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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第九話 エリスの想いとライフシティー
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ゴールドアイランドを飛び立って、次の目的地であるライフシティーへの空の旅の中、エリスは飛空挺ウィングの甲板で、感慨深い表情で黄昏ていた。

快晴の空の中で強めの風だったが、エリスをどこか励ます感じの風だった。

そんなエリスの背後に、ロックが現れた。

ロックはエリスに声を掛けた。

「どんな気分だ?」

「なんか……複雑……」

ロックの問にエリスはニコリとしたが……無理矢理作った感じの笑顔だった。

ロックはバツの悪そうな表情で、いつものように耳をほじりながら言った。

「だろうな……」

エリスはロックの目を見た。それは悲観的な目ではなく、何かを決心したような目だった。

ロックもそんなエリスの目をじっと見つめている。



……一時間前……


ゴールドアイランドから出航したロック一行は、ライフシティーがある南西大陸を目指していた。

南西大陸はアデル中央勢力圏から離れるため、これまでの旅とは違い空賊達も活発化してくる。

そのため旅の始まりはここからとも言える。

出航したてのウィングで、ロック達は大バァの部屋に集まっていた。

ウィングはオートパイロットにしてあるため、ジンも部屋にいた。

部屋のベッドに置物のように座っている大バァは、しわくちゃの細い目でエリスを見据えている。

「傷を治す力か……」

そう呟く大バァに、マキが言った。

「大バァ様なら何かご存じと思って……」

エリスを筆頭に皆は固唾を飲んで、大バァの言葉を待っている。

すると大バァは口を開いた。

「見たことも聞いたこともない……」

大バァの言葉に一同は一斉に肩を落としたが……大バァは続けた。

「その力は……錬金術の一種かもしれん……」

大バァの言う『錬金術』という言葉に、一同はそれぞれ顔を見合わせた。

それは皆がそれぞれ考えてもいなかった事だ。

するとジンが先人をきって口を開いた。

「錬金術……しかしそれはあまりにも……。錬金術は『分解』と『構築』よって成り立つ……エリスの力が錬金術とすれば、何を分解し、構築している?それに錬成陣は?」

ジンの疑問も当然で、この世界の錬金術は、一つの物質を分解し、それを構築して別形状にする術だ。それに術を発動するには術士の画く錬成陣が必要だ。

すると大バァは、ジンをその細い目で見た。

「そんな事はわかっておるわいっ……可能性の話じゃよ……」

するとロックが険しい表情で言った。

「バァさんの言う可能性を考えるとして……『代価』は何だ?」

代価……分解と構築を繰り返す錬金術にとっては、媒体となる物が必要になるのだが……。

ロックの言葉にジンやマキは表情を曇らせた。ユイはロックのいっている意味がよくわからないようだが……。

「エリスの力が錬金術と考えた時に……その代価は何なんだ?」

ロックの問に誰も答えようとしない……考えられる答えはおそらく皆が持っていただろうが……答えたくなかったのだ。

エリスの力が錬金術とするならば……その代価は『エリスの生命力』……。

エリスが力を使った後……疲れているように見える事も、それが理由ならば辻褄が合う。

するとジンが言った。

「エリスの力が錬金術かどうかはさておき……力の使用は控えた方がいいな……」

ジンの提案に、ロックは頭を掻きながら言った。

「エリスに力を使わせてんのは俺だ。どっかでアテにしてたかもしれねぇ……」

「アンタでもそんな事思うんだ……」

反省しているロックの様子を見て、ユイは驚いた様子だ。

するとそんなユイにマキは言った。

「それほど深刻な問題なのよ」

マキがユイを論したところで、部屋は沈黙に包まれた。

エリスの力の正体が錬金術だとして……その代価として生命力を使ってきたのならば……。

これまでにどれ程の人の傷を治し……どれ程の生命力を使ってきたのか……。


「アレルガルド……」


沈黙を破ったのは、当のエリスだった。

エリスは大バァに言った。

「大バァ様……。アレルガルドって知ってますか?」

エリスの力の正体と関わっているであろう、アレルガルド……。

エリスの旅の目的地であり、失われた国とされているアレルガルド……。

エリスの言葉に大バァの表情は僅かに変化した。

「アレルガルド……お主、どこでそれを知った?」

エリスは目を見開いた。

「知ってるのっ!?」

「知っている……とは言えんのぉ……」

するとロックが言った。

「バァさん……知っている口ぶりだったじゃねぇかっ……」

「名を知っておる程度じゃ……。それだけでは……知っておるとは、言えんのぉ……」

ロックは大バァに食い下がった。

「何で名前を知ってんだ?」

大バァはしわくちゃの細い目でロックを見据えた。

「昔話じゃ……千年前に栄えた国……」

エリスは目を見開き呟いた。

「千年前……」

大バァは続けた。

「しかし……アレルガルドは、突如消えたとされておる」

今度はジンの表情が険しくなった。

「消えた?……国が?」

大バァはしわくちゃの顔で微笑んだ。

「フォッフォッ……昔話じゃからのぉ……。それに儂は千年も生きとらんて……」

千年前とはいえ、栄えていた国が突如消える……物理的にあり得ないが……。

「それはどこにあるっ?」

そう言ったロックに、大バァは首を横に振った。

「最初に言ったはずじゃ……名を知っておる程度だと……。どこかもわからんし、アレルガルドが存在したかどうかもわからん。昔話じゃからな……」

ロックは眉間にシワを寄せて「チッ」と悪態をついた。

これ以上大バァに食い下がったところで、何も引き出せないと思ったからだ。

「わたし……ちょっと外出てくるね……」

エリスはそう言うと、部屋をあとにした。

ロックがジンの方を見ると、ジンはロックに対して無言で頷いた。

ロックも無言でジンに頷き、エリスの後を追って部屋を出た。

大バァからの話で、特に有力な情報を引き出せた訳ではなかったが……。

「一つわかった事がある……」

そう言ったジンに、ユイとマキは目を丸くした。

マキが言った。

「わかったって……何がです?」

ジンは言った。

「アレルガルドは、エリス以外の人間も知っていた……という事だ」

ユイが言った。

「それがなんなのさ?」

「つまりアレルガルドに関する情報が、世界に散っているという事だ。それだけでも進展したと、言ってもいい……」

マキが言った。

「途方もない旅になりますよ……」

ジンはニヤリとした。

「問題ない……。最初から世界を回るつもりだったけらな……」

ユイは感慨深い表情でジンを見た。

(コイツもロックと一緒だ……。なんか大きく見える……)

ジンはマキに言った。

「ライフシティーには、責任を持って送り届けるから、安心していい……。それにライフシティーに行く事は、我々にとっても好都合になった」

ユイは怪訝な表情で言った。

「好都合って?」

ユイの問にジンが答える事はなかったが……代わりにジンの表情は、何かを企むような笑みをしていた。


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