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大精霊の導き  作者: たかまち ゆう


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24話 警備隊長フェデル

 目的地のセリューに到着した時、既に日が沈みかけていた。


 想像以上に大きな街だ。

 とても賑わっている代わりに、スラムも大きくなり、盗賊が付け入る隙も大きくなるのだろう。


「早く宿をとろうぜ?」

「そうね。オクトの一味がまだこの街で活動しているのか、確かめないと」

 僕達は、なるべく安そうな宿に泊まることにした。


 街の人から聞いた安宿に、僕達は辿り着いた。

 その宿も含めて、周囲の建物はかなり傷んでおり、「闇夜の灯火亭」を思い起こさせた。

 道も汚く、いかにも治安の悪い場所、といった雰囲気である。


「ねえ、お兄さん。一杯飲んでいかない? サービスするよ、色々とね?」

 宿の近くにある酒場から声をかけられる。

 かなり際どい格好をした、若い女性だ。

 中をチラッと見たが、男性客に対して、酒を飲ませる以上のサービスを提供していることが窺えた。

「い、いえ、結構です!」

 僕は慌てて拒否する。


 リーザは、何故か僕に対して軽蔑するような視線を向けてきた。

 レイリスは、その酒場を殺意の籠もった目で見ていた。おそらく、実家のことを思い出したのだろう。


「ああ、あの盗賊団かい?」

 宿の主人である老婆は、僕達が盗賊を捕まえに来たのだと伝えると、知っている情報を話してくれた。

「あいつらは、元々スラムのコソ泥集団らしいんだよ。だけどね、最近になって、やたらと金持ちの家を狙うようになったんだ。この街の金持ちは、自分で用心棒を雇ってる人が多いのに、それを出し抜いて大金を奪い取るのさ。どうやら、盗賊の中に、精霊を宿している者が何人もいるらしい。……それにしても驚きだよ。用心棒だって、精霊を宿している人が多いのにねえ。この街の警備隊だって動いてるのに、時々下っ端を捕まえるだけだよ……」


 何だか、おかしい気がした。

 オクトが、単なるコソ泥集団を、本格的な盗賊団に変えたことは分かる。

 だが、オクト一人の力にしては、あまりにも手際が良すぎるのではないだろうか?

 僕は、そんな不安を覚えた。


「明日は、この街の警備隊の、隊長に会いに行きましょう」

 ソフィアさんが、突然そんな提案をした。

「行きましょうって……そんなに簡単に会えませんよ。もし会えたとしても、ただの冒険者に、有力な情報を話したりしませんよ?」

 リーザが、呆れた様子で言った。

「おそらく大丈夫ですよ。セリューの警備隊長とは、以前お会いしていますから」

「それって、聖女様のパーティーにいた時の話か?」

「いいえ、あれは一年ほど前のことです」

「何だ……コネがあるわけじゃないのか」

「きっと会っていただけます。期待してくださって構いませんよ?」

 ソフィアさんがそう言っても、リーザとラナは不安そうな顔をしていた。


 僕も不安を覚えていた。

 ソフィアさんが一目置かれているのは、聖女様のパーティーのメンバーだったからだ。彼女自身の能力の高さによるものではない。

 ただの冒険者であるソフィアさんに、面識があるというだけの理由で、重要な情報を話してくれるとは思えない。

 まさか、この街の警備隊長もソフィアさんに惚れていて、彼女のためならば何でもしてくれる、などということはないと思うのだが……。


 翌日、僕達はセリュー警備隊の本部の中にいた。

 とても居心地が悪い。ソフィアさん以外のメンバーは、ずっと落ち着かない様子である。


 僕達が警備隊の本部を訪れると、門番をしていた男が声を上げた。

 ソフィアさんを見て、かなり動揺している様子だった。

 隊長に会いたいとソフィアさんが告げると、門番の男は建物の中にそれを伝えに行った。

 かなり待たされるだろうと思ったが、僕達はすぐに招き入れられた。

 一体、この街の警備隊とソフィアさんは、どのような関係なのだろうか……?


「大変お待たせしました」

 言いながら、髭を生やした中年の男が入ってくる。

 どうやら、この男が隊長のようだ。


「お久しぶりです、フェデル隊長」

 ソフィアさんが挨拶すると、フェデルと呼ばれた男は意外な反応をした。

 信じられないものを見た、という反応だ。

「……お久しぶりです、ソフィアさん。何だか、雰囲気が変わりましたね」

「あら、そうですか?」


 ソフィアさんは、楽しそうにニコニコと笑っているが、フェデル隊長はとても不思議そうにしていた。

 今のソフィアさんに、特に変わった様子は無い。それを見て驚く、ということは……?


「それで、今日は我々に、何の御用ですか?」

「実は、この街で活動している盗賊団を捕えてほしい、という依頼を受けまして……。ご存知の情報を、教えていただきたいのですが」

「……奴等ですか」

 フェデル隊長は顔を顰めた。やはり、かなり悩まされているようだ。

「貴方にはご迷惑をおかけしましたので、お力になりたいのですが……領主様の命により、この街の治安を守っている我々が、ただの冒険者の助けを借りるわけには……」

「あら、貴方達にお任せしろとおっしゃるのですか? そんなことをしたら、何年かかっても盗賊団を捕まえられませんよ? 素直に、私達の力を借りるべきでしょう」

 ソフィアさんの辛辣な発言に、フェデル隊長は硬直し、僕達は驚愕した。

「……やはり、貴方は一年前とお変わりでないようだ」

「あの時、あの男がたまたま私を襲わなかったら、あと何人の女性が惨殺されていたと思いますか? あれからの僅かな期間で、貴方達が急激に成長したとおっしゃるのでしたら、証拠を見せていただきたいですね」

「我々とて、あの時の力のままではありません。例えば、今ではAランクの精霊を宿している者が常駐しております。盗賊団のメンバーも、既に何人か捕えております」

「捕まえたといっても、どうせ下っ端でしょう? 盗賊団は、変わらず活動している、という話ではないですか。Aランクの精霊の保有者は確かに優れているのでしょう。しかしながら、駒がどれだけ優秀でも、使い手が凡人では役に立ちませんよ」

「……それは私の話ですか?」

「他に誰かいるんですか?」

「……」

 フェデル隊長は黙り込んでしまった。


 僕達も絶句していた。

 この僅かな時間で、色々な意味で信じ難い会話を聞いてしまったからだ。

 ソフィアさんは、普段とはまるで別人のようだった。


 いや、彼女のにこやかな表情は、いつもと変わらない。

 しかし、今はその笑顔が、とても不気味に思えた。


「……貴方の力は知っています。しかし、失礼ながら、貴方のお仲間はどうなのですか? 殆どが女性で子供までいる、となると、容易には信用できないのですが?」

 そう言われて、レイリスはムッとした顔をした。

 ソフィアさんは、レイリスを宥めるように、頭に手を置く。

「優秀な冒険者は、幼い時から第一線で活躍しているものです。そんなことも知らないのですか? 私もヨネスティアラ様も、この子くらいの歳の頃には、一流の冒険者として世間に知られる存在でしたよ?」

「……そういえば、貴方はかつて、聖女様の仲間だったのですよね……」

「そして、こちらのルークさんは、聖女様の仲間に加わることが確約されている方です」

 ソフィアさんが、僕を示しながら、さらっと嘘を吐いた。

「……この男が、ですか?」

「他のメンバーも、全員が強力な精霊を宿しています。少なくとも、貴方達よりは優秀だと思いますよ?」


 ソフィアさんは、更に嘘を重ねた。

 じゃあ見せてみろ、などと言われたらどうするつもりなのか?


 フェデル隊長は、腕組みをして目を閉じ、黙り込んだ。

 僕達に協力するか否かで迷っているらしい。

「……分かりました。貴方がそこまでおっしゃるのでしたら、多少の協力はさせていただきましょう」

「ありがとうございます。ではリーザ、後はお願いします」


 話を丸投げされて、リーザはとても嫌そうな顔をしたが、溜め息を吐いてから話し始めた。

「私達が最も知りたいのは、あの盗賊団の戦力です。我々が事前に聞いていた話から想定される能力とは、乖離した働きをしているように思えるのですが」

「そうでしょうね。我々も驚いているのです。奴等が活動を活発化させてから、本腰を入れて捕まえようとしているのに、何度も取り逃がしているのですから。その原因は、どうやら奴等の精霊にあるようです」

「精霊、ですか? あの盗賊団の精霊は、せいぜいDランクと聞きましたが……?」

「……被害者の中に、精霊のコレクターがいたんですよ」

「何ですって!?」

 リーザが声を荒らげる。


 精霊の保有者は、彼女達を人々の役に立てなければならない。

 これは、当然持つべき倫理観とされている。

 しかし、世の中には精霊をペットだとしか思っていない者がいるのだ。

 そうした者は、個人的な癒しを求めて精霊を購入するのである。

 ペルのようなサイズの精霊ならば、それなりに裕福な者ならば買うことが出来るし、適合する条件もそれほど厳しくない。

 そのため、金持ちが癒しを求めて精霊を買ってしまうのである。


 精霊を召喚して稼いでいる招待者(インバイター)にとっては、客が増えて嬉しいのかもしれない。

 しかし、こうした行為によって、本来ならばもっと安く買えるはずの精霊の相場が、吊り上がってしまうのだ。

 加えて、精霊を投機目的で買う者や、精霊石の状態のまま集めるのを趣味にしている者までいるらしい。

 そうした余計な買い占めのために、志のある冒険者に精霊が供給できない、というのは大問題である。


「盗まれた精霊の中には、Bランクのものもいたらしいのです。それが抹消者(イレイザー)などの手に渡ったとすれば、かなりの脅威です……」

 オクトだ。僕は直感的にそう思った。

 テッドの話によれば、オクトの精霊はDランクだったものの、より上位の精霊を宿す能力があったという。

 きっと、盗みに入った家で強力な精霊を手に入れて、警備隊をも出し抜く能力を得たに違いない。


 僕達は、それ以外の情報も聞き出そうとしたが、詳しい話を聞くことは出来なかった。

 フェデル隊長が情報を出し渋った、というわけではなくて、警備隊にも多くの情報は無いのだろう。


 ただ、僕達は、もう一つだけ有力な情報を教えてもらえた。

 それは、スラムに犯罪者グループのリーダー的な存在がおり、その人物がオクト達を匿っている可能性が高い、という話だ。


 聞きたいことを聞いて、僕達は警備隊の本部を後にした。

 丁寧に御礼をするソフィアさんに対して、フェデル隊長はとても恐縮していた。

 突然押しかけて、散々暴言を吐いたのにこの反応とは……一体、一年前に何があったのだろうか?

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