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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第五話 夢の島と資金稼ぎ
16/30

首都アデルから南に凡そ100kに位置する島……ゴールドアイランド……。

ガジノが併設された高級ホテルがずらりと並ぶ、アデル地方最大級のリゾート島であり……一攫千金を狙う旅人や、休暇に訪れる富裕層など、目的が様々な人々の集まる島……。

アデル管轄の独立地域でもあるこの島は、表向きは合法ガジノやイベント等が売りだが……。

違法賭博やイベント等も行われている。しかし、島の収益ははかり知れず、アデルもその恩恵を受けているため、ある程度の事は黙認されている。

まもなくゴールドアイランドに到着するところで、エリスは飛空挺ウィングの甲板に出て、爽やかな風と、海の景色を満喫しようとしていた。

白いいつものノースリーブスのパーカーに、インナーはピンクのキャミソール……デニムのホットパンツから生足を出したスタイルで、美しい金色の髪をかきあげる。

「美しい景色……爽やかな風………って!何なのよっ!これはっ!?」

エリスが怒るのも無理はなく、ゴールドアイランド空域は、多数の飛空挺でごった返していた。

「わたしの景色は?風の音色は?」

自分の乗る飛空挺の上下には、他の飛空挺があり、もちろん海の景色など満喫できず……風の音色に至っては、様々な飛空挺の轟音でかき消されていた。

「何だってこんなに混雑してるわけっ!?」

するとエリスの背後にロックが現れた。

「仕方ねぇだろ……今は夏、この時期は混んでんだよ」

ロックはいつものツナギの服ではなく、デニムのハーフパンツに、上はシンプルに白いT-シャツと、ともてラフな格好だ。腰には相変わらず刀を挿している。

エリスは泣きそうな顔をした。

「せっかくのリゾート感が……台無しよっ!」

ロックは顔をひきつらせた。

「俺にがなるなよ……」

すると甲板に船内放送が響いた。

「ロックッ!エリスッ!……40番ドッグに入港するぞっ!」

ジンの声だ。ジンは通信機でゴールドアイランドに問い合わせていたようだ。

「この混みようで、移動できんのかぁ?」

ロックはウィングの周りを見渡して、げんなりしている。

するとウィングはゆっくりと動き出した。

エリスは不安そうな表情で、甲板から外を覗いている。

「ぶつからない?」

すると船内放送がまた鳴った。

「心配するな……この船には精度の高いセンサーが搭載されている。ぶつかる事はない……。それに軌道ナビゲーションもあるから大丈夫だ」

ロックとエリスはお互いを見合わした。

「つれてきてよかった……」

ジンが言うように、ウィングは他の飛空挺の合間を絶妙な距離感で、隙間を縫うように動いた。

次々と飛空挺をかわし、あっという間に目的地である40番ドッグに到着した。

ドッグといっても、綺麗に整備された港だった。

港にはすでに何十隻の飛空挺が停泊しており、ウィングはドッグ手前の海に着水し、空いているスペースに停泊した。

操縦室に戻っていたロックとエリスは、興奮気味だった。

ジンはウィングを停泊させ、「ふぅ」と一息ついて、二人に言った。

「二人とも……降りていいぞ」

ロックは言った。

「なんだ……ジン、降りねぇの?」

「私は少しやる事がある……お前達は楽しんでこい」

エリスは申し訳なさそうにした。

「なんか悪いわねぇ……」

ジンは軽く笑った。

「フッ……気にするな。私も時間ができたら降りるさ……」

「んじゃ、なんかあったら連絡しろ……」

ロックはそう言うと、小さな球の付いたヒモを首にぶら下げた。通信用の小型オーブだ。

こうしてロックとエリスの二人で、一先ずゴールドアイランドに上陸した。



……ゴールドアイランド……


休暇を楽しむ富裕層や、一攫千金を夢見る若者達が、集まる島……ゴールドアイランドは別名『夢の島』とも呼ばれている。

島の中心にレース場や、多目的の運動公園……それらを囲うようにガジノが併設されたホテルが立ち並び、さらにその外側には繁華街がある。

アデルが近いこともあってか、空賊や海賊による被害もほとんどない。

ロックとエリスは繁華街に目もくれずに、ガジノを目指した。

繁華街で遊ぶにも、食べるにも資金が必要だ。そのための資金をガジノで稼ごうと、甘い考えをしていた。

ロックとエリスの二人は、多くの人で賑わう繁華街を、すり抜けるように歩いていた。

「俺はやっぱりスロットマシーンだぜ……」

意気揚々なロックに、エリスは言った。

「言っとくけど……お金、あんまないから……」

ロックは自信満々な表情で言った。

「俺に任せな。倍……いや、3倍以上にしてやるよ」

どこからこの自信は湧いてくるのか、ロックに迷いの表情はない。

そんなロックに、エリスはますます不安になる。

そして二人はホテルの前に到着した。

昼間にも関わらずきらびやかな、高級ホテルの前で、ロックは両頬を、パンッパンッと叩いて、気合いを入れた。

「勝負じゃあーーっ!」



……二時間後……


ホテルの前には憔悴しきったロックとエリスが茫然と立っていた。

「何でだ?……あんだけ稼いだ金が……何で消えてる?」

ロックはすっかりやつれてしまっている。

「アンタが止め時を考えないからでしょ……。勝たせて搾る……ガジノの常套手段でしょ……」

エリスもやつれてしまっている。

すると男が一人、憔悴しきった二人に声をかけてきた。

「見てましたぜ……旦那ら、すっかりやられたみてぇだねぇ……」

声をかけてきた男は、派手なアロハシャツに黒いサングラスをかけた……如何にもって感じの男だ。

ロックは男を睨み付けた。

「何だテメェは?」

男はニヤニヤしながら言った。

「その様子じゃあ……スッカラカンですかい?」

ロックは目を見開き、 腰の刀を抜いて、 半笑いで言った。

「そうだ……エリス。この失礼な奴をぶっ倒して、金を奪おう」

ロックはガジノで負けたショックで、錯乱しているようだ。

エリスにもロックを止める気力はなく、ただ呆然と見つめている。

二人の異常な様子に、先程までニヤニヤしていた男は、慌ててロックに言った。

「ちょっ、ちょっと待ってくださいよっ!旦那っ!」

ロックは今にも斬りかかりそうだ。

「テメェに旦那と呼ばれる筋合いはねぇ……馬鹿にしやがって」

「ヒィ~ッ!すんませんっ!違うんですっ!俺はただ、困ってそうなアンタらに、金になる話を……」

男の「金」という言葉に、二人はすかさず反応した。

「なんだってっ!?」

ロックは刀を腰に戻し、エリスは目を見開いた。

ロックが刀を戻した事で、少し落ち着いた男は、二人に言った。

「ふぅ……聞いてくれる気になりましたか?」

二人は目を見開き、黙って頷いた。

男は話始めた。

「実は2日後に、とあるレースがありましてね……」

ロックは怪訝な表情をした。

「レースだぁ?」

「はい……『バトルエアバイクレース』です」

エリスが言った。

「エアバイクのレース?」

「エアバイクで島の海岸を一周するレースなんです」

ロックが言った。

「それで?」

「今ちょうどレース参加者を探してまして、どうですか?お二人で……」

ロックは吐き捨てるように言った。

「ケッ!くだらねぇ……。なんでそんなもんに、出なきゃならねぇ……行くぞエリス……」

ロックとエリスが立ち去ろうとすると、男が言った。

「優勝賞金は五百万円です……」

ロックとエリスはピタリと足を止めた。



……繁華街のとある飲食店……


ロックとエリスはジンと合流し、繁華街にある大衆居酒屋にいた。

ジンがある程度の資金を持っていた事もあり、なんとか食べ物にありつけているが、先の旅の資金まではさすがにない。

「エアバイクレースか……」

ジンはブルーハワイを飲みながら、これまでの経緯を二人に聞いていた。

ロックはハイボールを飲みながら言った。

「賞金、500万だぜ……」

ジンは呆れた様子で言った。

「出るしかないな……今の我々に、ここを発つ資金はない」

エリスが言った。

「男女ペアの参加型らしいけど……バトルってのが……」

話によると、他の参加者の妨害可能な、何でもありのバトルレースらしい。

ロックが言った。

「それより問題は、エアバイクだぜ……。持ち込みじゃないと参加できねぇ」

するとジンが言った。

「2日後と……言ったな?」

「なんか手があるのか?」

ジンはカクテルを飲み干した。

「ミドのスクーターがある。それを改造すればいい……」

ロックが墓参りに行く時に使った、ミドから借りたスクーターだ。ロックはミドに返す事なく、そのまま飛空挺に積んでいたのだ。

ロックは目を見開いた。

「できんのか?」

ジンはすました感じで言った。

「私を誰だと思っている?」

ロックはニヤリとした。

「へっ……条件は揃ったぜ……。エリス、気合い入れろよ……」

エリスは不安そうな表情をした。

「嫌な予感しか、しないんだけど……」


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