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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第八話 それぞれの想いと決着
27/30

けっして幼少期から強かったわけではなかった。

ガンツ一家の長男として産まれたカストロだったが……武骨な父親とは似ていなく、線の細い身体に、気弱な性格……。

しかし父親は荒れ狂う東の空で、自慢の矛を持って空賊を凪ぎ払い、東の空を支配した。

カストロはそんな父親に憧れ、育ち……そして強くなった。

そしてカストロは手に入れた……父親の元で戦う力を……。

ガンツ一家は負ける事は許されない……それは即ち空での威厳を失い、東の空で商売を出来なくなるからだ。

カストロはロックに斬りつけられた傷で、意識が朦朧とする中……父親の背中が脳裏に浮かんだ。

それは矛を片手に、空賊相手に立ち振る舞う……大きな背中……。

(俺は……俺達は負けられねぇ!)

今にもバイクから落下しそうなカストロは、目を見開き歯を喰い縛った。

カストロは懸命に腕を伸ばし、ロックを掴んだ。

カストロは息を吹き返したのだ……父親、家族を胸に、必死でロックの腕を掴んだのだ。

そんなカストロにロックは目を見開いた。

(コイツ……目が死んでねぇ!?)

カストロは声を振り絞った。

「マリーダッ!」

カストロが斬られた事により、混乱していたマリーダは、カストロの必死の声で我に帰り、自分のすべき事を瞬時に理解した。

「うわぁーーーっ!」

マリーダは雄叫びと共に、ボーガンの矢を素手で持って、それをロックの脇腹に突き刺した。

「ぐっ!?」

脇腹に矢を刺されたロックは、表情を歪め、たまらずうなり声を上げた。

「テメェも落ちろ……」

そう言ったカストロはニヤリとしたが……意識が今にも落ちそうなカストロにとっては、苦し紛れだった。

さすがのロックも、いきなり脇腹を刺されたために力が入らない。

(ダメだ……踏ん張れねぇ……)

カストロはマリーダに言った。

「マリーダ……俺達の勝ちだ……」

カストロはマリーダにそう言うと……ロックもろともバイクから落ちた。

「あっ……兄貴ーーーっ!」

ゴールまで残り数秒で、ロックとカストロは脱落した。

ユイも叫んだ。

「ロックーーーーッ!」

もちろん会場のモニターで見ていたエリス達も、この状況に顔面蒼白になった。

エリスは目を見開き涙を浮かべ、叫んだ。

「ロックーーーーッ!」

ジンは目を見開き、マキは両手で顔を覆っている。

エリスは勢いよく立ち上がり、走り去った。

ジンは走り去るエリスの背中に叫んだ。

「エリスッ!」

エリスは無我夢中で走った……。ロックの元へ……。

エリスが着く頃にはレースは終ってるだろう……それでもエリスはいてもたってもいられなかった。

あれぐらいの事でロックが死なないのはわかっている。しかし理屈ではない……エリスの中の何かがエリスを駆り立てた。

ロックはあれぐらいの事で死なない……それはジンもわかっていたが……。

「ロックはあれぐらいで死なないが……まずいぞ……」

残り数秒で終わるレースは、ユイとマリーダの一騎討ちなった。

互いに飛び道具を得意とする両者だったが……。

「ユイが不利だわ……」

ユイのバイクは僅にリードしていたが……マキの指摘通りユイは窮地に陥っていた。

両者の武器は飛び道具……つまり体勢的に後方のマリーダの方が有利になる。

さらにユイに追い討ちをかける事が……。

(戦ってわかった。小娘は二本づつしか針を投げれない……。こっちは三本連射できる)

マリーダの思惑通り、ユイは同時に二本投げるが……マリーダは三本連射……つまり、二本防がれても、三本目は確実に当てれる。

「兄貴の言う通り……私達の勝ちだ」

マリーダはボーガンをユイに構える。

もちろんユイもそれに反応するが……。

(やられる……)

ユイも現状を理解していた。今の自分の力量では、ボーガンの矢凌げるのは二本までだと……。

しかしユイは針を構えた。

(アタシは……諦めない……)

しかしマリーダは躊躇わずボーガンを発射した。

ユイはそれに対抗するべく針を投げた。


キンッキンッ!


ボーガンの矢二本は、ユイの針に弾かれたが……。


ズガンッ!


三本目の矢は、バイクの後部タンクに突き刺さった。タンクからは、プシューと空気が漏れる音がしている。

「エアが漏れたっ!?」

ユイは険しい表情で歯を喰い縛った。

エアの漏れたバイクはバランスを崩すが、ユイは体を使って必死に支える。

マリーダは止めをさそうと、ボーガンを構えた。

「次の攻撃でタンクをもう一度狙って……破裂させる。終わりだよ」

誰の目から見ても、絶体絶命のピンチだが……ユイの目に諦めはなかった。

「アイツ(ロック)が……体はってここまで来たんだっ!アタシが諦められるかっ!」

ユイはこれまでのロックの戦いを見て、理屈ではなく直感で感じていた……ロックの強さの理由を……。

(アイツは大事なモノを……仲間を、アタシを守った。だからアタシがここでやられるわけにいかないっ!)

「もう終わったんだよっ!」

マリーダがボーガンを構え、引き金を引く間際だった。


『……ザザ……よく……ザザ……言った』


確かに声がした。

ユイは目を見開いた。

「ロック……?……」

確かに聞こえた……ロックの声が……。

ユイはハッとした。胸元の通信オーブが光っていたのだ。

その時だった。


ガダンッ!


マリーダのバイクが何かに引っ張られるように、バランスを崩した。

「なっ、何だっ!?」

ユイの通信オーブから声がした。

『よく言ったぜっ!……クソガキッ!』

何が起きているかわからないマリーダは、引っ張られている後部を見た。

マリーダは目を見開いた。後部座席にワイヤーが巻かれており、それがバイクを引っ張っていたのだ。

「まさか……あの男……落ちた時にっ!?」

マリーダの背筋は凍りついた。

(私に刺され……兄貴に掴まれ……その中でワイヤーを巻いたのか?)

マリーダのバイクの後方では、両足で砂浜を踏ん張り、ワイヤーでバイクに引きずられているロックがいたのだ。

ロックは鞘に入った刀にワイヤーをグルグル巻いて、懸命に引っ張っている。

「クソガキ……お前の言うように……勝負は終わっちゃいねぇっ!」

ロックは頭からと、刺された脇腹から、ダラダラと血を流していたが……笑っていた。

「だからよ……テメェはまっすぐゴールを見据えなっ!……ユイッ!」

ロックの言葉にユイは目に涙を浮かべたが、すぐに目前にあるゴールを睨み付けた。

(凄いよロック……アンタは……)

ユイはマリーダのバイクに構わず、前を向きゴールを目指した。

マリーダはユイの行動に目を見開いた。

「逃げ切れると思ってんのかいっ!?人一人にバイクが、止めれるわけないだろっ!……それにあの傷だっ!踏ん張ってるのがやっとだっ!」

しかしそれでもユイは、後ろを向くことはない。

マリーダは驚愕した。

(バカな……信じるってのかい?……あの男を……)


ガダンッ!


するとさらにマリーダのバイクは引っ張られた。

ロックは懸命にワイヤーを引っ張りながら、マリーダに叫んだ。

「ボーガンのネェちゃんよぉっ!オメェの兄貴も気合の入った目をしてたが……」

ロックはさらにワイヤーに力を入れた。力んだことにこり、ロックの脇腹からは、血が勢いよく噴き出した。

しかし、それでもロックは力を緩めない……それどころかバイクはロックにどんどん引かれている。

マリーダは必死にアクセルを回すが……。

(手応えがないっ!……化物がぁっ!)

「俺らは負けらんねぇんだよぉーーっ!」

ロックはワイヤーを一本背負いし、力任せにバイクを引っ張り上げた。

「うおおおーーーーーっ!行けぇーっ!……ユイーーッ!」

そこには信じられない光景があった。

一人の人間がワイヤーでバイクを引っ張り上げ、バイクが宙に舞ったのだ。

マリーダは海に投げ出され、宙に舞ったバイクはロック目掛けて飛んできた。

ロックは刀を鞘から抜いた。

「オメェら……結構強かったよ……」


ザシュッ!


ロックは飛んできたバイクを刀で真っ二つに切断した。


ドゴォーーーーンッ!


真っ二つに切断されたバイクは、凄まじい爆発音を上げて、そのまま爆発した。

ロックの少し後ろに倒れていたカストロは、意識が朦朧とする中で、ロックの後ろ姿を見ていた。

(デケェ……小さいが……デケェ背中だ……)

ロックがバイクを真っ二つにしたのと同時に、ユイはエアが抜けたバイクでゴールに突っ込んだ。

ユイがゴールに突っ込むと、付近にいたギャラリー達の歓声が鳴り響いた。

ユイはゴールしたと同時に、バイクのバランスが崩れ、バイクを乗り捨てた。

ユイは砂浜に上手く着地し、その様子にギャラリーのボルテージはさらに上がる。

しかしユイはそんなギャラリーを無視して、コースを走って逆走した。

(ロック……勝ったよ。アタシ達……勝ったんだよっ!)


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