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17話 支援者ソフィア

 その夜、リーザが部屋に来た。

 扉を開けた時に、リーザが少しだけ笑顔になったように見えて、僕はドキリとした。


 軽く挨拶を交わして、彼女を部屋に招き入れる。

 部屋で二人きりになって、僕は昨日のリーザの姿を思い出してしまった。


「今日は、また何か相談があるの?」

「昨日のこと、謝ってもらおうと思って」

 そう言われて、僕は動揺した。

「私が襲われた時に、どさくさに紛れて身体を鑑賞したでしょ? 貴方、最低だわ」

「いや、あの時そういうつもりは……!」

「冗談よ。あの時の貴方、心配そうな顔をしてたもの。まあ、全く気にしてないって言ったら嘘になるけど……貴方に脱がされたわけじゃないし、許してあげるわ」

「あ、ありがとう……」

「本当は、貴方にお礼を言いに来たの」

「お礼?」

「昨日は助けてくれてありがとう。あのまま連れ去られたら、間違い無く殺されてたでしょうし……きっとそれだけじゃ済まなかったもの。本当に感謝してるわ」

「う、うん……」

「それだけ言いたかったの。じゃあね」

 そう言って、リーザは部屋から出て行った。


 リーザって、ひょっとして僕に気があるんじゃないだろうか……?

 そんなことを考えてしまって、僕は首を振った。


 ステラの時もそうだった。

 彼女が優しくしてくれるので、僕に恋愛感情を持っているのではないか、と思ってしまったのだ。


 ステラについては、そのような勘違いをしてしまう男が、僕以外にもたくさんいた。

 彼女は、誰に対しても優しいのだ。

 そんな彼女のことを、クラフトさんはいつも気にかけていた。

 ポールにも似たような経験があったらしく、僕に、勘違いをしないようにと直接忠告してきた。


 しかしリーザは、ステラとは全く違う。

 彼女には、どうすれば僕に頼み事をし易いか、計算しているようなところがある。

 決して軽い女には見えない彼女が、わざわざ僕の部屋まで来て手を握ったのだ。普段の態度からは想像できないような行為である。


 しかし、あんな姿を見られても、本気で怒っている様子が無いところをみると……。

 いや、彼女は、僕に助けてもらったことを感謝しているから、ああいう態度なのだろう。

 それでも、ひょっとしたら……などと考えてしまうのが、僕の駄目なところである。


 帰りの行程では、何も問題は起こらなかった。

 あんなことがあったので、街道に戻ってからも警戒は続けたが、誰かに襲われるようなことは無かった。


 旅を終えて宿に戻ると、クレセアさんが安心した様子で出迎えてくれた。

 そして、僕達は依頼を無事達成したことを祝った。

 本当は、ラナだけは無事だったとは言えないのだが、祝おうと言い出したのが彼女なので、誰も反対しなかった。


「これからも、このパーティーで地道に頑張ろうな!」

 ラナがそう言うと、リーザは少しだけ悲しそうな顔をした。

 しかし、祝いの席ということもあり、彼女がパーティーから抜けることは言わなかった。


 その夜、僕は久し振りに宿の自室に戻った。

 部屋は綺麗で、クレセアさんがきちんと掃除してくれていることが分かった。


 そろそろ寝ようと考えていると、僕の部屋の扉を何者かがノックした。

「……リーザ?」

「いいえ、私です」

 この声は……ソフィアさん?

 僕は、不思議に思いながら扉を開けた。


 そこには、ナイトウェア姿のソフィアさんが立っていた。

「えっ!? ちょっと!?」

「何か?」

 キョトンとした顔で言われてしまった。僕は慌てて彼女を部屋の中に入れる。

「駄目ですよ! 女性がそんな格好で出歩いたら!」

「どうしてですか?」

「いや、どうしてって……」

「裸ではないのですから、問題はないでしょう?」

 彼女は、決して僕をからかったり、誘ったりしているわけではないようだ。


 どうやら、ソフィアさんには男を警戒する習慣が無いらしい。

 よく今まで無事だったものである。

 下着が若干透けてしまっていることを、指摘した方が彼女のためかもしれない。


 ……いや、本当は、自分の反応の方が過剰なのかもしれないのだが。

 例えば、冒険者が遠出をする際に、途中で見つけた川や湖で水浴びをする、などというのはよくあることだ。

 そうした時に、見張りを立てたとしても、誰かに見られる可能性が全く無いわけではない。


 それに、冒険者などやっていれば、入浴中に襲撃を受ける可能性も否定できない。

 そうなったら、全裸であっても戦わなければならないのだ。

 そういう意味では、男に見られることを気にしていたら、冒険者は務まらないと言える。


 だが、少なくともステラは、男の目をとても気にしていた。

 彼女は、水浴びをポールに覗かれた経験があり、そのことで強いショックを受けていた。

 そのため、冒険者であっても、女性としてはそちらが普通だと思っているのだが……。


 そんなことを考えていて、ふと我に返った。

 今、僕とソフィアさんは、部屋に二人だけで向き合う形になっている。

 自分の顔が紅潮していることが、自分で分かった。


 改めて見ると、彼女のナイトウェアは安物ではないようだ。

 きちんと全身を覆える物であり、リーザが身に着けていた物のように、胸の谷間や太腿が見えているわけではなかった。

 しかし、生地が薄手の物であることには変わりない。

 彼女はとてもスタイルが良いので、目のやり場に困った。


「……どうしたんですか? こんな時間に?」

「実は、お話したいことがありまして」

「……何ですか?」

「ルークさんに確認しておきたいのですが、リーザとの関係は、どこまで進んだのでしょうか?」

「……えっ?」

「大事なのはお互いの気持ちですから、他人が口を出すのは野暮なのですが……もう男女の関係になってしまったのでしたら、それなりの責任は取っていただきたいのです。二人が真剣なのでしたら、私も応援するので」

「ちょっと待ってください! 一体何の話をしてるんですか?」

「リーザが、ルークさんの部屋を2回も訪れているでしょう? 若い男女ですから、そういった関係になるのが早いことは構わないのですが、遊びのような関係は良くないと思います」

「違いますよ! 僕とリーザは、そういう関係じゃありませんから!」

「違うのですか? 男女の関係でないのでしたら、リーザが男性の部屋に一人で行く理由が分からないのですが……」

 困った。リーザが僕の部屋に入るところを見られたのか、声を聞かれたのか……。


「それは……大事な相談があったので……」

「大事な相談とは?」

「それは……僕の口からはちょっと……」

「ひょっとして、リーザは冒険者を辞めるつもりなのでしょうか?」

「……」

「やはりそうなのですね? クレセアさんから、リーザが新しい職を探していると聞いて、まさかと思ったのですが……」

「……知っていたんですか」

「あの子は、頭が良い分だけ諦めるのが早いんです。でも、あの子のポテンシャルは、まだ完全には発揮されていません。それを引き出せれば、まだ冒険者として頑張れると思うのですが……」


 ソフィアさんは残念そうだ。

 彼女は、今のパーティーで依頼を受けることを楽しんでいるので、メンバーが抜けるのは嫌なのだろう。


「……すいません。リーザが冒険者を辞めると決心したのは、僕がパーティーに加わったからなんです」

「それは、お気になさらないでください。ルークさんがいなくても、結局こうなっていたと思いますから。ですが……出来れば、リーザがパーティーに残るように説得していただけませんか?」

「それは……僕には無理だと思います。むしろ、ソフィアさんが説得すればいいんじゃないんですか?」

「私は、リーザに呆れられてしまっているので……」

 ソフィアさんは、申し訳なさそうに言った。


 確かに、普段のソフィアさんの様子を見ていたら、かつて聖女様のパーティーに所属していた、というのが信じられないほどだ。

 リーザが、この人には付いていけない、と思っても無理はない。


「……でも、ラナが襲われた時は、敵の足を正確に撃ち抜いてましたよね?」

「あれは偶然です。相手を逃がさないために、必死でしたから……」


 ……だったら、人の後ろから敵を狙うのはやめてほしい。そう抗議しようと思ったが、やめた。

 あの時は、精神的な障害を克服できるほど集中していたのだろう。


「……リーザに残ってほしいのは、僕も同じです。何とか、説得する方法を考えてみます」

「よろしくお願いします」


 深々と頭を下げてから、ソフィアさんは部屋を出ようとした。

 僕は、慌てて彼女を引き留めて、上着を貸した。

 ソフィアさんは笑顔でお礼を言ってくれたが、その必要性については理解していない様子だった。


 考える、とは言ったものの、僕にはリーザを説得する方法なんて思い浮かばなかった。

 僕が加わって、リーザがパーティーを抜けたいと思ったのであれば、僕が身を退けばいい。

 しかし、今更そうしたところで、リーザがパーティーに残ってくれるとは思えない。

 彼女は、自分の能力に疑問を抱いてしまっているのだ。


 色々と考えたが、結局、事態を打開するきっかけになるようなアイディアすら考え付かなかった。

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