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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第七話 本選開始とデットヒート
22/30

……本選開始前…前室……


予選を勝ち上がり、本選に出場する10組のペアは、すでに前室に揃っており、開始を今か今かと待ちわびていた。

シンプルで何もない空間で、各ペアはそれぞれのエアバイクの側で、レースの準備をしていた。

ロックとユイのバイクには『No.⑩』とステッカーがフロントカールに貼られており、それと同様に他のバイクにも貼られている。

前室は殺伐とした雰囲気に包まれており、何か切っ掛けがあれば、出場者達で乱闘が起こりそうな雰囲気だ。

そんな殺伐とした中で、一組のペアがロックとユイの元へやって来た。

ミロとミカのペアだった。

ミロは笑顔でロックに言った。

「ロック・ハーネスト殿……」

ロックは怪訝な表情でミロに言った。

「誰だテメェ?俺の事知ってんのか?」

ミカが言った。

「アデルの剣士で、貴殿の事を知らぬ者などおりません……」

ロックは舌打ちした。

「チッ!軍の人間か……」

ミロは言った。

「いえ……統一戦争後、我々は軍を退役しております」

ミカが言った。

「我々は『イシュデル防衛戦』に配属され、元『アキヅキ軍』の剣士です」

ロックの目の色が変わった。

「アキヅキ……だと!?」

ミカはニヤリとした。

「そうです……貴殿の同門である『アキヅキ・ヤマト』殿です」

ロックは険しい表情で言った。

「ヤローは……アキヅキはどうしてやがる?」

ミロは目を丸くして言った。

「さぁ……我々もそれは……。あの方は退役された後、忽然と姿を消されたようなので……末端の我々にはさっぱり……」

するとユイがミロとミカに言った。

「アンタら何で……そんなかしこまった喋りなの?」

ミカはユイを少し睨んだ。

「ハーネスト殿は我々の上官にあたる。敬意を表するのは当然だ」

ユイはミカの睨みに少したじろいた。

「じょっ、上官?コイツが?」

呆れた様子のミロは、他の出場者に聞こえないように、小声で言った。

「君は何も知らないのかい?この方は元アデル十傑だよ」

ユイは不思議そうな表情をした。

「アデル十傑?……難しい事を言わないでよ」

ミロとミカは、アデル十傑を知らないユイに、驚いた様子だ。

するとロックが言った。

「お互いもう軍人じゃねぇんだ。堅いのは無しにしようぜ……」

ミロとミカはロックの雰囲気に、少し驚いた様子だったが、すぐに軽く笑った。

ミカが言った。

「やっぱり写真と違い……いい男のようですね……」

ミロが言った。

「ではお互い健闘を……。我々はこれで……」

そう言うとミロとミカは、自分達の位置に帰っていった。ミロとミカはエントリーNo.⑤のようだ。

一方のエリス達は、観客席に戻り、会場中央にそびえ立つ、丸型巨大モニターを見ていた。

巨大モニターは360度の巨大球体スクリーンで、本選の模様を観客に送る、ゴールドアイランドの肝いりシステムだ。

観客達は本選開始を今か今かと待ちわび、予選の激しいバトルの興奮を引っ張り、とてつもなくテンションが高かった。

巨大モニターには本選出場ペアの紹介がされており、エントリーNo.⑩にロックとユイの名前があった。


エントリーNo.① 空の荒れくれ者・ガンツ兄妹

エントリーNo.② 東の錬金術師・バルザック師弟

エントリーNo.③ 豪腕狩人・ボーク夫妻

エントリーNo.④ ハンター・マリュー&リュウゲン

エントリーNo.⑤ 元アデル剣士・ミロ&ミカ

エントリーNo.⑥ 運び屋・グルス夫妻

エントリーNo.⑦ 発掘屋・ジョーンズ親子

エントリーNo.⑧ フリーの傭兵・ジェリー姉弟

エントリーNo.⑨ 格闘家・ギル&ラン

エントリーNo.⑩ 大物食い・ロック&ユイ……以上の十組で本選が争われる。

エリスはロックとユイの紹介文に、笑って言った。

「大物食いだって……変なの」

ジンが言った。

「バルバル夫妻を倒すとは、思われてなかったのだろ?……しかし他の参加者も有名どころだな……知らないのもいるが……」

マキは心配そうにモニターを見ている。

「ユイ……大丈夫かしら?」

エリスは言った。

「この会場からスタートして、島を海岸沿いに一周して、ここに戻って来るのね」

ジンが言った。

「さらにルールはバトルロワイアル……レースはペアで行われるが、ペアの片方が戦線離脱しても、失格にならない」

エリスが言った。

「バイクが止まるまで……失格にならないのね」

マキが言った。

「やっぱり心配だわぁ……」

エリスが言った。

「マキさん……二人を信じよっ……」

すると会場全体に放送がなった。

『まもなく、本選を開始しますっ!』

すると専用ゲートから、出場者達がバイクに乗って現れた。

バイクは十台十色でそれぞれだ。大型から小型まであり、ロックとユイが乗るバイクは小型になる。

他の出場者はそれなりの体格で、それなりのバイクに乗っているので、ロックとユイのペアはどうしても貧弱に見える。

「ロック達……なんか弱そうに見える」

エリスは不安そうな表情だ。

するとエリス達の横の席や後ろの席から、ロック達の話題が聞こえた。

「あの⑩番……バルバル夫妻をやった奴等だ」

「ああ……試合見てたが、あの男の強さは尋常じゃねぇ……」

「あのショートヘアの女の子も、凄い投げ針だった」

「ダークホースだな」

さっきの予選で、二人は結構注目されてるようだ。

男女ペアという制限があり、夫婦や血縁関係がどうしても目立つ。

しかしどのペアも予選を勝ち上がっただけあり、強そうな雰囲気を醸し出している。

各車はそれぞれスタートラインに並んだ。

スタートラインに揃った出場者を見て、ロックの後ろのユイは少し怯んでいる。

ロックはアクセルをふかしながら、ユイに言った。

「気楽に行こうぜ……」

「でも……やっぱ緊張する……」

ユイの表情はひきつっている。

「俺達は予選に勝ったんだ。それを自信にしろ。それに、バァさんを助けんだろ?」

ユイは目を見開いた。

「バァ……」

ユイは両頬を、手でパンパンッと叩き、真剣な目をした。

「こうなったら……やれるだけやってやるっ!」

ロックはそんなユイに、軽く笑った。

「ハハッ……その活きだ。しっかり捕まってなっ!」

すると会場から実況が鳴った。

『優勝するのは、この10組の猛者のどのペアだっ!……それではっ!レース開始っ!』


ドゴォーーーーンッ!


会場に大砲が鳴り響いた。

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