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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第五話 夢の島と資金稼ぎ
17/30

……翌日……


ロック一行はウィングで一夜を過ごし、朝からジンはエアバイクの製作に勤しんでいた。

「浮遊石の入手も考えないとな……」

ジンは専用の収納棚から、浮遊石の原石を取りだし、専用の電動カッターで、適当なサイズにカットしていった。

「今日中には完成するな……」

そう言うとジンは、カットした浮遊石を片手に、作業に取り掛かった。

一方のロックとエリスは、ジンの手伝いも出来ないので、少し島を散歩することにした。

海岸沿いに行くと、明日のレースの準備を、係員らしき者達が、柵を建てていた。

どうやら鉄製の柵で、簡易コースを造っているようだ。

「あれが、明日のコースだよね?なんか緊張してきた……」

不安そうなエリスにロックは言った。

「あんま考えない方がいいぜ」

呑気なロックをエリスは睨み付けた。

「何言ってんのっ!明日勝たないと、旅の資金がないのよっ!」

怒りの表情のエリスに、ロックは少し怯んだ。

「そっ、そんな怒んなよ……。あんまし緊張すると失敗するぜ……」

エリスは再び不安そうな表情をした。

「わかってるわよぉ……」

ロックは呆れた様子で言った。

「ダメだな……こりゃ……」

海岸をしばらく散歩すると、ロックが言った。

「腹へったし、なんか食おうぜ」

エリスは少し考えて言った。

「いいけど……ハイボールは禁止よ」

ロックは渋い表情で言った。

「わかってんよ」

「ジンのお金もあまりないんだから……」

ロックはうんざりした表情で言った。

「んじゃあ、その辺の食堂でも行くか……」

昼食をする事にした二人は、繁華街へと歩き出した。

繁華街に入ると、海岸とはうってかわって、人が混雑している。

二人は人混みを縫うように進む。

「それにしても賑わってるわね……13番街より、人が多いんじゃない?」

「まぁなぁ……さすが人気リゾートスポットだよ」

ロックとエリスが話ながら歩いていると、誰かがロックにぶつかった。

ぶつかったのは黒いショートヘアーの少女だった。

「ごめんよ……」

少女はロックに、ぶつかったのを詫びると、そそくさと去っていった。

去っていった少女は、しばらく通りを進んで、人気のない路地裏に入り、辺りをキョロキョロして懐から男物の財布を取り出した。

「へっ……ちょろいねぇ……」

少女はロックの財布をスッていたのだ。

少女はロックの財布を開けて中を確認した。

「なんだこりゃあ?」

少女は目を見開いた。ロックの財布には金はなく、代わりに飴玉や、ガジノの余りメダル……使えない物ばかり入っていた。

「あちゃあ……ハズレかよぉ……」

少女が落胆していると、通りの方で声がした。

「ラッキーだぜ……空の財布が、金の入った財布に化けやがった……」

「ロック……さっきの女の子の財布でしょ?返さなきゃあ……」

会話を聞いて少女は、目を見開いき、身体中をまさぐった。

「なっ、ないっ!アタシの財布が……」

少女は慌てて路地裏から通りに飛び出した。すると、少女の目の前には、仁王立ちしたロックが立っていた。

少女は苦笑いした。

「はっ、はは……」

ロックは目をギラつかせ、少女の頭を拳骨した。

ロックに拳骨を喰らった少女は、半べそをかいてしゃがみこんだ。

「いつーっ!……何しやがるっ!」

ロックは少女を睨み付けた。

「何しやがる……じゃねぇよっ!このクソガキ、俺の財布を盗むたぁ……。覚悟できてんだろなぁ?」

エリスは苦笑いしながら言った。

「ロック……程々にね……」

ロックは少女の首根っこを掴んだ。

「悪いことしたら警察……女子供は、関係ねぇ……」

少女はギョッとした。

「けっ、警察っ?それだけは勘弁をっ!」



……とある大衆居酒屋……


ロックとエリス……スリの少女は、大衆居酒屋のテーブル席にいた。

「ハイボールと、フライドチキン……それと……たこ焼きに、刺身の盛り合わせ」

勢いよく店員に注文するロックに、エリスは言った。

「ロック……ちょっと頼み過ぎじゃない?」

「何言ってやがる……食える時に食っとけ。エリスも遠慮なく頼め……。あっ、オネェさん……とりあえずそれだけ持ってきて」

ロックがそう言うと、店員は「かしこまりました」と言い、厨房へ去っていった。

ロックとエリスの向かいに座ってる少女は、恨めしそうにロックを見ている。

ロックは悪どくニヤリとした。

「いやぁ、悪ぃなぁ……奢ってもらっちゃって……。あっ、でも当然か……俺、財布をスラれて傷付いてるから……」

少女は泣きそうな顔をした。

「とんでもない奴の財布を、盗ってしまった……」

「ハイボールお待たせしました……」

「あっ、オネェさん……アイスカフェと、オレンジジュース追加で……」

店員がハイボールを持ってくると、ロックは二人の飲物を追加した。

ロックはハイボールを喉に流し込み、少女に言った。

「かぁ~!うめぇ~!……ところでクソガキ……何でスリなんかしてやがる?」

少女はムッとした表情で言った。

「ガキじゃないっ!アタシには……ユイ・キザキって、立派な名前があるんだっ!それに年は18だから、ガキじゃないっ!」

ロックは冷たい視線をユイに送った。

「クソガキ……テメェの自己紹介なんざ、聞いてねぇよ。何でスリなんかやってのかを聞いてんだ」

エリスはユイが可哀想になってきたのか、ロックに言った。

「ちょっとロック……それくらいでいいんじゃない?奢ってもらってんだから……」

ロックは口を尖らせて、エリスに言った。

「るっせーっ……大人気どってからこそ、大人ののルールを教えてんだ。それにここの金を払うのは当然だっ!慰謝料請求されないだけ、ありがたいと思えってのっ!」

するとユイがぼそりと言った。

「金なんて一円も入ってなかったのに……」

ユイの言葉に、ロックの目が光った。

「中身の問題じゃねぇっ!……クソガキ、家は何処だ?親に文句言ってやる」

するとロックの言葉に、ユイはふてくされた顔をした。

「親なんていないよっ!」

エリスが言った。

「いないって……あなた、この島の娘?」

ユイはエリスに口を尖らせた。

「だったらスリなんか……やってないよっ!」

この島は貧富の差があまりなく、島民は比較的裕福だ。それほどこのゴールドアイランドの収益は高いのだ。

ロックは言った。

「じゃあ何でこんな島にいんだ?」

ユイはロックを睨んだ。

「金がいるんだ……。この島は金持ちが集まるから、スリには持ってこいなのさ」

ロックはユイを鼻で笑った。

「フンッ……ケチな稼ぎ方だぜ……」

ユイは声を荒げた。

「うるさいっ!スリで全部稼げるかよっ!スッた金をガジノにつぎ込んで、そこで大稼ぎさっ!」

ロックはユイを見下した表情で言った。

「テメェ、ろくなガキじゃねぇなぁ……。全然健全じゃねぇよっ!」

するとエリスは、ロックに冷たい視線を送った。

「アンタも似たようなもんでしょが……」

エリスはユイに言った。

「だったら明日のレースに出たら良いじゃない……。その方が健全よ」

ユイはまたもや口を尖らせた。

「病気のバァと姉ちゃんつれて、バトルレースなんて、出れるかよっ!」

ユイの言葉にロックはニヤリとした。

「なるほど……親はいねぇが、家族はいるんだな」

ユイは「しまった」といった表情をした。

ロックは立ち上がり、ユイの首根っこを掴んだ。

「そのバァさんと姉ちゃんの所に……案内してもらうか?」


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