著作権料回収箱
朝の教室――
教室の後ろに箱を設置する雉。
鵯「その箱は目安箱ピーヨ?」
雉「違うよケンケン。これはヘロンの公式著作権料回収箱と言って、ヘロンの公式を1回使う度に100円を入れるんだケンケン。」
鵯「ヘロンの公式著作権料回収箱ピーヨ?」
雉「そうだよケンケン。」
鶏庭子「ということは、『ヘロンの非公式著作権料回収箱』っていうのもあるのフガ?」
雉「公式とか非公式とかいう公式じゃなくって『ヘロンの公式』っていうのは、
三角形の3辺の長さから面積を出す数式のことだよケンケン。授業でやったよねケンケン。」
庭子「そんなのやったっけフガ?」
雉「そんなのとはなんだケンケン」
鵯「なんのために箱を置いたのピーヨ」
雉「ヘロンの公式を1回使う度に100円を入れるんだケンケン。」
庭子「誰がフガ?」
雉「使った鳥がケンケン。」
庭子「もし100円が無いときはフガ?」
雉「基本的に公式は使えないけど、どうしてもヘロンの公式を使いたいときは、僕が代わりに100円を入れておくから、付け払いでいいよケンケン。」
鵯「だけど、なんで雉くんが設置したのピーヨ?」
雉「今日、さっき、サギラックのヘロン先生から任命されたんだケンケン。」
鵯「じゃあ、私がサギラックのピタゴラス先生から任命されたら、ピタゴラスの定理をみんなが使う度に私が100円を回収するのピーヨ?」
雉「ところが、ピタゴラスの定理は著作権が切れているんだケンケン。」
鵯・庭子「ふ~んピーヨフガ」
数学の宿題をやっている大葦切。
雉「あ、大葦切くん、ヘロンの公式を使って宿題をやっているケンケン。」
大葦切「そうだよ行行子。」
雉「じゃあ、この箱に100円を著作権料として払ってよケンケン。」
大葦切「えっ、何それ行行子。」
雉「ヘロンの公式を1回使う度に著作権料として100円を入れるんだケンケン。
お金を払わずに使うのは犯罪行為なんだケンケン。」
大葦切「著作権料なんて仰々しい行行子。」
鵯「大葦切くんは『仰々しい行行子』という洒落を言うためにこの学校に入ったのピーヨ?」
大葦切「うーん、洒落を言っているつもりはないけど行行子。・・・
でももし僕が『仰々しい』という言葉を作り出したとしたら、
世の中で『仰々しい』という言葉が使われる度に、100円を回収できるの行行子?」
雉「うーん、そんなふうにはならないと思うけどケンケン。」
大葦切「ほら、やっぱりおかしいよ行行子。
ひょっとして、雉くんは詐欺の手羽先になったんじゃないのか行行子。」
雉「ぼ、僕はみんなを犯罪者にしたくないからやっているだけだよケンケン。」
大葦切「詐欺をやる鳥はみんな自分を正当化するんだ行行子。」
雉「じゃあ、僕が代わりに100円を箱に入れるから、後で100円を僕に頂戴よケンケン。」
雉は100円を箱に入れた。
雉「後で僕に払ってねケンケン。」
大葦切「雉くんが箱に100円を入れるのは雉くんの勝手だけど、
僕が雉くんに借金を負うのはいやだよ行行子。」
雉「大葦切くんのことを犯罪者にしないために僕が100円払ったのに、
借金を負いたくないというのは勝手じゃないかケンケン。」
鵯「ちょっと待ってよピーヨ。
杜鵑くんのお父さんに、
本当に、ヘロンの公式に著作権があるか調べてもらおうピーヨ」
いきなり出てきた感があるが、
クラスには杜鵑もいる。
鵯「杜鵑くんのお父さんは、東京特許許や局に勤めているんだよねピーヨ。
そうだよね、杜鵑くん、ピーヨ」
杜鵑「とうきょう とっひょ きょひゃきょくだよ、特許許可局。」
ちなみに、特許許可局のところが鳴き声。
鷹子「きょうきょう きょっきょ きょきゃきょく、だよねキッキッ?」
燕「きょうきょう とっきょ きょやきょくチュピ?」
大葦切「とうきょう とっきょ きょひゃひょきゅ、だよ行行子」
鶯「きょうきょう きょっきょ きょきゃきょきゅ、チャッチャッ」
雲雀「とうきょう とっきょ きょひゃきょきゅ、日一分 日一分 利取る 利取る」
庭子「とうこう こっこ こかこくフガ?」
烏「かあかあ かっか かかかく カア」
虎鶫「ひょうひょう ひょっひょ ひょひゃひゅひゅ フィー フィー」
庭子「『フィー フィー』って、聴力検査かと思ったら、虎鶫くんの鳴き声だったかフガ」
鵯「ひょうひょう ひょっひょ ひょひゃひょひゅピーヨ」
燕「なんで鵯は初めより悪くなってるのチュピ」
鵯「虎鶫くんを真似たんだよピーヨ」
雉が「何ふざけているんだケンケン」と怒り出そうとしたとき、
雉鳩が「ぽうぽう ぽっぽ ぽぱぽぷ ボーボーッポッポー ボーボーッポッポー ボー」と言ったので、雉は雉鳩の鳴き声のおかげで力が抜けて、思わず踊ってしまい、怒り出さずに済んだ。
杜鵑「とうきょう とっひょ きょひゃきょくだよ特許許可局。」
庭子「今、いいこと思い付いたフガ。
杜鵑くんは、『とうきょう』だけ言えばいいんだよフガ」
杜鵑「とうきょう 特許許可局」
やっと言えた。
鷹子「で、クラスのみんなが集まってきたけど、みんな、早口言葉大会じゃないのよキッキッ。
わかっているキッキッ?」
庭子「そうだったフガ。何が問題だったんだっけフガ?」
雉「ヘロンの公式を使うのに、お金を払う必要があるかだよケンケン」
燕「ちょっと待って、そもそも、特許許可局と著作権は関係ないはずチュピ」
鵯「なんでピーヨ?」
燕「特許は特許で、著作権は著作権なんだチュピ」
鵯「それは説明になってないよピーヨ」
燕「産業上利用することができる発明をした者は、その発明について特許を受けることができるんだチュピ。
発明とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうんだチュピ。
一方、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうんだチュピ。そして、著作物を創作すると『著作者』になって、著作者に与えられる権利を著作権というんだチュピ。」
鵯「ってなんだかよくわからないよピーヨ。
でも、なんとなく特許権と著作権が違うみたいな感じがしてきたピーヨ。」
鷹子「でも、違っても、訊いたらわかるんじゃないのキッキッ?
まあ、ここは杜鵑くんがお父さんに訊いた答えを待とうキッキッ」




