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大精霊の導き  作者: たかまち ゆう


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66話 今後の話

「ラナ……?」

「入ってもいいか?」

「いいけど……」

 僕は、ラナを部屋に招き入れた。


 彼女の用件は分かっている。

 囮としてブラッドイーグルをおびき寄せることが、不安でたまらないのだろう。

 ならば、とにかく励まして、必ず僕が守ると約束するしかない。


 本当は、そんなことを安請け合いするべきではないと思う。

 しかし、他の誰かを囮にするわけにはいかないのだ。

 どうにかして、彼女にやる気になってもらう必要がある。


 案としては、僕が赤いカツラを被る、という方法も考えられた。

 しかし、ブラッドイーグルは、自分を攻撃しようとしている者の気配に敏感らしい。

 ソフィアさんならともかく、僕は演技が上手くないので、成功する確率は低いだろう。

 誘い出すなら、むしろ怯えている者が適任であり……そういう意味でも、ラナは最適な存在だった。


「それで、一体何の用かな?」

 一応尋ねてみる。まあ、答えは分かり切っているのだが……。

「今夜、この部屋に泊めてもらっていいか?」

 予想に反して、ラナはそう言った。


「……!?」

 突然、とんでもないことを言われて、僕は慌てふためいた。

「そっ、そんな、どうして!?」


 以前、ラナが一緒に寝ることを提案したことがあった。

 しかし、あれは明らかに冗談であり、本気ではなかった。

 また、エントワリエとの往復の際に、ソフィアさんが一緒に寝ることを提案してきたことがあった。

 だが、あの時は即座に断り、彼女を部屋に入れることはなかった。

 要するに、こんなシチュエーションは初めてなのである。


「冗談に決まってるだろ? 本気にするなよ……」

「そ、そうだよね……」

「……ガッカリしたか?」

「いや、してないよ!」

「そんなに強く否定しなくてもいいだろ……」

「ごめん……。それにしても、突然どうしたのさ?」


 ラナは、フランクなようでいて、意外と男に対する警戒心が強い。

 異性が自分に対して興味を示すと、嫌がるのはそのためである。

 二人きりの状況で、あんなことを言うなんて彼女らしくないと思う。


「……前々から気になってたんだよな。ルークは、ソフィアさんやリーザのことは女として意識してるし、レイリスのことを相当気にかけてるけど……あたしのことは、特に意識してないんじゃないかって」

「それは……ラナは男っぽいところがあるし、どちらかといえば友達に近いっていうか……」

「失礼な奴だな……。あたしだけ、そんなに魅力が無いのか?」

「そんなことはないよ!」

「……本当に?」

「本当だってば!」

「……身の危険を感じるべき場面だよな、ここは?」

「それはちょっと酷いんじゃないかな!?」

「冗談だよ。旅先の宿で襲われた時も、ガルシュに捕まった時も助けてもらって、お前には感謝してるんだぜ?」

「う、うん……」

「でも、宿で襲われた時に、お前はあたしの裸を見たんだよな……」

「いや、暗かったから、そんなにはっきりとは見てないよ! それに、あの時、下着はちゃんと着けてたでしょ?」

「……しっかり見てるじゃないか」

「ごめん……」

「まあ、それについては、そんなに気にしてるわけじゃないんだけどな。感謝してるのは本当だし……宿の時は、あと少し遅かったら、本当に危ない状況だったからな……」

 あの時のことを思い出したのか、ラナは身震いして、自分の身体を抱くようにした。


「なあ、今回も、あたしのことを助けてくれるんだよな?」

「もちろんだよ」

「あたしのことを、大切だと思ってくれるか?」

「当たり前じゃないか」

「……そうか」


 ラナは、少しだけ笑顔を浮かべた。

 そして、突然意を決するような表情になり、体当たりをするような勢いで、僕の腕に抱き付いてきた。


「ちょ、ちょっと!?」

 彼女の身体の感触が腕に伝わってきて、僕は慌てる。

「……何だよ、嬉しくないのか?」

 僕の反応に不満そうな様子で、ラナは身体を押し付けるようにしてくる。

「い、いや、そういう問題じゃ……!」

「嫌じゃないなら、少しだけこのままでいてくれ」

 そう言って、ラナは目を閉じた。

「……」

 どうしていいか分からず、僕は、そのままの状態でいることにした。


 本当に、今夜のラナはおかしい。

 一体、どうしてしまったというのか?


「何だか、お前といると安心するな。……男としては、全然タイプじゃないけど」

「それはちょっと酷いと思うよ……?」

「お前だって、あたしのことを男っぽいとか言ってたじゃないか」

「それは、普段、話をしている時のことで……!」

「ふーん。じゃあ……今は、あたしのことを、女として意識してくれるか?」

「それは……当然だよ!」

「そっか。じゃあ、お前で妥協するのも、悪くないのかもしれないな」

「えっ……それって……!?」

「……ちょっと言ってみただけだからな? いきなり押し倒したりするなよ?」

「わ、分かってるよ……」

「まあ、ブラッドイーグルを始末した後なら……本気でそういうことを考えても、いいかもしれないけどな」

「……」

「今回も、これからも、頼りにしてるぜ?」

「う、うん……」

「安心したら眠くなってきたな。じゃあ、そろそろ部屋に帰るわ」

 そう言うと、ラナは僕から離れて部屋を出て行った。


 ……さっきの言葉は、本気なのだろうか?

 そんなことを考えてしまい、首を振った。


 ラナは、不安のために、精神状態が普通ではないのだ。

 後になったら、「あの時のことは忘れてくれ」などと言い出す可能性もある。

 今は、依頼に集中すべきだろう。

 これで、彼女が安心してブラッドイーグルに挑めるのであれば、良かったのだと思う。


 でも、もしラナの言葉が本心だったら……?

 そんなことを考えてしまい、その後しばらくの間、僕は眠ることが出来なかった。


 翌朝、僕達は、目的地に向かうための準備をした。


 昨夜のことが安心につながったのか、ラナは、普段通りの気楽そうな様子に戻っていた。

 注意深く見ていたが、彼女の言動には、特におかしな点は無かった。


 一方で、リーザの態度が非常に冷たい。

 何故か、僕のことを避け、口を利いてくれなかった。

 突然こんな態度になるなんて……原因は、昨夜のこと以外には考えられないだろう。

 ラナが部屋に出入りするところを、見られてしまったのかもしれない。どうやって宥めるべきだろうか……?


 レイリスは、しばらくソフィアさんの部屋に籠った後で、軒先で寝そべっていたハウザーに、何かを小声で話しかけていた。

 クレセアさんに確認したところ、レイリスは、気分が落ち込んだ時に、ハウザーの世話をしていることが多いらしい。

 人付き合いが苦手な彼女は、ハウザーと一緒にいることで癒されるのかもしれない。

 邪魔をしては悪いので、レイリスのことはそっとしておいた。


「今回の依頼には、回復者としてハウザーを連れて行くといい」

 クローディアさんが、そう提案してくれた。

「……いいんですか?」

「あまり良いとは言えないな。ハウザーは大人しいが……魔獣であることに変わりはない。万が一暴走したら、誰かを死なせる可能性だって否定はできない。そうなったら、お前達の手で始末してもらうしかないだろう」

「……」

「だが、レイリスとハウザーの関係は良好だ。ソフィアがいない環境では、ハウザーがいた方が、レイリスにとってもいいかもしれない」

「ありがとうございます。助かります」

「……だがな、ルーク。お前達のパーティーには、回復者が必要なはずだ。レイリスは嫌がるだろうが、可能なら今すぐにでも加えた方がいい」

「……分かっています」

 そうは言ったものの、アテは全く無かった。


 誰だって命は惜しい。それに、負傷すればパフォーマンスは落ちる。

 回復者は、パーティーに欠かすことのできない存在であるはずだ。


 しかし、需要の高さに対して、回復者を担える冒険者は非常に少ない。

 それは、回復者に適性を有する者が、優しくて大人しい性格であることが多いからだと言われている。

 首領のような、器用すぎて回復者もできる、などという存在は、例外中の例外なのだ。


 優しくて大人しい人間は、普通であれば冒険者を志したりはしないだろう。

 ステラもそうだが、回復者の多くは、冒険者になろうとする者か、既に冒険者である者の誘いで適性を確かめて、パーティーに加わる場合が多いのである。


 どこかに、仲間を求めている回復者が存在する可能性は低い。特に、腕の良い者であるならば。

 かといって、回復者の適性がある者を発見して、精霊を譲り渡し、パーティーに加わるように説得するのは大変である。

 僕達のパーティーが抱えている問題は数多くあるが、これも頭の痛い問題の1つだった。


 どこかに、回復者になれるような人材がいないのだろうか……?

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