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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第五話 夢の島と資金稼ぎ
18/30

……淋しげな港……


ロックとエリスは、ユイをつれて、ゴールドアイランドの端に位置する、淋しげな港に来ていた。

日が沈みかけているので、辺りは薄暗くなってきた。

港には船が少なく、薄暗さも手伝ってか、どことなく不気味な感じだ。

ユイは港に停まっている、一隻の漁船を指差した。

「あれがアタシら暮らしている船だよ……」

ユイはふてくされた表情で、相変わらずツンケンしている。

エリスは怪訝な表情をした。

「あれで暮らしてるの?」

ユイはエリスを睨んだ。

「ホテルに泊まる金があったら、スリなんかしないよっ!」

ロックはユイに言った。

「とりあえず、病気のバァさんはともかく……テメェの姉ちゃんには、しっかりテメェの悪事を言っとかねぇとなっ!」

するとユイが言った。

「ねぇ……勘弁してよ……。飯も奢ったんだしさぁ……」

「それとこれとは、話が別だ。このクソガキ」

ユイの嘆願をロックがあっさり拒否すると、誰かの声がした。

「ユイ……ユイじゃないの?」

ロックとエリスが声の方を向くと、そこには黒くて長い髪を、後ろで束ねた女性がいた。

女性はラフな格好で、その上から緑のエプロンを掛けている。

ユイが頭を抱えていると、その女性はロックとエリスを見て言った。

「ユイ……今まで何処に行っていたの?それにその人達は?」

ロックはユイを見てニヤリとした。

「テメェの姉ちゃんだな?」

ユイは泣きそうな顔をし、小声でロックに言った。

「ねぇ……頼むよぉ……。こんな事が姉ちゃんに知れたら、姉ちゃん……ショックで寝込んじゃうよぉ……」

ロックは姉を見た。姉は気の弱そうな女性で、真面目そうだ。

ロックは姉に言った。

「いやぁ……お姉さん……。実はここにいるユイちゃんがね、繁華街で町のチンピラに絡まれていたんですよ」

姉は目を丸くして驚いている。

「まぁ……なんて事……」

ロックは続けた。

「そこで、たまたま俺らが通りかかって、助けてここまで送って来たんですよぉ……」

ユイは内心「アンタがチンピラだろっ」と、思ったが……スリの事は黙ってくれそうなので、ホッとした。

ユイは姉に言った。

「そっ、そうなんだよ姉ちゃんっ!いやぁ、都会って怖いね……。このお兄さん達がいなかったら危なかったよ」

エリスは三人のやり取りを見て、呆れた様子だ。

するとユイの姉が、ロックとエリスにお辞儀をした。

「どうもすみませんでした……私の妹がご迷惑を……」

ロックが照れた様子で頭を掻いていると、エリスが言った。

「いいんです。頭を上げて下さい……」

ユイの姉が言った。

「私……ユイの姉の、マキと言います。大したお礼は出来ませんが……どうぞ中へ……お茶ぐらい飲んで行って下さい。さぁ、どうぞ……」

そう言うとマキは、自分達が暮らす漁船に、ロックとエリスを案内した。

ロックはユイに耳打ちをした。

「とりあえず貸しにしておいてやる」

「子供にたかる気かよっ!」

ロックは悪い笑顔をした。

「都合のいい時だけ、子供になんな」

ロックはユイにそう吐き捨てると、マキの後を歩いていった。

するとエリスがユイに言った。

「ごめんね……悪いヤツじゃないんだけど」

「どこがだよっ!」


マキに案内されて船に乗り込むと、船内はお世辞でもきれいとは言えなく、オンボロ船で、木製甲板はボロボロだった。

甲板から操縦室に入り、その奥の部屋が居住スペースで、奥に老婆が座っていた。

老婆の顔はしわくちゃで、体に毛布を被っており、見た感じかなりの高齢だと思われる。

ロックとエリスは、狭い居住スペースで座る場所を探して、なんとか座った。

マキはロックとエリスに、老婆を紹介した。

「私たちの村の大バァ様です」

エリスはマキに言った。

「村って?」

マキは言った。

「私たちは北東大陸の村……『ムラサメ村』からやって来ました」

するとロックがマキの言葉に反応した。

「ムラサメ村って言ったら、『隠密の里』じゃねぇか……」

マキは目を丸くした。

「まぁ……ご存じですか?」

「アデルにも何人かいるからな……」

マキの表情は険しくなった。

「アデル……貴方はアデルの軍人ですか?」

ロックは首を横に振った。

「元な……今はただの一般人だ。でもアンタらがムラサメ村の人間って事は……」

マキは頷いた。

「はい……私もユイも、隠密です。修行中の身ですが……」

エリスが言った。

「でもどうして、そんな人がこの島に?」

「実は……大バァ様の病を治すために、私達は『ライフシティー』を目指してるのです」

ライフシティーとは、世界でもっとも医療技術のある地域で、ゴールドアイランドから南西に下がった南西大陸にある。

ロックは納得した様子で言った。

「だから金がいるのか……」

エリスは怪訝な表情をした。

「なんで?わたしもライフシティーは知ってるけど……そんなにお金がいるの?」

ロックはエリスに言った。

「ライフシティーはアデルやクリステルシティーと違い、治療費が法外だ。まぁ、その代わり医療技術は最先端だけどな」

エリスは納得した表情をした。

「それでガジノで大金を稼ごうとしたのね」

エリスの言葉に、ユイは頭を抱えた。

するとマキは目を丸くした。

「ガジノで?どういう事なの?ユイ……」

ユイは慌てた様子で言った。

「姉ちゃん……違う……」

マキはユイを睨み付けた。

「ユイ、貴女……ゴールドアイランドにいい仕事があるからって……言っていたわよね?」

ロックがマキに言った。

「よそ者がこの島で仕事につけるかよ……。この島はガジノで稼ぐ島だぜ……」

マキは目を丸くしてロックを見た。

「そうなんですかっ!?」

エリスは言った。

「お姉さん……知らなかったんですか?」

マキは申し訳なさそうにした。

「私……外の事はなにも知らなくて……」

ユイは頭を抱えた。

「はぁ……だから姉ちゃんに、知られたくなかったのに……」

ユイが頭を抱えていると、ロックがマキに言った。

「健全に資金を稼ぐ方法があるぜ……」

ロックの言葉に、ユイとマキ……エリスも目を丸くした。

ロックは言った。

「俺とそのガキが……明日のレースに出りゃいいんだよ」

突然のロックの提案に、ユイは興奮ぎみに言った。

「なんでアタシが、何処の誰だかわかんない奴と、そんなレースに出なきゃなんないのよっ!」

ロックは言った。

「確かにまっとうなレースとは言えねぇ……。でも、お前がやろうとしてる事より、よっぽどまっとうだぜ」

ユイは声を詰まらせた。

すると今まで黙っていた大バァが、突然話し出した。

「ユイ……その若者と出るのじゃ……」

マキは大バァの肩を擦りながら言った。

「大バァ様……」

ユイは大バァに言った。

「バァ……でも、何処の馬の骨かも知れないのに……」

ロックは口を尖らせた。

「なめてんじゃねぇぞ……クソガキ」

大バァは言った。

「ユイ……その者を侮るな……。その男……只者ではない……」

マキは大バァの言葉に驚いている。

(大バァ様の人を見る目は確か……。その大バァ様にここまで言わせるって……この人は……)

ロックは小指で耳をほじりながら言った。

「俺はどっちでもいいぜ……。どのみちレースには出るからな……なぁエリス……」

「えっ?うん……そうだね……」

エリスはキョトンとしている。

マキは少し考えて、ロックに言った。

「ユイをよろしくお願いします」

ユイは目を見開いた。

「ねっ、姉ちゃん?」

ロックはニヤリとした。

「へっ……決まりだな……」


話が終わると、ロックとエリスは漁船の甲板でユイを待っていた。

今晩はユイを飛空挺ウィングに連れて帰る事になり、ユイの準備を甲板で待っていた。

するとユイではなく、マキが甲板に現れた。

マキはロックに言った。

「ロックさん……ユイを助けたのって、嘘ですよね?」

ロックとエリスは目を丸くした。

マキは言った。

「あの娘が町の悪い連中に、やられる事はありませんから……。ユイに何かされたんですね?」

ロックは軽く笑った。

「へっ……さすがは姉ちゃんだな……。ちょっとアンタの妹に、財布をスラれたんだ」

マキはロックの言葉に、泣きそうな顔をした。

「あっ……あの娘……なんて事を……」

エリスはバツの悪そうな顔で、マキに言った。

「気にしないで……ロックのヤツ、スリ返しましたから」

マキはその言葉に目を丸くした。

「スリ返した?ユイから?……大バァ様の言葉といい……何者なんですか?アナタ達は?」

ロックは言った。

「ただの船乗りさ……」



……飛空挺ウィング…整備室……


エアバイクは完成し、ジンは誇らしげな表情をしていた。

「我ながら素晴らしいできだ」

ミドの白いスクーターは、ジンの手によって見事なエアバイクに変貌した。

ジェット機能が搭載されたエアバイクは、白く輝いている。

「素晴らしい出来だ。明日のレースが今から楽しみだ……。しかし……」

ジンは戻ってきたロックとエリスに言った。

「ロック、エリス……それは何だ?」

ジンの目線の先にはユイがいた。ユイは白のタンクトップの上から、黒い網目のT-シャツを羽織り、黒のタイトなホットパンツ……足元は動きやすいスニーカーを履いている。

ロックは言った。

「明日、コイツとレースに出るから……」

ジンは頭を抱えた。

「ロック……なにを考えてるのだ?……子供ではないか……」

ユイはジンに口を尖らせた。

「子供扱いするなよっ!アタシはもう18だよっ!オッサン……」

ジンは目を見開いた。

「オッ……オッサン……だと?……私はまだ29だぞ……」

ジンの様子にロックとエリスは笑っている。

ユイは不敵な笑みを浮かべた。

「アタシからすりゃオッサンだよ……」

ジンは言葉を詰まらせ、ワナワナしている。

エリスは笑うのを我慢しながら言った。

「まぁまぁ……ジン……。抑えておさえて……」

ジンは悔しそうな表情をした。

「こんな科学の、かの字もわからんような小娘に……私のエアバイクに跨がせるのか……」

ロックは言った。

「まぁそう言うなよ……。お前のバイクで、明日は優勝してやっからよっ!ありがとなっ!」

「頭が痛い……私は先に休ましてもらう……」

ジンはそう言うと、フラフラしながら自分の部屋に去って行った。

ユイはムッとした表情で言った。

「失礼なオッサンだなぁ……」

ユイはロックとエリスに言った。

「それにしてもアンタ達……何者?この飛空挺といい……」

エリスが言った。

「ただの旅人よ……」

「なんの?」

「探し物があるの……」

怪訝な表情のユイに、ロックが言った。

「んな事よりさっさと寝ろっ。テメェの部屋は用意してあっからよ……。明日、姉ちゃん見にくんだろ?」

「チェッ……わかったよ……」

そう言うとユイは整備室を後にした。

「右から三つ目の部屋だからねっ!」

エリスは去り際のユイにそう言うと、ロックを見た。

ロックは言った。

「なんだよ?」

「なんであの娘とレース出るって、言い出したの?」

「別に……俺には家族がいねぇからよ……。それに大事なもんは自分(テメェ)で守るもんだ」

エリスはニヤニヤしている。

「へぇー……」

ロックは怪訝な表情で言った。

「なんだよ?」

「別に……優しいなぁーって……」

ロックは怒りの表情で言った。

「るっせーっ!テメェもさっさと寝ろっ!」

エリスは怒るロックを気にせず、ロックに背を向けて手を振った。

「じゃ、おやすみーっ……」

一人残された整備室で、ロックは口を尖らせた。

「ケッ……かわいくねぇ女……」

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