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3話 大精霊ソリアーチェ

 精霊を扱うには、相性以外にも、その精霊を扱うのに相応しい「器の大きさ」が必要だと言われている。

 それは、元々の能力の高さと、人生における様々な経験、特に戦闘経験によって形成される。

 大金を持っている者が高価な精霊を購入したとしても、本人の実力が伴わなければ、その精霊を呼び出すことはできないのだ。

 だからこそ、大精霊を操る聖女様のような冒険者は、人々から尊敬されているのである。

 僕の能力は、決して高いとは言えない。むしろ、低いと言ってもいいだろう。

 大して難しい依頼を受けてきたわけでもないので、冒険者としての経験を充分に積んだわけでもない。

 そんな僕に、大きな精霊を呼び出すことなど不可能なはずである。

 そのはずなのだが……。


「……どうして、僕なんでしょう……?」

 聖女様に、目の前の精霊を受け入れるように迫られて、僕は思わず呟いてしまった。

 精霊との相性の関係で、予想外に大きな精霊と適合することがある。そんな現象を聞いたことがあるのだが、それですら、せいぜい1ランクか2ランク程度の差が生まれる程度だという。

 今まで僕が適合したのはEランクの精霊までだ。それが、いきなり大精霊に適合する、というのは異常事態としか言いようがない。


「貴方のような存在に関して、古い文献を見たことがあります。精霊の力を限界以上に引き出す……そんな能力を有する者が存在する、と」

「……限界以上?」

「特に相性の良い精霊に好かれ、命懸けで守りたいと思わせる存在……それが貴方です」

 いかに聖女様の言葉であっても、容易には信じられない話だった。

 そんな人間がいる、などという話は聞いたことがない。ましてや、僕にそんな能力があるなどと、突然言われても信じられるはずがない。

 ……いや、聖女様がこんな嘘をつくはずがない。それに、今の話が嘘なら、僕の目の前にいる大精霊は何なのか?


「そういえば以前、そんな人がいる、という話を聞いたことがありますね……」

「ええっ!?」

 魔導師の女性の言葉に、仲間から驚きの声が上がる。

「……ですがあれは、精霊を研究している者の間でも、誰も信じない珍説という扱いをされていました。まさか、そんな人間が本当にいるなんて……」

 彼女が僕を見る目は、先程までと全く違っていた。そこには、恐怖の感情があった。


 恐れている?

 僕のことを?


 しかし聖女様は、そんな仲間の様子には気付いていない様子で解説を続けた。

「貴方が使っていた精霊が消滅してしまったのは、貴方を守るために力を使いすぎたからです。自身が限界に達しても、それを貴方に伝えなかった……だから、突然消えてしまったのでしょう」

「……そんな……自分の存在を維持できなくなるほど無理をするなんて……」

「その精霊の性格も影響して起こってしまった出来事だと思います。あらゆる精霊が、そこまでするとは思えません。貴方に好かれたくて、無理をし続けてしまったのでしょう」

 とても胸の痛む話だった。

 僕は、とても調子がいいと思って、気前良くピピの力を借りていた。しかし、それはピピを酷使していたためだったのだ……!


「この子は、ソリアーチェという名前です。大事にしてくださいね?」

 聖女様が、大精霊の方を示しながら言った。

「……あの、この精霊は、本当に頂いてもよろしいのでしょうか?」

「まあ、おかしなことをおっしゃるのですね? ソリアーチェが、自分で貴方を選んだというのに」


「私は反対です!」

 魔導師の女性が、血相を変えて叫んだ。

「あら、どうしてですか?」

「ヨネスティアラ様こそ、気は確かなのですか!? こんな、どこの馬の骨とも分からないような男に、大精霊を渡すなんて!」

「この方が精霊に相応しいか否かは、私達が決めることではありません。精霊が自ら決めるべきことです。ソリアーチェは、今まで誰にも適合しませんでした。そのソリアーチェがルークを選んだのですから、我々はソリアーチェを信じるべきでしょう」

「ですが……!」

「精霊は、神が我々を助けるために与えた存在です。彼女達は個々に意志を持っています。誰を助け、誰を見捨てるかは精霊次第……即ち、神のご意志によるもの。我々は、その声に謙虚に耳を傾けなければなりません」

 きっぱりと言い切って、聖女様は僕に向き直った。

「精霊の信頼に、応えてください」

 聖女様に促され、僕は覚悟を決め、精霊石を飲み込んだ。

 これで、ソリアーチェは正式に僕の精霊となる。


 すると、僕の身体から、金色の光が飛び出した。ペルだ。

「ペル!」

「ソリアーチェの力が強すぎて、追い出されてしまったのですね」

 聖女様は、黒い精霊石を取り出した。それに、ペルは逃げ込むように入っていく。

 すると、精霊石は金色になった。

「この子は、暫く休ませてあげてください。力が回復すれば、新たな宿主を見つけて活躍する機会もあるでしょう」

「はい。……無理をさせてごめんな、ペル」


 僕は、聖女様から受け取った精霊石に語りかけた。

 何の取り柄も無い僕が、何とか今まで冒険者をやってこられたのは、ペルが頑張ってくれたおかげである。

 いくら感謝しても、しきれない気分だった。


「それで、このおにいさんも仲間に入れるの?」

 支援者の少女が、首を傾げながら尋ねた。

「そうですね。ですが、今すぐに、というわけには参りません」

「えっ……?」

「ルーク、貴方には、ソリアーチェを使いこなせるようになってもらう必要があります」

「使いこなす……?」

「もしも貴方が、ソリアーチェの力をそのまま放出したら、何が起こると思いますか?」

「……何が起こるんですか?」

「おそらく、大変な事態を引き起こすでしょうね。仲間に被害を及ぼすかもしれませんし、無関係な人々を巻き込むかもしれません」

「……」


 背筋が寒くなる話だった。

 僕のような凡人が、それほどの力を手に入れてしまって良かったのだろうか?


「精霊は、守護する人間が望まないことはしません。なので、貴方が力を抑えて行使すれば、大規模な被害を発生させることはありません。そのことを決して忘れないようにしてください。よろしいですね?」

「……はい」


 僕は、とてつもない力を得ると共に、とてつもない責任を背負ったのだ。

 このことは、決して忘れまいと思った。


「それではルーク、貴方に依頼があります。成功報酬は、私のパーティーに仲間として迎えること。受ける気はありますか?」

 聖女様はそう言って、僕の目をじっと見つめてきた。

「一体どのような依頼ですか?」

「それは……」

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