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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第1話 いい加減男と不思議な女
3/30

……Bar集い……



店に戻った二人は、再びカウンター席に座り、ロックは先程の事を女に聞いた。

「何だったんだ?あいつらは?」

怪訝そうな表情をしているロックに、女は言った。

「知らないわ……何か昼間っからしつこいのよ」

「お前……国を探しってるって、言っていたな……。アイツらもそれに関係してんのか?肩に変な刺青あったけど……」

ロックの言葉に、マスターが反応した。

「肩に刺青……ロック、どんな柄だい?」

「柄?……なんか、¥みたいなダッセェ刺青だよ」

マスターは柄を確認すると、不機嫌そうな表情をした。

ロックは言った。

「ばぁさん、知ってんのかよ?」

マスターは煙草に火を着け、二人に言った。

「ふぅ……まぁねぇ……。そいつらは多分……『¥キング』……金の亡者が集まる、ケチな連中さ」

ロックは言った。

「ボスがどうとか言っていたけど……マフィアか何かか?」

マスターは鼻で笑った。

「ふんっ……そんな気合の入った連中じゃないよ……。ただ、連中……金の匂いを嗅ぎ付けるのは鋭くてねぇ……」

ロックは言った。

「女拐って金儲けか……」

ロックは女をじっと見た。小柄でスレンダー、そして美人……確かに狙われてもおかしくない。

女は怪訝そうな表情でロックに言った。

「何?」

「いや……。ところでお前……寝ぐらあるんか?見たところ、地元の人間じゃねぇな……」

「ここから東の地方『クリスタルシティー』から来たの……」

ロックは目を丸くした。

「クリスタルシティー……都会じゃねぇか……」

クリスタルシティーとは、アデルから東にある大都市である。規模的に首都アデルに匹敵する。

するとマスターが言った。

「仕方ないねぇ……今夜はここに泊まって行きな……。宿賃はいらないから安心しな。で?アンタ名前は?」

マスターの優しい配慮に、女は笑顔になった。

「エリス……エリス・クラウド……。ありがとう……」



……¥キングアジト……



13番街のとある一角にそのアジトはあった。

だだっ広い畳の部屋に、金の掛軸や、金の置物……部屋は持ち主のセンスを表すというが……流石に悪趣味だ。

その悪趣味な部屋の奥に、悪趣味な椅子に座った、大柄な筋肉質の男が、偉そうに座っていた。

大柄な男は丸坊主頭に、首に動物の毛皮を巻いている。

「逃げられただと!?」

大柄な男は、目前でひざまづいている部下を、恫喝した。

部下達は先程ロックにやられた男達だ。大柄な男はボスのようだ。

モヒカンがボスに恐る恐る言った。

「しかしボスっ……妙なヤローが邪魔しやがって……」

ボスは目に力を込めた。

「妙なヤローだぁ?そいつも、あの女の妙な力を狙ってやがるのか?」

モヒカンはボスに怯えながら言った。

「それは……わかりませんが……」

ボスはニヤリとした。

「まぁいい……。このドン・マーネに、逆らうとは……いい度胸してやがる……」

ボスの表情に部下達はさらに怯えた。

ドンは立ち上がって、側に置いてあった巨大なマサカリを担いだ。

「女を拐うついでに、その妙なヤローをぶっ殺してやる……」



……翌日昼……



ロックは昨日に引き続きBarにいた。営業は夜からなので客はいなかったが……エリスの様子を見に来たようだ。

エリスはカウンターの奥で、皿洗いをしている。

ロックはそんなエリスを見て言った。

「ばぁさんにコキ使われてんのか?」

エリスは苦笑いした。

「そんなんじゃないよ……タダで泊めてもらってるから……」

するとマスターが2階から降りてきた。

「人聞きの悪い事言ってんじゃないよ……アンタもエリスを見習ったらどうだい?」

「昼間っからなんだ?嫌味か?」

「おや……嫌味以外に聞こえたのかい?大の大人が、昼間っからこんな店に、入り浸ってるんじゃないよ……」

マスターは皿洗いをしているエリスを見て言った。

「気が利く娘だよ……ずっとウチにいてもらいたい位だねぇ……。美人だし、良い看板娘になるよ」

ロックは頬杖をついて言った。

「国を探して旅してんだって?」

マスターは煙草に火を着けた。

「みたいだねぇ……。でも聞いたことないよ……アレルガルドなんて国は」

ロックは言った。

「世界は統一されたけど……未発見、未開拓の地は、まだまだあるみたいだけど……」

ロックの言うように、アデルによって世界は統治されているが……世界には手付かずの地や、未発見の地がまだあるらしく……アデル主導の元、各自治体が勢力を上げて開拓、探索をしている。

マスターは言った。

「女独りで旅をするには……大変だよ。ロック、アンタ……付き合ってやりゃあどうなのさ?」

マスターの言葉に、ロックは呆れた様子で言った。

「冗談キツいぜ……何で俺が、どこの誰だかわからん女のために、そこまで……」

「良い切っ掛けになると、思うけどねぇ……」

マスターがそう言うと、ロックは立ち上がった。

マスターはロックに言った。

「もう帰るのかい?」

「大の大人だからな……」

そう言うとロックは、店を出て行った。

マスターは呟いた。

「逃げたか……煮えきらない男だよ……」

ロックが店を出たのと同時に、エリスは皿洗いを終わらせたようで、カウンターに出てきた。

「マスター……終わったよ……。あれ?ロックは?」

ロックがいない事に気付いたエリスは、店内をキョロキョロした。

マスターは言った。

「野郎なら出てったよ……。それより皿洗い、ご苦労さん……少し休みな。コーヒーでも煎れてやるよ……」

エリスはロックが座っていた席に座った。

「ありがとう……。ねぇマスター……」

マスターはアイスコーヒーをささっと用意した。

「なんだい?」

「ロックって……何者なの?」

「ぶしつけだねぇ……」

エリスは怪訝な表情で言った。

「たより無さそうだけど……凄く強かったし……。なんか掴み処がないって言うか……」

マスターはニヤリとした。

「怪しいってかい?……まぁ、女独りで……存在したか、どうかわからない国を……探してるアンタも、十分怪しいけどねぇ」

エリスは顔をひきつらせた。

マスターは続けた。

「アデルまでどうやって来たんだい?」

マスターの質問に、エリスはバツの悪そうな表情をした。

「密航かい……」

図星を付かれたのか、エリスは下を向いてしまった。

マスターはそんなエリスに言った。

「まぁよくある話さ……この13番街には、ワケアリの人間が多いからねぇ……。アンタみたいな娘は珍しくないよ……」

マスターはそんな人間の扱いに慣れているのか、エリスの事情もさほど気にならないようだ。

エリスはそんなマスターの配慮に、素直に感謝した。

「ありがとう……」

マスターは話を戻した。

「ロックの話だったねぇ……いい加減な男だろ?挙げ句にひねくれ者でねぇ……」

マスターは再び煙草に火を着けた。

「まぁでも、一言で言えば……飛ぶ切っ掛けを失った不器用な男さ……。まぁ悪い奴じゃないよ……」

エリスは目を丸くした。

「飛ぶ……切っ掛けを?」

「アンタ……ロックを連れてってくれないかい?アンタにとっても悪い話じゃないだろ?」

いきなりのマスターの提案に、エリスは流石に戸惑った

マスターは続けた。

「アタシもいい加減うんざりしててさぁ……毎回ツケで飲み食いされてちゃぁ……商売あがったりだよ」

ロックの事を毒づいてはいるが……表情はロックを心配している感じだ。どうやらこのマスターは偽悪的な性格のようだ。

そんなマスターの心情を察してか、エリスは動揺しながら立ち上がった。

「わっ、わたし……買い物……行ってきますっ!」

エリスは慌てて店を出て行った。

マスターは煙草をふかしながら呟いた。

「ババァのお節介かねぇ……」



店を出たエリスは13番街をウロウロしていた。人が多く、夜とは別の意味で栄えている。

店は色々とあり、飲食店や、食料品店、雑貨店など様々だ。エリスはその中の一つの店に注目した。

「錬金屋だぁ……。さすが首都アデルね……」

この世界では錬金術が盛んである。ただし錬金術と言っても、鉄を金に替えるなどという、夢のようなものではなく……あくまでも同価値交換が基本だ。

例えば切り株を、錬成陣に乗せ、術師がそれを木彫りの熊に錬成する……そのレベルだ。

とは言え、錬金術は免許制であり、国家資格が必要で、更に錬金術はアデルが徹底的に管理をしている。

錬金術は浮遊石に次いで、重要物件なのだ。それにより錬金術を用いた商売は規制がきつく、アデル以外の地域で出店するには非常にハードルが高い。

「錬金術……バァちゃん……」

エリスは何かを思い出したのか、感慨深い表情をしている。

「わたし……見つけれるかな?」

エリスはそう呟くと、先程のマスターの提案が、頭を過った。

(ロックを連れてってくれか……悪い奴じゃないよね……)

そんな事を考えていると、エリスの背後から声がした。

「見つけたぜ……」

エリスは声の方を振り向いて、思わず目を見開いた。

声を掛けてきたのは、昨夜ロックに叩きのめされた男達だった。

モヒカンはニヤリとして言った。

「ヤローはいねぇみたいだな……大人しく付いてきてもらうぜ……」


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