出欠
教室に、明らかに鶏でない鳥が入ってきた。
小さくもないが、大きくもない。
顔から上は黒っぽくて、尻尾が長い。
鳥の世界に来てから、鶏でない鳥をテレビ以外で見たのは、
多分初めてだろう。
「さあ、出欠を取るぞギーキッキッ」
なるほど、この鳥が担任なんだな。
いちいち文末に「ギーキッキッ」というのが付くらしい。
「阿良加奈 加奈 ギーキッキッ」
「はいホゲ」
あろうかなかなって。まるで『カナカナぜみ』？
てか、「あろう かな」だけで良くない？
「小国 国雄 ギーキッキッ」
「はいコケ」
「赤色野鶏 赤雄 ギーキッキッ」
「はいコケ」
「東天紅 紅希 ギーキッキッ」
（えっ、レストラン？ 庭子は不思議に思った。）
「はい、コッケコーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォ」
「はいわかった、もういいギーキッキッ。いつも元気がいいなあギーキッキッ」
待てよ。自分の名前が庭子ってことは、
苗字にも「にわ」が入っているってこと？
５０音順で「にわ」で始まるなら、
出てきてもいいはずだけど。
「實加 ルカ ギーキッキッ」
「はいホゲ」
あれ？
「尾長鳥 長雄 ギーキッキッ」
「はいコケ」
あそうか、別に、名前が庭子だからといって、「にわ」で始まるとは限らない、ってことみたいだ。
・・・
庭子にはわかることとわからないことがあった。
わかること
・男子（オンドリ？）はコケ、女子（メンドリ？）はホゲを付けている。(例外はあるが。)
わからないこと
・名前の順番がどういう順番なのかわからない。
・自分の名前。いや、「庭子」はわかる。しかし、苗字がわからない。
・・・
しかし、なかなか出てこないな。
・・・
「ニワトリにわこギーキッキッ」
・・・
「おい、ニワトリギーキッキッ」
・・・
庭子は不意を突っつかれた（注）。
「ニ、ワ、ト、リ、ギーキッキッ！ お前だろギーキッキッ」と担任は庭子を見た。
私だ。そうだ、ホゲをつけるんだ！
庭子「あ、はいホゲピヨ」
・・・
しまった！ ホゲをつけてもピヨは勝手に付くんだ。
ブハハハハハハッハハッハハ～～笑
ブハハハハハハッハハッハハ～～笑
笑い声が教室を包んだ。
「いつまで休み気分でいるんだギーキッキッ」
教室の誰かが言った。
「無理して背伸びすることないのにねぇホゲ」
「ニワトリ」って・・・
みんなニワトリじゃないか。
なんで、よりによって私の苗字は「ニワトリ」なんだ。
「庭子」という名前は世の中にあるだろう。
それはいい。
しかし、「ニワトリにわこ」って・・・
平凡で、なんて言うのかなあ、こう・・・ほら、特別感がないよね。
休み時間に、例のケンタッキー鳥がやってきた。庭子をバカにして言った。
「ねえ、『ホゲピヨちゃん』ホゲ・・・ ちいさくって、かあわいいわねえーホゲ」
