中学を巣立つ日
庭子の話に戻ります。
―――中学校の卒業式の日
なーんか、違和感を覚える。
庭子は不思議な感じがした。
中学校の記憶がほとんど無い。
中学校では、体育祭とか文化祭とか修学旅行とか歌声交歓会とか、そういった行事があったはずだとは思うんだが、その記憶がない。
一体、自分は何部にいたんだろうか。
ソフトボール部だろうか卓球部だろうか剣道部だろうか卓上旅行部だろうか将棋部だろうか、将又経理部とか人事部だろうか、まったく何の記憶もない。
この2か月くらい、ずうっと疑問に思ってきたことだが、
今日、その疑問は最高潮に達した。
卒業式のとき、そして、そのあと、クラスに戻ってきたとき、
クラスメートの鶏たちが、何をそんなに泣いたりしているのか、さっぱり理解できなかった。
この中学校に対して、懐かしいとか楽しかったとか、もっと勉強を頑張ればよかったとか、そういった感情がなにも浮かばなかった。
この中学校においての記憶は、
「なぜかよくわからない理由により、只野柏高校を受験することになった」
ということだけと言っても過言ではない。
―教室で
尾長先生(担任)「さあ、遂に今日は、みんなこの中学校を巣立つことになったんだねギーキッキッ。
修学旅行とか体育祭とか、いろいろな行事があったねギーキッキッ。」
「あったねギーキッキッ」てったって、こっちは記憶も何もないのだから仕方ない。
先生の話は早く終わって欲しかった。
あ~、さっぱりわからない。
・・・
「さあ、それじゃあ、最後の通知表を返すよギーキッキッ。」
「阿良加奈 加奈 ギーキッキッ」
「はいホゲ」
呼ばれたら通知表を先生のところに取りに行く。
「小国 国雄 ギーキッキッ」
「はいコケ」
「赤色野鶏 赤雄 ギーキッキッ」
「はいコケ」
「東天紅 紅希 ギーキッキッ」
「はい、コッケコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォ」
「はいわかった、もういいギーキッキッ。いつも元気がいいなあギーキッキッ」
「實加 ルカ ギーキッキッ」
「はいホゲ」
「尾長鳥 長雄 ギーキッキッ」
「はいコケ」
・・・
「ニワトリにわこギーキッキッ」
・・・
「おい、ニワトリギーキッキッ」
・・・
庭子は不意を突っつかれた(注)。
「ニ、ワ、ト、リ、ギーキッキッ! お前だよギーキッキッ」と担任は庭子を見た。
庭子「あ、はいフガ」
なぜか文末はピヨからフガに変わっていた。
えっ? フガって何? クラス中の鶏が庭子を見た。
へぇえ、鶏庭子は声変わりしたんだ。
「もう、ちいさくってかあわいい『ホゲピヨちゃん』じゃないのぉおホゲ?
なんかしばらく話さなかった間に随分成長したんだねぇホゲ。」
・・・
さて、通知表を返し終わると、尾長先生は、こう言った。
「さあ、遂に今日は、みんなこの中学校を巣立つことになったんだねギーキッキッ。
修学旅行とか体育祭とか、いろいろな行事があったねギーキッキッ。」
それはついさっき言ったでしょう。
「君たちは、生まれてから今まで、親や周りの人に見守られて生きてきてそして遂に今日卒業することになったんだねギーキッキッ。
君たちの両親は、きっと君たちが健やかに成長することを願っているだろうねギーキッキッ。・・・
でも、両親にも親がいるよねギーキッキッ。つまり、君たちのおじいちゃん・おばあちゃんだねギーキッキッ。おじいちゃん、おばあちゃんも、子供や孫が成長することを願っていたんだろうねギーキッキッ。
おじいちゃん、おばあちゃんも両親がいたんだよねギーキッキッ。
君たちは、そういうたくさんの祖先の遺伝子を引き継いでいるんだねギーキッキッ」
なんだか随分退屈な話を始めたな。
「両親は2羽、おじいちゃん・おばあちゃんは4羽、ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんは8羽、・・・・
そう考えていくと・・・ギーキッキッ。
・・・
に、わ、と、り、・・・なんかぼーっとしているから、ちょっと問題を出すぞギーキッキッ」
庭子「えっ、いきなりフガ?」
「1代前の両親は2羽、2代前のおじいちゃん・おばあちゃんは4羽、3代前のひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんは8羽、・・・と考えていくと、
n代前の祖先は何羽だったギーキッキッ?」
庭子「うーんと・・・フガ」
「じゃあ、2の何乗ギーキッキッ?」
庭子「2のn乗ですフガ」
「そうだギーキッキッ。・・・じゃあ、1000代前の祖先は2の1000乗羽、1000万代前の祖先は2の1000万乗羽になるけど、それは計算すると何羽になるかなギーキッキッ」
庭子「えっ、1000万代前まで遡ると恐竜になってしまうと思うけど、恐竜も『羽』で数えるのかなあフガ」
―――
【注釈】
「不意を突っつかれた」:これは「不意をつかれた」という表現がより正しいのではないかと思います。




