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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第二話 師匠と弟子
6/30

……アデル18番街の港……



アデル18番街……アデルの工業地帯であり、産業の中心でもあるこの街地は造船業も盛んであり、飛空挺の製造も行われている。

その18番街の放れにある、とある港にて、ロックとエリスは聞き込みをしていた。

18番街は漁港も盛んであり、料理人もここの港に集まる。13番街とは違った意味で、栄えていた。

「知らない?……そうかい、ありがとよ……」

20回目の聞き込みも空振りに終わり、ロックは肩を落としている。朝からこの繰り返しで、もう昼過ぎだ。

エリスはその様子を呆れて見ている。

エリスの呆れた様子に、ロックはいちゃもんをつけた。

「エリス……テメェー……んだその顔は?」

エリスは深く溜め息をついた。

「はぁ~……何でメモを落とすかなぁ……」

ロックはバツの悪そうな表情をした。

「わっ、悪ぃと思ってっから、俺が率先して聞き込みをしてんだろっ!」

「悪いと思ってる態度じゃないよね……」

どうやらマスターに貰ったメモを、ロックが落としたようだ。

ロックは不機嫌な表情で言った。

「でもなんで、ジンの居場所を誰も知らねぇ?一応アイツ科学者だぜ……」

エリスはそっぽを向いた。

「わたしが知るわけないでしょ……」

するとロックの腹が「ぐぅ~」っと鳴った。

「腹へった……飯にしようぜ……」

減ったお腹を押さえているロックに、エリスは冷たい視線を送った。

「アンタ……文無しでついてくるなんて……」

「金があったらツケを払ってるわっ!」

何故か偉そうなロックに、エリスは頭を抱えた。

「はぁ……お金の工面も考えなきゃ……」

「おいっ!エリスっ!あっちに美味そうな寿司屋があんぜ……やっぱ港だから魚だよなぁ……」

「はぁ~……大丈夫かなぁ……これから……」

二人は漁港近くの寿司屋に入店した。



……30分後……


「あ~食った食った……旨かったなぁ」

店から出て来たロックは、満足そうにお腹をさすっている。

「アンタがハイボール飲むから、高くついたじゃないっ!」

エリスは思わぬ出費に、御機嫌斜めだ。

二人は工業地帯に向かうことにし、18番街の中心に向かった。

するとロックの後ろを歩いていたエリスは、工業地帯と漁港の境目付近の路地裏で、何かを発見した。

エリスはロックに言った。

「ねぇロック……あれ……」

エリスが指差す方向を、ロックは見た。そこには狭い路地にごつい男二人が、貧相な白衣の男性に絡んでいた。

ロックは小指で耳をほじりながら言った。

「う~ん……あれはな、道を訪ねてんだ」

「いや、違うでしょっ!」

「じゃあ、危ない取引だ……関わらないほうがいい」

「いや、ある意味取引だけど……一方的でしょ……」

ロックは真面目な表情で言った。

「エリス……男には越えなきゃいけねぇ壁がある。あの白衣の兄ちゃんの壁が、今の状況だ」

エリスは激昂した。

「いってる場合かぁ!早く助けてやって!もうご飯食べさせないよっ!」

エリスの迫力に、ロックは少したじろいた。

「わっ、わかったよっ!行きゃあいんだろっ?」

白衣の男性は、ごつい男に胸ぐらを掴まれている。

白衣の男性は泣きそうな表情で言った。

「お金なんて持ってませんよぉ……」

ごつい男は言った。

「なら家に取りに帰ろうぜ……俺らがついてってやる」

「そんなぁ~……」

もう一人のごつい男が言った。

「テメェーみたいな奴より、俺らが使った方が、世のためなんだよっ!」

するとごつい男達の後ろから、ロックが声をかけた。

「へぇ~……そりゃ是非とも、俺も仲間に入れてほしいぜ……」

ロックの登場に、男達は驚いた。

「なっ、何だテメェーはっ!?」

ロックはニィーと笑った。



……30秒後……


「あっ、ありがとう御座いましたっ!」

「何だって俺は、絡まれてる奴ばっか、助けなきゃなんないんだ?」

そうぼやくロックの足元には、ごつい男二人が白目を剥いて転がっている。

エリスはロックを宥めた。

「まぁ、良いじゃない……良い事したんだから……」

「チッ……まぁいいや……。兄ちゃん、もう絡まれんなよ……」

ロックとエリスが去ろうとすると、白衣の男性は呼び止めた。

「あのぉっ!」

ロックとエリスが黙って、振り返ると男性は言った。

「見たところ旅の方ですよね?良かったら家まで来てください……お礼がしたいので……僕はミドと言います」

ロックとエリスはお互いの顔を見合わせた。



……ミドの造船所……


白衣の男性ミドに案内されたのは、小さな造船所だった。小さなと言っても、船を造る場所なのでそれなりに広い。

鉄や油……木材の匂い等が混じり、職人の職場といった、心地よい匂いがした。

造船所の中央には造りかけの船があった。

ロックはそれを見ながら言った。

「兄ちゃん……船大工かぁ……」

ミドは申し訳無さそうに言った。

「はい……一応……でも、造ってるのは僕ではないんです……。職人の方に来ていただいて……」

エリスは不思議そうに言った。

「じゃああなたは?」

「僕は、設計士です……」

ロックが言った。

「設計士ねぇ……。飛空挺か?」

ミドは勢いよく首を横に振った。

「とんでもないっ!浮遊石の使用許可は、僕になんて出ませんよっ!」

ロックは言った。

「確かになぁ……飛空挺の製造は政府の直轄だからな……。浮遊石は町の船大工に扱えるシロモンじゃねぇわなぁ……」

ミドは胸を撫でながら言った。

「勿論ですよ……師匠ならともかく……僕なんか……」

エリスが言った。

「ミドさんって、師匠がいるんだ?」

ミドは苦笑いした。

「ええ……僕なんか足元にも及ばない……偉大な方です」

するとロックが言った。

「兄ちゃんよぉ……もっと自分に自信持ったらどうだい?」

ミドは目を丸くした。

「どういうことです?」

「俺は別に技術屋じゃないからよぉ……具体的に船の事はわかんねぇ……でもよ」

ミドは黙って聞いている。ロックは続けた。

「この造りかけの船……骨格しかできてねぇけどよ……いい船だと思うぜ……。まぁ何処が?って聞かれたら……答えられねぇけど……」

エリスに呆れて言った。

「じゃあ意味ないじゃん……」

「うるせぇなぁ……俺は専門家じゃねんだ」

「でも……わたしも良い船だと思う。具体的に理由はないけど」

「おめぇも同じじゃねぇかっ!」

ミドは目を丸くして、ロックとエリスのやり取りを聞いていたが、すぐに笑顔になった。

「あ、ありがとうございますっ!誉めてくれる人なんていなくて……。師匠なんて全然誉めてくれませんから」

エリスは言った。

「結構きびしいのね……」

ロックもエリスの意見に頷いた。

「確かになぁ……。まぁ、大した事ない奴に限って、人には厳しいもんだ」

言いたい放題の二人に、ミドは両手を振って否定した。

「とんでもないっ!大した事ないなんてっ!自分で言うのもなんですが……僕の師匠は『ジン・マクベス』博士ですよっ!」

ロックとエリスは顔を見合わせ、そして声を揃えた。

「なんだってぇーっ!?」



……アデル総本部……


アデル総本部の一室……将軍の間……。アデル将軍専用の部屋であり、軍事に関する採決はここで行われる。

アデル女将軍、アリエル・ノイヤーは、将軍席に座り、二人の部下と対峙していた。

部下は二人共男で、一人はジュノスだ。そしてもう一人は、黒髪のツンツン頭に、整った顎髭……細身だがどこかワイルド感のある男だった。

二人共漆黒のスーツに身を包んでいる。

アリエルは二人に言った。

「よく来てくれました……。ジュノスにガゼル……」

ガゼルはニヤリとした。

「久しぶりだなぁ……隊長……いや、今は将軍か……」

アリエルは鼻で笑った。

「フッ……貴方も相変わらずですね……ガゼル……」

「おかげさんでなぁ……で?わざわざ本部に呼び出して何の用だい?将軍殿……」

アリエルは真剣な表情になった。

「マクベス博士が、朧と接触したと……そこのジュノスから報告がありました」

ガゼルの表情はピクリとなった。

「ジンが?……ほんとか?そりゃあ……」

アリエルは頷いた。

「ウラはとれています……」

「で?俺とジュノスにどうしろと?」

「マクベスを拘束して下さい……彼の技術力が、朧に渡るのは……よろしくありません」

するとジュノスが言った。

「報告しておいてなんなんですがぁ……ジン博士に限って、テロリストに手ぇ貸すとは思えないんですけど……」

ガゼルは表情を歪めた。

「チッ……ジュノス……何を甘ぇ事いってやがる……」

アリエルもガゼルに同調した。

「町で飛空挺を造っているだけなら、それでよかったのですが……。朧と接触しているとなると、話は別です。ジュノス、貴方も知っているでしょう?マクベスの技術力は……」

ガゼルはジュノスの肩を叩いた。

「そういう訳だ……。ジンを拘束すりゃあわかるこった。それに上手くいきゃあ朧の連中と、一戦やれるかもしれねぇ……」

ジュノスは頭を抱えた。

「相変わらず血の気が多いでさぁ……」



……ミドの造船所……


「まさかアイツに弟子がいたとは……」

ロックは驚きを隠せないようだ。

ミドが言った。

「師匠をご存じで?」

エリスが言った。

「わたし達……そのジン博士を探して、この18番街まで来たの……。まぁ、わたしは会った事ないけど……」

ミドは目を丸くした。

「そうでしたか……師匠を……。では軍の方ですか?」

エリスは「軍」という言葉に反応したが、ロック気にせずミドに言った。

「まぁな……でも今は軍の人間じゃねぇよ……」

エリスは怪訝な表情になった。

(ロック……元軍人だったんだ……)

ミドは言った。

「師匠も軍は既に辞められています……」

ロックは感慨深い表情をした。

「そうか……。で?アイツは何処にいんだ?弟子だったら知ってんだろ……つれてってくれ」

ミドはバツの悪そうな表情をした。

「知ってには知っているんですが……」

ロックは怪訝な表情で言った。

「何だよ……煮え切らねぇなぁ……」

エリスが言った。

「何か事情がありそうね……」

ミドは頭を掻きながら言った。

「ええ……実は……。戻れないんです」

ロックが言った。

「戻れない?」

「はい……師匠の課題をクリアするまで……戻れないんです」

エリスが言った。

「課題って?」

「それが……わからないんです」

ロックとエリスは再び顔を見合わせ、そして声を揃えた。

「はぁっ!?」

ミドは苦笑いして言った。

「僕は行く事が出来ませんが……地図はお渡しします。それと今日はもう遅いですから、今晩泊まっていって下さい……それぐらいしか、お礼を出来ませんが……」

ロックとエリスは、ミドの造船所に泊めてもらう事にした。宿の決まっていない二人にしてみれば、ありがたい話である。


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