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大精霊の導き  作者: たかまち ゆう


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48話 一瞬の隙

 僕が抱いた疑惑については、誰にも話さなかった。

 リーザは自分で色々と考えている様子だったが、そんな彼女に対して、やはり聖女様は疑わしい、などと簡単に言えるはずがない。

 ソフィアさんの様子に、特におかしなところは無かった。相変わらず、怖い人だ。


 そして、幸いにも、と言うべきか、人食い狼は6日で戻って来た。

 夜中に、見張りとして外に出ていたソフィアさんが、探知魔法で狼の群れを発見したのだ。

 さすがの勘の鋭さだと言えるだろう。


 せっかく群れを発見しても、夜の暗闇の中では、人間の方が圧倒的に不利だ。

 僕達は、事前の打ち合わせ通りに、森へは向かわず村の中で待つことにした。

 もし狼が襲って来れば迎撃するが、こちらから森に突入するのは危険なので避ける。それが基本的な方針だ。

 その夜はずっと警戒していたが、結局狼は村に来なかった。


 翌日の朝、僕達は狼を狩るために森に入った。

「……近くにはいませんね。どうやら、暗いうちに奥へ引き返したようです」

 探知魔法を使ったソフィアさんがそう言った。

「何だよ、また夜まで待つのか? もう、いい加減宿に帰りたいんだけどな……」

「もう少し探索しましょう? 夜に村で待ち受けるよりも、明るいうちに戦った方がマシだわ」

「だったら、ルークの魔法で探した方が……」

「駄目よ!」

 突然、リーザが声を張り上げた。ラナは目を丸くする。

「何だよ、大精霊の力で探した方が、ソフィアさんが探すよりも早いだろ?」

「……ルークの魔力は温存すべきよ。安易に使うべきではないわ」

「一回探知魔法を使っても、それで魔力を使い果たしたりはしないだろ? ていうか、ソフィアさんに負担をかけることだって問題があるんじゃないのか?」

「とにかく、ルークに頼りすぎるのは良くないのよ。探知魔法を使うとしても、もっと奥に行ってからにしましょう?」


 そう言って、リーザは奥へと歩き出す。

 仕方無く、僕達はリーザの後に付いて行った。


 大分奥まで進んで、ソフィアさんがアヴェーラを呼び出して、もう一度探知魔法を使う。

 レイリスは心配そうにしているが、Aランクの精霊を使っても大丈夫だということは首領が保証してくれている。


「……あちらに、動物の群れがいますね」

「よし、今度こそ仕留めてやるぜ!」

「レイリス、お願いします」

「はい!」

 レイリスは、精霊を呼び出して姿を消した。


「……いい、ルーク? 狼を狩る時にも、強力な魔法を連発するような戦い方をしたら駄目だからね?」

「そんなに心配しなくても、僕は大丈夫だよ」

「そんなの、誰にも保証できないじゃない! 病気になってからじゃ遅いのよ?」

「おいおい、今日は随分ルークの心配をするな? ひょっとして、この前の話を気にしてるのか?」

「……今までルークに頼りすぎてたって、ちょっと反省しただけよ」

「気持ちは嬉しいけど、今のリーザの心配の仕方は、ちょっと過剰だと思うよ?」

「……」


 リーザは、拗ねたような反応を見せた。

 何だか、いつになく彼女が可愛く思えた。


 やがて、レイリスが姿を現した。

「狼の群れだった。多分、生き残りの殆どが集まってると思う」

「よし!」

 僕達は、精霊を呼び出して人食い狼の群れに接近した。


 今回は、広範囲攻撃魔法は使わないことにした。

 リーザに止められたからではなく、狼を警戒させて、簡単に逃げられることを防ぐためだ。

 位置を確認しながら接近すると、狼はこちらに気付いたのか、獲物を包囲するように動き出す。


 僕とラナは剣を抜き、レイリスはナイフを構えた。

 今回、レイリスは姿を消さないことにしている。リーザが、誤射が怖いと主張したためだ。


 狼の群れは、僕達を翻弄するように、周囲を回るように動く。

 ソフィアさんは、前回と同じように障壁を展開した。3方向を壁で覆ったことによって、僕達は一方向だけに集中できる。

 しかし、狼はこちらを警戒しているのか、なかなか近付いて来なかった。


 通常であれば、人食い狼は人間を見つけるとすぐに襲いかかってくる。

 そうしないのは、前回惨敗した記憶が強く残っているからだろう。

 こうなると、相手を一気に仕留める方法は無い。

 前回と同じように攻撃魔法を連射する方法もあるが、それで逃げられた場合、次はいつ戻って来るか分らない。


 僕は、意を決して一人で飛び出した。

 敢えて、狼に無防備な姿を晒して誘い出すのだ。

 この作戦を提案した時、リーザは強く反対したし、他のメンバーも懸念を示したが、結局他の案が出なかったために採用された。


 人食い狼の習性として、孤立した人間が存在した場合、それを積極的に襲うはずだ。

 案の定、人食い狼は次々と僕を目がけて襲いかかってきた。


 僕は、自分の後ろに障壁を展開し、前と横から襲って来る狼を次々と斬り払った。

 後ろから襲ってきた狼は障壁に跳ね返される。その狼は、リーザの魔法で撃ち抜かれた。

 ラナとレイリスは、自分達の方へ寄って来た狼を斬り捨てている。前回と比べれば相手の数が少ないこともあり、特に苦も無い様子だった。


 大半の狼を葬ったタイミングで、僕は残った狼を一匹ずつ狙撃した。

 高速で動き回る相手を狙うために、ソリアーチェが正確なタイミングで照準を合わせてくれる。

 最後に接近してきた相手を斬り捨てて、全ての狼が地面に転がった。


 自分でも驚くほどの、完璧な戦いだった。

 この戦いでは、ソフィアさんが重要な役割を担っていた。

 狼が跳び越えられない高さの障壁を3面に展開し、決して突き破られてはならない、という困難なものだ。

 それを、他のメンバーに不安を与えずにこなしたのだ。


 障壁を展開するのに要する時間は、僕の方が短いだろう。

 それでも、ソフィアさんの腕が良いのは確かだ。

 Aランクの精霊がいるとはいえ、専門の防御者でなければ難しい役目だったことは間違いない。


「何だ、人食い狼なんていっても、別に大したことないな!」

 そう言って、ラナは剣を収める。

「まったく、貴方はすぐにそうやって……!」

 リーザが、呆れた様子で言った、その時だった。

 突然、倒れていた狼が起き上がり、ラナの首筋を目がけて跳びかかった。


「えっ……?」

 ラナは、何が起こったか分らない様子だった。

 当然ダンデリアは警告を発したはずだが、本人が安心しきっていたためか、全く反応できていない。


 僕もリーザも、反応が遅れた。精霊の警告は、自分が狙われた時以外は発されないのだ。

 ソフィアさんはラナの近くに立っていたが、彼女は狼を撃つことができないし、障壁で阻もうとしても、ソフィアさんの展開速度では間に合わない。

 レイリスは、他の狼の死体を確認していたため、ラナからは距離のある位置に立っていた。反応はしているが、間に合わない……!


 補助魔法を使っていない状態だというのに、ラナに噛み付こうとする狼の動きは、スローモーションのように見えた。

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