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大精霊の導き  作者: たかまち ゆう


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58話 精霊の秘密

「そもそも、精霊は魔生物だ。魔生物は、やたらと人を殺そうとすることが共通点だと言ってもいい。ならば、何故精霊だけが人類に力を貸してくれるのだと思う?」

「それは、神授説と共生説のどちらを信じるか、という話ですか……?」

「違う。神授説も共生説も、もっともらしい説に見えるが……真実は、もっと残酷だ」

「じゃあ、一体……?」

「精霊は、人類に寄生している」

「……」

「精霊は、自分で魔法を使うことが苦手だ。だが、他の存在に魔力を譲り渡す技術には長けている。そして、魔法を使った際に、人間の体内は損傷を受ける……」

 クローディアさんは、一度言葉を切って、再び話し始めた。

「……ならば、彼女達が人類を攻撃するために、どんな手段を使うのが合理的かは明らかだ。人間に魔力を譲り渡して魔法を使わせ、体内を傷付ける。それが精霊の目的、というわけだ」

「そんな……じゃあ、精霊は……僕達を、殺すために……!」


「嘘だ! そんな悪いことを考えてる精霊なんて、見たことがないぞ!」

 ラナが叫んだ。

 否定するかと思ったが、意外なことに、クローディアさんはあっさりと頷いた。

「当然だろう? 精霊には、自分達が人間に危害を加えている、などという自覚は無いのだからな」

「自覚が……無い?」

「考えてもみろ。世の中には、猜疑心の強い人間などいくらでもいる。そういった連中を全て騙すことなど、できると思うか? 精霊に人類を騙す意図があったなら、勘の鋭い人間は、きっと精霊の本性を見抜くだろう。……だが、そもそも、精霊が人間を騙そうと考えていなかったら?」

「嘘をついていないから、それを見抜くことも出来ない……?」

「そういうことだ。精霊は、自分達の魔力が人間を傷付けるということを認識していない。あるいは、そのことを知っていたとしても、それが悪いことだと考えていないのかもしれない。魔生物の体の構造は、人間とは根本的に違うからな。我々人類と、魔生物である精霊の価値観が、一致するとは限らないだろう?」

「……」


 僕は身震いした。

 悪意なく、人間を蝕む精霊……それは、明確な害意があって襲って来る敵よりも、恐ろしい存在のように思えた。


「ちょっと待ってください。小さな精霊は、魔力で人間を殺すことなんて出来ないはずでしょう? だったら、小さな精霊が人間に魔力をくれるのはどうしてですか?」

 リーザが疑問を提起する。

「殺す必要など無いからだ。いや、むしろ、殺さないことを望んでいる、と言ってもいい」

「……どういうことですか? さっきの話と、矛盾していると思いますけど?」

「これを説明するためには、普通の魔生物が人を殺そうとするのは何故か、ということを先に説明する必要がある。魔力を用いて生物を傷付けると、その生物が持っている生命力のようなものが流出するらしい。それを吸収することによって、魔生物は力を増したり、数を増やしたりするそうだ。そして、手っ取り早く生命力を手に入れる方法が、魔法で人を殺すこと、というわけだ」

「……!」

「一方で精霊は、魔法で人を殺すのが上手くない。いや、というより、そんなことをしてもメリットが無いのだろう。おそらく、精霊は魔法で人を殺しても、それによって放出された生命力の大半を吸収することが出来ないのだ。小食の人間の前に山盛りの食事を出しても、食べ切れないのと同じでな」


「吐き気がしてきたぜ……」

 ラナが、気持ち悪そうに口を押える。

「では、もう聞くのをやめるか?」

「……いや、続けてくれ」


「そうか。では続けるが、精霊は人類に寄生することにより、自分達でも吸収できるだけの生命力を、長期間に渡って手に入れることが出来るようになった。そして、精霊は徐々に大きくなり、数も増えてきた、というわけだ」

「じゃあ、ドラゴンが現れた時代よりも後に、大きな精霊が呼び出されるようになったのは……!」

「精霊が大きくなったからだ。招待者が進歩したからではない」

「……」

「だが、これが後に、困った事態を引き起こす。精霊が大きくなって、AAランク以上の精霊が現れた。すると、大きな精霊の魔力を使い続けることで、使用者の内臓に影響が出るようになったのだ。人の身体は、小さな針で突いても大した傷は出来ず、すぐに治る。だが、大きな針で突けば、傷は大きくなり、治るのに時間がかかってしまうだろう? AAランクの以上の精霊の魔力は、ハイペースで使い続ければ、人間の回復力を上回る傷を受けてしまうのだ」

「それで病気になるのね……」

「特に、AAAランクの精霊を宿している者の負担は大きい。中でも魔導師や支援者は、若くして病を患う者ばかりだそうだ」


「じゃあ、この話は今すぐ広めるべきじゃないか! そうすれば、大きな精霊は、危険な敵が現れた時以外では使わなくなるだろ!」

 ラナの抗議を受けても、クローディアさんは首を振った。

「残念ながら、そうはならない。精霊は、積極的で好戦的な人間を好む。たとえ自分の身体が傷付くと知っていても、厄介事に進んで首を突っ込むような連中を選んでいるんだ。中には、戦うこと自体を楽しんでいる者も多い。仮にこの話を広めても、彼らは戦うことをやめないだろう」

「……」


 確かに、病を抱えていても、ソフィアさんは魔法を使うことを渋らなかった。

 むしろ、依頼を受けたり、強敵と戦ったりすることを楽しんでいたほどだ。


 首領だって、積極的に獣を狩りに行った。

 嫌々、という印象は全く受けなかった。


 聖女様のパーティーのメンバーにしても、エクセスさんの仲間やテッドにしても、強敵に対して果敢に挑む者ばかりだった。

 彼らが、今の話を聞いて戦うことをやめるとは思えない。クローディアさんの指摘は正しい気がした。


「しかし、物事には限界がある。そんな好戦的な連中が大精霊を保有すれば、すぐに病を患い、死んでしまうことは目に見えている。それでは、長期間に渡って生命力を奪うという、精霊の目的に反してしまう。そのことは、AAAランクの精霊として過ごした時代に、本能的に学んだのだろう。だから、大精霊は敢えて、異なる性格の者を選ぶようになった」

「じゃあ、大精霊だけが、消極的な人間を選ぶのは……!」

「自分が寄生した人間に、回復する時間を与えるためだ」

「……」

 重たい沈黙が、この場を支配した。


 とんでもない話だった。

 精霊はとても健気だ。僕達は、彼女達が人類を守るために、頑張ってくれることに感謝していたのだ。


 しかし、それは違った。

 精霊は、たとえ本人に悪意が無かったとしても、結果的には、私利私欲のために人類を利用していた……!


「ルークが、いざとなると、やたらと大胆になることも……大精霊の思惑通りなんですね?」

 リーザが尋ねると、クローディアさんは頷いた。

「それはそうだ。ただでさえ消極的な人間が、必要に迫られても魔法を使うことを渋ったら、生命力を奪う機会が無くなるだろう? 積極的に戦おうとはしないが、戦闘になると躊躇なく全力を注ぎ込む。それは、大精霊にとって理想的な性格だと言えるだろう」

「何て気分の悪い話なんだ……」

 ラナはうんざりした様子だ。


 クローディアさんの言う通りだった。

 世の中には、知らない方が幸せなこともある。

 僕達は、クローディアさんの話を聞いたことを後悔していた。

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