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20話 抹消者レイリス

 その日のうちに、クレセアさんは他の宿に対して、今回の依頼に僕達が参加することを通達した。

 他の宿からは、予想以上に強い反発を受けたようだ。

 クレセアさんは、暫くの間落ち込んでいた。

 しかし、こちらとしても、引き下がるわけにはいかない。


 僕達は、3日後の出発に備えて、急いで準備を進めた。

 そのための資金は、クレセアさんがその日のうちに質屋から調達してくれた。

 クレセアさんによると、交渉は驚くほどあっさりと済んだという。

 足元を見られて大変なことになるのではないか、という懸念が解消されたのは幸いだった。


 二人になれるタイミングを見つけて、僕はリーザに尋ねた。

「リーザは、冒険者を辞めるつもりなのに、こんなに危険な依頼を受けるの?」

 そう言われると、リーザは困った顔をした。

「だって、このタイミングで辞めたら、裏切るみたいで嫌じゃない。今回の依頼が終わったら、後腐れ無く辞められるでしょ?」

「……でも、今回の依頼は危険だよ? 生きて帰れないかもしれないんだよ?」

「怖いこと言わないで! 考えないようにしてるんだから!」


 予想以上に激しい反応である。

 やはり、恐怖心はあるようだ。


「怖いなら、無理はしない方がいいと思うけど……」

「私だって、クレセアさんに恩返しがしたいのよ。辞めるからには、自分で納得できる終わり方にしたいの」


 リーザの決心は固いようだった。

 僕は、くれぐれも無理はしないように、と伝えた。


「ラナは、本当に今回の依頼に参加するの?」

 リーザの時と同じように、僕はラナに尋ねた。

「当たり前だろ? まさか、来るなって言うつもりか?」

「だって、ラナは武器を替えてから、実戦の経験が無いじゃないか。心配するのは当たり前だよ」

「あたしだって訓練は積んでるんだ。前と比べれば、動きも良くなったし、防御のタイミングだってマシになったはずだぞ?」

「それは、元がそんなに良くなかったからでしょ? 今回の依頼は、本当に危険なんだよ?」

「危険だから、Aランク以上の精霊が5体も集まるんだろ? なら、今までの依頼より、安全なくらいだと思うけどな」

「……」


 ラナは、あまりにも楽観的だった。

 相手が本当に魔生物だったら、こちらが全滅する可能性だって否定できないのだが……。

 僕は、何度も止めたが、ラナは考えを変えるつもりはなさそうだった。


「ねえ、レイリス。今回の依頼には、他の宿の冒険者も参加するんだけど、大丈夫なの?」

 僕は、レイリスにも懸念をぶつけてみた。

「……どうせ何も話さないから」

「初めて会う人が怖いっていう感覚は、分からなくはないけど……。一時的にでもパーティーを組むなら、仲良くした方がいいよ?」

「……それは無理」


 そう言うと、レイリスは逃げ去ってしまった。

 このパーティーからリーザがいなくなったり、僕が抜けたりしたら、新たなメンバーを加える必要があるだろう。

 その時に苦労しそうだと思った。


「あの子は、他人を避けて生きてきたんです」

 突然声をかけられた。

 いつの間にか、僕の後ろにソフィアさんが立っている。

「レイリスの家は酒場でした。あの子の母親は奔放な方で、レイリスの父親は誰だか分らないそうです。母親はあの子を愛していましたが、客の中には、娘であるレイリスのことも、そういう目で見る人が少なくなかったようですね。そういった環境で、レイリスは目立ちたくない、他人と関わりたくない、と考えるようになったのです」

 ソフィアさんに説明されて、僕は納得した。


 街のきちんとした酒場ならともかく、そうでない酒場には、タチの悪い客が多く来る。

 そうした場所で働く女性の中には、レイリスの母親のようなタイプの女性も少なくないのだ。


「それで、レイリスは抹消者の適性を獲得したんですね?」

 僕の言葉に、ソフィアさんは頷いた。


 幼い時ならば、後天的に専門の能力を獲得することは可能である。

 下卑た視線を避けたい、というレイリスの感情が、彼女に目立たなくなる能力を身につけさせたのだろう。


「そのような経緯があるので、私はレイリスに無理をさせたくありません。あの子は、あのような性格だからこそ身を守れているのです」

「でも、今のままだと、メンバーが入れ替わったら大変でしょう?」

「レイリスのことは私が守ります。あの子の母親にも、必ず無事に暮らさせるとお約束しましたので」


「……ところで、ソフィアさんは今回の依頼、大丈夫なんですか? その……ご病気をなさったとか……」

「隠さなくてもいいんですよ。クレセアさんから聞いたのでしょう? 私が以前のように戦えなくなったのは、心理的な要因の影響です」


 ソフィアさんは悲しげな様子だった。

 きっと、とても辛い出来事があったのだろう。


「ですが、ご安心ください。きっと、今回の依頼ではお役に立ってみせますから」

「無理はしないでくださいね?」

「ルークさんも、魔法の暴発にはくれぐれも気を付けてください。他の宿の方々もいらっしゃる状況で、迂闊なことをすれば大変なことになりますから」

「……はい」

 ひょっとしたら、僕達は、お互いのことを一番不安視しているのかもしれない。そう感じた。


 僕らは、その依頼を受けるつもりで準備を進めていた。

 しかしそこに、思いもよらない横槍が入ることになる。

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