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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第二話 師匠と弟子
7/30

……18番街のとある岬付近……



18番街の端にあるとある岬……昨日ミドから貰った地図によると、その岬にジン博士の研究所があるようだが……。

「なんか薄暗い林だな……」

ロックとエリスは岬を目指して、林道を歩いていた。ロックが言うように、昼にも関わらず、林道は薄暗く気味が悪い。

エリスは少し怯えた表情で言った。

「わたし……こういう場所苦手……」

エリスはロックに引っ付いて歩いている。ロックは歩きにくそうで、少し渋い表情をしている。

しばらく歩くと、林道に光が射し、その林道の隙間から少し岬が見えた。

ロックはその方向を指差した。

「見えてきた……あれじゃねぇか?」

確かに岬らしきものが確認できたが……断崖絶壁で、ここからは確認できないが、おそらく下には海が広がっているのだろう。

さらに歩く事数分……林道を無事抜けた二人は、目前の光景に目を見開いた。

「綺麗……」

エリスが思わずそう呟くのも無理はなく、二人の目前には草原が広がっており、気持ちのよい風が二人を涼めた。

奥にコテージらしきものがあるだけで、その他に無駄な建造物はなく、汚れなき草原が広がっていた。シンプルな光景だが、実に美しかった。

ウットリしているエリスをよそに、ロックは辺りをキョロキョロ見渡した。

「造船所らしきものは……何もねぇ……。するとあのコテージがそれか?」

ロックはコテージを目指して、草原を歩きだした。

「あっ、待ってよ……」

我に返ったエリスは慌ててロックを追った。

しばらく草原を岬に向かって歩くと、岬の端にあるコテージが近づいてきた。

ロックが言った。

「唯一の建物が……あのコテージか……」

エリスが言った。

「でも……研究所には見えないよね。誰かの別荘みたい……」

木造コテージは生活感があり、誰かが住んでそうだが……とても研究所には見えなかった。

ロックはミドに貰った地図を見ながら言った。

「でも地図によると、あれだぜ……。それに他に建物がない」

あれこれ考えているうちに、二人はコテージに到着した。

「普通のコテージね……でも外観は綺麗よ」

エリスはコテージを観察している。

ロックはコテージの玄関階段を上がり、扉に付いている、さほど大きくない鐘を鳴らした。

カランカランと金属音が、この場に響いた。

しばらく反応を待ったが……返答はなく、ロックはもう一度鳴らしてみた。

カランカランと再び金属音が響いき、二人はしばらく待ってみた。

するとコテージの中から足音らしきものが聴こえた。

「だっ、誰かいるみたいね……」

エリスは少し緊張気味だ。

すると、ギギィーと木製の扉が開き、中から人が出て来た。

「誰だ?……う~ん?……お前は……」

出て来たのは白衣姿の男性だった。

癖っ毛な黒髪を、無理矢理オールバックにし髪を整え、目には黒渕眼鏡を……そして顎には無精髭を生やしている。

ロックはニヤリとした。

「久しぶりだなぁ……ジン……」

白衣の男性が、二人が探していたジン博士……ジン・マクベスである。

ロックの声にジンは目を丸くした。

「ロック……ロック・ハーネスト……」

ロックはジンの肩を叩いた。

「元気してたか?ジン……」

ジンは旧友の来訪に、素直に喜んだ。

「やっぱロックかぁ……久しぶりだなぁ……うん?」

ジンはロックの隣にいたエリスに気付いた。

「そのお嬢さんは?」

エリスは思わず頭を下げた。

「エッ、エリスですっ!エリス・クラウドって言います!」

エリスは何故か恐縮している。

ジンは二人に言った。

「まぁ……入れ……。大したもてなしは、できんが……コーヒーくらい出してやる」

二人はジンに促され、コテージに入った。

コテージに二人を招き入れたジンは、二人を木製のテーブル席に座らせ、二人にコーヒーを煎れ出した。

ジンはフラスコに入ったコーヒーを、アルコールランプで温めている。

異様なコーヒーの温め方に、エリスは目を丸くした。

ジンは温めたコーヒーをカップに入れて、エリスに差し出した。

「私はこれでコーヒーを飲まないと……落ち着かないんだ……。気分を害したなら、すまない」

「いや……別にそんな……」

エリスはまたもや恐縮している。

ジンは賢そうな雰囲気と、変人な雰囲気を醸し出している。エリスはそういった雰囲気が苦手なようだ。

ジンはエリスにコーヒーを差し出すと、今度は自分の分と、ロックの分のコーヒーを用意して、テーブルにそれを置き、時分も座った。

ジンはコーヒーをすすりながら、ロックに言った。

「お前がここに来た理由は……だいたいわかっている。だが、どうしてこの場所がわかった?」

ロックは言った。

「集いのばぁさんに教えて貰った……」

「なるほど……あの老婆か……元気か?」

ロックは苦笑いした。

「相変わらずだよ……。でも、ばぁさんに貰ったメモを無くしてよぉ……苦労したぜ……」

ジンは目を丸くした。

「ほぉ……にも関わらず、この場所を突き止めたか……」

「いや……実は、ミドっていうお前の弟子に会ってよ……そいつに教えて貰った」

ジンは再びコーヒーをすすった。

「そうか……ミドに会ったか……。つまりこの場にミドがいないという事は、奴はまだ私の課題をクリアしていないのだな」

「そういや……そんな事を言っていたな……何だ課題って?」

ジンはうすら笑みを浮かべた。

「フッ……簡単な事さ……。それより本題に入ろう……」

ロックもコーヒーを啜った。

「そうだな……」

ジンが切り出した。

「飛ぶ決心がついたのだな?」

ロックは黙って頷き、エリスは怪訝な表情をした。

(飛ぶ決心?……なんだろ?)

ジンは続けた。

「必要なんだろ?飛空挺と……それを扱える私が……」

ロックは言った。

「話が早いな……」

ジンは立ち上がった。

「あの時の約束があるからな……。だが……ついて行くと、言いたいところだが……今は無理だな」

ジンの返事が予想外だったのか……ロックは怪訝な表情をした。

「どういう事だ?」

ジンは言った。

「私が軍を辞めたのは……知っているな?」

ロックとエリスは、揃って頷いた。

ジンは続けた。

「今の私は……商業用の船の開発、設計をやっている……アデル地方全体のな……。軍の方は、私の兄弟子のロメロ博士が受持っているのだが……」

どうやらアデルの商業用の海上船と、飛空挺は全てジンの造った船のようだ。

ジンは続けた。

「よって今、私がアデルを出ていくと、アデルの経済は停滞してしまう。それは世界にとってはヨロシクない」

ジンの言う通り、今アデルの経済が停滞してしまうと、世界経済は大混乱になり、争いの火種が出来かねない。

ロックは頭を抱えた。

「どうしようもねぇじゃん……」

エリスも困った表情をしている。

するとジンはうすら笑みを浮かべた。

「手が無い訳ではない……」

ロックとエリスは顔を見合わせた。

ジンは言った。

「代わりがいれば良いわけだろ?私が何の為に弟子をとってると?」

ロックとエリスの脳裏には、同じ人物の顔が思い浮かんだ。それはミドだった。

ジンは続けた。

「ミドが私の代わりにアデルの仕事を全て引き継げばいいわけだろ?」

ロックは苦笑いした。

「テメェー……俺に何させる気だ?」

ジンはニヤリとした。

「流石はロック……察しがいいな……。ミドの所に行って、お前がミドの課題をクリアさせるんだ……」

ロックは目を見開いた。

「なんだってぇーっ!?」

「安心しろ……飛空挺はもう完成している。後は最終調整だけだ……お前の飛空挺だ」

すると今度はエリスが驚いた。

「ロックの飛空挺っ!?しかももうできてるって……見たい見たい見たいっ!」

ジンは目を丸くした。

「なんなんだこの娘は?」

ロックも呆れた表情になった。

「何をはしゃいでやがる……」

すると興奮気味だったエリスは、あることに気付いた。

「でも……何処にあるの?飛空挺……」

ロックも怪訝な表情をした。

「確かに……どっかの造船所か?」

ジンは二人の表情を見て、ニヤリとした。

「ついてこい……見せてやる……」

ジンは部屋の奥にある扉に向かった。扉を開けると、外の景色が確認できた。

ジンはそこから外へ出て行き、ロックとエリスもその扉から外へ出た。

エリスは外の景色を見て、目を丸くした。そこには青空がと海が広がっており、水平線が確認できる程の絶景だった。

三人がいる場所は、コテージのバルコニーのようだ。

「こりゃあ、良い眺めだ……。で?飛空挺は?」

ロックがそう言うと、ジンはニヤリとした。

「まぁ、焦るな……」

ジンはその場にしゃがみこみ、一部分だけ違う色の床を、めくった。

するとそこに、一つの丸いボタンが現れ、ジンはそれを押した。

ジンがそのボタンを押すと、ドゴッと大きな音が鳴り、バルコニーの右端にある床が割れた。割れた大きさは凡そ1m程で、下に降りる階段が見える。

ロックは目を丸くした。

「隠し階段?」

エリスも驚いた表情をした。

「すごい……カラクリ屋敷みたい……」

「この下は、岬を利用した隠し部屋だ。ついてこい……」

ジンそう言うと、スタスタと階段を降りて行った。ロックとエリスもその後を追った。

暗い階段をしばらく降りると、暗くてよくわからなかったが……広い場所に出たのが、感覚的にわかった。

ジンは壁をまさぐって、部屋に明かりを灯した。

広間に明かりが灯り、その全貌が明らかになった。

その全貌にロックとエリスは目を見開いた。

そこにはあった……鉄をベースにした巨大な船体に複数のプロペラ……。

部屋の明かりが船体に反射し、光輝く飛空挺が……そこにはあった。

ロックは目を見開いたまま呟いた。

「これが……」

ジンはニヤリとした。

「そうだ……。ロック……お前の飛空挺だ……」

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