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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第七話 本選開始とデットヒート
25/30

バトルエアバイクレースは、丁度半分を過ぎた頃だ。

現在4番手のロックとユイは、懸命に浜辺を爆走した。

するとようやく前方グループが肉眼で確認できた。

ロックに無理矢理運転をさせられているユイが、目を見開き大声で言った。

「見えてきたっ!バイクが3台っ!……なんかやり合ってるよっ!」

しかしユイがそう言ったのも束の間……一台が脱落することになる。

②番のバルザック師弟だ。バルザック師弟のバイクはバランスを失い、クルクル回転している。

その回転しているバイクを目掛けて、ガンツ妹のカレンがボーガンを二本発射した。

矢の一本はバイクを、もう一本はバルザックの弟子の肩に刺さり、バルザック師弟はバイクごと海に突っ込んだ。

バルザック師弟が海に突っ込んだのを見て、共闘をしていたミロはガンツ兄妹を睨み付けた。

ミロはアクセルを回し、ガンツ兄妹との距離をつめようとする。

ミカが言った。

「うかつだぞっ!ミロッ!」

ミロは剣を構えながら、ガンツ兄妹との距離を縮める。

「このバイクはボーガンの矢では貫けないっ!ボーガンの矢を弾きながら、距離をつめて、一気にやりますっ!」

すると案の定マリーダは、ボーガンの矢をバイク目掛けて発射した。


キィーーーンッ!


ボーガンの矢はバイクのフロント部を捉えたが……鋼鉄製のフロント部はあっさりと矢を弾いた。

「チッ!鉄板かいっ!……ならっ……」

マリーダは舌打ちをし、ボーガンの二射目を、ミロ目掛けて発射した。

ミロは飛んできた矢を剣で弾き、さらに距離をつめるが……マリーダはボーガン攻撃の手を緩めない。

三射、四射、五射……次々と撃ってくる。しかしミロはそれらをかわしたり、弾いたりとなんとか防ぎ、とうとうガンツ兄妹を捉えた。

マリーダはたまらずボーガンをミロに発射したが……ミロはそれをかわし、マリーダを無視して前のカストロに剣を振りかぶった。

「もらったぁーーっ!」

ミロが剣を振りおろそうとした時だった……マリーダがニヤリとした。

「いいのかい?相方が苦しそうだよ……」

ミロはマリーダの言葉に思わず剣を止めて、後方を確認した。

するとミカの肩にボーガンの矢が刺さっていたのだ。

ミカは苦悶の表情でミロに言った。

「バッ、馬鹿者っ!ま……前を見ろっ!」

ミカの言葉に我にかえったミロは、ハッとした表情で前を見たが……。

「よそ見は……命とりだぜっ!」

ミロの頭上に、カストロの剣が迫っていた。


ガッキィーーーーンッ!


ミロはすんでのところで、剣を受け止めたが……。

(重い……この体勢で……この重さ……)

ミロの剣を持つ手は、カストロのパワーにより、プルプルとしている。

カストロはニヤリとした。

「反応したか……やるじゃねぇかぁっ!」

カストロは剣にさらに力を込めて、ミロの剣ごと押し込めた。すると……。


ゴキッ!……バキバキッ!


「ぐっ……ぐおぉぉぉーーっ!」

ミロは悶絶した。それもそのはず、ミロの剣を持つ手の腕の骨が、折れていったのだ。

たまらずミロは剣を落とし、カストロは追撃のため、剣を振りかぶった。

ボーガンを喰らった肩を抑えながら、ミカは悲痛の表情で叫んだ。

「やめろーーーっ!」

カストロは勢いよく剣を、ミロに振りおろした。

誰もが「ミロが斬られる」と思ったが……カストロの剣はミロ寸前で止まっている。

ミロにミカ……マリーダまでも、目を見開いてカストロの剣を見ている。カストロの腕に針が刺さっていたのだ。

カストロはギロリと後方を睨んだ。

すると二組の間に、一台のバイクが割って入った。

ロックとユイのバイクだ。

後部座席のロックはそのままカストロに斬りかかり、カストロはそれに反応した。


ガッキィーーーーンッ!


両者の刀と剣が激しくぶつかり合う。

カストロはロックを睨んだ。

(コイツ……)

ロックはカストロに対して、不敵な笑みを浮かべていた。

カストロはマリーダに言った。

「マリーダッ!一度距離をとるっ!発射準備しとけっ!」

カストロはそう言うと、バイクをロック達から離し、前方に進んで距離をとった。

カストロはロック達を警戒した。

(俺の腕に当てた針といい……あの男の太刀筋……。アイツらは……強ぇ……)

一方ロックの登場により、命拾いしたミロは、苦痛に表情を歪めながらロックに言った。

「ハッ……ハーネスト殿……。かっ……かたじけない……」

ロックはミロの様子を見て言った。

「その腕じゃレースは無理だ。リタイアしな……」

ミロは苦笑いした。

「そっ……そのようですね……」

するとミカが言った。

「悔しいですが……」

ロックはニヤリとした。

「優勝したら……飯ぐらい奢ってやる。養生しなっ……。行くぜっ、クソガキッ!」

またもやロックにクソガキと言われ、ユイはムッとしたが、ロックに言われるままアクセルを全開にした。

ロックのバイクが走っていくのを、後続で見ていたミロとミカは、バイクを停車しようとはしなかった。

ミロは腕の痛みを懸命に堪えて、ハンドルを握っている。

「我々はこのまま……後ろを付いていきましょう……」

ミロは苦痛に表情を歪めらがらそう言うと、ミカも頷いた。

「そうだな……この戦いを見届けよう……」

ミロはミカに言った。

「すみません……早く治療をしなければいけないのに……」

「気にするな……これしきの傷……。それよりこの戦いの行く末の方が大事だ」

ミロは痛みに耐えながら、苦笑いした。

「しかし、やはりアデル十傑です。私の腕の骨がバラバラになるほどの剣と……互角に打ち合うのですから……」

ミカは言った。

「勝てると思ったが……甘かったな……統一戦争の英雄は、だてではない……」

ミロは表情を険しくした。

「しかし、あのガンツ兄妹も……同じくらいの手練れ……。何者でしょう?」

「さぁな……ガンツ一家の子供達と言ったな……。どちらにせよこの戦い……ただでは終わらんぞ……」


一方前を行く二組のペアは、距離を保ちつつ互いに様子を伺っていた。

ロックとユイが内側……ガンツ兄妹は海側を走っている。

「マリーダ……運転代われ」

そう言ったのはカストロだ。

「わかった」

カストロが言う事に、マリーダは了承しハンドルを握り……カストロは後方宙返りをして、マリーダと席を入れ替わった。

「運転しながら、あの青頭野郎とやるのは……キツいからな。こっちから仕掛ける……寄せろっ!」

カストロの指示に従い、マリーダはバイクをロックとユイのバイクに寄せだした。

ロックはユイに言った。

「来たぞっ!」

「わかってるよっ!」

ユイはそう言うと、投げ針をガンツ兄妹へ二本投げた。距離を保つための威嚇だ。

針は勢いよくガンツ兄妹目掛けて飛んだが……。


キィンッ……キィンッ!


ユイの針は、マリーダのボーガンの矢に、あっさりと弾かれ……バイクの距離は縮まっていく。

ロックは刀を構えて身構えた。

そしてバイクは互いの間合いに入り……。

「マリーダ……手ぇ出すな……」

カストロらマリーダにそう言うと、剣を振りかぶり、ロック目掛けて振りおろした。

「おうらぁーーっ!」

カストロの雄叫びと同時に、剣はロック目掛けて飛んできた。


ガッキィーーーーンッ!


ロックは刀でそれを受け止めたが……。

(重いっ!……この野郎……)

剣を受け止めたロックに、カストロはニヤリとした。

「ハッ……俺の一刀を片手で受けるとは……しかしっ!」

カストロはロックの刀に……二撃、三撃と立て続けに打ち付けた。

ロックは何とか受け止めたが……バイクは少しバランスを崩した。

カストロはその隙を見逃さなかった。

「もらったぁーーっ!」

カストロは渾身の一撃をロックに放った。

ロックは刀で受けようと、刀を構えたが……。

カストロはニヤリとした。

(その体勢では、受けきれねぇぞっ!)

するとロックは刀でカストロの剣を受け流し、逆の手で持っていた刀の鞘でカストロの顔面を殴った。

「ぐぶぉっ!」

カストロが殴られた事により、今度はガンツ兄妹のバイクがバランスを崩した。

マリーダはたまらずハンドルに力を込めて、バランスを戻しつつロック達との距離をとった。

「兄貴っ!?」

カストロは「ぺっ」と血を吐いて、口を拭った。

「ヤローッ!やってくれるぜ……」

マリーダは驚いた様子で、サイドミラーでカストロを見ている。

(兄貴の剣を受け流し、そのまま鞘で殴るなんて……。何者だ?)

「ククククッ……」

殴られたカストロは不気味に笑っている。

そんなカストロをマリーダは怪訝な表情で見た。

「兄貴……何を笑って……」

「あの青い髪に……あの太刀捌き……。信じられねぇが……間違いねぇ……」

「兄貴……何を言ってんだ?」

「わからねぇか?マリーダ……。野郎は……アデル十傑の……人喰いの蒼鬼だっ!」

マリーダは大きく目を見開いた。

「人喰いの蒼鬼って……統一戦争の英雄じゃないか……そんな奴が何で?」

カストロは笑った。

「ハッハーッ!「何で?」かなんて、どうだっていいっ!……ただ奴をやりゃあ……」

カストロは剣を豪快にロック達に向けた。

「オヤジへのいい土産になるっ!」

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