⑤
……翌朝……
エリスはカウンター席に座り、マスターが煎れたコーヒーを飲んでいた。
休んでスッキリしたのか、表情は少しだけ晴れていた。
「去年バァちゃんが死んだの……」
おもむろにエリスはマスターに話始めた。
「わたし……両親は戦争で死んで、バァちゃんが育ての親だったの」
マスターが言った。
「たった一人の肉親かい?」
エリスは首を横に振った。
「ううん……両親もバァちゃんも、血は繋がってないの……。わたし捨て子なんだ……」
「そうかい……イヤな事を聞いちまったねぇ……」
エリスは微笑んだ。
「いいの……。バァちゃん、死に際に言ったわ……「アレルガルドに帰れ」って……」
「それで旅に出たのかい?にしても、無茶だよ……女独りで……」
「無茶はわかってる……でもアレルガルドに行けば、わかるかもしれないの……わたしが何者なのか……」
エリスは立ち上がった。エリスの側には大きなリュックがある……スーツケースだと動きにくいので、買い換えたのだろう。
マスターがエリスに言った。
「行くのかい?」
エリスは頷いた。
「うん。ありがとうマスター……お世話になりました」
そう言うとエリスは店を出て空を見た。
「いい天気……」
するとエリスの横から声がした。
「待てよ……」
エリスが声の方を向くと、ロックが立っていた。
エリスは目を丸くした。目を丸くしたエリスにロックは言った。
「ついてってやるよ……」
「えっ?」
するといつの間にやらマスターも店の外にいた。マスターはロックに耳打ちした。
「聞いてたのかい?」
ロックはマスターに言った。
「立ち聞きするつもりはなかったけどな……」
エリスは目を丸くしたままロックに言った。
「どうして?」
「別に……ただお前の力に興味がでただけだ……行くぜ、エリス……」
エリスは目を丸くしいたが、すぐに笑顔になった。
「うんっ!行こっ、ロック……」
ロックは怪訝な表情をした。
「なにニヤニヤしてやがる」
「初めて名前で呼んだでしょ?」
「るせぇ……」
ロックとエリスの旅立つ後ろ姿を見て、マスターは鼻で笑った。
「フッ……大丈夫かねぇ……」
……アデル総本部……
アデルの総本部のとある一室に、漆黒のスーツに身を包んだ、一人の女性がいた。
女性は長く美しい黒い髪に、白いマントを羽織っている。
「¥キングは壊滅しましたか……」
女性がそう言うと、部下らしき男が頷いた。
「はっ!治安維持隊が到着したころには……すでに壊滅状態でした。メインブレーカーが爆発されただけでしたので……一般人への被害はなかったようです」
女性は部下に言った。
「目撃証言は?」
「はっ!……それがあれだけの規模の組織が壊滅したにも関わらず……どの目撃者も「青白い髪をした男が一人で乗り込んだ」の証言しか……」
女性は鼻で笑った。
「フッ……そうですか……」
部下は言った。
「将軍……本当なのでしょうか?たった一人であの組織を潰すなんて……」
将軍と呼ばれる女性は、笑顔で部下に言った。
「引き続き調査して下さい……。ありがとう、もう下がって結構です」
将軍の美しい笑顔に、部下は顔を赤らめて言った。
「はっ!それでは失礼しますっ!」
部下はそそくさと部屋を後にした。部下が部屋を後にすると、笑い声が聞こえた。
「クククク……やっぱ先輩は面白いでさぁ……」
将軍は声の主に言った。
「やはり……ハーネストですか?ジュノス……」
笑っていた男はジュノスだった。
「多分……先輩、奴らの文句言ってましたから……」
「気まぐれで潰したと?」
ジュノスは首を横に振った。
「まさか……それは無いことは……姐さんも知ってんでしょう?でも、少し気になる事が……」
「なんですか?」
「いやぁ……先輩に聞かれたんですが……『アレルガルド』って国の事を調べてるみたいです」
将軍の表情が険しくなった。
「アレルガルド……」
将軍の表情にジュノスが反応した。
「知ってんですかい?」
将軍は鼻で笑った。
「フッ……いえ……。しかし安心しました……ハーネストが元気そうで」
ジュノスは苦笑いした。
「こっちが安心しても……先輩は嬉しくないでしょうね……あっ、それと『ジン博士』が『朧』と接触したそうでさぁ……」
将軍の表情は再び険しくなった。
「テロリスト集団……朧……」
……アデル13番街……
ロックとエリスは13番街と14番街の境目にいた。
エリスはロックに言った。
「これからどうするわけ?」
「ここに行く……」
ロックはマスターから預かったメモを、指で挟んでヒラヒラした。
エリスは怪訝な表情をした。
「なにそれ?」
「俺の知り合いがいるとこだよ……」
「知り合いが?……でも何しに行くの?」
ロックは呆れた様子で言った。
「お前……歩いて世界を回るきかぁ?」
エリスは苦笑いした。
「確かに……」
「世界を旅するには必要なものがあんだろ?」
エリスは目を丸くした。
「あっ……」
ロックはニヤリとした。
「そう、飛空挺だよ……」
エリスの表情は一気に明るくなった。
「飛空挺っ!すごいじゃんっ!……で、そこに行けば手に入るのねっ?」
ロックは再び呆れた様子で言った。
「アホか……そんな簡単に手に入る訳ねぇだろっ!幾らすると思ってんだ?」
エリスは少しムッとした表情になった。
「じゃあ何しに行くの?」
「今から行くとこには、科学者がいてな……そいつが知り合いな訳……。そいつ飛空挺造ってるから、試作とかありゃあ……貸してくれっかもな」
エリスは納得したようだ。
「成る程……そう言う事……。で?その人の名前は?」
ロックは言った。
「『ジン・マクベス』……皆には『ジン博士』って、呼ばれてる」
ロックとエリス……二人は出逢い、共に旅することになった。
ロックとエリス……この二人の出逢いが、世界を動かす事になるとは、まだ誰も知らない。