目白と鶯
仕事のない庭子パパが街をぶらついていると、梅の木に黄緑色の鳥が留まっていた。
あ、鶯だ。
やっぱり春と言えば鶯の鳴き声だ。
庭子パパ「こんにちは、うぐいすさんコケ。お願いがあるのですが、ホーホケキョと鳴いてくれませんかコケ。」
「私は鶯じゃないですチーィ。」
鳥は白メガネをクイッと上げながら言った。
「私は目白と言いまして、よく間違えられるんですチーィ。
けど、鶯さんと友達なんですチーィ。
部長さん、フンももらえるように鶯さんに言ってみましょうかチーィ。・・・
これから鶯さんを呼んできましょうかチーィ。部長さん、奥さんに鶯のフンをどうですかチーィ」
「『部長さん』って・・・、この間、会社をくびになったんだけどコケ」
目白「それは失礼しましたチーィ。でもまあ、旦那さん、奥さんにいかがですかチーィ」
「鶯のフンですかコケ。妻には苦労もかけているし、喜ぶ妻の顔も見たいしコケ」
目白「ただ、とても貴重なものなのでタダというわけにはいきませんチーィ。では『ひとフン』どのくらい出せますかチーィ。」
「『ひとフンどのくらい』って、何グラムってことですかコケ」
目白「違いますチーィ。旦那さんに出してもらうのはお金ですチーィ。鶯さんに『ひとフン』してもらうんですけど、金額はいかほど出せますかチーィ」
「では、このくらいコケ」
庭子パパは、指で「2」を出した。
目白「そ、そんなに・・・チーィ。そんなに出していただけますかチーィ。では鶯さんを連れてきますチーィ。売買代金は鶯さんのものですチーィ。申し訳ないですが、私には仲介手数料を1割くれますかチーィ」
「ええいいですよコケ」
目白は急いで鶯を連れてきて、庭子パパに言った。
「連れてきましたチーィ。では早速ヒトふんばりしてもらいましょうチーィ」
けれど、鶯はとても恥ずかしそうにしている。
別に今回に限った話ではなく、
鶯は恥ずかしがり屋で、あまり人(?)前に出てこない。
目白「ちょっと茂みでしてもらいましょうかチーィ。
私は受けをしてきますチーィ」
目白と鶯は茂みに向かっていった。
・・・
目白と鶯は茂みから戻ってきた。
目白はビニール袋に入った物を持っている。
目白「さあ、取れたてのフンですチーィ。・・・」
目白は電卓を叩きながら言った。
(目白は用意がいいなあ。電卓を携帯しているのか。
仲介手数料なんて言って・・・商売人なんだろうか。)
「それでは仲介手数料込みで2万2000円となりますチーィ。消費税は込みでいいですよチーィ」
「エッ、2万2000円は高いでしょうコケ」
目白「『2』って2万円じゃないんですかチーィ。仲介手数料込みで2万2000円なのですがチーィ」
「『2』というのは200円というつもりでしたコケ。仲介手数料込みで220円ならいいのですがコケ」
目白「でも、デキタテの新鮮なフンを200円と言われては困りますチーィ。それに私は受けまでして20円しかもらえないのですかチーィ」
「受けまでっておっしゃっても、直接手で触ったわけじゃないでしょうコケ。大体、受けは売買代金の200円のほうに含まれるのではないかとコケ。
受けの分は、鶯さんから分けてもらえばいいかと思いますコケ。
それにデキタテなので、水分もたくさん入っているでしょうコケ。有効成分は、ごくわずかではないかとコケ」
目白「うーんそうですかねチーィ」
「私はお金があんまりないんですコケ。さっきも言いましたけど、私はついこないだ失業してしまったのですコケ。妻には迷惑をかけているんですコケ。今日も、『奥さんにどう』という宣伝文句でつい購入を決意してしまったのですコケ。2万2000円なんて言ったら家に帰って妻に怒られますコケ」
目白「そうですか、しょうがないですねチーィ。物を鶯さんの体の中に戻すわけにいかないしチーィ。しょうがないので、2万2000円と220円の間にしましょうかチーィ。
2万2000円+220円=2万2220円で、それを2で割ると1万1110円になりますチーィ。これでいいでしょうチーィ」
「いや、1万1110円でも高い感じはしますコケ。
2万2000円と220円の間と言えば、2200円でしょうコケ」
目白「確かに2200円という感じはしますチーィ。でも、理屈では1万1110円になるはずですがチーィ」
「自分の2200円という感じを大切にしましょうコケ。
いいですか・・・常用対数って知ってますかコケ」
目白「うーん、旦那さん、急に難しいこと言い出しますねチーィ。なんとなく、高校の数学で習った感じがしますチーィ」
「常用対数で Log 100 は、2ですコケ(注)。
Log 10000 は、4ですコケ。
ここまではいいですかコケ。」
目白「10を何乗したらその数になるかってことですよねチーィ。
10を2乗したら100、
10を4乗したら10000ってことですよねチーィ」
「そうですコケ。
Log 22000 は、4.3424ですコケ。
Log 220 は、2.3424ですコケ。
では、この2つの間の、Log x = 3.3424 になる x は いくつですかコケ。」
「10の3.3424乗はいくつかということですかチーィ」
目白は白メガネをクイッした。
「そうですコケ。さすが目白さん頭がいいですねコケ」
「えーと、」電卓を叩きながら目白は答えた「2199.885・・・ですチーィ」
「細かなずれがありますけど、2200円ってことですよねコケ」
目白「つまり、
Log 22000 = 4.3424
Log 220 = 2.3424
Log 2200 = 3.3424(注)
ということは、22000と220の真ん中は2200ってことですかチーィ。
確かにそんな感じもしましたチーィ」
目白は白メガネをクイッした。
「さすが、目白さん頭いい~~コケ。物分りがいいですねコケ」
目白は「頭いい~~」と言われるのがまんざらでもなさそうだ。
目白「分かりましたチーィ。大出血サービス、いいでしょうチーィ。2200円でいいですチーィ。今日は本当に勉強しましたチーィ。」
「ありがとうございますコケ。」
・・・
――おうちにて。
庭子ママ「えぇホゲ? こんなくっさいウンコが2200円もするのホゲ?
その鳥、本当に『ホーホケキョ』って鳴いたのホゲ?
鶯がうんこしたところ本当に見たのホゲ?
だいたい、失礼じゃないのホゲ。私の顔ってそんなに皺があったりくすみがあったりするのかしらホゲ。」
「これでもケッコー負けてもらったコケ。そこまで言うなら、人(?)に譲ろうかコケ」
「い、いや、いいよホゲ。せっかく買ってきたんだしホゲ。
もったいないからもらっておくわホゲ」
―――
【注釈】
「Log 100」:ここでは常用対数(10を底とする対数)を、先頭を大文字にしたLogで表している。
「Log 22000 = 4.3424」など:厳密には、イコールではなくニアリーイコールであるべきだが、・・・ま、細かいことはいいでしょう。




