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45話 精霊ダンデリア

 僕達は報酬を受け取ることになった。

 配分は、僕とソフィアさんが半分で、残りの半分を首領とエクセスさん達が分けることになった。

 そんなに受け取っていいのか、と思ったが、首領やエクセスさんが僕とソフィアさんの活躍を高く評価してくれたのだ。

 報酬は、ソフィアさんが受け取った額だけでも、ラナとリーザの精霊の代金を支払える額だった。

 このお金があれば、宿を立て直すための時間を稼げるはずだ。


 その報酬を受け取るに際して、僕は領主様に会った。

 聖女様やエクセスさんのおかげで、僕のことが公に知れ渡ることはなかったが、巨額の報酬を支払うにあたって、僕に一度も会わないわけにはいかない、という話だった。


 領主様は、かなり歳を重ねた老人だった。

 僕は、緊張で頭が真っ白になり、黙り込んだり、自分でもよく分からない話をしたりしてしまった。

 そんな僕を見て、領主様は他の大精霊保有者の名前を出し、「彼と初めて会った時を思い出す」と言った。

 既に第一線で活躍している人にも、領主様の前で緊張して、訳が分からなくなってしまった時があったらしい。

 偉い人を前にしても、ソフィアさんは普段と様子が変わらなかった。聖女様のパーティーに所属していた頃から、偉い人と会うことに慣れているのだろう。


 本来ならば参加しなければならない祝賀行事などには参加せず、僕とソフィアさんはバーレへの帰路に着いた。

 僕達は、既にかなりの日数を費やしている。早く帰らなければ、宿が心配だったからだ。


 ソフィアさんは、レイリスのことを心配しているようだった。

「あの子、寂しくて泣いているのではないかと不安です……」

 そんなことを言っていたが、むしろソフィアさん自身がレイリスがいなくて寂しいのではないかと思った。


 それを裏付けるかのように、ソフィアさんはやたらと僕に触れようとするようになった。

 妙な気分になってはまずいので、そういう行為は控えてほしかったが、冷たくするのも可哀想な気がしたので拒絶はしなかった。

 帰りの行程でも、「同じ部屋に泊まりましょう」と繰り返し言われた。こんな状況が長く続いたら、そのうち勢いで了承してしまいそうな自分が怖かった。


 そんな旅もようやく終わり、僕達は「闇夜の灯火亭」に帰還した。


 およそ一ヶ月ぶりの宿に帰ってきて、もう一年以上もここには戻っていなかったような感覚に陥る。

 扉を開いて中に入ると、迎えてくれたクレセアさんは、とても安心した様子だった。


「ルークさんもソフィアさんも、今回はお疲れ様でした。お二人が無事に帰って来て、ラナ達も喜ぶでしょう」

「皆は今どこに?」

「あの3人でしたら、明日の朝には帰って来るはずです。数日前から、泊まり込みで酒場の手伝いに行っているので」

「えっ!?」

「あっ、酒場といっても、町の中心にある、それなりに健全なお店ですよ?」

「そうですか……」

 良かった。お金が無くなって「あの酒場」に行くしかなくなった、というわけではなかったらしい。


 ソフィアさんは、ラナとリーザの精霊の代金を、クレセアさんに支払った。

 クレセアさんは、ひたすら恐縮していた。僕達は、今回の旅の期間における宿代も支払おうとしたが、それはクレセアさんが受け取るのを断った。

「お二人は、多くの人の命を救ったのですから……」

 この人は、本当に欲の無い人だ。それが、経営者に向いているかは別問題だが……。


 翌朝になって、3人が宿に帰ってきた。

「ルーク! ソフィアさんも! 無事に帰って来たんだな!」

「皆、ただいま!」

「何よ、元気そうじゃない。心配して損したわ……」

 リーザがそんなことを呟いたが、明らかに照れ隠しだろう。

 レイリスは、ソフィアさんにしがみついた。気のせいかもしれないが、少し背が伸びたような気がする。

 ソフィアさんは、レイリスを愛おしそうに撫でた。それだけでは満足できなかったのか、屈み込んで頬ずりした。


「さて、5人揃ったし、次の依頼を受けるか!」

 ラナが張り切った様子でそう言うと、リーザはうんざりした表情を浮かべた。

「貴方はどうしてそんなに元気なのよ……? 取り敢えず、今日くらいは休ませて」

「何だよ、あれくらいで大袈裟だな」

「ラナ、レイリスも眠たそうですから……」

 ソフィアさんがそう言っても、ラナは不満そうな様子だった。


「待って。その前に、僕とラナにはやることがあるだろ?」

「えっ、何だっけ?」

 ラナはキョトンとした。

「精霊を買いに行くんだよ」


 僕とラナは、バーレの精霊市場にやって来た。

「バーレに、こんな場所があったんだな」

 ラナは、物珍しそうに周囲を見回す。彼女はクレセアさんから精霊を貰ったので、精霊市場に来たことが無かったのだ。


「ラナ、不審者と間違われないように注意してね? 精霊市場には、どこかに抹消者がいるはずだから」

「えっ、そうなのか?」

「精霊は高価だし、手に入れれば凄い力を得られるからね。盗賊なんかには狙われやすいんだ。だから、警備も厳重なんだよ」

「へえ……」


 ラナは、今度は不安になったのか、周囲を窺うような素振りを繰り返した。

 これ以上注意したら逆効果だと思い、僕は何も言わなかった。


「どのランクの精霊が必要ですか?」

 職員に尋ねられて、僕はDランクの精霊を頼んだ。

「これでようやくリーザに並べるのか。それを考えると嬉しいな!」

「そうだね。適合する精霊がいれば、だけど……」

「何言ってるんだ! するに決まってるだろ?」


 一体、その自信はどこから来るんだろう……?

 ラナは、お世辞にも優秀とは言い難い。Dランクの精霊ともなれば、適合するかは微妙だ。

 しかし、ラナは本当に適合しない可能性を考えていない様子だった。


 ラナは、職員の指示に従って、木製の台の上に右手を伏せて置く。

 職員は、置かれたラナの手の甲に、精霊石を一つずつ押し付ける。その石に宿っている精霊に適合していれば、僕達の前に姿を現すはずだ。

 ……しかし、市場にある全てのDランクの精霊を試しても、姿を現した精霊は一体も存在しなかった。


「そんな、どうして……!」

 ラナは、非常にショックを受けた様子だった。

「……大丈夫だよ。ここにある精霊が、たまたまラナと相性が悪かっただけだから。別の街に行けば、きっとラナに適合する精霊が見つかるよ」

 僕は気休めを言った。

 やはり、今のラナにはDランクは高レベル過ぎるようだ。


「……なあ、相性さえ良ければ、もっと上のランクの精霊に適合する可能性だってあるんだよな?」

「それはあるけど……可能性は殆ど無いよ?」

「構わない! Cランクの精霊を試させてくれ!」


 僕は職員に対して、Cランクの精霊を持って来るように頼んだ。

 職員は、迷惑そうな表情を浮かべて断ってきた。僕達のやり取りを聞いていれば、わざわざ精霊石を持って来る気にはならないだろう。

 しかし、僕は繰り返し頼み込んで、何とかCランクの精霊石を持って来てもらった。


 職員は白け切った様子で精霊石を摘み、ラナの手の甲に押し付ける。

 案の定、精霊はラナに適合しない。

 幾つか試して、やはり駄目だ……と思った、その時だった。


 一体の精霊が、ラナの前に現われた。

「……まさか!」

「こいつ、あたしに適合したのか!」

「おめでとうございます! この精霊を購入しますか?」

「勿論だ! いいだろ、ルーク!」

「う、うん……」


 実は、Cランクの精霊を購入するのは予算的に厳しいのだが……今更「ごめん買えない」などと言えるはずがない。

 暫くは金欠だ……僕は、こっそりと頭を抱えた。


 ラナは、僕が買った精霊石を飲み込んだ。

 すると、ラナが宿すことになったCランクの精霊は、彼女の右腕に抱き付くようにした。どことなく挑戦的な笑みを浮かべている。


「これで、あたしの方がリーザより上だな!」

「……そうだね」

 冒険者の能力は、精霊の性能だけでは決まらないのだが……それを僕が言っても、説得力は皆無だろう。


 ラナは、ひたすら得意気だった。

 彼女は、新たな精霊にダンデリアと名付けた。


「Cランクですって!?」

 ラナが自慢気に報告するのを聞いて、リーザは、はっきりとショックを受けた様子だった。

「まあ、おめでとうございます!」

 ソフィアさんは、純粋に嬉しそうな様子だ。

「……」

 レイリスは、ダンデリアに敵意を向けているように見えた。

「さあ、これで新しい依頼を受けられるな!」

「……ラナ、新しい精霊を入手したら、まずはどの程度の動きが出来るかを、自分で確認しないと……」

「ちぇっ、面倒だな。……まあいいや、あたしもダンデリアの力を知りたいからな」

 強力な精霊を手に入れて有頂天になっているのが気がかりだが、ラナがパワーアップしたことは、このパーティーにとっては大きな収穫だった。


「……ラナだけ、ずるいわ」

 リーザは、僕に恨めしげな顔を向けてきた。

 しかし、もう一体Cランクの精霊を購入するような金は無い。僕は目を逸らした。

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