③
各車は市街地に飛び出し、高級ホテル街を爆走した。
ホテルやビルの窓からの歓声に、自然とテンションが上がる。
そんな中、最後尾を走るロックは、先程のユイの投げ針に感心していた。
(一本目の針で顔を狙い……それに注意させる事で、二本目の針を銃口に確実に当てやがった)
ロックはサイドミラーでユイを確認した。
(ムラサメ出身は……だてじゃねぇな。大した技術だ)
ユイは振り落とされないように、必死でしがみついている。
ロックはユイに言った。
「やるじゃねぇかっ!クソガキッ!……この調子で頼むぜっ!」
ユイは風圧に耐えながら、ロックに怒鳴った。
「いつになったら、名前で呼ぶんだよっ!」
現在のトップは依然としてガンツ兄妹で、その後ろをミロとミカ、その他と続き……ロックとユイは最下位だ。
そんな市街地の様子を、巨大モニターで見ていたジンは、渋い表情をしている。
「脱落者が出ているのはいいが……ロック達は最下位だ」
エリスが言った。
「バイクに問題があるんじゃないの?」
ジンはムッとした表情になった。
「製作時間が短かったんだぞ……それであの走りだ。大健闘だ」
するとジンは通信オーブを取り出した。
「まぁ……だからと言って……負けるわけにはいかないか……。ロック、聞こえるか?」
市街地を激走していたロックは、首からぶら下げている通信オーブの反応に、応答した。
「何だよジン?……あまりかまってられねぇぜ」
『実はそのバイクには、秘密がある』
ロックとユイはジンの言葉に、目を見開いた。
ロックは言った。
「何だよっ!秘密って?」
通信オーブはチカチカと光っている。
『タコメーターの下に、赤いボタンがあるだろ?』
ロックはタコメーターを確認した。するとタコメーターのすぐ下に、小さな赤いボタンがある。
「あるけど……これが何だよ?」
『ほんとにヤバイ時にそれを押せ』
「あっ?何だよこのボタン?」
『これは……ザザ……か……ザザ……だ』
「あっ?なんだって?」
『ザザ……ザザ……』
ここで通信が途絶えてしまった。
するとユイが言った。
「ロック……海だっ!海に出るよっ!」
ユイの言うように、目前に海岸が見えてきた。先にいるレース出場者は海岸を東に進んで行った。
ロックは舌打ちした。
「チッ!だから通信が切れたか……」
通信オーブは市街地では活きるが、風の多い海岸ではノイズが酷く、通信が切れる事が多々ある。
ロックはユイに言った。
「海岸に入ったら、周りは海だ。容赦なく仕掛けてくるぞっ!」
ユイは目に力を込めて頷いた。
ロックはアクセルに力を込めた。
「後半戦……行くぜっ!」
海岸に出たロックは、アクセルを回し、スピードを上げた。
すると前方を走るバイクが、徐々に近づいてくる。
⑧番、フリーの傭兵……ジェリー姉弟だ。
「姉貴っ!後から来たぞっ!」
「わかってるよっ!」
ジェリー姉弟は上半身をプロテクターで覆い、姉が運転を……弟が後ろに乗っている。
「機関銃用意っ!」
ジェリー姉がそう叫ぶと、バイクの両サイドにある銃口が、後方のロックとユイを捉え、弟が後ろを向いた。
「てぇーーーっ!」
姉がそう叫ぶと、弟が機関銃を発射した。
ドドドドドドドドドッ!
けたたましい音が、海岸に鳴り響いた。
これにはさすがのロックも刀で受けれるはずもなく、バイクを左右に移動させて避けている。
ユイは目をつむりながら言った。
「これじゃ近づけないよっ!」
ユイの言うとおり、ジェリー姉弟の機関銃攻撃に隙はなく、近づく事が出来ない。
ロックは機関銃を上手く左右にかわしながら、ユイに言った。
「弾切れになったら……運転を代われ……」
ユイは閉じていた目を開けて激昂した。
「何言ってんだよっ!?」
するとジェリー姉弟の機関銃が止んだ。おそらく弾が切れたのだろう。しかし弟はすぐさま次の弾を装填している。
ロックはすかさずアクセルを回し、距離をつめた。
「ガキッ!しっかり運転しろよっ!後、俺が飛んだら少し後方に下がれっ!」
ロックはそう言うと……なんとバイクから飛んだのだ。
「ちょっ……ロック……」
ユイは慌てハンドルを握り、必死に体を支えながら、ロックの座席に着いた。
ロックが飛んだ先は……もちろんジェリー姉弟のバイクだ。
ジェリー弟は目を疑った。
「とっ……飛んだだとっ!?」
ロックは空中で刀を抜き、そのまま刃を立てて突っ込んだ。
目を見開き笑っているロックに、ジェリー弟はゾッとした。
その後は瞬く間だった。
ロックは機関銃に刀を突き刺し、そのまま後部座席の弟に蹴りを入れ、弟を落下させた。
ロックはそのまま後部座席で、反対側の機関銃も刀で突き刺し破壊した。
あまりにも突然の事に、ジェリー姉も混乱している。
「貴様っ!何をっ!?」
「悪ぃな……」
ロックはそう言うと、後から無理矢理ハンドルを奪い、進行方向を海へ向けた。
「海にっ!?……うわぁぁぁぁーっ!」
バイクはそのまま海に突っ込み、ロックはすんでのところで、ジャンプして脱出し……。
「ガキーッ!」
ロックにそう言われると、ユイはバイクを飛んでいるロック目掛けて走らせた。
ロックは後方にクルリと回って、そのままバイクの後部座席に着いた。
「うわわわわっ!」
ロックが急に乗った事で、バイクはバランスを崩しかけたが、ユイはなんとか踏ん張った。
これでまた一組のペアが脱落した。
しかしロックはこの勢いを止めるつもりはない。
「ガキッ!そのままぶっ飛ばせっ!」
ユイは泣きそうな表情で言った。
「アタシが運転するのっ!?」
ロックはニヤリとした。
「このままの勢いで……数を減らす。行けぇーっ!」
ロックのテンションに、ユイは腹をくくった。
「えーいっ!こうなったら、いったるわいっ!」
ユイはアクセルをフルスロットルし、前方のバイク達に突っ込んでいった。すると……。
「ロックッ!前っ!前見てっ!」
驚いた様子のユイに言われ、ロックは前方を覗いた。
すると前方には、破壊されたバイクと、人が数人倒れており、海の方にもバイクが転がっている。
⑦番の発掘屋……ジョーンズ親子と、⑨番の格闘家ギル&ランだった。
ユイはそれらに構う事なく素通りした。
「潰し合いかなぁ?」
ロックは言った。
「どっちにしろ敵は減ったんだ。ラッキーだぜ……」
しかしユイの予想とは違い、これらの脱落者は一組のペアにやられていた。
ガンツ兄妹だ。ガンツ兄妹は常に先頭を走っており、追撃のペアを次々と撃破していたのだ。
そして今もその攻防は続いている。
ガンツ兄妹を……ミロとミカの剣士ペアと、錬金術師のバルザック師弟が連携して戦っていたのだ。
ガンツ兄妹の戦闘力を目の当たりにしたミロは、バルザック師弟に共闘を持ち掛けていた。
バルザック師弟も、ガンツ兄妹を驚異と判断し、ミロの共闘を受け入れたのだ。
ミロとミカ、バルザック師弟は前方のガンツ兄妹に対して戦闘体勢をとった。
ガンツ兄妹は後方の様子にニヤリとした。
「2対1か……へっ……面白ぇ……」




