②
……翌日……
ロック一行はウィングで一夜を過ごし、朝からジンはエアバイクの製作に勤しんでいた。
「浮遊石の入手も考えないとな……」
ジンは専用の収納棚から、浮遊石の原石を取りだし、専用の電動カッターで、適当なサイズにカットしていった。
「今日中には完成するな……」
そう言うとジンは、カットした浮遊石を片手に、作業に取り掛かった。
一方のロックとエリスは、ジンの手伝いも出来ないので、少し島を散歩することにした。
海岸沿いに行くと、明日のレースの準備を、係員らしき者達が、柵を建てていた。
どうやら鉄製の柵で、簡易コースを造っているようだ。
「あれが、明日のコースだよね?なんか緊張してきた……」
不安そうなエリスにロックは言った。
「あんま考えない方がいいぜ」
呑気なロックをエリスは睨み付けた。
「何言ってんのっ!明日勝たないと、旅の資金がないのよっ!」
怒りの表情のエリスに、ロックは少し怯んだ。
「そっ、そんな怒んなよ……。あんまし緊張すると失敗するぜ……」
エリスは再び不安そうな表情をした。
「わかってるわよぉ……」
ロックは呆れた様子で言った。
「ダメだな……こりゃ……」
海岸をしばらく散歩すると、ロックが言った。
「腹へったし、なんか食おうぜ」
エリスは少し考えて言った。
「いいけど……ハイボールは禁止よ」
ロックは渋い表情で言った。
「わかってんよ」
「ジンのお金もあまりないんだから……」
ロックはうんざりした表情で言った。
「んじゃあ、その辺の食堂でも行くか……」
昼食をする事にした二人は、繁華街へと歩き出した。
繁華街に入ると、海岸とはうってかわって、人が混雑している。
二人は人混みを縫うように進む。
「それにしても賑わってるわね……13番街より、人が多いんじゃない?」
「まぁなぁ……さすが人気リゾートスポットだよ」
ロックとエリスが話ながら歩いていると、誰かがロックにぶつかった。
ぶつかったのは黒いショートヘアーの少女だった。
「ごめんよ……」
少女はロックに、ぶつかったのを詫びると、そそくさと去っていった。
去っていった少女は、しばらく通りを進んで、人気のない路地裏に入り、辺りをキョロキョロして懐から男物の財布を取り出した。
「へっ……ちょろいねぇ……」
少女はロックの財布をスッていたのだ。
少女はロックの財布を開けて中を確認した。
「なんだこりゃあ?」
少女は目を見開いた。ロックの財布には金はなく、代わりに飴玉や、ガジノの余りメダル……使えない物ばかり入っていた。
「あちゃあ……ハズレかよぉ……」
少女が落胆していると、通りの方で声がした。
「ラッキーだぜ……空の財布が、金の入った財布に化けやがった……」
「ロック……さっきの女の子の財布でしょ?返さなきゃあ……」
会話を聞いて少女は、目を見開いき、身体中をまさぐった。
「なっ、ないっ!アタシの財布が……」
少女は慌てて路地裏から通りに飛び出した。すると、少女の目の前には、仁王立ちしたロックが立っていた。
少女は苦笑いした。
「はっ、はは……」
ロックは目をギラつかせ、少女の頭を拳骨した。
ロックに拳骨を喰らった少女は、半べそをかいてしゃがみこんだ。
「いつーっ!……何しやがるっ!」
ロックは少女を睨み付けた。
「何しやがる……じゃねぇよっ!このクソガキ、俺の財布を盗むたぁ……。覚悟できてんだろなぁ?」
エリスは苦笑いしながら言った。
「ロック……程々にね……」
ロックは少女の首根っこを掴んだ。
「悪いことしたら警察……女子供は、関係ねぇ……」
少女はギョッとした。
「けっ、警察っ?それだけは勘弁をっ!」
……とある大衆居酒屋……
ロックとエリス……スリの少女は、大衆居酒屋のテーブル席にいた。
「ハイボールと、フライドチキン……それと……たこ焼きに、刺身の盛り合わせ」
勢いよく店員に注文するロックに、エリスは言った。
「ロック……ちょっと頼み過ぎじゃない?」
「何言ってやがる……食える時に食っとけ。エリスも遠慮なく頼め……。あっ、オネェさん……とりあえずそれだけ持ってきて」
ロックがそう言うと、店員は「かしこまりました」と言い、厨房へ去っていった。
ロックとエリスの向かいに座ってる少女は、恨めしそうにロックを見ている。
ロックは悪どくニヤリとした。
「いやぁ、悪ぃなぁ……奢ってもらっちゃって……。あっ、でも当然か……俺、財布をスラれて傷付いてるから……」
少女は泣きそうな顔をした。
「とんでもない奴の財布を、盗ってしまった……」
「ハイボールお待たせしました……」
「あっ、オネェさん……アイスカフェと、オレンジジュース追加で……」
店員がハイボールを持ってくると、ロックは二人の飲物を追加した。
ロックはハイボールを喉に流し込み、少女に言った。
「かぁ~!うめぇ~!……ところでクソガキ……何でスリなんかしてやがる?」
少女はムッとした表情で言った。
「ガキじゃないっ!アタシには……ユイ・キザキって、立派な名前があるんだっ!それに年は18だから、ガキじゃないっ!」
ロックは冷たい視線をユイに送った。
「クソガキ……テメェの自己紹介なんざ、聞いてねぇよ。何でスリなんかやってのかを聞いてんだ」
エリスはユイが可哀想になってきたのか、ロックに言った。
「ちょっとロック……それくらいでいいんじゃない?奢ってもらってんだから……」
ロックは口を尖らせて、エリスに言った。
「るっせーっ……大人気どってからこそ、大人ののルールを教えてんだ。それにここの金を払うのは当然だっ!慰謝料請求されないだけ、ありがたいと思えってのっ!」
するとユイがぼそりと言った。
「金なんて一円も入ってなかったのに……」
ユイの言葉に、ロックの目が光った。
「中身の問題じゃねぇっ!……クソガキ、家は何処だ?親に文句言ってやる」
するとロックの言葉に、ユイはふてくされた顔をした。
「親なんていないよっ!」
エリスが言った。
「いないって……あなた、この島の娘?」
ユイはエリスに口を尖らせた。
「だったらスリなんか……やってないよっ!」
この島は貧富の差があまりなく、島民は比較的裕福だ。それほどこのゴールドアイランドの収益は高いのだ。
ロックは言った。
「じゃあ何でこんな島にいんだ?」
ユイはロックを睨んだ。
「金がいるんだ……。この島は金持ちが集まるから、スリには持ってこいなのさ」
ロックはユイを鼻で笑った。
「フンッ……ケチな稼ぎ方だぜ……」
ユイは声を荒げた。
「うるさいっ!スリで全部稼げるかよっ!スッた金をガジノにつぎ込んで、そこで大稼ぎさっ!」
ロックはユイを見下した表情で言った。
「テメェ、ろくなガキじゃねぇなぁ……。全然健全じゃねぇよっ!」
するとエリスは、ロックに冷たい視線を送った。
「アンタも似たようなもんでしょが……」
エリスはユイに言った。
「だったら明日のレースに出たら良いじゃない……。その方が健全よ」
ユイはまたもや口を尖らせた。
「病気のバァと姉ちゃんつれて、バトルレースなんて、出れるかよっ!」
ユイの言葉にロックはニヤリとした。
「なるほど……親はいねぇが、家族はいるんだな」
ユイは「しまった」といった表情をした。
ロックは立ち上がり、ユイの首根っこを掴んだ。
「そのバァさんと姉ちゃんの所に……案内してもらうか?」




