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33話 暗殺

 翌朝、僕達がバーレに帰ろうとしていたところ、フェデル隊長が強張った顔をしてやって来た。


「皆さん、帰るのはもう少し待っていただきたい。これから、警備隊の本部に来ていただけますかな?」

「一体何の用ですか?」

「スラムの住人が、皆さんを破壊活動と放火の容疑で告発しました」

「えっ!?」

「さらに、ドウン氏の屋敷の使用人が、貴方達による窃盗の被害を訴えています」

「ちょっと待ってください! そんなの、身に覚えがありませんよ!」

「どう考えたって、逆恨みの嫌がらせじゃない!」

 リーザが、憤慨した様子で言った。

「ですが、訴えがあったからには、何らかの捜査は必要になります。どうか、ご協力をお願いします」


「本当に、それが理由ですか? 別件の容疑で、私達を逮捕することが目的ではありませんか?」

 ソフィアさんがそう尋ねると、フェデル隊長は慌てた様子で首を振った。

「違います! そんなことをするはずがないでしょう!」


 フェデル隊長は否定しているが、僕達は半信半疑だった。

 僕達が逮捕される容疑なら、心当たりは幾つもある。

 本当に大丈夫なんだろうか……?

 不安は残るが、今は隊長を信用するしかないだろう。


 取り調べ室で、僕はフェデル隊長と向き合っていた。

「……あの、僕に何か用ですか?」

 思わず、僕はそう言ってしまった。


 取り調べられる立場だというのに、妙なことを尋ねていると自分でも思う。

 しかし、フェデル隊長は、取り調べをしようとしている様子ではない。

 一番問題のある言動をしたソフィアさんではなく、僕の前にいることからも、彼の目当てが僕であることは明らかだろう。


「実は、貴方に伝えておきたいことがあるのですよ……。ルークさんは、大精霊を宿しているそうですね?」

 フェデル隊長にそう言われて、僕は頷いた。


 既に、住宅街でソリアーチェを元の大きさにして戦っているのだ。

 目撃者は何人もいるだろう。誤魔化しても仕方が無いことだった。


「貴方がどのようにして大精霊を手に入れたのか、どうしてそれを隠していたのか……なるべく詳しく教えていただけませんか?」

「それは構いませんが……どうしてそのようなことを?」

「……貴方を信用しても良いか、判断するためですよ」


 僕は、ソリアーチェを聖女様から譲り受けた経緯を、なるべく詳しくフェデル隊長に伝えた。

 フェデル隊長は、僕の話を黙って聞いていた。


「……成程。つまり貴方は、聖女様の信頼を得ているわけですね? 大精霊の保有者であることを隠しているのは、やむを得ない理由があるからだと……」

 フェデル隊長が、何度も頷きながら言った。


 どうやら、僕の話を信じてもらえたらしい。

 おそらく、信用しても良いと思ってもらえたのは、大精霊を入手する方法が限られているからだろう。


「念のために確認しておきますが……貴方は、力を制御できるようになれば、大精霊の力を活用して、聖女様や民衆の期待に応えるつもりがあるのですね?」

「はい……」

「では、もしもですよ……? 危険人物を発見したら、この社会から排除する覚悟はありますか? その人物が、自分の仲間だったとしても、です」

「……それは、ソフィアさんの話ですか?」

「ソフィアさんに限らない話です」

「え……?」


 僕は驚いた。

 ソフィアさん以外の仲間が、危険人物?


「実は、オクトがドウン氏殺害を否定していましてね。まあ、大抵の容疑者はそういうものですが……問題は、オクトの供述が、それなりに信用できることです」

 フェデル隊長が、様子を窺うように、こちらを見てきた。

「あの時点でドウン氏を殺害しても、オクトやガルシュにはメリットが無かった。盗品を運び出すことも、仲間を逃がすことも出来ない状況で事件を起こすなんて、どう考えても利口じゃない。そんなことをする理由があるとすれば、ドウン氏が盗賊団を裏切ったり、激しく動揺して理性を失ってしまった時だけでしょう。しかし、そのどちらも可能性としては低いのです……」

 フェデル隊長は、自分の髭を撫でながら間を取った。

「……ドウン氏は、ソフィアさんの言動を知っても、狼狽えた様子ではなかったらしいのです。これは、盗賊団とは関わりの無い使用人から聞いた話なのですが……。不快そうではあったものの、動揺した様子ではなかったらしいのですよ。とすると、オクト達がドウン氏を殺す理由が分からない。では、殺したのがオクトではないとして……ドウン氏が死んで、得をしたのは誰でしょうね?」


 そこまで言われて、僕は気付いた。

 ドウン氏が殺されて得をしたのは、盗賊団の人間ではない。

 警備隊の人達、そして僕達だ。


 ドウン氏が殺されたことによって、警備隊は屋敷の中を捜索する権利を得た。

 そうでなければ、強制捜査などできる状況ではなかったのだ。

 捜査の結果、屋敷からは盗品が発見された。

 それによって、屋敷の人間は全て拘束され、盗賊団のメンバーの多くが捕えられたのである。


 そのおかげで僕達は、盗賊団の他のメンバーについて殆ど気にすることなく、ガルシュやオクトの捜索に集中できた。

 ドウン氏殺害が無ければ、状況は全く違っていたはずだ。


 もしも、警備隊や僕達の中で、誰かがドウン氏を殺したとしたら……誰だ?

 最も疑わしいのはソフィアさんである。


 しかし、ソフィアさんは抹消者ではない。

 監視されていたドウン氏の屋敷に忍び込むことは不可能だろう。

 ということは……?

 そこまで考えて、僕は全身から血の気が引いていくのを感じた。


 レイリスなら……可能だ!


 僕はフェデル隊長の方を見た。彼は、大きく頷いた。

 しかし……そんなことが有り得るのか?


 確かに、レイリスは思い込みで僕を殺そうとしたことがある。

 だが、あの時のドウン氏はまだ、多少疑わしい、といった程度の存在だった。

 容疑者と断定できる根拠など、せいぜいソフィアさんの勘だけだったはずだ。

 それなのに、ドウン氏を殺してしまうのは、あまりにも短絡的ではないか?

 それでは、見込み捜査などという次元を遥かに超えている。

 だが、ソフィアさんは、ドウン氏が怪しいと決めてかかっていたではないか!


 ……そういえば、昨夜、レイリスは僕に何を言おうとしていたんだ?

 まさか、ソフィアさんに命じられて、レイリスが実行した……?

 そこまで考えて、僕は首を振った。


「無論、貴方の仲間が犯人だという証拠はありません。ですが、もしそう断定できたとしたら……お分かりですよね?」

 そう言われて、僕は頷くしかなかった。


 僕が警備隊本部の玄関まで行くと、既に他のメンバーは揃っていた。

「遅いぞ、何を話してたんだ?」

「まさか貴方、本当に何かやったんじゃないでしょうね?」


 ラナとリーザが、僕をからかってくる。

 僕は、笑って誤魔化すしかなかった。


 レイリスがこちらを見上げてくる。

 何故か、彼女の表情が不安そうに見えた。

「……ねえ、レイリス」

 僕が話しかけると、レイリスは肩をビクリと震わせた。

「何?」

「……いや、何でもない」

 何と言ったらいいか分らず、僕は話すのをやめた。


 レイリスは、僕に何も言われず安心したように見えた。

 ソフィアさんは、いつもと変わらない様子で、レイリスの頭を撫でていた。

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