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序章

初投稿になります。

おかげで短編のさじ加減が分からず、全三部になりました。

誤字脱字もあるかも……

そんな作品ですが、気楽に読んでいただけると幸いです。



「お前は俺よりも優れた魔法使いになる。だから、自分が信じる道を歩み続けろ」


 敬愛する兄の言葉を励みに私は魔法使いを志している……のだが、最近どうもその価値観が崩壊しつつある気がする。

 魔法使いとは知識の探求者にして、神秘の体現者であると誰かは言う。

 だとするならば、私の両親はその知識の探求者にして、神秘の体現者に当たるのだが、食事中にさえその知識や神秘とやらが爆発することが魔法使いだというなら、私は魔法使いなんてやめてやる。


 机を囲み食事に勤しむ、一人娘の私と父と母の居るいつもの食卓。

 兄とは別居中で、この3人での食事となるのだが……


「――そうだ。お母さん、今日はとびきりの獲物が捕れたよ」


 父は木で作られた格子状の箱を、食事の並ぶ机の上に置いた。

 中の物体は暗がりのせいではっきりとは見えなかったが、なにやら6本の足を持つ生き物が一匹、ガサガサと音を立てて蠢いているのは分かった。

 つまりあの籠の中には虫が入っている。


「あらやだ、お父さんたら! 虫の入った籠を食事時に出すなんて!」

 

 そうだ、母さん。もっと言ってやれ!

 いくら父が虫を使った魔法研究の第一人者だからって、食事時ぐらいはせめてその見るだけで寒気がする、足の長い生き物をさっさとしまって欲しい。

 私は虫が大がつくほど嫌いなのだ。


「早速調理しましょ!」


 どうしてそうなる!

 という私の心の声などお構いなしに、虫の薬学利用を生業としている母は、虫籠からみるにも耐えがたい大きな昆虫を取り出そうとするものだから、慌てて母を止めた。


「ちょっとまって! それを出さないで!」

「なにを言っているの? この昆虫はオオカニモドキといって、とてもフルティーな味がする高級食材なんだから! 一度は食べてみなさい!」


 しかし母はかまうことなく、虫籠から掌大はあるだろう赤い虫を捕りだした。

 虫は虫で、食われまいと母の手の中でわさわさ脚を動かし大暴れ。

 うっ……あの動きがきつい。


「これは活きがいいわね! 上物よ」

 

 嬉しそうな母を尻目に、赤い虫はその長い足を使って母の手から飛び出すと、6本の足を大に広げて私の顔にダイブした。


「#$%&&%$#$%&!!!!」


 声にならない奇声をあげて虫を払いのけ、叫んだ。 


「わ、私は……私は! 絶対に母さんや、父さんみたいにならないんだからっ!! もっと立派で硬派な、魔法使いになってやる!」

 

 そんな両親と、虫の居る生活に耐えかねて家を飛び出したのは、今より2ヶ月ほど前の話。

 今私は、かねてよりあこがれていた神秘と知識の世界、オルムニス魔法学園中等部に入学し、ここでの生活を満喫している。

 人里離れた辺境の森の中に建てられているせいか、虫は多少出てくるし、虫よりも危険な生き物がでたりでなかったりするが、日常的に虫がはい回る実家に比べればここは天国だ。

 いつか私も、兄のような立派な魔法使いになる。

 異界から魔物を呼び出し主従関係を結ぶ魔法使い、召喚師。

 数いる召喚師の中でも、兄は特別な存在だった。

 大きく逞しい3匹の銀毛の狼を使役し、戦場を縦横無尽に駆ける姿から『銀狼貴公子』と称される程の英雄なのだ。そんな兄と肩を並べられるほどの召喚師に私はなりたい。

 そのためなら、どんな努力も惜しまないし、多少の虫ぐらいは我慢しよう。


「召喚科に属する君達は、この2ヶ月、召喚の儀の準備に取り組んできたわけですが、今日実際に召喚の儀に挑んで貰います。しかし、何度もいうように呼び出した召喚獣は生涯を通してあなたのパートナーとなります。ですから半端な覚悟で挑んではなりませんよ」

 

 快晴の下、校庭に集合した召喚科の新入生を前に講師が念入りに説明する。

 召喚獣との契約は、召喚獣か召喚者のどちらかの命がつきるまで続く。この二ヶ月の間に何度も言い聞かされてきたことだが、いざその時が来ると緊張してる。


「ええでは、触媒を用意して下さい」


 触媒とは、召喚獣を異界から呼び出すのに必要となる供物である。

 その触媒を元に召喚獣を呼びだし、契約を交わすことになるのだが、触媒と召喚者の結びつきが強ければ強いほど呼び出される召喚獣は強力なものとなり、儀式の成功率があがる。

 逆に結びつきが弱ければ、召喚獣が呼び出されないどころか、呼び出した召喚獣に食い殺されることもあるとか……召喚師がエリートとされる所以だ。

 とはいえ呼び出される召喚獣の大きさ、強さは召喚者の魔力量に比例する。

 よって、まだまだ子供である私達が呼び出す魔獣は、往々にして幼い姿をしている。兄の3匹の銀狼も最初は子犬程度の大きさだった。

 あの頃は凄く可愛かった……いまは見る影もないが。


 私が用意した触媒は黒い大きな卵の化石だ。

 父が幼い頃の私にくれたお守りである。

 父の話では新種の巨大生物の化石から見つかった卵らしい。

 その生物は、頑強な甲殻に覆われた長い体躯を誇る竜のような生き物で、頭部に2本の大きな牙と角を持つのが特徴らしい。

 性格は獰猛かつ攻撃的で、竜すら食べていたとか。

 竜さえ食らう生き物が弱いはずはない、これは期待できそうだ。

 触媒との関わりもかなり深いはずだ。

 小さい頃はこの卵を温めていたらいつか孵化するのではと、真剣に暖めていた事があるほどなんだから。


「触媒の用意できた人から、先生の前に来て召喚の義を行って下さい」


 生徒が講師の前に列を作り、順番に召喚の義を初めて行く。

 

「魔獣よ来たれ! その姿を顕現し、我に従え!」

 

 とある女生徒が儀式のために描かれた魔方陣に手を翳し呪文を唱える。

 魔方陣が光ると同時に、触媒となっている虹色に輝く鳥の羽がどろりと溶けると、魔方陣の光が一層強くなり風を巻き起こす。

 女生徒は只じっとその風に耐える。

 すると、やがて魔方陣から吹き付ける風が収まると中から、1羽の彩り鮮やかな羽を持つ小鳥が飛び出し、女生徒の掌の上に収まった。

 

「か、可愛い……」

「いいな」

「うらやましい」


 賞賛の声が上がる。

 女生徒も嬉しそうに、その小鳥にそっと頬をすりつけた。

 ほほえましい光景だ。


「次はあなたですね」

 

 静寂と皆が見守るなか、いよいよ私の番となる。

 多分私の呼び出す生き物は可愛くはないだろう。

 でも強ければそれでいい。強くなければ兄のとなりには立てないのだから。

 私は強くイメージする。 

 頑強な甲殻、頭部に生えた2本の牙と角、竜さえ喰らう地上の覇者!


「魔獣よ来たれ! その姿を顕現し、我に従え!」


 魔方陣が強く光を放ち触媒となった黒い卵を溶かしていく。父との思い出の品がなくなるのは少し悲しいが、それは新しい姿を纏って、私の相棒となるのだ!

 来たれ! 来たれ! 来たれ!

 強く願った瞬間、魔法陣が猛烈な風を伴い一層光り輝く。

 その風圧に押されて多くの生徒はおろか、講師でさえ怯む。


「こ、これほどの魔獣を呼び出せる生徒がいるとは! 銀狼貴公子以来か!」


 講師の感想が聞こえ、期待はさらに膨らむ。

 私は兄に匹敵する強力な魔獣を呼び出したのだ。昂ぶらずにはいられない。

 私は絶対に怯みはしない。こんな風ごときで怯んでいるようでは、兄の横に並べないのだから。 

 風圧に押したおされては儀式は失敗する、私は死ぬ気で魔方陣に手を翳し続け、踏みとどまった。


「私に従ええええ!!」

 

 腹の底から叫んだ瞬間、魔方陣が強烈な光と衝撃波を放って消えた。

 光の消えた魔方陣の上に現れた、私の初めての召喚獣。

 大きさは私の腕ほどあるだろう。

 全身が黒い甲殻を繋ぎ合わせたような、長い体躯を持つ竜……のような生き物。

 それの赤い頭部では、大きな2本の湾曲した牙と、ピクピクと何かを探しているかのように動く2本の角……もとい触角。

 そして嫌でも目に入る脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚、脚……虫より脚が多いだなんて……ああ、血の気がひいて、意識がもうろうとしてくる。

 これどうみても、ムカデだよね。

 私は虫が嫌いで家を飛び出し、この学校に来たのに、どうしてこうなった!

 などと半ば錯乱していると、ムカデは主を見つけたのか、私へ触角を向けた。


「えっ!?」


 そして、飛んだ。

 子供が親に甘えるかのごとき勢いで、その数多の脚が、大きなムカデが私の顔にダイブした……


「ひ、酷い光景だ」

「全くもってうらやましくない!」


 この時の記憶は酷くおぼろげなのだが、私は叫び声すらあげることができぬまま硬直し、卒倒したらしい。


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