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22話 共生説と神授説

「あ~あ、やっぱり納得できないな……」

 セリューへと向かう道中。

 案の定、ラナは不満を口にした。


「今回の場合は仕方が無いよ。僕達は、こっちの依頼に集中するしかない」

「この依頼も、どうかと思うぞ? 要するに、『太陽の輝き亭』の不祥事を隠蔽するってことじゃないか」

「隠蔽って……手柄を譲るだけで、オクト達が宿に所属していた事実まで隠蔽するつもりはないみたいだけど……」

「そんなの信用できるかよ。大体、リーザはこれでいいのか? この依頼だって、精霊の私的な利用だろ?」

「元が冒険者でも、盗賊を捕まえることには変わりないでしょ? 私利私欲のために精霊を使っているわけじゃないわ」

「そんなの屁理屈だろ」

「ラナ、私達では彼らの足を引っ張ってしまうことは事実ですから」

「敵を倒す時に、人数は多い方がいいと思うんだけどな……」

「どんな素人考えよ……」

 結局ラナは、どれだけ説得しても、元の依頼を受けるべきだったという考えを変えなかった。


 ラナが文句を言い終えると、今度はリーザが文句を言い始めた。精霊の神授説と共生説についてだ。

「ラナ、貴方、精霊がどうして人間を助けてくれるのか、考えたことがあるの?」

「精霊は、自分の力を上手く発動させられないから、人間に力を貸して、他の魔生物から身を守ってるんだろ?」

 ラナが言ったのは、典型的な共生説の考え方だ。

「でも、精霊を襲う魔生物がいたなんて、記録が全く残ってないのよ? 共生説の考えが本当なら、人間が、精霊を襲う魔生物と戦った伝承が無いのは不自然だわ。それに、上位の精霊に触れた時には、精霊が自分で魔法を使うでしょ? ああやって攻撃すれば、魔生物に襲われても身を守ることが出来るはずよ。そもそも、自分の身を守るためなら、より能力のある人間にだけ力を貸せばいいじゃない。小さな精霊が、大して能力のない人間に力を貸す理由が説明できないわ」

「そんな細かい事、いちいち気にするなよ……」

「一番おかしいのは、殆どの精霊が招待者(インバイター)に呼ばれないと姿を現さないことよ。人間に保護してもらうのが目的なら、放っておいても、精霊の方から人間の所へ来るはずでしょ?」

「まあ、確かにな……」

「今言ったことは、神授説なら何もおかしくないわ。精霊は、魔獣や魔生物に苦しんでいた人類を救うために、神様がくださったのよ。だから、精霊は人間のことが好きで、人間のために力を貸してくれるの。でも、助けてばかりだと人類が堕落するから、人間だって精霊を招く努力をしないといけないんだわ」

「その話が本当なら、でかい精霊だって、あらゆる人間に力を貸してくれればいいじゃないか」

「そんなことをしたら、大きな精霊の力を無駄にしちゃうじゃない。人類を救うためには、より能力のある人間に力を貸すべきよ」

「……じゃあ、ルークは?」

「……」

 ラナの的確な指摘に、リーザの表情が固まった。


 確かに、共生説であれ神授説であれ、僕のような存在のことは説明できない。

 そのことは、ソリアーチェを手に入れた時から、僕も気になっていた。

 何事にも例外はある、と言ってしまえばそれまでなのだが……。


「ヨネスティアラ様は、ルークさんのような人を見つけて、とても嬉しかったでしょうね」

 ソフィアさんが言った。何だか楽しそうな様子だ。

「……確かに、聖女様は僕を見つけて、浮かれたような言動をしていました」

「う、浮かれたって、聖女様が? 嘘でしょ!?」

「本当だよ。聖女様のパーティーの人達も困ってたし……」


 リーザはショックを受けた様子だった。

 聖女様の神聖なイメージに、傷が付いてしまったのだろう。


「へえ、聖女様も、やっぱり普通の人間なんだな……」

「ヨネスティアラ様は、普通の女の子と大して違いませんよ? むしろ、『聖女』のイメージが流布されて、とても困っているんです」

「えっ!?」

「大精霊を宿した回復者(ヒーラー)、というだけで、神聖視してしまう方が多いですから。ヨネスティアラ様は、根がとても真面目な方なので、どうにかしてそのイメージを壊さないように、と努力なさっていました。なので、あの方が本来の自分を表に出すのは、パーティーのメンバーに対してだけです。ルークさんと会った時には、余程嬉しかったのでしょうね」

 ソフィアさんの衝撃的な暴露話を聞いて、リーザもラナも、目を丸くしてしまっている。

「ですから、ヨネスティアラ様は、実は『聖女』と呼ばれるのが好きではないのですよ。自分が、本当はそれほど素晴らしい人間ではない、と思っているからです。そんなことで思い悩むヨネスティアラ様のことが、私はとても好きでした。私としては、聖女の振る舞いなどしなくても良いとお伝えしたのですが……」


 そういえば、聖女様の仲間は、ソフィアさんも含めて、誰もあの人のことを「聖女様」とは呼ばなかった。

 それは、本人が嫌がったからなのだろう。


 衝撃の事実を知って、リーザは激しく動揺した表情で黙り込んでしまった。

 ラナも、何と言ったら良いのか分からない様子である。


「……ソフィアさん、それ、内緒の話……」

 レイリスが、困った様子で言った。

 どうやらソフィアさんは、今の話をレイリスにはしたことがあるらしい。

「あら、いけない。今の話は、決して言い触らさないでくださいね?」

「一番危ないのはソフィアさんだろ……」

 ラナがジト目で言った。


「……あの、聖女様はどうして、僕と会ったことが嬉しかったんでしょうか?」

「簡単な話です。ヨネスティアラ様は、共生説には否定的でしたが、神授説を盲信していたわけではありません。むしろ、我々が知らない『精霊の本質』があるはずだとお考えでした。それに辿り着くことができれば、精霊の存在意義を解明することが出来るというのが、ヨネスティアラ様のお考えです。だからこそ、ルークさんのような例外的な存在がいることを歓迎したのでしょう」

「……つまり、僕が何故精霊に好かれるのかを突き止めれば、精霊がどのような存在なのかが分かる、ということですか?」

「そういうことです」


 分かるような、分からないような話だった。

 はっきりと分かったのは、聖女様が世間のイメージとのギャップに苦しんでいた、ということと、ソフィアさんは口が軽い、ということだけだった。

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