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62話 姉妹

「残念だが、手の施しようが無い」

 隣町の医者は、ソフィアさんを診察した後で、首を振りながら僕達にそう言った。


 やっぱり……。

 予測できていた答えだったが、改めてそう言われるとショックだった。


「そのことを……本人には……?」

「言えるわけがないだろう。だが、あのお嬢さんは分かっているようだ」


 この医者の言う通りだろう。

 ソフィアさんは、2年前に聖女様のパーティーから抜けた時点で、既に自分の命が永くないことを知っていたはずだ。


「……あの人は……あと、どれくらい生きられるんでしょうか?」

 僕は、恐る恐る尋ねた。

「はっきりしたことは言えないが、それほど時間が残っていないことは確かだ。おそらく、あと1年程度……半年かもしれない」

「たった……それだけ!?」

「言っておくが、半年は生きられる、と保証できるわけではない。一年よりも長く生きる可能性だって、無いとは言えないが……あとは、残された時間で、なるべく思い残すことが無いようにしてあげることだ」

「……」


 あまりにもショックが大きかった。

 特に、レイリスは、真っ青な顔で震えていた。


「今日はこの町に泊まり、明日バーレに向けて出発しよう」

 診療所を出たところで、クローディアさんはそう提案した。

「……クローディアさん、バーレまで御者をお願いできませんか?」

 そう言うと、クローディアさんは苦笑した。

「最初からそのつもりだ。家のことは村長に頼んできた」

「……ありがとうございます」

「感謝してもらう必要は無い。私も、姉さんと一度会っておきたいからな」

 クローディアさんはそう言ってくれたが、とても助かることには違いなかった。


「レイリス、大丈夫?」

 2人で話せるタイミングを見つけて、僕はレイリスに話しかけた。

「……大丈夫じゃない」

 レイリスは、吐き捨てるように言った。

「……」

 いざ慰めようとしても、何と言っていいか分らなくなってしまう。


「……こうなったのは、私のせいだと思う」

 レイリスは、独り言のように呟いた。

「えっ……?」

「貴方を仲間に加える時、ソフィアさんはそれに反対した。貴方の力が強すぎて、ラナとリーザがパーティーから抜けるのを危惧したから。でも、私は貴方を仲間に入れたかった。ソフィアさんに、全力で戦ってほしくなかったから」

「……君は、ファレプシラやデルトロフィアのことを、知ってたんだよね?」

 尋ねると、レイリスは頷いた。

「ソフィアさんは、私と出会った時点で、自分が不治の病に侵されていることを知っていた。魔法を使えば、自分の命が縮まることも……。だから私は、依頼を受けること自体が嫌だったし、ソフィアさんの代わりに戦ってくれる人を探していた。そして、貴方をパーティーに加えた」

「……」

「でも、貴方をパーティーに加えたら、むしろ強い敵と戦う機会が増えた。魔生物が現れて、AAAランク以上の精霊を保有する人に対して招集がかかったのは仕方が無かったけど……ドラゴンベアと戦うことになったのは、貴方のせい」

「ごめん……」

「責めてるわけじゃない。悪いのは、当然のことに気付けなかった私だから。あの時は、ラナとリーザが戦力にならなくて、焦っていたんだと思う。……それに、ソフィアさんは、きっと喜んでる」

「……強い敵と戦えて?」

 僕の言葉に、レイリスは頷いた。

「戦わなくても、ソフィアさんはあと何年生きられたか分からない。だから、思いっきり戦えて良かったのかも……」

 そうは言っているものの、レイリスは沈んだ様子だ。

 無理もない。レイリスは、ソフィアさんのことを母親のように慕っているのだ。


 翌日、僕達は町を出発し、バーレへの帰路についた。


「お前達に頼みがある。姉さんには、精霊のネガティブな情報を話さないでほしい」

 翌日にはバーレに着く、というタイミングで、クローディアさんはそう言った。

「それは、クレセアさんに、招待者として復帰してほしいからですか?」

「そうだ。姉さんは、余計なお世話だと感じるかもしれないが……前にも話した通り、招待者が精霊を呼び出すことは、魔獣が発生することを抑制することにもつながる。姉さんほどの人が、隠居生活をするのはもったいない」


「でも、招待者って大変なんでしょう? 精霊を呼び出す時には、トイレにも自由に行けないとか……」

 つい、そう口走ってしまった。

 リーザやレイリスが、冷たい視線を向けてくる。

「そんなことをイチイチ気にしていたら、招待者など務まるものか」

「……それは平気だったとしても、若い女性が務めるには、負担が大きすぎる役割のような気がしますけど……」

「それを苦にしなかったから、姉さんは凄いんだ」

「でも、そういうのが嫌になってやめたんでしょう? だったら、もう復帰するつもりは無いと思いますけど……」


 クレセアさんは、自分で精霊を何体も呼び出してきたはずなのに、わざわざ借りたお金を使って精霊を購入している。

 何か、招待者とは縁を切るという、覚悟のようなものを感じる行動だ。


「それならそれで構わない。無理強いをして、どうにかなるものではないからな」

 僕達は、クローディアさんの頼みを聞き入れて、クレセアさんの意思を確認することにした。


「皆さん、おかえ……クローディア!?」

 僕達を迎えたクレセアさんは、突然訪れた自分の妹を見て、目を丸くした。

「久し振りだな、姉さん。話したいことは色々あるが、それは後にしよう」

「……ソフィアさん!?」


 クレセアさんは、すぐにソフィアさんの様子がおかしいことに気付いたようだった。

 僕達は、ソフィアさんを彼女の部屋に連れて行った。


 ソフィアさんを、彼女の部屋のベッドに寝かせた後。

 僕達は、クレセアさんに今回の依頼について報告した。

 無論、クローディアさんから聞いた話は伏せて、であるが。


 クレセアさんは、僕達の話を静かに聞いていた。

 そして、「大変でしたね」と言って労ってくれた。


 僕達の報告を聞き終えて、クレセアさんはクローディアさんと話を始めた。

「驚いたわ……貴方、招待者をやめてから、今まで一体何をやっていたの?」

「気ままな隠居生活さ。最近では、なるべく手をかけずに、収益性の高い薬草を栽培する方法について研究しているが……。姉さんこそ、どうして宿の主人になったりしたんだ?」

「……招待者をしていて、これでいいのかと疑問を抱いたからよ。精霊を呼び出しても、それを買えるのはお金を持っている冒険者だけだし、世の中の役に立っている実感が無かったから……」

「だが、姉さんが呼び出した精霊の力で、多くの人が救われていたのは事実であるはずだ。可能であるなら、姉さんには招待者に戻ってほしい」

「そんな……無理よ、今更……。私は、招待者を辞める時に、全てを清算したのだもの。持っていた精霊は全て売り払って、手に入ったお金は全額聖女様に寄付して……」


 クレセアさんの言葉を聞いて、その場にいた全員が驚愕した。

「精霊を売ったお金を、全額……!?」


 それは、一体どれほどの金額になったのだろう?

 きっと、聖女様のパーティーが全員、一生遊んで暮らすことができる以上の額だったはずだ。

 そんな大金を、これから新たな生活を始めるというタイミングで、あっさりと寄付するなんて……!


「姉さん、貴方という人は……何ということを!」

 クローディアさんは頭を抱えた。

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