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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第七話 本選開始とデットヒート
24/30

各車は市街地に飛び出し、高級ホテル街を爆走した。

ホテルやビルの窓からの歓声に、自然とテンションが上がる。

そんな中、最後尾を走るロックは、先程のユイの投げ針に感心していた。

(一本目の針で顔を狙い……それに注意させる事で、二本目の針を銃口に確実に当てやがった)

ロックはサイドミラーでユイを確認した。

(ムラサメ出身は……だてじゃねぇな。大した技術だ)

ユイは振り落とされないように、必死でしがみついている。

ロックはユイに言った。

「やるじゃねぇかっ!クソガキッ!……この調子で頼むぜっ!」

ユイは風圧に耐えながら、ロックに怒鳴った。

「いつになったら、名前で呼ぶんだよっ!」

現在のトップは依然としてガンツ兄妹で、その後ろをミロとミカ、その他と続き……ロックとユイは最下位だ。


そんな市街地の様子を、巨大モニターで見ていたジンは、渋い表情をしている。

「脱落者が出ているのはいいが……ロック達は最下位だ」

エリスが言った。

「バイクに問題があるんじゃないの?」

ジンはムッとした表情になった。

「製作時間が短かったんだぞ……それであの走りだ。大健闘だ」

するとジンは通信オーブを取り出した。

「まぁ……だからと言って……負けるわけにはいかないか……。ロック、聞こえるか?」

市街地を激走していたロックは、首からぶら下げている通信オーブの反応に、応答した。

「何だよジン?……あまりかまってられねぇぜ」

『実はそのバイクには、秘密がある』

ロックとユイはジンの言葉に、目を見開いた。

ロックは言った。

「何だよっ!秘密って?」

通信オーブはチカチカと光っている。

『タコメーターの下に、赤いボタンがあるだろ?』

ロックはタコメーターを確認した。するとタコメーターのすぐ下に、小さな赤いボタンがある。

「あるけど……これが何だよ?」

『ほんとにヤバイ時にそれを押せ』

「あっ?何だよこのボタン?」

『これは……ザザ……か……ザザ……だ』

「あっ?なんだって?」

『ザザ……ザザ……』

ここで通信が途絶えてしまった。

するとユイが言った。

「ロック……海だっ!海に出るよっ!」

ユイの言うように、目前に海岸が見えてきた。先にいるレース出場者は海岸を東に進んで行った。

ロックは舌打ちした。

「チッ!だから通信が切れたか……」

通信オーブは市街地では活きるが、風の多い海岸ではノイズが酷く、通信が切れる事が多々ある。

ロックはユイに言った。

「海岸に入ったら、周りは海だ。容赦なく仕掛けてくるぞっ!」

ユイは目に力を込めて頷いた。

ロックはアクセルに力を込めた。

「後半戦……行くぜっ!」

海岸に出たロックは、アクセルを回し、スピードを上げた。

すると前方を走るバイクが、徐々に近づいてくる。

⑧番、フリーの傭兵……ジェリー姉弟だ。

「姉貴っ!後から来たぞっ!」

「わかってるよっ!」

ジェリー姉弟は上半身をプロテクターで覆い、姉が運転を……弟が後ろに乗っている。

「機関銃用意っ!」

ジェリー姉がそう叫ぶと、バイクの両サイドにある銃口が、後方のロックとユイを捉え、弟が後ろを向いた。

「てぇーーーっ!」

姉がそう叫ぶと、弟が機関銃を発射した。

ドドドドドドドドドッ!

けたたましい音が、海岸に鳴り響いた。

これにはさすがのロックも刀で受けれるはずもなく、バイクを左右に移動させて避けている。

ユイは目をつむりながら言った。

「これじゃ近づけないよっ!」

ユイの言うとおり、ジェリー姉弟の機関銃攻撃に隙はなく、近づく事が出来ない。

ロックは機関銃を上手く左右にかわしながら、ユイに言った。

「弾切れになったら……運転を代われ……」

ユイは閉じていた目を開けて激昂した。

「何言ってんだよっ!?」

するとジェリー姉弟の機関銃が止んだ。おそらく弾が切れたのだろう。しかし弟はすぐさま次の弾を装填している。

ロックはすかさずアクセルを回し、距離をつめた。

「ガキッ!しっかり運転しろよっ!後、俺が飛んだら少し後方に下がれっ!」

ロックはそう言うと……なんとバイクから飛んだのだ。

「ちょっ……ロック……」

ユイは慌てハンドルを握り、必死に体を支えながら、ロックの座席に着いた。

ロックが飛んだ先は……もちろんジェリー姉弟のバイクだ。

ジェリー弟は目を疑った。

「とっ……飛んだだとっ!?」

ロックは空中で刀を抜き、そのまま刃を立てて突っ込んだ。

目を見開き笑っているロックに、ジェリー弟はゾッとした。

その後は瞬く間だった。

ロックは機関銃に刀を突き刺し、そのまま後部座席の弟に蹴りを入れ、弟を落下させた。

ロックはそのまま後部座席で、反対側の機関銃も刀で突き刺し破壊した。

あまりにも突然の事に、ジェリー姉も混乱している。

「貴様っ!何をっ!?」

「悪ぃな……」

ロックはそう言うと、後から無理矢理ハンドルを奪い、進行方向を海へ向けた。

「海にっ!?……うわぁぁぁぁーっ!」

バイクはそのまま海に突っ込み、ロックはすんでのところで、ジャンプして脱出し……。

「ガキーッ!」

ロックにそう言われると、ユイはバイクを飛んでいるロック目掛けて走らせた。

ロックは後方にクルリと回って、そのままバイクの後部座席に着いた。

「うわわわわっ!」

ロックが急に乗った事で、バイクはバランスを崩しかけたが、ユイはなんとか踏ん張った。

これでまた一組のペアが脱落した。

しかしロックはこの勢いを止めるつもりはない。

「ガキッ!そのままぶっ飛ばせっ!」

ユイは泣きそうな表情で言った。

「アタシが運転するのっ!?」

ロックはニヤリとした。

「このままの勢いで……数を減らす。行けぇーっ!」

ロックのテンションに、ユイは腹をくくった。

「えーいっ!こうなったら、いったるわいっ!」

ユイはアクセルをフルスロットルし、前方のバイク達に突っ込んでいった。すると……。

「ロックッ!前っ!前見てっ!」

驚いた様子のユイに言われ、ロックは前方を覗いた。

すると前方には、破壊されたバイクと、人が数人倒れており、海の方にもバイクが転がっている。

⑦番の発掘屋……ジョーンズ親子と、⑨番の格闘家ギル&ランだった。

ユイはそれらに構う事なく素通りした。

「潰し合いかなぁ?」

ロックは言った。

「どっちにしろ敵は減ったんだ。ラッキーだぜ……」

しかしユイの予想とは違い、これらの脱落者は一組のペアにやられていた。

ガンツ兄妹だ。ガンツ兄妹は常に先頭を走っており、追撃のペアを次々と撃破していたのだ。

そして今もその攻防は続いている。

ガンツ兄妹を……ミロとミカの剣士ペアと、錬金術師のバルザック師弟が連携して戦っていたのだ。

ガンツ兄妹の戦闘力を目の当たりにしたミロは、バルザック師弟に共闘を持ち掛けていた。

バルザック師弟も、ガンツ兄妹を驚異と判断し、ミロの共闘を受け入れたのだ。

ミロとミカ、バルザック師弟は前方のガンツ兄妹に対して戦闘体勢をとった。

ガンツ兄妹は後方の様子にニヤリとした。

「2対1か……へっ……面白ぇ……」


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