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35話 嫉妬

 僕は、部屋の扉を開いて、廊下の様子を窺おうとした。

 部屋の前にはリーザが立っていた。


「うわっ!」

 僕は再び叫んで飛び退いた。

 リーザは部屋に入ってきて、僕のことをジト目で睨み付けてきた。


「貴方、ソフィアさんを部屋に連れ込んで、一体何をしてたの?」

「ちょっと相談してただけだよ!」

「まさか、私達の中では一番ガードが甘そうなソフィアさんを誘い出して、言葉巧みに同情を誘って、あんなことやこんなことを……」

「何もしてないってば!」

「私にも気があるフリをして、二人とも自分のものにしようとしてたのね?」

「どうしてそんなに悪意的な解釈を!?」

「……貴方が、不用意に女を連れ込むからでしょ。下心があると思われるのは当然じゃない」


 何故か、リーザは拗ねているように見えた。

 ソフィアさんの方を見て、文句を言いたげな様子である。

 そういえば、リーザはソフィアさんに対して、劣等感を抱いていたような……。


 ふと、リーザの足を見て、僕は視線を逸らした。

 どうして、リーザまで前回と同じ格好を?

 今夜泊まっている宿は全て一人部屋だし、素足を晒しながらこの部屋に来る理由が、全く分からない。


「リーザ、私はルークさんを取ったりしませんよ?」

「……取るも何も、ルークと私は、まだ何の関係もありませんから」

「貴方が男性のことで、そんなに必死になるなんて意外です。若いっていいですね」

「必死になったりしてません! それに、ソフィアさんだって、私と大して歳が違わないでしょう?」

「男性は、より若い女性が好きなものです。そういう意味では、リーザがライバルとして警戒しなくてはならないのは、私ではなく、レイリスでしょう」

「……」

 何か良くない想像をしたのか、リーザの顔が一層険しくなった。


 とんでもない妄想をされていると感じたので、僕は慌てて否定した。

「いや、僕は子供に手を出したりしないよ!」

「そんなこと、誰も心配してないわよ。貴方が、胸の大きな女性にしか興味がないって知ってるもの」

「それはそれで酷い認識じゃないかな!?」

「まあ、それはともかく……あの子、あと何年かしたら、凄く綺麗になるわよ?」

「えっ……?」


 リーザに指摘されて、僕は初めて気付いた。

 そういえば、レイリスは現時点で美少女なのだから、このまま成長したら、確かに美人になりそうだ。


「……貴方、とんでもないケダモノね」

「いや、どうしてそうなるのさ!?」

「女なら誰でもいいなんて、最低だわ」

「話が飛躍しすぎでしょ!」

「男性というのは、そういうものです」

「ソフィアさんまで!?」

「レイリスの母親は体型に恵まれていました。あの子の将来にも、期待してあげてくださいね?」

「さらっと、とんでもないことを言わないでください!」


「……あの、ソフィアさん。申し訳ないんですけど、ご自分の部屋に帰っていただけませんか? ルークと、二人だけで話したいことがあるので」

 リーザは、物凄く不機嫌そうな様子で言った。

「構いませんよ。お二人が真剣なのであれば、私は応援しますから。あっ、ですが、レイリスがルークさんに恋愛感情を抱いた場合は、そちらを応援させてください」

「……ソフィアさん、一つ忠告しておきますけど、その格好で出歩かない方がいいですよ? 胸が目立つから男に注目されるでしょうし、下着が透けてますから。ねえ、ルーク?」


 リーザが僕に対して冷ややかな視線を向けてきた。

 悪意を込めた話題を振られて、冷や汗が出てくる。


「あら、そんな細かい事を気にするなんて、リーザは神経質ですね」

「細かい事って……」

 リーザは唖然とした様子だった。

「私だって、裸で出歩いたりしませんからご安心ください」

「……じゃあ、下着姿でなら出歩くんですか?」

「緊急事態でなければ、そんな非常識なことはしませんよ。では、後はお二人で楽しんでくださいね?」

 そう言い残して、ソフィアさんは部屋から出て行った。


 リーザと二人きりになって、僕は緊張感のあまり全身が震えた。

 しかし、暫くの無言の後でリーザが発した言葉は、僕を糾弾するためのものではなかった。


「……貴方、もう、ソフィアさんに励ましてもらったの?」

「えっ……あ、うん……」

「そう……」

 リーザは、がっかりしている様子だった。


「ひょっとして、僕を励ましに来てくれたの?」

「……当然じゃない。貴方は私達のエースなんだから」

「ねえ、その格好って、わざわざ着替えたの?」

「……そうよ、悪いの?」

「だって、ソフィアさんには、男の目を気にしろって注意してたのに……」

「貴方って単純そうだもの。女におだてられて気分が高揚したら、どんなに危ない事でもやってくれそうじゃない。魔生物に挑んでもらうのに、そういう方法もありだと思ったのよ」

「それって酷いんじゃないかな……」

「言っておくけど、私だって生半可な覚悟で、そんなことをしようと思ったわけじゃないのよ? それで、貴方がその気になったら……成り行きに任せる覚悟で来たんだから」

「ええっ!」

 ひょっとして、僕は……最大のチャンスを逃した!?


「残念がっても、もう手遅れよ。ソフィアさんを鑑賞して喜んでた罰だわ」

「喜ぶって、そんな余裕は……」

「誤魔化しても無駄よ。貴方は、そこまで清潔な人間じゃないもの」

「……」

「本当に、男って最低の生き物だわ。ソフィアさんの危険な言動を、あれだけ見てきた後だっていうのに……。貴方、顔と身体さえ良ければ、どんな女でもいいの?」

「それは違うよ!」


 例えば、ドネットが勤めていた店の女主人だ。

 ああいった女性は、どれだけ顔と身体が良くても、触れたいとすら思わない。

 しかし、リーザは僕を信用していないようだった。


「ソフィアさんもソフィアさんよ。私達のことを応援するですって? 本当は、自分がルークの恋人になりたいと思ってるくせに」

「えっ、そうだったの!?」

 確かに、ソフィアさんの言動は、僕を誘惑していると解釈できないこともない。

 しかし、彼女からは一度もそういった印象を受けていない。

 リーザについては、そんなことを考えた時もあったが……。


「貴方、気付いてなかったの? やっぱり、男って単純だわ。ソフィアさんにしてみれば、貴方と付き合っておけば、聖女様ともう一度パーティーを組めるかもしれないじゃない」

「そんなことのために!? いや、それはさすがに考え過ぎだよ!」

「……ソフィアさんはね、そういうことを、頭で考えなくても実行できる人なの。だから、絶対に誘惑に負けちゃ駄目よ? 絶対だからね?」

「う、うん……」

 リーザがここまでソフィアさんを警戒するのは、単に嫉妬しているからではないかと考えたが、口には出さなかった。


 僕はリーザに、部屋まで送ると告げた。

 2つ隣の部屋とはいえ、僕のために無理をして素足を出してくれた彼女には、その程度のことはするべきだろう。


「待って。もう少し話したいことがあるの」

「何?」

「……その前に、座っていいかしら?」

「あ、うん……」


 リーザはベッドに座った。僕も、流れでその隣に座る。

 すると、リーザはこちらに身を乗り出してきて尋ねた。

「……貴方、結局誰のことが好きなの?」

「えっ……?」


 そんなことを言われると困ってしまう。

 冒険者のマナーとして、この類の質問には安易に答えてはいけない、と教わってきたからだ。


 しかし、リーザは追及をやめなかった。

「もう、誰か意中の人がいるんじゃないの?」

「いや、そんなことを言われても……」

 そう言うと、リーザはジト目で睨んできた。

「まさか、全員好きだから選べない、とか言わないでしょうね?」

「そういうわけじゃ……!」

「……それじゃあ、やっぱりステラさんのことが好きなの?」

「……」


 僕が言い淀むと、リーザは溜め息を吐いた。

「やっぱり、そうなのね……。男って、結局ああいう、大人しくて従順そうな女性が好きなんでしょ?」

 何だか、さっきまでと言っていることが変わっていると思ったが、敢えて指摘はしなかった。

「でも、ステラさんは、クラフトって人と付き合ってるはずよね?」

「……まあ、そうだね」

「だったら、ステラさんのことは潔く諦めて、近くにいる女性の中から相手を選ぶべきだわ」

「いや、今の僕にはそんなことを考える余裕なんて無いよ! 大体、そんなことを考えてパーティーを組むなんて、皆に失礼じゃないか!」

「そうかしら? パーティーまで組んでるのに、他所の女が好きだって言う方が失礼だと思うけど?」

「そんなこと言われても……」


 リーザの態度は妙だ。

 こんな話を安易にしてはいけないことぐらい、彼女になら分かりそうなものだが……。


 確かに、命懸けで冒険を続けるうちに、恋愛感情が芽生えるパーティーはある。

 しかし、一方的な思い込みが原因で男女の関係が悪化したり、一部のメンバーだけが盛り上がることによって、パーティーを崩壊させる場合もあるのだ。

 パーティー内の恋愛には慎重であるべき、というのは、僕が所属していたコミュニティでは常識だった。

 クラフトさんとステラのように、安定した関係ならば問題ないのだが……そうでなければ、誰が好き、などと軽々しく言うべきではない。


 僕が困っていると、リーザは溜め息を吐いた。

「まあ、いいわ。貴方が好きな人が誰だったとしても。でもね……ソフィアさんだけは、駄目よ。分かったわね?」

「……分かったよ」

「ならいいの。それじゃあ、部屋まで送って?」


 結局、リーザの意図はよく分らなかった。

 彼女の言動を総合的に考えると……僕のことが好きで、出来れば付き合いたいと思っているのではないだろうか?


 しかし、安易な判断は禁物だ。

 もし、リーザに「付き合おう!」と言って、「何勘違いしてるの?」などと言われて断られたら……僕は、ショックで寝込んでしまうかもしれない。

 少なくとも、魔生物と戦う士気に影響するのは間違いないだろう。

 仮に確認するとしても、魔生物を討伐した後にしておこうと思った。

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