③
……アデル中央本部……
アデル中央本部のとある豪華な一室に、アリエルはやって来た。
英霊参拝の帰りだったので、黒いドレスのままだ。
アリエルは息を整え、豪華な金のフレームが目立つ扉を開けた。
「アリエル・ノイヤー将軍っ!入りますっ!」
アリエルの入った部屋は、誰かの書斎だろうか……豪華な本棚に様々な本が並べられており、部屋の奥にはこれまた豪華な机と椅子があり、そこに白の法衣のような物に、身を包んだ男性老人がいた。
老人は優しそうな表情に、白くて長い顎髭を生やしている。
老人はアリエルに微笑んだ。
「すまぬな……呼び立てて……」
アリエルは老人に対して敬礼した。
「はっ!ゼラフ右大臣様……」
老人の名は……アドリア・ゼラフ……。アデルの右大臣であり、アデルの政治と法を司る……アデルのNo.3である。
ゼラフはアリエルの格好を見て言った。
「楽にせよ……。ところで、出掛けておったか?」
アリエルは敬礼を解いた。
「英霊に会いに……」
ゼラフは感慨深い表情になった。
「お前は律儀だな……。儂も英霊達に会いに行きたいのだが……彼らの犠牲がなければ現在の我々はないからな……」
「右大臣様は御公務に追われております……」
ゼラフは軽く笑った。
「フッ……その公務もお前がいるから、やれるのだ……。感謝しておる……」
「勿体無い御言葉です……」
恐縮するアリエルに、ゼラフは再び微笑んだ。
「フォフォ……ほんとに感謝しておる……。戦争が終わり十年……アデル十傑は解散し、お前は将軍となった」
するとゼラフの表情は険しくなった。
「表向きには世界は安定し、人々は平和に暮らしておるが……。実際はそういう訳ではない」
「心得ております……」
ゼラフは続けた。
「人々の暮らしのためにも、アデルが徹底的に平和管理をせねばならんが……。お前も知っての通りアデルは一枚岩ではない……」
アリエルの表情も険しくなった。
ゼラフはさらに続けた。
「左大臣の動きが、活発になっておる……」
アリエルは目を見開いた。
「左大臣様がですか?」
ゼラフは頷いた。
「奴も政局争いに躍起になっておるからのぉ……。新大陸の発見に力を入れておるのだ」
アリエルは険しい表情のまま言った。
「では……マクベス博士の研究所の破壊は……」
ゼラフの目は鋭くなった。
「可能性はある……。ロメロを抱き込んだところで、儂らがジンに接触をするのを恐れたのかもしれん」
アリエルは言った。
「それでは……朧は左大臣が?」
「証拠はないがのぉ……。アリエルよ」
「はっ!」
「世界が安定すれば、必ず起こる争いがある……」
ゼラフは苦笑いした。
「それは、『誰が』世界を治めるか……。不毛な争いじゃ……」
アリエルは感慨深い表情をした。
ゼラフは言った。
「これまで以上に新大陸の発見と、開拓に力を入れてくれ。儂らはこの戦いに、負けるわけにはいかん……」
複雑な表情のゼラフに対して、アリエルは言葉を発する事はなかった。
……ウィング操縦室……
操縦室に戻った一行は、出航の準備をしていた。
エリスとジンはロックに注目し、ロックはニヤニヤとしていた。
ジンがロックに言った。
「で……その言い考えがとは?」
資金調達に言い考えがあると言ったロックに対して、ジンは怪訝な表情をしている。
ロックは言った。
「ここから近くで、さらに金回りがいい所と言えば?」
ジンはハッとした表情で言った。
「まさか……」
ロックはさらに悪いニヤつきをした。
「そう……『ゴールドアイランド』だ」
エリスはゴールドアイランドの事を知らなかったが……そのネーミングから嫌な予感がした。
エリスは恐る恐るロックに聞いた。
「ねぇロック……それって……」
「ヒッヒッヒッ」と笑うロックに代わり、ジンが言った。
「ゴールドアイランド……簡単に言えば、ガジノの付いているリゾート島だ」
ロックは目を輝かせた。
「一発勝負じゃあーっ!」
エリスは頭を抱えた。ロックが万年金欠の原因を垣間見た気がした。
ジンは言った。
「悪くない……」
エリスはギョッとした。まさかジンがロックの提案に乗るとは、思わなかったのだ。
「ちょっと……ジン……」
すると不安そうなエリスに、ロックが言った。
「何だエリス……お前ビビってんのか?女独りで旅に出たわりに……度胸がねぇなぁ」
ロックは何とも言えない、悪い顔をしている。
これにはエリスもカチンときた。
「度胸がない?ふざけないでよっ!博打でも何でも、やったろうじゃないっ!」
ロックは不敵に笑った。
「へっ……んじゃあ行きますかっ!」
「ゴールドアイランドにっ!」
ロックの言葉に、ジンは力強くレバーを引いた。
飛空挺ウィングは凄まじい轟音をあげ、空に浮いた。
こうしてロック一行の、前途多難な旅が始まった。
それぞれの想いを、自分達の翼に乗せて……大空を飛び立った。




