④
バトルエアバイクレースは、丁度半分を過ぎた頃だ。
現在4番手のロックとユイは、懸命に浜辺を爆走した。
するとようやく前方グループが肉眼で確認できた。
ロックに無理矢理運転をさせられているユイが、目を見開き大声で言った。
「見えてきたっ!バイクが3台っ!……なんかやり合ってるよっ!」
しかしユイがそう言ったのも束の間……一台が脱落することになる。
②番のバルザック師弟だ。バルザック師弟のバイクはバランスを失い、クルクル回転している。
その回転しているバイクを目掛けて、ガンツ妹のカレンがボーガンを二本発射した。
矢の一本はバイクを、もう一本はバルザックの弟子の肩に刺さり、バルザック師弟はバイクごと海に突っ込んだ。
バルザック師弟が海に突っ込んだのを見て、共闘をしていたミロはガンツ兄妹を睨み付けた。
ミロはアクセルを回し、ガンツ兄妹との距離をつめようとする。
ミカが言った。
「うかつだぞっ!ミロッ!」
ミロは剣を構えながら、ガンツ兄妹との距離を縮める。
「このバイクはボーガンの矢では貫けないっ!ボーガンの矢を弾きながら、距離をつめて、一気にやりますっ!」
すると案の定マリーダは、ボーガンの矢をバイク目掛けて発射した。
キィーーーンッ!
ボーガンの矢はバイクのフロント部を捉えたが……鋼鉄製のフロント部はあっさりと矢を弾いた。
「チッ!鉄板かいっ!……ならっ……」
マリーダは舌打ちをし、ボーガンの二射目を、ミロ目掛けて発射した。
ミロは飛んできた矢を剣で弾き、さらに距離をつめるが……マリーダはボーガン攻撃の手を緩めない。
三射、四射、五射……次々と撃ってくる。しかしミロはそれらをかわしたり、弾いたりとなんとか防ぎ、とうとうガンツ兄妹を捉えた。
マリーダはたまらずボーガンをミロに発射したが……ミロはそれをかわし、マリーダを無視して前のカストロに剣を振りかぶった。
「もらったぁーーっ!」
ミロが剣を振りおろそうとした時だった……マリーダがニヤリとした。
「いいのかい?相方が苦しそうだよ……」
ミロはマリーダの言葉に思わず剣を止めて、後方を確認した。
するとミカの肩にボーガンの矢が刺さっていたのだ。
ミカは苦悶の表情でミロに言った。
「バッ、馬鹿者っ!ま……前を見ろっ!」
ミカの言葉に我にかえったミロは、ハッとした表情で前を見たが……。
「よそ見は……命とりだぜっ!」
ミロの頭上に、カストロの剣が迫っていた。
ガッキィーーーーンッ!
ミロはすんでのところで、剣を受け止めたが……。
(重い……この体勢で……この重さ……)
ミロの剣を持つ手は、カストロのパワーにより、プルプルとしている。
カストロはニヤリとした。
「反応したか……やるじゃねぇかぁっ!」
カストロは剣にさらに力を込めて、ミロの剣ごと押し込めた。すると……。
ゴキッ!……バキバキッ!
「ぐっ……ぐおぉぉぉーーっ!」
ミロは悶絶した。それもそのはず、ミロの剣を持つ手の腕の骨が、折れていったのだ。
たまらずミロは剣を落とし、カストロは追撃のため、剣を振りかぶった。
ボーガンを喰らった肩を抑えながら、ミカは悲痛の表情で叫んだ。
「やめろーーーっ!」
カストロは勢いよく剣を、ミロに振りおろした。
誰もが「ミロが斬られる」と思ったが……カストロの剣はミロ寸前で止まっている。
ミロにミカ……マリーダまでも、目を見開いてカストロの剣を見ている。カストロの腕に針が刺さっていたのだ。
カストロはギロリと後方を睨んだ。
すると二組の間に、一台のバイクが割って入った。
ロックとユイのバイクだ。
後部座席のロックはそのままカストロに斬りかかり、カストロはそれに反応した。
ガッキィーーーーンッ!
両者の刀と剣が激しくぶつかり合う。
カストロはロックを睨んだ。
(コイツ……)
ロックはカストロに対して、不敵な笑みを浮かべていた。
カストロはマリーダに言った。
「マリーダッ!一度距離をとるっ!発射準備しとけっ!」
カストロはそう言うと、バイクをロック達から離し、前方に進んで距離をとった。
カストロはロック達を警戒した。
(俺の腕に当てた針といい……あの男の太刀筋……。アイツらは……強ぇ……)
一方ロックの登場により、命拾いしたミロは、苦痛に表情を歪めながらロックに言った。
「ハッ……ハーネスト殿……。かっ……かたじけない……」
ロックはミロの様子を見て言った。
「その腕じゃレースは無理だ。リタイアしな……」
ミロは苦笑いした。
「そっ……そのようですね……」
するとミカが言った。
「悔しいですが……」
ロックはニヤリとした。
「優勝したら……飯ぐらい奢ってやる。養生しなっ……。行くぜっ、クソガキッ!」
またもやロックにクソガキと言われ、ユイはムッとしたが、ロックに言われるままアクセルを全開にした。
ロックのバイクが走っていくのを、後続で見ていたミロとミカは、バイクを停車しようとはしなかった。
ミロは腕の痛みを懸命に堪えて、ハンドルを握っている。
「我々はこのまま……後ろを付いていきましょう……」
ミロは苦痛に表情を歪めらがらそう言うと、ミカも頷いた。
「そうだな……この戦いを見届けよう……」
ミロはミカに言った。
「すみません……早く治療をしなければいけないのに……」
「気にするな……これしきの傷……。それよりこの戦いの行く末の方が大事だ」
ミロは痛みに耐えながら、苦笑いした。
「しかし、やはりアデル十傑です。私の腕の骨がバラバラになるほどの剣と……互角に打ち合うのですから……」
ミカは言った。
「勝てると思ったが……甘かったな……統一戦争の英雄は、だてではない……」
ミロは表情を険しくした。
「しかし、あのガンツ兄妹も……同じくらいの手練れ……。何者でしょう?」
「さぁな……ガンツ一家の子供達と言ったな……。どちらにせよこの戦い……ただでは終わらんぞ……」
一方前を行く二組のペアは、距離を保ちつつ互いに様子を伺っていた。
ロックとユイが内側……ガンツ兄妹は海側を走っている。
「マリーダ……運転代われ」
そう言ったのはカストロだ。
「わかった」
カストロが言う事に、マリーダは了承しハンドルを握り……カストロは後方宙返りをして、マリーダと席を入れ替わった。
「運転しながら、あの青頭野郎とやるのは……キツいからな。こっちから仕掛ける……寄せろっ!」
カストロの指示に従い、マリーダはバイクをロックとユイのバイクに寄せだした。
ロックはユイに言った。
「来たぞっ!」
「わかってるよっ!」
ユイはそう言うと、投げ針をガンツ兄妹へ二本投げた。距離を保つための威嚇だ。
針は勢いよくガンツ兄妹目掛けて飛んだが……。
キィンッ……キィンッ!
ユイの針は、マリーダのボーガンの矢に、あっさりと弾かれ……バイクの距離は縮まっていく。
ロックは刀を構えて身構えた。
そしてバイクは互いの間合いに入り……。
「マリーダ……手ぇ出すな……」
カストロらマリーダにそう言うと、剣を振りかぶり、ロック目掛けて振りおろした。
「おうらぁーーっ!」
カストロの雄叫びと同時に、剣はロック目掛けて飛んできた。
ガッキィーーーーンッ!
ロックは刀でそれを受け止めたが……。
(重いっ!……この野郎……)
剣を受け止めたロックに、カストロはニヤリとした。
「ハッ……俺の一刀を片手で受けるとは……しかしっ!」
カストロはロックの刀に……二撃、三撃と立て続けに打ち付けた。
ロックは何とか受け止めたが……バイクは少しバランスを崩した。
カストロはその隙を見逃さなかった。
「もらったぁーーっ!」
カストロは渾身の一撃をロックに放った。
ロックは刀で受けようと、刀を構えたが……。
カストロはニヤリとした。
(その体勢では、受けきれねぇぞっ!)
するとロックは刀でカストロの剣を受け流し、逆の手で持っていた刀の鞘でカストロの顔面を殴った。
「ぐぶぉっ!」
カストロが殴られた事により、今度はガンツ兄妹のバイクがバランスを崩した。
マリーダはたまらずハンドルに力を込めて、バランスを戻しつつロック達との距離をとった。
「兄貴っ!?」
カストロは「ぺっ」と血を吐いて、口を拭った。
「ヤローッ!やってくれるぜ……」
マリーダは驚いた様子で、サイドミラーでカストロを見ている。
(兄貴の剣を受け流し、そのまま鞘で殴るなんて……。何者だ?)
「ククククッ……」
殴られたカストロは不気味に笑っている。
そんなカストロをマリーダは怪訝な表情で見た。
「兄貴……何を笑って……」
「あの青い髪に……あの太刀捌き……。信じられねぇが……間違いねぇ……」
「兄貴……何を言ってんだ?」
「わからねぇか?マリーダ……。野郎は……アデル十傑の……人喰いの蒼鬼だっ!」
マリーダは大きく目を見開いた。
「人喰いの蒼鬼って……統一戦争の英雄じゃないか……そんな奴が何で?」
カストロは笑った。
「ハッハーッ!「何で?」かなんて、どうだっていいっ!……ただ奴をやりゃあ……」
カストロは剣を豪快にロック達に向けた。
「オヤジへのいい土産になるっ!」




