③
……Bar集い……
店に戻った二人は、再びカウンター席に座り、ロックは先程の事を女に聞いた。
「何だったんだ?あいつらは?」
怪訝そうな表情をしているロックに、女は言った。
「知らないわ……何か昼間っからしつこいのよ」
「お前……国を探しってるって、言っていたな……。アイツらもそれに関係してんのか?肩に変な刺青あったけど……」
ロックの言葉に、マスターが反応した。
「肩に刺青……ロック、どんな柄だい?」
「柄?……なんか、¥みたいなダッセェ刺青だよ」
マスターは柄を確認すると、不機嫌そうな表情をした。
ロックは言った。
「ばぁさん、知ってんのかよ?」
マスターは煙草に火を着け、二人に言った。
「ふぅ……まぁねぇ……。そいつらは多分……『¥キング』……金の亡者が集まる、ケチな連中さ」
ロックは言った。
「ボスがどうとか言っていたけど……マフィアか何かか?」
マスターは鼻で笑った。
「ふんっ……そんな気合の入った連中じゃないよ……。ただ、連中……金の匂いを嗅ぎ付けるのは鋭くてねぇ……」
ロックは言った。
「女拐って金儲けか……」
ロックは女をじっと見た。小柄でスレンダー、そして美人……確かに狙われてもおかしくない。
女は怪訝そうな表情でロックに言った。
「何?」
「いや……。ところでお前……寝ぐらあるんか?見たところ、地元の人間じゃねぇな……」
「ここから東の地方『クリスタルシティー』から来たの……」
ロックは目を丸くした。
「クリスタルシティー……都会じゃねぇか……」
クリスタルシティーとは、アデルから東にある大都市である。規模的に首都アデルに匹敵する。
するとマスターが言った。
「仕方ないねぇ……今夜はここに泊まって行きな……。宿賃はいらないから安心しな。で?アンタ名前は?」
マスターの優しい配慮に、女は笑顔になった。
「エリス……エリス・クラウド……。ありがとう……」
……¥キングアジト……
13番街のとある一角にそのアジトはあった。
だだっ広い畳の部屋に、金の掛軸や、金の置物……部屋は持ち主のセンスを表すというが……流石に悪趣味だ。
その悪趣味な部屋の奥に、悪趣味な椅子に座った、大柄な筋肉質の男が、偉そうに座っていた。
大柄な男は丸坊主頭に、首に動物の毛皮を巻いている。
「逃げられただと!?」
大柄な男は、目前でひざまづいている部下を、恫喝した。
部下達は先程ロックにやられた男達だ。大柄な男はボスのようだ。
モヒカンがボスに恐る恐る言った。
「しかしボスっ……妙なヤローが邪魔しやがって……」
ボスは目に力を込めた。
「妙なヤローだぁ?そいつも、あの女の妙な力を狙ってやがるのか?」
モヒカンはボスに怯えながら言った。
「それは……わかりませんが……」
ボスはニヤリとした。
「まぁいい……。このドン・マーネに、逆らうとは……いい度胸してやがる……」
ボスの表情に部下達はさらに怯えた。
ドンは立ち上がって、側に置いてあった巨大なマサカリを担いだ。
「女を拐うついでに、その妙なヤローをぶっ殺してやる……」
……翌日昼……
ロックは昨日に引き続きBarにいた。営業は夜からなので客はいなかったが……エリスの様子を見に来たようだ。
エリスはカウンターの奥で、皿洗いをしている。
ロックはそんなエリスを見て言った。
「ばぁさんにコキ使われてんのか?」
エリスは苦笑いした。
「そんなんじゃないよ……タダで泊めてもらってるから……」
するとマスターが2階から降りてきた。
「人聞きの悪い事言ってんじゃないよ……アンタもエリスを見習ったらどうだい?」
「昼間っからなんだ?嫌味か?」
「おや……嫌味以外に聞こえたのかい?大の大人が、昼間っからこんな店に、入り浸ってるんじゃないよ……」
マスターは皿洗いをしているエリスを見て言った。
「気が利く娘だよ……ずっとウチにいてもらいたい位だねぇ……。美人だし、良い看板娘になるよ」
ロックは頬杖をついて言った。
「国を探して旅してんだって?」
マスターは煙草に火を着けた。
「みたいだねぇ……。でも聞いたことないよ……アレルガルドなんて国は」
ロックは言った。
「世界は統一されたけど……未発見、未開拓の地は、まだまだあるみたいだけど……」
ロックの言うように、アデルによって世界は統治されているが……世界には手付かずの地や、未発見の地がまだあるらしく……アデル主導の元、各自治体が勢力を上げて開拓、探索をしている。
マスターは言った。
「女独りで旅をするには……大変だよ。ロック、アンタ……付き合ってやりゃあどうなのさ?」
マスターの言葉に、ロックは呆れた様子で言った。
「冗談キツいぜ……何で俺が、どこの誰だかわからん女のために、そこまで……」
「良い切っ掛けになると、思うけどねぇ……」
マスターがそう言うと、ロックは立ち上がった。
マスターはロックに言った。
「もう帰るのかい?」
「大の大人だからな……」
そう言うとロックは、店を出て行った。
マスターは呟いた。
「逃げたか……煮えきらない男だよ……」
ロックが店を出たのと同時に、エリスは皿洗いを終わらせたようで、カウンターに出てきた。
「マスター……終わったよ……。あれ?ロックは?」
ロックがいない事に気付いたエリスは、店内をキョロキョロした。
マスターは言った。
「野郎なら出てったよ……。それより皿洗い、ご苦労さん……少し休みな。コーヒーでも煎れてやるよ……」
エリスはロックが座っていた席に座った。
「ありがとう……。ねぇマスター……」
マスターはアイスコーヒーをささっと用意した。
「なんだい?」
「ロックって……何者なの?」
「ぶしつけだねぇ……」
エリスは怪訝な表情で言った。
「たより無さそうだけど……凄く強かったし……。なんか掴み処がないって言うか……」
マスターはニヤリとした。
「怪しいってかい?……まぁ、女独りで……存在したか、どうかわからない国を……探してるアンタも、十分怪しいけどねぇ」
エリスは顔をひきつらせた。
マスターは続けた。
「アデルまでどうやって来たんだい?」
マスターの質問に、エリスはバツの悪そうな表情をした。
「密航かい……」
図星を付かれたのか、エリスは下を向いてしまった。
マスターはそんなエリスに言った。
「まぁよくある話さ……この13番街には、ワケアリの人間が多いからねぇ……。アンタみたいな娘は珍しくないよ……」
マスターはそんな人間の扱いに慣れているのか、エリスの事情もさほど気にならないようだ。
エリスはそんなマスターの配慮に、素直に感謝した。
「ありがとう……」
マスターは話を戻した。
「ロックの話だったねぇ……いい加減な男だろ?挙げ句にひねくれ者でねぇ……」
マスターは再び煙草に火を着けた。
「まぁでも、一言で言えば……飛ぶ切っ掛けを失った不器用な男さ……。まぁ悪い奴じゃないよ……」
エリスは目を丸くした。
「飛ぶ……切っ掛けを?」
「アンタ……ロックを連れてってくれないかい?アンタにとっても悪い話じゃないだろ?」
いきなりのマスターの提案に、エリスは流石に戸惑った
マスターは続けた。
「アタシもいい加減うんざりしててさぁ……毎回ツケで飲み食いされてちゃぁ……商売あがったりだよ」
ロックの事を毒づいてはいるが……表情はロックを心配している感じだ。どうやらこのマスターは偽悪的な性格のようだ。
そんなマスターの心情を察してか、エリスは動揺しながら立ち上がった。
「わっ、わたし……買い物……行ってきますっ!」
エリスは慌てて店を出て行った。
マスターは煙草をふかしながら呟いた。
「ババァのお節介かねぇ……」
店を出たエリスは13番街をウロウロしていた。人が多く、夜とは別の意味で栄えている。
店は色々とあり、飲食店や、食料品店、雑貨店など様々だ。エリスはその中の一つの店に注目した。
「錬金屋だぁ……。さすが首都アデルね……」
この世界では錬金術が盛んである。ただし錬金術と言っても、鉄を金に替えるなどという、夢のようなものではなく……あくまでも同価値交換が基本だ。
例えば切り株を、錬成陣に乗せ、術師がそれを木彫りの熊に錬成する……そのレベルだ。
とは言え、錬金術は免許制であり、国家資格が必要で、更に錬金術はアデルが徹底的に管理をしている。
錬金術は浮遊石に次いで、重要物件なのだ。それにより錬金術を用いた商売は規制がきつく、アデル以外の地域で出店するには非常にハードルが高い。
「錬金術……バァちゃん……」
エリスは何かを思い出したのか、感慨深い表情をしている。
「わたし……見つけれるかな?」
エリスはそう呟くと、先程のマスターの提案が、頭を過った。
(ロックを連れてってくれか……悪い奴じゃないよね……)
そんな事を考えていると、エリスの背後から声がした。
「見つけたぜ……」
エリスは声の方を振り向いて、思わず目を見開いた。
声を掛けてきたのは、昨夜ロックに叩きのめされた男達だった。
モヒカンはニヤリとして言った。
「ヤローはいねぇみたいだな……大人しく付いてきてもらうぜ……」