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OVER-DRIVE  作者: 陽芹 孝介
第四話 旅立と挨拶
13/30

……翌朝ミドの造船所……


昨晩宴を楽しんだロック一行は、近くの海辺に飛空挺を停泊させ、ミドを造船所まで送り届けていた。

「師匠……後の事は任せて下さい……」

そう言ったミドの表情は何処か晴れていた。一つ壁を乗り越えた、男の顔になっていた。

ジンは軽く笑った。

「いい顔になったな……。ロックにも礼を言ったか?」

ロックは造船所でミドと少し話した後、ミドにスクーターを借りて、何処かへと行ってしまったようだ。

ミドは頷いた。

「さっき言いました……。ロックさんのお掛けで吹っ切る事が出来たので……」

エリスが言った。

「頑張ってねっ!ミド」

「はい……エリスさんも……。見つかると良いですね……」

エリスは笑顔で頷いた。

「うんっ!ありがとう」

ジンはエリスに言った。

「さて……私はこれからもう少しミドと話すが……。エリス……君はどうする?」

エリスは苦笑いした。

「師弟水入らずでしょ?わたしは、買い物行ってくる……。必要な物もあるだろうから……」

ジンはエリスに言った。

「そうか……なら、気を付けて行くといい……。何かあれば、私が渡した麻酔銃を躊躇わず使え……」

エリスはまたもや苦笑いした。

「はは……物騒だね……。でもそうする……。じゃあ、また後でね……」

エリスはそう言うと、ミドの造船所を後にした。



……アデル英霊墓地……


ミドの造船所からスクーターで数分の場所……アデル20番街にある、アデル英霊墓地……。

緑豊かな土地に造られたこの墓地は、先の戦争によって犠牲になった英霊達が、静かに眠る場所である。

広大な敷地面積を誇る墓地の、とある墓石の前にロックはいた。

ロックは感慨深い表情で墓石に呟いた。

「飛ぶ事にしたよ……。お前と同じ力を持ってんだ……」

快晴の元、涼しげな風が、まるでロックを癒すように吹いた。

「しばらく来れなくなるからな……」

そう言うとロックは墓石に花を添えて、立ち去ろうとした。すると誰かがロックの方にやって来た。

ロックは目を見開いた。

「隊長……」

ロックの目前には、黒いドレスに身を包んだ美しい女性がいて……それは、アデルの将軍……アリエル・ノイヤーだった。

驚きを隠せないロックに、アリエルは言った。

「久しぶりですね、ロック・ハーネスト……。意外ですか?私がここに来るのが……」

ロックは黙ったまま、アリエルを見据えている。

「私もアデルの軍人です。先の戦争で犠牲になった霊英達に、敬意を払うのは当然では?」

そう言うと、アリエルもロックを見据えた。

お互いがお互いの目から、目線を反らさない。

するとアリエルは軽く笑った。

「嘘です……。日頃参拝しているのは本当ですが……今日は貴方がここにいるのを知ってて来ました」

するとやっとロックが口を開いた。

「そんな事だろうと思ったぜ……」

アリエルは言った。

「ジュノスから報告がありました。空に出るのですね?」

ロックは再び黙った。

アリエルは続けた。

「貴方がアデルを出て10年……。世界は目まぐるしい程に発展しましたが……人々を脅かす驚異は、まだまだあります」

ロックは黙って、アリエルの話を聞いている。

「空賊による空の治安悪化……消える事のないテロリスト……。陸海空、問題を挙げればきりがありません」

ロックは怪訝な表情をした。

「何が言いてぇ?」

アリエルはロックの目を見て言った。

「空に出るのなら……もう一度世界のために、剣を振るいなさい……」

アリエルの言葉に、ロックは一瞬目を見開いたが……すぐに笑った。

「へっ、隊長……俺はよぉ……。世界や国のために戦った事なんざぁ……今まで一度もねぇぜ」

アリエルの表情が険しくなった。

ロックは言った。

「アンタらが俺をどう利用しても、かまわねぇが……」

ロックはアリエルに鋭い目線を送った。

「俺の世界(なかま)を踏みにじるなら……アデルだろうが誰だろうが、たたっ斬るぜ」

そう言うとロックは、アリエルに背を向けて手を挙げた。

「抱えちまったからには、俺は守りきるぜ。そして、もう落とさねぇ……。じゃあな……」

ロックはそう言うと行ってしまい……アリエルはロックの後ろ姿を、感慨深い表情で見ていた。

「変わらないですね……ハーネスト……」



……アデル14番街……


アデルの14番街はショッピング街だ。日用品から、食料品等様々な物がここでは購入できる。

昼間なので14番街は多くの人でにぎわっていた。

「ちょっと買いすぎちゃったかなぁ……。でもこれくらいは必要よね」

エリスは両手に大きな紙袋等を抱え、とても歩きそうにしていた。

するとエリスの背後から、ビッビーとブザー音が響いた。

「エリスじゃねぇか……」

「あっ、ロック……」

そこには白いスクーターに乗ったロックがいた。

「ばぁさんの店行くけど……一緒に行くか?」

「ばぁさんって……『集い』?行く行くっ!」

ロックはエリスにスクーターの後ろに乗るように言った。

「後ろに乗れよ……」

エリスはスクーターの前のカゴに、荷物を詰めるだけ詰めて、残りの荷物は自分で持って、スクーターの後ろに乗った。

スクーターを発進させたロックは、上手に人混みを縫うように、進んでいく。

古いスクーターのエンジン音に、声がかき消されないよう、エリスは大声で言った。

「ねぇっ!ロックッ!」

ロックも負けじと大声で答えた。

「何だよっ?」

「何処に行ってたのっ?」

ロックは軽く笑った。

「ちょっとした挨拶だよっ!」



……アデル13番街…Bar集い……


ロックとエリスは、開店前の『集い』のカウンター席で、それぞれ飲物を飲んでいた。

エリスはアイスティー、ロックはアイスコーヒーと……。

「寂しくなるねぇ……。こんなろくでなしでも、いざ居なくなると思うと……寂しいもんさ」

感慨深い表情のマスターに、ロックは軽く笑った。

「へっ……ろくでなしで悪かったなぁ……。心配しなくても、また来てやるよ……」

マスターも軽く笑った。

「はっ……当たり前さ……。アンタにゃしっかり、ツケを払ってもらわないと、いけないからねぇ……」

「ケッ……口の減らねぇばぁさんだ……」

そう言うとロックは立ち上がった。

「じゃあな、ばぁさん……。俺が戻るまで、死ぬんじゃねぇぞ。ツケがきく店はここしかねぇからな……」

「アンタも……気を付けて行ってきな……」

するとエリスも立ち上がった。エリスは今にも泣きそうな顔をしている。

ロックはそんなエリスを見て、先に歩いた。

「外で待ってるからよ……」

ロックは店の外に出ていき、店内にはエリスとマスターだけになった。

マスターは苦笑いした。

「なんだい?情けない顔して……。アンタの旅に希望が見えたんだ。笑顔で行きな……」

マスターの優しい言葉に、エリスはポロポロと涙を流した。

「うっ……マスター……」

マスターはエリスを優しく抱きしめた。

「いつでも……あのバカ連れて帰ってきな……。ここはアンタの家みたいなもんさ」

「うっ……マスター……あり、ありがとう……。うわぁーんっ!」

大声で泣き出したエリスの顔は、涙でくしゃくしゃになった。


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