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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第四話 旅立と挨拶
14/30

一方ミドの造船所では、ジンが造船所を後にしようとしていた。

「それではよろしく頼むぞ……ミド……」

「はっ、はい……うっ、師匠……」

ミドはジンとの別れに、今にも泣き出しそうだ。

「情けない顔をするな……。お前はもう一人前だ……」

ミドの脳裏には、ジンとのこれまでの日々が、走馬灯のようによぎっていく。

戦後行く宛のないミドを、ジンが雇ってくれた事……。

ジンが軍を辞めた時に、立ち上げた研究所での想い出……。

そして、ジンの研究所を離れ、一人で修行の日々を送っていた事など……数えればきりがない。

ジンは涙を流すミドに察して、軽く微笑んだ。

「私は……世界の未だ見ぬ知識を、吸収して帰ってくる」

ジンはミドの肩を叩いた。

「だからミド……お前は、私の知識を受け入れるだけの……技術屋になれ。また一緒にやろう……」

ミドは涙を流し、下を向いたまま言った。

「……はい……」


ジンはミドの造船所を後にし、飛空挺が停泊している海岸へ向かった。

海岸に到着したすると、ロックとエリスがすでに待っていた。

ジンは言った。

「挨拶は……済んだのか?」

ロックが言った。

「ああ……お互いにな……」

エリスが言った。

「とうとう出発だねっ!でもその前に……」

ロックが言った。

「その前に……何だよ?」

「この船の名前がいるんじゃない?」

ジンは目を丸くした。

「確かにそうだな……」

ロックはニヤリとした。

「そういう事なら俺に任せな……。そうだな……『ロックの空飛ぶ方舟』ってのは、どうだ?」

ロックのネーミングセンスに、エリスとジンは顔をひきつらせた。

エリスは顔をひきつらせたまま言った。

「何?そのセンス……信じらんない……」

するとジンが得意気に言った。

「では、こういうのはどうだ?『RX2015ジン専用エアシップ』……」

ロックはすかさず突っ込んだ。

「長ぇよっ!」

するとエリスが言った。

「『ウィング』……」

ロックとジンは目を丸くした。

エリスは言った。

「わたし達を運んでくれる翼……。単純だけどね……」

ロックとジンは互いに見合わせたが、ロックは軽く笑った。

「へっ……いいんじゃねぇの?」

ジンも軽く笑った。

「フッ……そうだな……。シンプルでいいな……」

ロックは二人に言った。

「じゃあ、乗り込みますかっ!俺達の飛空挺……『ウィング』にっ!」



……ウィング操縦室……


飛空挺ウィングに乗り込んだ一行は、ジンの説明を聞いていた。

「この船は最新型のセキュリティ装置が付いている」

ジンの言葉に、ロックとエリスは目を丸くした。二人とも機械に弱いようだ。

ジンは二人を察して言った。

「つまり私達三人にしか、この船を動かせないように出来るのだ」

ロックとエリスは目を見合わせた。

ロックは興奮気味に言った。

「すっげぇーじゃねぇのっ!つまり盗まれる心配がねぇって事だろっ?」

ジンは頷いた。

「そうだ……。そのためにこれからある事をする」

「あること?……何それ?」

少し身構えたエリスに、ジンは軽く笑った。

「フッ……簡単な事だ。そう身構えるな……」

ジンはそう言うと、操縦席の中央のタッチパネルを操作した。

「これから私達の『掌紋(しょうもん)』を、船に登録する」

エリスは目を丸くした。

「掌紋?」

ロックが言った。

「手の指紋みたいなもんだ……」

ジンが言った。

「つまり私達の掌紋を、認識しないと……この船は飛ばない……」

エリスは感心した様子で言った。

「確かに最新型ね……」

タッチパネルの操作を終えたジンは、二人に言った。

「よし……二人とも、ここに手を当てろ……」

二人はジンに言われるまま、掌をタッチパネルに当てた。

すると画面に『登録完了』の文字が出てきた。

ジンが最後に掌を当て、登録を済ますと、二人に言った。

「これで私達以外は、誰もこの船を動かせない……。次に行くぞ、ついてこい……」

二人はジンに言われるまま、後をついて行った。

操縦室を出て通路を進んでいくと、通路に扉が適当な間隔で現れた。グレーを基調とした鉄の壁は、いかにも船の通路といった感じだ。

ジンはその一つを開けた。

「それぞれの寝室になっている……もちろんバス、トイレ完備だ」

二人は部屋を覗いてみた。寝室はそれなりに広く、ベットやテーブル、それに……。

「『映像オーブ』じゃねぇかっ!」

興奮気味にロックが言った『映像オーブ』とは、直径40㎝程の透明な球で、専用の台に置くと映像が映し出される、通信機器だ。

ジンは得意気に言った。

「もちろん各寝室に設置してある」

「すっごぉいっ!……高級ホテルみたいっ!」

エリスも興奮気味に喜んでいる。

ジンは満足そうに言った。

「これで快適な空の旅に出れる……」

「あとは、お金があったら言う事ないんだけど……」

エリスが心配そうに言うと、ロックがニヤリとした。

「それなんだけどよぉ……言い考えがある……」


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