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……首都アデル……
世界で最も繁栄している……アデル……。
人口世界一で……商業、工業が最も盛んでもあり、人は自ずとアデルを目指した。
言論、信仰、表現、商売の自由が確立されており……そして、世界政府の本部もあるため、治安維持隊を各エリアに配備しており、治安もそれなりに良い。
アデルに限らず他の自治体もそれなりに自由があるため、人々の暮らしは戦前戦時中に比べると、それなりに安定はしていた。
戦争が終わり僅か10年で、ここまで世界を安定させたアデルは、統治能力が優れていたとも言える。
……アデル13番街…とあるBar……
首都アデルは全24エリアで管理されており、アデル13番街は例えると、繁華街だ。
世界各地から多民族が行き来する、このアデルでは、13番街は人気のエリアだ。
きらびやかなネオンの光が街のビルを照らし、人々をワクワクさせ魅了する何が、この13番街にはある。
その13番街の隅に、1件の古びたBarがある。Barの名前は『集い』……。
店内は狭く、細長いカウンター席と、テーブル席が数席……並べられているオブジェや設備は、多民族感を醸し出し、「この店は客を選ばない」といった感じだが……客は数人しかいない。
マスターは黒い着物姿の初老の女性で、髪を綺麗に結っており、只者ならぬ雰囲気を醸し出している。
マスターがカウンターで作業をしていると、カウンター席にいた一人の男性客が、マスターに言った。
「ばぁさん……ハイボールとフライドチキン追加でくれ」
男性客は空になったジョッキを指差して、マスターに催促している。
マスターあからさまに不機嫌な表情をした。
「チッ……ツケでしか呑まないくせに、偉そうなヤロウだねぇ……どんだけツケが貯まってると、思ってんだい?ロック……」
マスターにロックと呼ばれる男性客は……名はロック・ハーネスト……ダークグレイの七分丈のツナギを身に纏い、黒のブーツに、ツナギの上半身部を腰で巻き、そこに一本の刀をさしている。
その異様な格好もさることながら……何より特徴的なのは、髪の色は青白く、綺麗な顔立ちと、青い瞳だ。
どうやらロックは常連客で、挙げ句にツケで飲食をしているようだ。
不機嫌そうなマスターに、ロックは悪態をついた。
「チッ……るっせーよババァ……。出世払いだって、言ってんだろっ……」
ツケで飲食をしているくせに、横柄な態度である。
横柄なロックにマスターは言い返した。
「悪態つきながらタダ飯食ってる暇があんなら、仕事でも探してきなっ!」
マスターの言葉に、ロックは悔しそうな表情をして、歯を喰い縛りながら言った。
「仕事があったら……こんなくたびれた店来るかよっ……」
「くたびれた店で悪かったねぇ……。ほれっ、ハイボール……これ呑んだら今日は帰んな……」
ロックに悪態をつかれているにも関わらず、マスターはロックの前に、ジョッキに入った冷えたハイボールを差し出した。
なんやかんやでハイボールをロックに差し出したマスターは、鬼になりきれない性格のようだ。
ロックは差し出されたハイボールを、深く味わうために、チビチビと呑み始めた。
マスターは呆れた様子で言った。
「情けないねぇ……その腰の刀は、ハッタリかい?」
「うるせぇよっ……。くっそっ、何か良い仕事ねぇかなぁ……」
ロックがハイボールをチビチビ呑んで粘っていると、店の入口の古びたドアが開いた。
やって来たのは、ノースリーブの白いフード付きパーカーを着て、そのフードで頭を覆った、小柄な少女だった。
少女は旅行者か、小さめのスーツケースを引きずっている。
ロックは入口の方を見ることなく言った。
「ばぁさん、客だぜ……」
「見りゃわかるよ……。いらっしゃい……カウンターに座りな」
白いパーカーの少女はロックの隣に座った。
ロックは隣に座った少女に言った。
「ガキが来る店じゃねぇぜ……」
少女はおもむろにフードを脱いだ。
「子供じゃないわ……」
ロックは少女の顔を見て目を丸くした。
肩まで伸びた綺麗な金色の髪に、赤と茶色のオッドアイ……そして、何よりも……美人だった。
女性は口角を上げた。
「背が低いから……フードを被るとすぐに、子供と間違われるの……。わたし、こう見えて22よ……」
ロックはその女性にまで悪態をついた。
「ケッ……紛らわしい女だ……」
女性はロックを無視して、マスターに言った。
「ここには情報が集まると聞いて、やって来たの」
マスターは煙草に火を着けた。
「ふぅ……情報にもよるねぇ……」
女性は真剣な表情で聞いた。
「失われた国『アレルガルド』について……情報を探しているの……」
失われた国アレルガルド……その言葉にロックもマスターも聞き覚えがないのか、目を見合わせている。
マスターが言った。
「聞いたことのない……国だねぇ……。ロック、知ってるかい?」
「統一戦争で滅んだ国や……名を変えて自治体になった国は色々とあったが……アレルガルドなんて聞いたこともねぇよ」
二人の反応に女性は肩を落とした。そして再びフードを被り、立ち上がった。
「そぉ……やっぱりダメか……。邪魔したわね……」
そう言うと女性は、何も注文もせずに店を出て行った。
ジョッキを握りながらロックは言った。
「んだ?あの女……」
ジョッキに口をつけて、残りのハイボールを飲み干そうとした時……女性が座っていた椅子に、何かが落ちているのに気づいた。
ロックはそれを手に取って言った。
「財布か?結構入ってそうだな……」
マスターは言った。
「あの娘が落として行ったんだね……。ロック、届けてやりな……今なら追い付くだろうし」
ロックはあからさまに嫌な表情をした。
「んだよ、めんどくせぇ……。それよりこの金で、今まで貯まったツケを……」
マスターは吸っていた煙草の火をロックに向け、睨みつけた。
「バカ言ってんじゃないよっ!顔に煙草、押し当てるよっ!」
ロックは慌てて立ち上がった。
「じょ、冗談だよっ!行きゃいいんだろっ?」
そう言うとロックは、女性の財布を握りしめて、店を出て行った。
店を出たロックは辺りを見渡したが……女の姿は既になかった。
日が沈んでから時間がずいぶん経ったので、人は流石に少なかった。
ロックのいたBarは、路地の西側突き当たりになるので、女は東に向かった事になる。
ロックは足早に東に向かい、途中にある細い隙間道をチェックしながら行った。
すると3本目の隙間道を除くと、先程の女がいたのだが……ガラの悪そうな男達4~5人に囲まれていた。
男達は如何にもって感じだ。モヒカン頭や、スキンヘッド……そして男達はそれぞれ肩に、¥マークの刺青をしていた。
スキンヘッドの男が女に凄んでいる。
「やっと見つけたぜ……ネェちゃん……。大人しくボスの所まで来てもらうぜ」
女はフードを深く被り、下を向いている。
するとモヒカン頭の男が言った。
「シカトしてんじゃねぇぞっ!」
すると女はモヒカン頭の男の、後ろを指差して言った。
「後ろ……危ないよ……」
「あっ?後ろだぁ……うべっ!」
一瞬の出来事だった……男が女に促され、後ろを向いた瞬間……ブーツの底が顔面にめり込んだ。
モヒカンはそのまま、鼻をへし曲げ、鼻血を噴きながら、その場に倒れた。
突然の事に男達は騒然とした。モヒカンに飛び蹴りをしたのはロックだった。
ロックは女に言った。
「財布……御届けに参りましたぁ……」
男達はロックに一瞬唖然としたが、すぐにロックに対して激昂した。
「んだっ!テメェはっ!?」
ロックは頭を掻きながら言った。
「いやぁ……財布届けたついでにさぁ……店のツケを払ってもらおうと思って……。オタクらこの女に用があるみたいだけど……後にしてくんない?」
すると今まで黙っていた女が、ロックに言った。
「何でアンタのツケを、わたしが払うわけ?」
スキンヘッドは激昂した。
「財布届けるだけで、何で蹴り入れやがるっ!挙げ句に女を譲れだぁ?ふざけやがって……」
この場にいた全員が、ロックに非難を浴びせるが、ロックに気にした様子はない。
「うるせぇなぁ……しつけぇ男は嫌われるぜ……」
スキンヘッドは怒りの表情で言った。
「ケチな野郎に言われたくねぇっ!やっちまえっ!」
4~5人の男達は、手にナイフや鎖、鉄パイプ等を持って、ロックを囲った。
ロックは呆れた様子で言った。
「アンタらどう見てもやられキャラだぜ……ベタな展開過ぎる……」
「ごちゃごちゃうるせぇっ!やっちまえっ!」
モヒカンの号令と共に、男達は一斉にロックに襲いかかった。
ロックは歯を見せて口角を上げた。
……数分後……
「とりあえず店に戻るぞ……」
そう言うロックの足元には、先程のガラの悪い男達が、全員ノビテいた。
ロックはあっという間に、全員を倒してしまったのだ。
女はその様子に目を丸くしている。
「アンタ……何者?」
「話は後だ……さっさと行くぜ」
ロックはそう言うと、来た道を戻って行った。
女は慌ててロックの後を追った。
「ちょ、ちょっと待ってよぉ……」
ロック達が去ってしばらくすると、ようやく男達の意識が戻った。
モヒカンはロックに殴られた頬をさすりながら言った。
「くっそ……あのヤロー……。ボスに報告するぞ……。あの女を手に入れねぇと、ボスに俺らが殺される……」