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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第二話 師匠と弟子
8/30

飛空挺に圧倒され、興奮が冷めぬまま、ロックはミドの造船所に行く事にした。

ジンの研究所を出た玄関先に、エリスとジンは、ロックを見送りに来ていた。

「ほんとにここで、待ってんのか?」

ロックの問に、エリスは苦笑いした。

「うん……だってまた……あの林を抜けるんでしょ?」

「まぁ……それしか道がねぇからな……」

「わたし……あの林、なんか嫌い……」

ロックは呆れ気味に言った。

「なにビビってんだ……」

するとジンが言った。

「まぁ……私は構わない……。それにその娘にも聞きたい事があるからな」

エリスは目を丸くした。

「聞きたい事?」

ジンはロックに言った。

「良いタイミングでお前たちがきれくれた……。ミドの事頼むぞ……」

ロックは頭を掻いた。

「まぁ、仕方ねぇか……。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ……」

そう言うとロックは、研究所を後にし、林の方へと向かった。

ジンはエリスに言った。

「少し聞きたい事がある……。今度は紅茶でも飲みながら話そうか……」

二人は再び研究所に入っていった。

エリスは最初に座っていた場所に再び座り、ジンの紅茶を待っていた。

やがてジンは二人分の紅茶を手に持ち、席に着いた。

ジンは言った。

「君の旅の目的はなんだ?」

聞かれると思っていたのか、エリスは特に動じることなく、これまでの経緯を説明した。

自分の出身地クリスタルシティー、アレルガルド、ロックとの出逢い……しかし自分の力の事は、この場では伏せた。

ジンはニヤリとした。

「失われた国を探す旅か……中々興味深い……。ロックの飛ぶ切っ掛けになったのは……やはり君だったか……」

エリスはその事に関して、思い切って聞いてみた。

「集いのマスターも言ってたけど……飛ぶ切っ掛けって何?」

ジンは目を丸くした。

「何だ……知らずにロックと行動していたのか?」

「アイツが悪い奴じゃないのは、わかるけど……。会ったばかりのわたしと行動するなんて……わたしの方が聞きたいよ……」

ジンは軽く笑った。

「フッ……ロックの夢は『飛空挺で世界を廻ること』だ……。しかし奴はこの10年アデルを離れる事がなかった。何故か……私も深くは知らないが、切っ掛けが無かったんだ」

エリスは真剣な表情で聞いている。

ジンは続けた。

「そんな奴が、今こうして、君という『切っ掛け』を連れて現れた……。亡国を探して世界を飛び回る……面白いじゃないか……」

ジンは嬉しそうな表情をした。

「いいだろ……君達の旅に私も付き合おう……。私も世界に出ねばならない」

エリスは言った。

「ジン博士も何か目的が?」

「アデルによって世界はある程度安定し、それによりアデルの技術も発展したが……。世界は広い……まだ見ぬ技術や発見があると、私は思う」

ジンは拳を握りしめて、力強く言った。

「私は世界の技術を網羅し、究極の科学者になる……。それが私の夢だ」

エリスはジンの力説に唖然となったが、ジンの表情は真剣で、その目は夢に満ちた少年のようだった。



……ミドの造船所……


ロックはジンの研究所を後にし、真っ直ぐミドの造船所に来た。

ただ、やって来たのいいが、ミドは留守で造船所には誰もいなかった。

「いねぇのか?……仕方ねぇ、少し待つか……」

造船所は戸締まりがされてなかったので、ロックは中で待つことにした。

「戸締まりもしねぇで、不用心だな……。でもまぁ、すぐに帰ってくるだろ……」

ロックはそう呟きながら、造船所の中を再度見渡した。中央には造りかけの船が置いてある、先程見た船だ。

「骨格からして……飛ぶか飛ばないかの違い以外は……あの飛空挺と同じだな……」

ミドの造船所にある船は、ロックが先程ジンの研究所で見た飛空挺と、同じ形をしていた。

ロックは船を眺めながら言った。

「課題って何なんだろな?俺からすりゃあ、この船も立派に見えっけど……。技術屋にしかわかんねぇ違いがあんのか?」

ロックは側にあった椅子に腰を掛けて、両腕を頭の後ろで組んで、楽な姿勢をした。

すると、造船所の入口に誰かが現れた。ミドだろうか?……ロックは入口の方を見た。

「ですから僕に言われても困ります……」

どうやらミドのようだが……誰かと一緒のようだ。

「私共も困っているのですよ……ですからジン博士の弟子である貴方に、頼んでいるのです」

ロックは自分の存在がバレないように、こっそりと覗いてみた。

すると入口にはミドと、タキシード姿でシルクハットを被った、細身の男性がいた。

「僕の説得に動くような師匠ではありませんよ……。それに師匠はお断りをしたのでしょ?」

ミドは困り果てた様子だったが、タキシードの男は、お構いなしに言った。

「私も良い返事を貰えるまで、会社に帰れませんので……」

男に引く様子はない……。するとロックが、二人に割って入った。

「ちょっと待ちなよ……ミドが困ってんだろ」

突然のロックの登場に、ミドも男も驚いた表情をした。

男が言った。

「何なんですか?貴方は?」

ロックは小指で耳をほじりながら言った。

「俺か?俺は……こいつの……まぁ客みたいなもんだ」

男は怪訝な表情をした。

「客?……貴方が?」

男はロックの身なりを見て、船を買いに来た客という事に、疑惑をもっている。

ロックは少しムッとした表情で言った。

「んだテメェー……俺が船を買いに来ちゃあ、いけねぇのか?」

ロックの表情に、男は慌てた様子で言った。

「いえっ……滅相もない……」

ロックは手でシッシッとやった。

「なら今日は、帰った帰った……」

ロックの態度に、男は少し表情を険しくしたが、すぐに笑顔になり、ミドに言った。

「わかりました……今日のところは帰ります。でも、私は諦めませんから……」

そう言うと男は、造船所を後にした。

男が去ると、ミドはホッとした様子でロックに言った。

「ありがとうございます……助かりました」

「別に良いんだけどよぉ……。オメェーも嫌な事は嫌だって、ハッキリ言えよ……」

ミドは頭を掻き、申し訳なさそうな表情をした。

「面目無いです……。で?ここには?師匠に会えましたか?」

「ああ……オメェのおかげでジンには会えたよ……」

「そうですか……。では何故ここに?」

「ジンにオメェの課題を手伝ってやれって、言われたんだよ……」

ミドはキョトンとした。

「僕の課題を……アナタが?」

ロックは頭を掻いた。

「やっぱ、そういう反応だよなぁ……」

「でもどうして、アナタが僕の課題を?」

ロックはこれまでの経緯を、ミドに話した。

ロックから経緯を聞いたミドは、目を見開いて、首を勢いよくブンブンと横に振った。

「僕が師匠に代わってなんてっ!とんでもないっ!」

ロックは頭を掻いた。

「とんでもなくても、やってもらわなきゃあ、ならねぇっての……」

「無理ですよっ!僕みたいなのに、師匠の代わりなんてっ!」

ミドは泣きそうな表情をしている。

ロックは呆れた様子で言った。

「こりゃ、一筋縄じゃいかねぇな……」



……ジンの研究所……


エリスは飛空挺ドッグで、ジンの最終調整を手伝っていた。

手伝っていたといっても、エリスに大した事は出来ず、殆ど見ているだけだった。

ジンはコンピューターに向かって、何かの作業をしている。

するとエリスが言った。

「ねぇジン博士……ミドさんの課題って、何?」

ジンはコンピューターに向いたまま言った。

「ミドの技術力は……私より上ではないが……私の代わりをするには、充分過ぎる技術力を持っている……。すぐにでも代わりが出来る程の……」

エリスは不思議そうな表情をした。

「じゃあ……課題なんて無くてもいいじゃん……」

コンピューターと向き合ったままのジンは、軽く笑った。

「フッ……ところがそう簡単な話ではないのさ……。ミドには大切なものが足りない」

「大切なもの?」

「そうだ……。そしてそれがないと、この飛空挺は飛ばない……」

エリスは驚いた表情をした。

「それじゃあロックよりも、ジン博士が行った方がよかったんじゃあ?」

「私が行ったら課題にならないだろ?自分で課題を理解するから、課題なんだぞ……」

エリスは難しそうな表情をした。

「そりゃそうだけど……」

ジンはまたもや軽く笑った。

「フッ……心配するな……。ロックなら上手くやってくれる……」

エリスは苦笑いした。

「だといいけど……」



……18番街のとある場所……


ミドの造船所にいたタキシードの男が、通信機を使って誰かに連絡をとっている。

「ジン博士は我々に協力しそうではありません……」

しばらく誰かと通信機でやり取りをして、男は目を見開いた。

「なるほど……協力しないのなら、消せと……」

どうやら物騒な話をしている。

「ではそちらの精鋭を送ってください……。はい……では……」


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