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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第六話 バトルレースと猛者達
21/30

ユイはロックに言われた言葉を考えていた。

(アタシに出来る事……そんなのわかってる……。でも……)

ユイは腰のホルダーに手を忍ばせ、力を込めている。

ロックはカレンを優先に、攻撃を仕掛けていた。カレンにユイを狙わせないためだ。

カレンに攻撃を仕掛ける事により、リキはカレンを守ろうとし、結果的にリキもロックに引き付ける事になるが……。

リキの曲刀はロックを捉えだしていた。

カレンの矢を弾いた隙に、リキの曲刀がロックの右脇腹を捉えた。

スパリと斬られたロックの右脇腹から、血が噴き出したが、リキの表情は冴えない。

(チッ……皮一枚か……。まだかわすかよ?なんてヤローだ)

ロックはこれも間一髪で避けていたのだ。

ユイはそんなロックに対して胸が熱くなった。

(アイツがこんなに頑張ってるのに……アタシは完全にお荷物だ……)

ロックは右脇腹を抑えながら、カレンの弓矢を懸命に弾いている。

もちろんリキも追撃の手を緩めない。

ロックは攻撃を全てかわしてはいたが……切り傷が徐々に増えている。

するとユイの目の色が変わった。

(アタシに出来る事……)

ロックはリキの凪ぎ払いを、ジャンプしてかわし、そのままリキの肩に足を掛けて、リキの後方に飛んだ。

ロックの着地地点を、やはりカレンは狙っており、ロック目掛けて矢が飛んでくる。

ロックは二本の矢を難なく弾いたが……。

(二本?……チィッ!時間差か……)

ロックが矢を弾いたのも束の間……既に三本目の矢がロックの眉間を捉えていた。

(ヤベェ……手で防ぐしかねぇ……)

ロックは左手で矢を受け止めようとしたが……。


キィーンッ!


ロックの手に矢が刺さる事はなかった。カレンの矢はロックの目前で落ちており、その尖端には太い長針が刺さっている。

リキはその光景に驚き、すぐにカレンを見た。

するとカレンの弓を持つ手に、同じ針が刺さっている。カレンは腕を抑えて苦悶の表情だ。

針を投げたのはユイだった。

リキは怒りで顔を歪め、ロックはニィーっと笑った。

「出来たじゃねぇか……それにしても、左右逆方向に二本とは、やるじゃねぇか」

ユイはロックに叫んだ。

「ロックゥーッ!」

ロックはすかさずリキに攻撃を仕掛けた。

リキは怒りの表情でロックを迎えうち、曲刀を振りかざした。

「まだ終わっちゃいねぇーっ!」

上段から振りかざされた曲刀を、ロックは体を反転しかわした。

「弓矢が来なきゃーっ!」

ロックは反転し、そのままの勢いで、刀の峯をリキの後頭部に直撃させた。

「そのままぶっ叩けんだよっ!」

「ぐがぁーっ!」

後頭部に直撃を受けたリキは、そのままのリング外に吹っ飛んだ。

ドォオーーーーーンッ!とリキの巨体が、リング外の地面に激突する。

カレンは悲痛な面持ちで叫んだ。

「アンターーーッ!」

リキはそのまま地面に沈み、気を失った。

ロックは刀をカレンに向けた。

「まだやるか?」

カレンはロックを睨み付けたが……すぐに諦め顔になった。

「ハッ……降参だよ。アタイらの負けさ……」

カレンが敗けを認めると、観客席にいたエリス達は歓喜した。

「勝ったーっ!ロック達が勝ったよっ!」

エリスは立ち上がって、大喜びしている。

マキもホッとした表情だ。

「ユイ……よくやったわ……」

リング上のユイは、緊張が解けてその場でしゃがみこんだ。

ロックは「ふぅー」と一息ついて、刀を腰に戻し、ユイの元へ向かった。

ロックはしゃがみこんだユイに手を差し出した。

「ファインプレーだったぜ……。クソガキ……」

ユイはホッとした表情でロックを見た。ロックはニヤリとしている。

「クソガキじゃないよっ……」

ユイはそう言うと、ロックの手を取って立ち上がった。

ロックとユイのリング以外も、本選出場者が続々と決定していた。

各リングそれぞれ、大方の予想通り、有名処が勝ち残っていた。

その中の一組が、ロックとユイに視線を送っていた。

視線を送っていたのは、元アデル剣士のミロとミカのペアだった。二人とも体に、軽装鎧を纏っている。

ミロはミカに言った。

「やはり人喰いの蒼鬼……勝ち残りましたか……」

ミカは三つ編みに束ねられた自分の髪を、指で弾いた。

「写真で見るより色男ね……」

ミロは呆れた様子で言った。

「なにを呑気な……アデル十傑ですよ」

ミカはニヤリとした。

「『元』でしょ?……それにこれはレース……ただの戦いじゃないわ……」

ミロはすました表情をした。

「フッ……そうでしたね……。優勝するのは我々『元アデル剣士ペア』です……」

他の本選出場者の視線を感じているかどうかはさておき、ロックとユイはリングを後にしようとしていた。

すると二人に声をかけたのは、カレンの肩を借りて起き上がったリキだった。

「待ちな……」

ロックはニヤリとして、リキに言った。

「気付いたか?オッサン……」

リキは後頭部をさすりながら言った。

「やられちまったが……腹は立たねぇなぁ、カレン……」

「そうだねアンタ……。そこのお嬢ちゃんが動いた時点でアタイらの負けさ……」

ユイは自分を指差して、目を丸くしている。

ロックは言った。

「確かにな……。まぁでも、アンタらも……まぁまぁ強かったぜ」

リキは高笑いした。

「カッカカァーーッ!言ってくれるぜっ!どうだ?兄ちゃん、一緒に賞金首ハンターしねぇかぁ?」

ロックは鼻で笑った。

「へっ……冗談……。やらねぇよ……」

「そりゃ勿体ねぇが……まぁいい。まぁせいぜい頑張れや……」

「そうさせてもらうわ……。行くぞクソガキ……」

ロックはそう言うと、ユイを連れて会場を後にした。

カレンはリキに言った。

「何者かねぇ?あの男は……」

リキは軽く笑った。

「へっ……あの青白い頭と言えば……。想像つくが……関係ぇねぇ。ロックとか言ったな……また会いてぇもんだ」


控え室に戻ったロックとユイを、エリス達一同は待っていた。

エリスはロックとユイに言った。

「おめでとうっ!本選出場だねっ!」

グループ別の控え室は、他のペアがロックとユイに敗れたため、ロックとユイの専用になった。

ジンは傷ついたロックを見て言った。

「手こずったな……」

ロックは口を尖らせた。

「るっせーよ……相手は熟練の夫婦だぜ……」

ユイは申し訳なさそうに言った。

「ごめん……アタシがボーッとしてたから……」

ロックはユイに言った。

「らしくねぇ、謝んな……。次は本選だ……後方支援しっかりな……」

マキはユイに言った。

「ユイ……よく頑張ったわねっ!」

「ね……姉ちゃん……」

マキに頭を撫でられたユイは、半べそをかいている。

ロックはそんなユイの様子にニヤリとした。

「やっぱガキだな……」

するとエリスがロックの傷ついた頬には手を当てた。

「とにかく傷を治さないとね……」

エリスが触れたロックの頬の傷は、瞬く間に治った。

ユイとマキはその様子を、目を丸くして見ている。

エリスはロックの脇腹や肩にも手を当て、傷を次々と治した。

ロックは感慨深い表情でエリスを見ている。

そんなロックの視線に、エリスが気付き、ロックに聞いた。

「うん?なに?」

ロックはハッとした表情で言った。

「えっ!?いや……。ありがとよ……」

ユイは戸惑った表情でエリスに言った。

「エリス……なにしたの?……傷がなくなってる」

エリスは苦笑いして、ユイとマキに言った。

「わたしもよくわかんないんだ……。だから旅をしてるの」

するとマキが言った。

「その力の正体が、知りたいのですか?」

エリスは頷いた。

マキは言った。

「大バァ様なら何か知ってるかも……」

マキの言葉にエリスは目を見開いた。

「ほんとにっ?」

「だてに長く生きておられませんから……保障はできませんけど……」

するとジンが言った。

「聞きに行くか?」

ジンの問にエリスは首を横に振った。

「ううん……レースが終わってからにする。ロックとユイが命懸けで、やってくれてるから……」

するとロックが言った。

「へっ……んじゃ、さっさと終わらすか……。行くぞクソガキ……」

ロックはそう言うと、控え室を後にした。

ユイはムッとした表情でロックを追った。

「ガキじゃないって、何度言えばわかるんだよっ!」

マキは心配そうな表情で言った。

「大丈夫かしら?あの二人……」

エリスは呆れた様子で言った。

「まったく……ひねくれてんだから……」

ジンはマキに言った。

「心配いりませんよ……。ロックも私達も、貴女の妹さんの実力は信頼しています。あの精度の高い投げ針技術は、必ずロックの助けになります。彼女に足りないとすれば……自信くらいです」

マキはジンを見た。

「ジンさん……」

ジンはマキの目線に咳払いし、少し照れながら言った。

「ゴホンッ!まぁ私の弟子も似たような者ですから……。ロックに任せておけば、大丈夫です」

エリスも言った。

「そうよっ!アイツああ見えて優しいところあるから……」

マキは二人の言葉に、素直に笑顔した。

「はい……ありがとう……」


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