清水公園
1月の或る休みの日の午後、庭子は出かけることにした。
庭子ヒヨコ「ちょっと出かけてくるピヨ」
庭子ママ「ちょっと、どこ行くのホゲ。勉強がんばるんじゃなかったのホゲ。」
「勉強はけっこうやったから、志望校見てくるピヨ」
「いきなり行ったって、勝手に入るわけ行かないでしょホゲ?」
「なんかこう、外からでも見てくると目標に向かって勉強に身が入るような気がするからピヨ」
「遅くならない内に帰りなさいホゲ」
本当は違っていた。
庭子はもっと別のものを見たかった。
庭子は駅から野田線の電車に乗った。
電車は、流山という山を越え、運河という川を越え、野や田んぼも越えて行った。
おっきなゲージがありそれが街などを囲んでいるのだとしたら、きっとどこかでぶつかっているはずだ。
でも、そんなものはなかった。
庭子は清水公園という駅で電車から降りた。
庭子の記憶では、駅からまっすぐの道を歩いて行けば、清水公園に着くはずだ。
と思って歩き始めたらすぐ公園に着いた。
清水公園は、以前、何度も連れてこられた公園だ(自分の記憶では)。
すると、1羽の烏のおじさんがやってきた。
「そこのヒヨコちゃん、ママとはぐれちゃったのかなカア」
とその烏のおじさんは言ったので、
庭子は「こう見えても中三なんでピヨ。自分だけで来たしピヨ。
ほら、知らない人(?)についてっちゃいけないって言うしピヨ」と答えた。
知らない人(というか鳥)についてっちゃいけないならついて行かなければいいだけなのに、
わざわざ相手に言うところがまだヒヨコである。
庭子は一人(?)で公園の中を歩き回ってみた。
風の冷たいこの寒い中、そんなに人出(ていうか「鳥出」?)は多くないけど、
確かにアスレチックとか、池とか、迷路とか、バーベキューやるところとか、さまざまなものが自分の記憶の中のものと結び付いていった。
アスレチックでは、水の中に落ちたんだっけ。
ポニーがいたっけか。
・・・
そんなことを考えながらけっこう長いこと公園を歩き回っていると、
日は傾いてきていて、どこからか
「夕焼け小焼け」の曲が流れてきた。
もう帰ろうかなと思っていたら、
さっきの烏のおじさんがやってきた。
「おねえちゃん、ずっと黙っていて、ピヨとも言わないんだねカア」
「だから、さっきも言ったと思うけどピヨ。
知らないおじさんについてっちゃいけないんだよピヨ」
「知らない鳥についてっちゃいけないのはわかったけど、
歌でも"烏といっしょに帰りましょう"と言うでしょカア」と言った。
庭子はそれもそうだと思ったので、駅までいっしょに歩くことにした。
烏「なんかずっと考え事してるみたいだけどカア」
「えーとね、わたしはニンゲンだったのにいきなり鳥になってピヨ」
「いんげんだったって言っているのカア?」
「にんげんピヨ!」
「金言カア?」
「にんげんピヨ!」
「震源カア?」
「にんげんピヨ!」
「陳言カア?」
「だ・か・ら、にんげんピヨ!」
「綸言カア?」
「なんで急に飛ばすのピヨ!」
「つまり、それって何なのカア?」
烏はニンゲンという言葉を知らないようだった。
この世界の鳥たちは、そもそもニンゲンという存在を知らないようだった。
「うーんと、ほら、ニンゲンというのは、猿みたいなヤツでピヨ。猿がすごく高度に進化した生物というかピヨ。」
「エテ公に毛の生えたようなものカア」
「高度な進化を「毛」と言われると困るけどピヨ。そんなものかもピヨ。」
「毛が生えたエテ公というのは、つまりエテ公ってことだなカア。」
庭子は元日の朝になったら、ヒヨコになっていたこと、
それまでその「ニンゲン」っていう生き物だったこと、
ニンゲンっていう生き物が我々を監視しているんじゃないかと思っていること、
などなどを話した。
「"去年までエテ公だった"カア?
"エテ公が我々を飼っている"カア?」
・・・
「だいじょうぶ、そんなの無いよカア。どこぞの完全統制区域とかじゃないんだからカア」
烏は言った。
すると烏は
だいじょうぶ。まだ続きます。




