神の力で作られた桃です。プライバシーの保護はバッチリなのです。
「あー、もう。こんなことなら最初から知能が高いとか辞めて貰えば良かったよ。赤ん坊なら流されるままで……それはそれで怖いか。てか何か腹減ってきたし……これ内側から桃食べちゃってもいいのかな? 他に食べる物ないし……まあいいか」
桃太郎は赤ん坊の小さな手で柔らかい桃の実をわっしと掴むと、そのまま豪快にかぶりつきました。途端に口いっぱいに甘い味が広がって、桃太郎のプルンプルンの頬が幸せに緩みます。
「甘っ! そして美味っ! 凄いなこの桃。ひょっとしてあれか? 猿のおっさんがめっちゃ美味かったってウザいくらいに自慢してた蟠桃って奴なのか?」
桃太郎は見た目こそ赤ん坊でしたが、パワーアップの関係上中身は中二くらいの存在でした。教育のため普通に天界で暮らしておりましたし、そこでの交流もそれなりにあったのです。
「あのおっさん凄かったよな。雲で飛んでたし、何か手から光線みたいなの出してたし。あれ教えてくれたら鬼なんて一発なのに、著作権がどうとかいって教えてくれなかったんだよな。これだから年寄りは……ブツブツ」
悪態をつきながら、桃太郎は躊躇うこと無くわっしわっしと桃を掴んでは食べていきます。そうしてある程度食べたところで……桃太郎の体に、必然の脅威が襲いかかってきました。
「……ヤバい。漏れそう」
食べれば出るのです。神の力で守られているため、飲まず食わずでも生きられるようにはなっておりましたが、だからといって食べても出ないわけではなかったのです。まだ桃から生まれてもいないのに人生最大のピンチを迎え、桃太郎の顔が白桃の如く真っ白になります。
「ここでする? それはねーよ。赤ん坊だから許されるとかじゃなくて、こんな密閉された空間で出すとか地獄だろ。なら外に出る? 赤ん坊の力で桃を割るなんて出来ないし……」
腹を押さえながら必死に頭を巡らせますが、良い考えは浮かびません。
「考えろ、考えろ。考えるのを辞めたその時が、俺の尻からアトミックボムがこぼれ落ちる時だ……うぅ、出そう。違う、出るしか無い。でも割れないし……そうか!」
歪にへこんだ桃の内側を見て、桃太郎の頭に遂に妙案が閃きます。
「可食部を全部食べれば、外側は薄皮一枚。そのくらいなら赤ん坊の力でも破れるはず……よし…………」
悲壮な覚悟と共に、桃太郎はその手で桃の実をわっしと掴み、口の中へと押し込みます。それは変わらず天上の美味でしたが、今の桃太郎にとっては破滅へのカウントダウンに他なりません。
かといってつかみ取った実を捨てるという選択肢はありません。彼は日本人として「もったいない」の精神をリスペクトしていたのです。食べ物を無駄にするなんてことは出来ません。どこぞのテレビ局とは違うのです。
そして遂に、桃太郎の努力は実を結びました。遂にその手が表面の薄皮に届いたのです。
「よし、遂に……ん?」
薄皮の向こうには太陽の光が透けて見えていましたが、そこに何か動くものが見えました。パワーアップされた桃太郎の動体視力によってそれが飛来する斧だとわかり……
「ぴょっ!?」
クルクル回りながら飛んできた斧が、咄嗟に桃の右半分に避難した桃太郎の体を掠めるようにして桃を両断していきました。あまりの恐怖に色々と取り返しの付かないことになり、バランスを失った半分の桃と一緒にその身が川へと沈んでいき……
「貴方の落としたのは、この中身を食べ尽くされた桃ですか? それともお漏らしをした赤子入りの桃ですか?」
「いや、俺が落としたのは斧なんですけど……」
「正直な貴方には、この両方を差し上げましょう」
「いらないですよ!? そんな皮だけの桃とか糞まみれの赤ん坊なんて貰ってどうしろって言うんですか! 普通に斧を返してもらえれば……」
「それは残念です。ではこちらの斧はボッシュートということで」
「だから斧はいりますって! 意外と高いんですよ斧! 返して下さいよ!」
「ではこちらの赤子を」
「だからそっちはいらないですって! 普通に両親のところに返してあげればいいじゃないですか! それか女神様が育てるとか!」
「……未婚の母として初めて抱く赤子が糞尿まみれというのはちょっと……」
「知らないですよ! むしろそれを母の愛で包み込んであげましょうよ!」
「では、貴方が認知してくれるということで……」
「俺が認知するのはその鉄の斧だーけーだーよー!!!」
などと、桃太郎のあずかり知らないところですったもんだがあった結果、桃太郎の入った半分の桃はそのまま川に戻され、流されていきました。その体がまあまあ綺麗に洗われていたのは、きこりの最後の良心の成せる技でした。女神は川が汚れると終始嫌そうな顔をしていたうえに、水流を操って桃太郎ごと違う川の上流へとそれらを押し流してしまいました。
そうして流れ着いたのは、京の都。半分になった桃の揺りかごにユラユラ揺られて流れる桃太郎を、とあるお屋敷の娘が見つけ……
「まあ! 何て可愛らしい……赤ちゃん? あれ?」
一寸なんて大きさの人間がいるよりはよほど現実的なのに、娘は自分の中に感じる一抹の違和感を拭い去れません。とは言えこんな所に赤子を放置するわけにもいかず、大事に抱いて家に連れ帰ることにしました。その際に父親に不貞を疑われましたが、「そんな簡単に赤子が生まれるわけないだろ! 女舐めんな!」と母にフルボッコにされる父の姿にもののあはれを感じ、最近構想を練っていた物語への強いインスピレーションをもたらすきっかけとなってくれた赤子に大層感謝した結果、その赤子を家で育てることにしました。赤子は元気にすくすくと大きくなり、それから十余年。立派に成長した桃太郎は、畳の上に胡座をかいて首を傾げておりました。
「……おかしい」
「あら、桃太郎。どうしたの?」
「ああ、母さん。いや、何かこう……違うというか」
「違う? 何が?」
「うーん。具体的に何をどうとは言えないんだけど、どうもここは俺の居る場所じゃないって言うか……って、母さん!?」
桃太郎の前で、妙齢の女性となったかつての娘がボロボロと涙をこぼします。震える手で目と口を押さえても、その嗚咽を留めることなどできません。
「私は確かに桃太郎の本当の母親ではないけれど、でも精一杯愛情を注いで育てたつもりです。なのに、やっぱり桃太郎は私のことを……」
「違う! 違うって! 全然そういうのじゃないから! 俺母さんのこと大好きだし、母さんに育ててもらってマジラッキーって思ってるし! どうせ胸に抱かれるならばあちゃんのシナシナおっぱいより母さんみたいな柔らかい胸の方が断然いいし!」
「なら、何故そんなことを言うの?」
「それは……何か、鬼を倒さないといけないような気がして……」
桃太郎の記憶は、あの時の恐怖と屈辱により消えておりました。ただ漫然と使命感だけが残り、それが日を追うごとに募っていったのです。
「鬼? 鬼なら倒してくれたでしょう? あの時の桃太郎は格好良かったわよ」
「そ、そうかな? へへ……」
確かにかつて、桃太郎は母を攫おうとした鬼を倒したことがありました。元々対軍戦闘を想定されたスペックを有している桃太郎にとって、単独の鬼など物の数ではありません。育ての母の実家は裕福だったためしっかりとした食事が与えられていたこともあり、鬼の一匹程度ならワンパンでした。
「って、そうじゃなくて! 何かこう、旅とかして仲間を集めて、海に乗り出す感じだった気がするんだよね。で、悪い奴をやっつけて金銀財宝を……」
「桃太郎、貴方海賊にでもなりたいの? 駄目よそんなの。確かに海の果てにはひとつなぎの――」
「駄目だ母さん。それ以上はいけない」
悪鬼羅刹も取るに足らぬと豪語して憚らない桃太郎ではありましたが、決して超えてはいけないラインというのは理解していました。ウザい猿のおっさん曰く「仏が一度でぶち切れるレベル」という奴です。
「まあとにかく、何か旅に出たい気分なんだよ。俺もそろそろいい年だし、仕事探すのもありなんだけど、その前にやっておきたいっていうかさ」
「そうですか。確かに若いときはちょっとくらいヤンチャしたくなるものですよね。いいですよ。この家はお母さんが書いた物語が馬鹿売れしてお金が山のようにあるので、好きなようにしていらっしゃい。でも最後には必ず帰ってくるんですよ?」
「母さん……はい!」
こうして偉大な母の愛に見送られて、桃太郎は旅立つことになりました。張り切った母親が、桃太郎のために様々な準備をします。
「……母さん。これは流石にちょっと恥ずかしいっていうか……」
「何を言うんですか。とっても格好いいですよ?」
「そうかなぁ……」
陣羽織はまあいい。腰の刀も立派なものなので何の不満も無い。ただその背中に立てられた日本一と書かれた旗だけは、流石に目立って仕方が無い。
「やっぱりこの旗だけは――」
「駄目です! それを付けていれば、いつ何処で桃太郎が活躍してもすぐに話題になるでしょう? 直接会えなくても息子を感じたいと思う母の気持ちを、どうか理解してくれませんか?」
「母さん……わかったよ。俺このまま旅立つね」
「ありがとう桃太郎。それじゃ、後はこれを」
そう言って、母は桃太郎に小さな包みを手渡します。
「母さん、これは……!?」
「お弁当のおにぎりです」
そうして今度こそ、桃太郎は旅立ちました。無論おにぎりはその日の昼に食べきりました。せっかくの母の心づくしを腐らせるようなことを、桃太郎がするわけが無いのです。食事を済ませた桃太郎は、そのまま真っ直ぐ道を進み……
「わーん! わーん!」
「……何だこりゃ?」
桃太郎の目の前にあったのは、漆塗りの小さなお椀でした。蓋を開けて中を見てみれば、あり得ないほど小さな人間が膝を抱えて泣いています。
「…………」
桃太郎はそっとお椀の蓋を戻し、見なかったことにしました。きっと疲れているのです。そのままこっそり立ち去ろうとして……
「そぉい!」
「うわっ!?」
一寸くらいの大きさのそいつが、突然桃太郎に斬りかかってきました。
「えっ!? 何!? どういうこと!?」
「お前のせいで! お前のせいで!」
「は? 何が俺のせいなんだよ? ちょっと待てって!」
「うるさい! 黙れ! 黙ってボクを飲み込め!」
「嫌だよ!?」
持ち前の反射神経と動体視力を駆使して、無理矢理口に飛び込んで来ようとする小人を、桃太郎は素早くつかみ取りました。「いっそ殺せ」と喚く小人を桃太郎は根気強くなだめ、小一時間かけてその愚痴を聞いてやります。
「なるほど。苦労したんだなぁ」
「そうだよ……こんな小さい体じゃ出来ることなんてたかが知れてるし、鬼退治みたいな一発で評価があがる業績でもなかったら、まともな暮らしなんて……」
「あー、じゃあ俺と一緒に来るか? 丁度何か鬼とか退治したいなーって気分で旅してるところだし」
「……いいの?」
「旅は道連れ世は情け、だろ?」
桃太郎の差し出した右手の人差し指に、小人の手が恐る恐る触れてきます。
「宜しくな、えーっと……そう言えば自己紹介してなかったな。俺は桃太郎。お前は?」
「ボクは……一寸……」
「イッスンな。よろし――」
「片仮名は駄目! 一寸! 一寸だからね!」
「お、おぅ。一寸だな。じゃ、改めて宜しく!」
「宜しく、桃太郎」
こうして桃太郎は旅の仲間を加え、再び街道に沿って歩き始めました。すると遠くから、ドスンドスンと大きな地響きが轟き、土煙が上がっているのが見えてきます。一体何事かと慎重に近づいていくと、そこには――
「うわぁ……」
頭に金色の輪っかを嵌めた猿が、人の顔のような甲羅を背負った馬鹿でかい蟹に柿の実を全力投球しておりました。
「ニクイ。ニクイ。ゲンジガニクイ……」
「ええい煩わしい! 今都で大ヒットしておる話は、その源氏とは何の関係もないわ! せめて読んでから黄泉還れこの阿呆妖めが!」
猿の投げた柿が着弾する度、地面に大穴を開けながら蟹を吹き飛ばしていきます。特別製の柿は蟹に対する特攻が付与されているので、効果は抜群です。
とは言え、蟹は大地の染みから無数に湧き出てきます。その沸きが静まる気配はまるで無く、やがて猿が座っていた木になっていた柿は、全て投げ尽くされてしまいました。
「チッ、弾切れか。こうなれば仕方が無い。貴様にも多少の被害は覚悟して貰うからな! かーめー……」
「そぉい!」
「アタッ!?」
間一髪。桃太郎が投擲した一寸入りのお椀が猿の頭にクリティカルヒットし、辛くも大惨事は免れました。
「何じゃ一体!? って、おお、お前ひょっとして桃太郎か?」
「あれ? 何だおっさん、俺のこと知ってるのか?」
「知ってるかじゃと? 何を言って……ああ、そういうことか。全く難儀なことばかり続くのう」
一人で納得している猿に、桃太郎はオコです。
「何だよ、俺のこと何か知ってるのか!? 俺昔の記憶がなくて……いや、三歳くらいからは普通にあるけど……あれ?」
考えてみれば、赤ん坊の時の記憶が無いなんて当たり前です。物心が付いた時には今の母に育てられていましたので、川に捨てられた自分を拾って育ててくれた母親との生活には何の違和感もありません。
「おっかしいな。何か忘れてる気がしたんだけど……えー?」
「あーええからええから。余計なことは考えるな。鬼退治に行くんじゃろ? 儂も付き合ってやるから、サクッと退治して帰って平和に暮らせばいいわい」
「何だ、おっさんも付き合ってくれるのか? でも、あの蟹は?」
「問題ないわ。ほれ」
猿が自らの毛を数本毟ると、ふうっと息を吹きかけます。するとどうしたことか、猿とそっくりな猿が幾人もその場に現れました。
「じゃ、儂は桃太郎と行ってくるから、後は頼むぞ」
「任せろ。適当に茹でて喰っておくわい」
「ウラミハラサデオクベキカー」
「じゃ、行くか」
「お、おぅ……? ま、まあいいか」
色々と腑に落ちない者を感じつつ、桃太郎は更に新たな仲間を加え、三度街道を歩き始めました。そうして森の側に差し掛かったところで、森の方からケーン、ケーンという音が聞こえてきました。
「お、来たようじゃな。それじゃちょっくら回収してくるから、お前達はここで待っておれ」
「は? 回収? どういうことだよ!?」
桃太郎の疑問に答えること無く、猿が凄まじい速さで森へと駆けていき、そして次の瞬間には、その手に獲物を下げて戻ってきました。
「なにこれ、どういうこと……?」
猿が手にしていたのは、その手に斧を持つくたびれたおっさんでした。
「あー、スマン。あれじゃな。木を切る『コーン』という音が、いい具合に反響して『ケーン』と聞こえたわけじゃな」
「いや、意味がわからん。それだとなんでそのおっさんを連れてくる必要があったんだ?」
「そこはまあ、お約束と言う奴じゃ。お千代の嬢ちゃんを連れてくる方じゃと、流石に話が重すぎるからのぅ」
メタな視点で語る猿に、桃太郎達はただ首を傾げます。そんな彼らの中でもっとも腑に落ちない顔をしているのは、当然の如く突然猿に拉致された木こりの男でした。
「俺はしがない木こりです。何も特別なことはありません。ヤンデレな女神に知り合いなんていません。どうか俺をそっとしておいてください……」
「ね、ねえお猿さん。この人どうしたの?」
「その辺はまあ、大人の事情という奴じゃな。お前さんみたいな小さな子が知るべき話ではないわい」
「ボク体は小さくても大人だよ!?」
「いや、一寸が大人か子供かはこの際いいとして、その人どうするんだ? てかそもそも何で連れてきたんだ?」
「ん? だって鬼ヶ島に行くんじゃろ? あそこは四人揃わんと入れんぞ。三人で行ったりしたら、誰かが一人でやってくるまで永遠に参加者募集中になってしまうぞ」
「そんな仕組みなの!?」
鬼のいる場所が鬼ヶ島という安直なネーミングセンスにも驚きましたが、そこのマッチングサーバーが貧弱であることにもより一層驚きました。お金があるのにユーザーの望みを無視して好き勝手するような運営がはびこっているとは、やはり鬼は滅ぼさねばならない害悪で間違いないようです。
「あれ? でもそれなら猿がさっきみたいに分身したらいいんじゃね?」
「馬鹿言え。複アカなんぞやったら一発でBANじゃわい」
猿の重みのある言葉は、桃太郎の心胆を寒からしめました。もし自分が分身出来るようになっても、複アカからブクマと評価の水増しだけはやるまいと固く決意する桃太郎の様子を見て、猿が満足そうに頷きます。
「ということで、行くぞ!」
「えっ!? あの、俺も行くの確定なんですか?」
「何じゃ、来ないのか? 儂らと来れば女神に足跡を追われることもないし、山分けの財宝があれば都で新たなスタートを切れると思うがのぅ?」
「行きます! 是非行きます! むしろお供させて下さい!」
土下座して足を舐めそうな勢いの木こりに若干引きながら、桃太郎は新たに加わった仲間と共に四度道を進み始めました。程なくして海にぶつかりましたが、猿が出した金色の雲で海の上でもスイスイです。オリジナル仕様なので、邪な心があると乗れないということもありません。あっという間に鬼ヶ島へと辿り着いた一行を待ち受けていたのは、鬼達の盛大な歓迎でした。
「いらっしゃいませ! 桃太郎パークへようこそ!」
ボンキュッボンのナイスバディな鬼のお姉さんが出迎えてくれたそこは、キンキンキラキラした豪華な建物の並び立つ巨大な都でした。虎縞のビキニが年頃の桃太郎には眩しくてたまりません。
「な、なあ猿。ここ鬼ヶ島じゃないのか?」
「いや、そのはずじゃが……ああ、そういうことか」
またしても猿が一人だけしたり顔で頷き、桃太郎は激オコです。そんな様子を見て、受付の人っぽい鬼娘が桃太郎に一枚の紙を渡しました。
「何これ? 桃太郎パークの成り立ち……?」
そこには、鬼のはびこる鬼ヶ島に「桃太郎」と名乗る人物が犬・猿・雉のお供を引き連れて攻め込んできて、力尽くで鬼を屈服させたという歴史が書いてありました。
見事に鬼を支配した桃太郎は、「土地活用」とか「税金対策」とか色々な事を鬼に吹き込み、島にあった莫大な金銀財宝を使って鬼ヶ島を一大テーマパークに改築しました。それによってこの「桃太郎パーク」は、今では年間来場者数が五百万人を突破する、老若男女に愛される世界最大の歓楽地として認知されるようになったのです。
「えー……っていうか、俺以外にも桃太郎っているの? 桃から人が生まれるって相当レアっていうか、SSRも真っ青の輩出率だと思うんだけど?」
「そう言えば、お前さんの前にもう一人桃太郎がいたのう。それを改良してお前さんを作ったと言っておったが……どうやら回収し忘れたようじゃな」
桃太郎の脳裏にてへぺろをする白いヒゲの爺さんの姿がありありと浮かんできて、今まさに激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームへと辿り着こうとしましたが、受付のお姉さんに「つまり社長の弟さんってことですよね? ならたっぷりサービスしちゃいますよ」と胸を押しつけられたことで全てがどうでも良くなりました。
結局桃太郎一行はひとしきり桃太郎パークで遊び倒し、お土産に虎縞パンツやら金棒のオモチャやらを購入してご機嫌で帰宅しました。途中で別れた猿の「財宝は駄目じゃったが別に無くても困らんじゃろ」の言葉通り、母の物語が爆売れしているため家は極めて裕福なので問題にあがることすらなく、一寸や木こりは客人として丁寧に歓待されました。
その後は母に「子供が出来た」と告白され、しかも父親が一寸だと聞かされた桃太郎がぶち切れて、今までほとんど使い道の無かった超絶パワーを発揮した余波で天岩戸を壊してしまい真っ白な犬にひたすら鼻を舐められるという何だか良くわからない罰を喰らったり、遂に見つかった木こりが女神に川に引きずり込まれ、代わりにやたらイケメンになった綺麗な木こりを返却されたりと様々な騒動があるのですが、それはまた別のお話……